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男は笑う、牢獄の中で
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「ああ、かわいい人っっ、ほら」
青年は恋人の体をぎゅっと抱きしめると頬に、鼻筋にキスをして髪を撫でた。
以前はあまりに力を込めてしまったので苦しいと言われて抱擁を嫌がられてしまった。
だが、今は彼女もそれが愛の証だと思って受け入れてくれる、何故なら恋人同士なのだ、自分たちは。
「ラウル」
呼ばれて青年は視線をそちらに向けた。
「なんだい」
「あなた、どうしたの」
その言葉に意味が分からず青年は不思議そうな顔をした。
「喉が乾いたな、何か飲み物を持って来てくれないか」
僕たちの時間を邪魔しないでほしいんだといいたげに青年は腕の中の恋人に微笑みかけた。
かって恋人と呼んだ女が自分を見ている眼差しの意味に青年は気づきもしない。
呼びかけても自分のほうを向こうともしない、聞こえていないかのようだ。
嬉しそうに抱きしめた人形に話しかけている青年の姿は以前の自分の知っている姿とは別人だ。
肩まで伸びたくせのない金髪は殆ど抜け落ち、顔色は青白いというよりは黒い、着ているシャツは風呂にも入っていないのか汚れと皺だらけだ。
そこには以前の面影はない、だが、問題はそれではない。
自分が、本物のクリスティーヌが誰か、それさえかってわかっていないのだ。
おかしくなってしまったのか。
近頃、弟は疲れているようだ、フィリップにそう言われてお茶の時間、紅茶に入れた飲ませた液体。
あれは栄養剤ではなかったのか。
このままだとラウルは、おかしくなるどころではない。
人形を抱いて笑っている姿は、どう見ても普通、まともには見えない。
どうすれば、だが、相談できる人はいない。
フィリップには言えない、だが、このまま放っておくなど自分にはできない、迷い、考えた挙げ句。
「それで私のところに来た訳か」
「お願い、エリック」
鉄格子の向こうで男は話しを聞いていた、その横顔にクリスティーヌは頼れる人間がいないのと縋るような言葉を投げかけた。
心の中で繰り返し叫びたいのを必死に堪えながらだ。
(見捨てないで)
「弟は、あの男にとって邪魔でしかなかったのだ」
すぐには返事ができなかった、最近のフィリップは仕事で忙しいのか、なかなか会えずにいた。
「ラウル、あの若造の事は諦めろ、種類が分からなければなんとも言えないが、麻薬中毒というのは簡単には治らない、末期になるのもあと少しだろう」
言葉が出てこない、そんな彼女に男は尋ねた、おまえは、どうなんだと。
何を言われたのかすぐには分からなかった。
「いずれ同じ立場に追いやられるぞ」
まさかと否定する言葉を笑いが遮った、自分は安全な場所にいると思っているのかと言われて、すぐには言葉が出てこない。
「殺されるの、でもフィリップは、私を」
愛している筈だ、何故ならラウルよりも彼と一緒になることを選んだ時点で共犯者なのだから。
「自ら手を汚す事はしない、おまえは犯人として監獄行きになるだけだ、貴族に毒を盛ったのだからな」
その言葉にクリスティーヌは呆然とした、確かに彼の言うとおりだ。
自分は平民、ラウルは貴族だ、互いの立場を考えたらどんな言い訳をしたところで罪に問われるのは。
「フィリップに彼の言うとおりに従って、あれが毒だなんて」
こんなところで言い訳してどうする、だが、どうすればいいのかわからないのだ。
「た、助けて」
「私は牢獄の中だ」
出してあげる、だから(助けて)
牢獄の中の男は笑った。
青年は恋人の体をぎゅっと抱きしめると頬に、鼻筋にキスをして髪を撫でた。
以前はあまりに力を込めてしまったので苦しいと言われて抱擁を嫌がられてしまった。
だが、今は彼女もそれが愛の証だと思って受け入れてくれる、何故なら恋人同士なのだ、自分たちは。
「ラウル」
呼ばれて青年は視線をそちらに向けた。
「なんだい」
「あなた、どうしたの」
その言葉に意味が分からず青年は不思議そうな顔をした。
「喉が乾いたな、何か飲み物を持って来てくれないか」
僕たちの時間を邪魔しないでほしいんだといいたげに青年は腕の中の恋人に微笑みかけた。
かって恋人と呼んだ女が自分を見ている眼差しの意味に青年は気づきもしない。
呼びかけても自分のほうを向こうともしない、聞こえていないかのようだ。
嬉しそうに抱きしめた人形に話しかけている青年の姿は以前の自分の知っている姿とは別人だ。
肩まで伸びたくせのない金髪は殆ど抜け落ち、顔色は青白いというよりは黒い、着ているシャツは風呂にも入っていないのか汚れと皺だらけだ。
そこには以前の面影はない、だが、問題はそれではない。
自分が、本物のクリスティーヌが誰か、それさえかってわかっていないのだ。
おかしくなってしまったのか。
近頃、弟は疲れているようだ、フィリップにそう言われてお茶の時間、紅茶に入れた飲ませた液体。
あれは栄養剤ではなかったのか。
このままだとラウルは、おかしくなるどころではない。
人形を抱いて笑っている姿は、どう見ても普通、まともには見えない。
どうすれば、だが、相談できる人はいない。
フィリップには言えない、だが、このまま放っておくなど自分にはできない、迷い、考えた挙げ句。
「それで私のところに来た訳か」
「お願い、エリック」
鉄格子の向こうで男は話しを聞いていた、その横顔にクリスティーヌは頼れる人間がいないのと縋るような言葉を投げかけた。
心の中で繰り返し叫びたいのを必死に堪えながらだ。
(見捨てないで)
「弟は、あの男にとって邪魔でしかなかったのだ」
すぐには返事ができなかった、最近のフィリップは仕事で忙しいのか、なかなか会えずにいた。
「ラウル、あの若造の事は諦めろ、種類が分からなければなんとも言えないが、麻薬中毒というのは簡単には治らない、末期になるのもあと少しだろう」
言葉が出てこない、そんな彼女に男は尋ねた、おまえは、どうなんだと。
何を言われたのかすぐには分からなかった。
「いずれ同じ立場に追いやられるぞ」
まさかと否定する言葉を笑いが遮った、自分は安全な場所にいると思っているのかと言われて、すぐには言葉が出てこない。
「殺されるの、でもフィリップは、私を」
愛している筈だ、何故ならラウルよりも彼と一緒になることを選んだ時点で共犯者なのだから。
「自ら手を汚す事はしない、おまえは犯人として監獄行きになるだけだ、貴族に毒を盛ったのだからな」
その言葉にクリスティーヌは呆然とした、確かに彼の言うとおりだ。
自分は平民、ラウルは貴族だ、互いの立場を考えたらどんな言い訳をしたところで罪に問われるのは。
「フィリップに彼の言うとおりに従って、あれが毒だなんて」
こんなところで言い訳してどうする、だが、どうすればいいのかわからないのだ。
「た、助けて」
「私は牢獄の中だ」
出してあげる、だから(助けて)
牢獄の中の男は笑った。
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