23 / 94
第8章 キスと反応
(23)
しおりを挟む
「黒崎くん、下の名前、アサヒっていうんだ」
三人でお昼を食べている時に、ふと柏崎にそう言われた。今日は学食に来ている。
「そう」
「どんな字?」
「一文字で、『旭』」
空中に書いて示す。
付き合いだしてから、圭一は旭を下の名前で呼ぶようになっていた。最初に告白された時と同じだ。記憶をなくしても考えていることは変わらないんだなと妙に安心する。
あの時圭一は、頭を打ったかどうかを『柏崎にも聞かれた』と言っていた。旭の見る限り、旭への告白以外に圭一の記憶が欠けている部分はなさそうだったけど、同じクラスの柏崎から見れば別の何かがあったのだろうか。聞いてみたかったけれど、今のところはまだ聞けずにいた。大体、圭一と付き合っていること自体まだ話せていない。柏崎になら言ってもいい気はしているけれど。
「そう言えば、俺も柏崎くんの名前知らんわ」
「摂」
「セツ? どんな字?」
「摂理の摂」
「まじか。かっこいいな」
「読みにくいけどな」
付き合うことになってからは、もう特に約束もせずに毎日圭一と昼食を共にしている。そしてやっぱり圭一は柏崎を毎回つれてきた。旭ももうそのことについては何とも思わない。むしろ今になって柏崎だけを締め出す方が嫌だった。
「苗字が長めだから名前は短めにしたんかな、それ」
圭一が横から聞いてくる。
「多分」
「ちなみに俺は圭一」
「知ってる」
食い気味に旭がつっこむと、圭一が面白そうに笑う。
「旭は、明け方に生まれたから?」
「え、さあ。知らない」
「小学校の頃、自分の名前の由来を親に聞いてくる宿題なかった?」
「えー、なかったと思うけど……なかったよな?」
同じ小学校出身の圭一に聞くと、首を傾げられた。
「どうだっけ? あった気もする。俺は知ってるし」
「名前の由来?」
「うん。親父の名前から一文字取って、長男だから『一』」
「原の名前は分かりやすくていいよな、画数少ないし」
柏崎が今までの苦労をにじませるようなコメントをする。
「でも言いやすいけどな、セツって」
「音はね。先輩もそう言ってた」
何でもないように答える柏崎の言葉に、どの先輩だろうと一瞬考えたが、すぐに彼氏のことだと気付く。もしかしたらさりげない惚気だったりするんだろうか。
これから下の名前で呼んでみようかと考えていた旭は、その言葉ですぐにその考えを捨てた。柏崎も、特に旭の呼び方を変えようといった話はしなかった。
三人でお昼を食べている時に、ふと柏崎にそう言われた。今日は学食に来ている。
「そう」
「どんな字?」
「一文字で、『旭』」
空中に書いて示す。
付き合いだしてから、圭一は旭を下の名前で呼ぶようになっていた。最初に告白された時と同じだ。記憶をなくしても考えていることは変わらないんだなと妙に安心する。
あの時圭一は、頭を打ったかどうかを『柏崎にも聞かれた』と言っていた。旭の見る限り、旭への告白以外に圭一の記憶が欠けている部分はなさそうだったけど、同じクラスの柏崎から見れば別の何かがあったのだろうか。聞いてみたかったけれど、今のところはまだ聞けずにいた。大体、圭一と付き合っていること自体まだ話せていない。柏崎になら言ってもいい気はしているけれど。
「そう言えば、俺も柏崎くんの名前知らんわ」
「摂」
「セツ? どんな字?」
「摂理の摂」
「まじか。かっこいいな」
「読みにくいけどな」
付き合うことになってからは、もう特に約束もせずに毎日圭一と昼食を共にしている。そしてやっぱり圭一は柏崎を毎回つれてきた。旭ももうそのことについては何とも思わない。むしろ今になって柏崎だけを締め出す方が嫌だった。
「苗字が長めだから名前は短めにしたんかな、それ」
圭一が横から聞いてくる。
「多分」
「ちなみに俺は圭一」
「知ってる」
食い気味に旭がつっこむと、圭一が面白そうに笑う。
「旭は、明け方に生まれたから?」
「え、さあ。知らない」
「小学校の頃、自分の名前の由来を親に聞いてくる宿題なかった?」
「えー、なかったと思うけど……なかったよな?」
同じ小学校出身の圭一に聞くと、首を傾げられた。
「どうだっけ? あった気もする。俺は知ってるし」
