le fantôme de l'Opéra

三ノ宮 みさお

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L'homme pensa qu'il devait contrôler l'anxiété de la diva.  確認しなければ、歌姫

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 着古したシャツ、それは彼女が着ていたものだ。
 つい先ほど、せめてシャツだけでもと思い、彼女に着替えを渡したのだ、新しいシャツを買って渡そうと思った、だが、断るのではないかと思ったのだ。
 目が覚めた彼女に水や食事を運ぶと恐縮して金がないという、だから私は自分のシャツを渡した。
 確認しなければと思ったからだ。

 あの日、彼女を自分の家に運んでくる途中で気づいたのだ。
 気を失った彼女を抱きあげたとき、感じたのだ、まさか、何故、疑問が浮かんだが、安全な場所で休ませる必要があると思ったのだ。
 
 彼女の着ていたシャツを手に取り、目を凝らし確かめる、やはりと思った、袖口のシミ、だが、知りたいのはそんなことではない。   顔を、鼻を近づけてやはりと思った。
 何故と疑問が沸いた、彼女が中毒患者で日常、使っているなら匂いがしみ込んでいても不思議はない、だが薬は安いものではないのだ。
 勿論、粗悪なものなら手に入れる事はできる。
 スラムに住む私娼などは使っているからだ。
 だが粗悪な薬だと、量を誤り亡くなることもある、出所を掴むため警察に捕まる者もいる。
 しかし、彼女は外国人だ、金を払ったとしても簡単に手に入れる事はできないだろう、すると、考えられることは。
 しばらく前に読んだ新聞の記事を思い出した。
 自分には関係のないことだと思っていた、だが、確かめなければと思った。
 その為には直接、聞く必要があると思っていた。
 だが、赤の他人だ、話してくれるだろうか。
 
 彼女は英語は話せる、フランス語も、だが、流暢にというわけではない。
 落ち着いて、不安にさせてはいけない、怯えさせてもだ。
 目が覚めた彼女に私は話しかけた、優しくだ、男達に襲われていたところを助けたのは自分だ、地下には色々な人間がいる、気をつけなければいけないと念を押すように。
 薬のことを、どう切り出そうかと思った、だが、先延ばしにしたところで無駄だと思い、私は短く単語を呟いた。
 「opium 阿片」
 彼女が不思議そうな顔をしたのでポイズン、poisonと続けた。
 すると驚いた顔で私を見ると驚いたように首を振った。
 しばらくの沈黙の後、彼女が話し始めた。

 「し、食事のとき、小さなグラスで食前酒と言われて」
 「飲まなかったのかい、君は」
 「そのときは断ったけど、翌日の夕食の後、気分が悪くなって」
 
 酒を飲まなかったので食事に混ぜたのだ、だが彼女は吐いた、違和感を感じて食事に何かが入っていると感じたのだ。
 だから、今、ここにいる。

 新聞の記事を思い出した、それは、かなり以前から貴族の間で流行っていたらしい、隠し事だ。
 だから今まで、世間は知るところではなく、警察も動く事はなかったのだ、ところが、明るみに出てしまった。
数人の娼婦と貴族が捕まったことで明るみに出たのだ。
 「信用しろというのは難しいと思う、こうして素顔を隠しているからね、だが」
 顔全体を隠す仮面をつけている私は普通の人間から見れば不気味といっても不思議はないだろう、だが。
 「あなたは、助けてくれた、私を」
 そういって彼女は私に頭を下げると、ありがとうと呟いた。
 今は、それだけで十分だった。

 彼女が中毒患者ではなかった、そのことにほっとした。
 いや、問題があるとすれば彼女を探している人間がいるかもしれないということだ。
貧乏人、貴族、いや、人買いという線もある。
 一人では、このとき私はある男を思い出した。 
 断ることはしないはずだ、あの男、ナーディル・カーンなら。

 
 父親の代から屋敷で働いていた執事が辞める聞いたとき、ラウルは驚いた、老人だが、頼りになる人物なので残念だと思いながらも快く送り出すつもりだった。
 館を出て行く時、短い挨拶を交わしたが、そのときの様子を今更のように思い出し、ラウルは違和感を感じた。
 兄も君が出て行くのはと言葉を続けると執事の顔が、わずかに曇った、そのときは分からなかった。
 だが、それから数日の間に数人のメイドと下男が辞めることになったと兄のフィリップから聞かされたときは驚いた。
 自分が当主となった現在、今までと同じやり方を続けていては時代に取り残されてしまうという兄の言葉にラウルは反論しなかった。
 友人の紹介で新しい事業を始めたのか、忙しい日々を送っている兄は館の事、金の工面から色々なことを取り仕切っている。
 自分が口を出すことはできないというより、憚られた。
 それにラウル自身、最近になってオペラ座の支援に関しては任せると兄に言われたばかりだ。
 館の事は兄に任せれば大丈夫だ、そう思っていた。
 オペラ座の支援も大切だ、だが、それ以上に彼女、クリスティーナに会うことも彼にとっては大事なことだった。
  
 「どうしたんだい、クリス、何だか元気がないね」
 少し前から気になっていたが、その日、ラウルは思いきって彼女に尋ねてみた。
 「最近、レッスンのない日が続いているの」
 彼女の音楽の師がオペラ座の怪人ということは殆どの人間が知っていた、だが、それは暗黙の了解といってもよかった。
 あの男の音楽の才能を認めているからだ。
 「忙しいんじゃないかい、少し前に新しいオペラを作っていると言っていたじゃないか」
 頷く彼女の表情を見ながら近づき、両手を伸ばすとそっと抱きしめた。 
 
 
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