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第2章 屋上にて

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「……」
「……」
 残された二人で、しばらく無言で弁当を口に運ぶ。会話がなくなると、途端に今まで聞こえていなかった遠くの学生たちの喧騒が風に乗って耳に入ってきた。
 要するに、あれだ。多分あの後、教室で圭一は実際に旭のことを柏崎に伝えた。それを聞いた柏崎は旭が誤解しているであろうことを見抜いた。そして誤解を解くためにわざわざここにやってきた。……てところか。
「……別に人見知りとかじゃなかっただろ」
「ん」
 言葉とも言えない、音だけの返事を短く返す。それから逆に聞いてみる。
「柏崎くんてさ、あれ普通にみんなに言ってんの」
「彼氏のこと? いや、言ってないと思う」
「じゃあ、俺に言って大丈夫だったんかな」
「まあ、自分で言ったんだからいいんじゃね。一応俺の友達だし、信用してんだろ」
「はあ」
「お前、別に誰かに言ったりしないよな」
「しないけど」
「じゃあいいじゃん」
「うん」
 よく考えてみれば、旭が言う言わない以前に、柏崎についての噂は既にかなり広まっている。旭が知っていようといまいと、結局のところ今までと何も変わらないのではないか。そう考えると、少し気が軽くなった。
「お前ら、何で仲良くなったの?」
「ああ、あいつ席が真後ろなんだよ」
「柏崎くんって独りが好きなんだと思ってたけど、そうでもないんだな」
「まあ、そういうところもあるっぽいけど、誰とも話さないとかではない」
「へえ」
「独りが好きっていうか、あれだよ。やっぱ多少は気にしてんじゃね、そういうの」
「……お前は、噂知ってて話し掛けたの?」
「うん……まあ、知ってたけど」
「へえ」
 圭一は、割と分け隔てなく誰とでも話すし、仲良くなる。柏崎にも、きっと何の予断も持たずに普通に話し掛けたのだろう。圭一らしいと旭は思った。
「ちょっと話してみたかったから」
 そう言った後、圭一は何かを言いたげに旭をじっと見た。それに気付き、旭は箸を進めながらしばらくその言葉を待った。
「――黒崎はさ、あいつみたいなのどう思う?」
「え……男と付き合ってるってこと?」
「うん」
 笑みを消した真面目な顔で圭一が頷く。
 そっか。ちゃんと柏崎のこと、友達として大事に思ってるんだな。圭一の表情からそう思った旭は、とりあえず肯定的な返答をすることにした。
「まあ、別にいいんじゃね。そういうのもあるんだろうし」
「一般論として?」
「一般論?」
「だから、もし柏崎じゃなかったとしても?」
「――」
 もしかして。
 圭一のその言葉で、旭は更に思い至る。圭一が柏崎のことを大切だと思っているのは、もしかして、友人としてではなくて。
「……いや、だから別にいいんじゃないか。ていうか、まあよく知らないけど」
 もしそうだったら、安易に否定してしまえば圭一は嫌な思いをするだろう。何とか肯定的に返しておかなければ。
 でも、ということは付き合ってはいないにしても、やっぱり圭一はそうだということなのか。
 え、でもそしたら既に失恋してるんじゃん。向こうには彼氏いるんだし。まあ柏崎本人には伝えてないみたいだけど。
 彼氏がいても好きで話したいと思うなんて、恋愛に対する姿勢が自分よりよっぽど真摯だな、と旭は思った。たとえそれが男相手だとしても。
 ていうか、あれ? そう言えば、中学の時から、こいつが女子を好きになった話って聞いたことあったっけ。なかったような。野球ばっかやってたから気にしたことなかったけど……てことは、やっぱり。
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