「名前の由来?」
「うん。親父の名前から一文字取って、長男だから『一』」
「原の名前は分かりやすくていいよな、画数少ないし」
柏崎が今までの苦労をにじませるようなコメントをする。
「でも言いやすいけどな、セツって」
「音はね。先輩もそう言ってた」
何でもないように答える柏崎の言葉に、どの先輩だろうと一瞬考えたが、すぐに彼氏のことだと気付く。もしかしたらさりげない惚気だったりするんだろうか。
これから下の名前で呼んでみようかと考えていた旭は、その言葉ですぐにその考えを捨てた。柏崎も、特に旭の呼び方を変えようといった話はしなかった。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
幼なじみプレイ
夏目とろ
BL
「壱人、おまえ彼女いるじゃん」
【注意事項】
俺様×健気で幼なじみの浮気話とのリクエストをもとに書き上げた作品です。俺様キャラが浮気する話が苦手な方はご遠慮ください
【概要】
このお話は現在絶賛放置中のホームページで2010年から連載しているもの(その後、5年近く放置中)です。6話目の途中から放置していたので、そこから改めて連載していきたいと思います。そこまではサイトからの転載(コピペ)になりますので、ご注意を
更新情報は創作状況はツイッターでご確認ください。エブリスタ等の他の投稿サイトへも投稿しています
https://twitter.com/ToroNatsume
あなたに誓いの言葉を
眠りん
BL
仁科一樹は同棲中の池本海斗からDVを受けている。
同時にストーカー被害にも遭っており、精神はボロボロの状態だった。
それでもなんとかやっていけたのは、夢の中では自由になれるからであった。
ある時から毎日明晰夢を見るようになった一樹は、夢の中で海斗と幸せな時を過ごす。
ある日、他人の夢の中を自由に行き来出来るというマサと出会い、一樹は海斗との約束を思い出す。
海斗からの暴力を全て受け入れようと決意してから狂いが生じて──。
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
この恋は運命
大波小波
BL
飛鳥 響也(あすか きょうや)は、大富豪の御曹司だ。
申し分のない家柄と財力に加え、頭脳明晰、華やかなルックスと、非の打ち所がない。
第二性はアルファということも手伝って、彼は30歳になるまで恋人に不自由したことがなかった。
しかし、あまたの令嬢と関係を持っても、世継ぎには恵まれない。
合理的な響也は、一年たっても相手が懐妊しなければ、婚約は破棄するのだ。
そんな非情な彼は、社交界で『青髭公』とささやかれていた。
海外の昔話にある、娶る妻を次々に殺害する『青髭公』になぞらえているのだ。
ある日、新しいパートナーを探そうと、響也はマッチング・パーティーを開く。
そこへ天使が舞い降りるように現れたのは、早乙女 麻衣(さおとめ まい)と名乗る18歳の少年だ。
麻衣は父に連れられて、経営難の早乙女家を救うべく、資産家とお近づきになろうとパーティーに参加していた。
響也は麻衣に、一目で惹かれてしまう。
明るく素直な性格も気に入り、プライベートルームに彼を誘ってみた。
第二性がオメガならば、男性でも出産が可能だ。
しかし麻衣は、恋愛経験のないウブな少年だった。
そして、その初めてを捧げる代わりに、響也と正式に婚約したいと望む。
彼は、早乙女家のもとで働く人々を救いたい一心なのだ。
そんな麻衣の熱意に打たれ、響也は自分の屋敷へ彼を婚約者として迎えることに決めた。
喜び勇んで響也の屋敷へと入った麻衣だったが、厳しい現実が待っていた。
一つ屋根の下に住んでいながら、響也に会うことすらままならないのだ。
ワーカホリックの響也は、これまで婚約した令嬢たちとは、妊娠しやすいタイミングでしか会わないような男だった。
子どもを授からなかったら、別れる運命にある響也と麻衣に、波乱万丈な一年間の幕が上がる。
二人の間に果たして、赤ちゃんはやって来るのか……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる