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カメラマンの言葉に凹むアイドル 裏ではコメンテーターが
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村沢武史(むらさわ たけし)、凄いカメラマンだよと聞かされてもLIMAは最初、ぴんとはこなかった、知らなかったせいもあるのかもしれない。
周りの人に聞くと、仕事に厳しく、村沢さんに撮ってもらうと売れるという噂まであったみたいだ。
「売れるって、どういうこと」
「今、大女優と言われてる人、男もだけど彼に撮ってもらって、そのときの写真を見た監督が映画に使ったことがきっかけでって話もあるからね」
そうなんだ、頷きながらLIMAは内心、不安になった。
そんな人が、どうして自分をと思ってしまう、デビューしたばかりの頃は、どこに行っても、街中でさえ注目されていた。
だが、今は、どうだろう。
アイドルは毎日、大勢、生まれてくる。
テレビだけではない、ネットの世界、動画サイトからもだ。
出てきたのはいいが、人気がないといつの間にか消えているなんて不思議ではない。
眼光、鋭い、目つきが、黒髪が、なんだか、某映画に出てくる根暗な教授みたいだ。
それが、村沢征二を見たLIMAの最初の印象だった。
撮影の時には緊張していた、だが室内で数枚の写真を撮った後、終わりにしようと言われて驚くというよりも、拍子抜けしてしまった。
時計を見ると、まだ一時間もたっていない。
「あ、あの」
どうしてと疑問を口にしかけたとき。
「君、真面目に、いや、本気か」
すぐには返事ができなかった、勿論ですと言いかけたとき。
「そうは見えない」
完全に、いや、頭から否定されたような言葉にLIMAは何も言えなくなった。
こちらから連絡するといわれて、その日の撮影は終わりだ。
「な、何よ、真面目にやってるわよ」
クッションを壁に投げつけ、肩で荒い息を吐いた後、撮影時のことを思い出した。
今まで雑誌のグラビア写真を数回撮ったことはあるが、それだけだ。言われるままにポーズをとってシャッターを切られたら終わりだった。 村沢征二は不機嫌というよりは怒っているように見えた。
もしかしたら写真集の話はなかったことになるかもしれない、
そうなったら。
不安になり、スマホを取り出すと自分の名前を検索する。
「LIMA、写真集の話、大丈夫かな」
「村沢征二、驚いたわ」
「カメラマンをやめたと思ってたけど」
「アイドルの写真、撮るんだ、びっくり」
「LIMAって、今、人気あるのかな」
「どうだろ」
スマホの電源を慌てて切る、それ以上は見たくなかった。
アイドルとしては落ち目、終わりなんて言葉が出たら、自分は立ち直れない。
夕方からテレビの収録があるので支度をすると、部屋を出た。
最近はバラエティの出演依頼が増えてきた。
嫌いではないが、自分には笑い、コメディアンのようなセンスも才能もあるとは思えない。
自分のデビューはモデルとしてだ、その頃は可愛い、色々な服を着てグラビアの撮影が殆どだった。
仕事場に向かう途中、少し時間があると思い、本屋に立ち寄った。
写真集のコーナーを見ると、同期にデビューしたアイドルの本が平積みにされていた。
グラビアだけでなく小説も収録されている。
「文章、書くのって難しいけど楽しい、いずれ出したいんだ」
「じゃあ、アイドルの仕事は」
驚いて聞くと、彼女は首を振った。
「テレビに出るのも好き、でも、書くのも、なんというか、大変なんだけどね」
そう言って笑うのだ。
自分は今、アイドル、テレビに出るだけで精一杯、大変だ、昔より人気がなくなっているのではと不安になってしまって仕事に対して。
このとき、何故か村沢征二の顔が浮かんだ。
自分を見る鋭い眼光、真面目にやっているのかと言われた時の顔を思い出した。
「あっ、これだよ、今、噂のやつ」
「驚いたよ、昔の小説でしょ、でも今リメイクの作品が多いからね」
「映画、舞台化の噂があるんでしょ」
若い女性の会話が耳に入ってきた。
「それ、昔の噂でしょ」
「そう思ったのよ、あたしも」
女性客の会話に耳がダンボになってしまった。
小説の新刊コーナーはハードカバー、文庫、色々と平積みにされている。
驚いたのは写真集が並んでいたことだ、小説コーナーなのにと思ってしまう。
アイドルだけど、初の小説という手書きポップがかわいらしく書かれている。
手に取ろうとしたとき、気配を感じて隣に視線を向けた。
一人の女性が平積みになっていた本に手を伸ばしたのだが、その体がぐらりと揺れたのだ。
LIMAは思わず手を伸ばした。
カランと音がして床に何かが落ちる、杖だ。
「大丈夫ですか」
声をかけると女性が頷きすみませんと答えた、その瞬間、LIMAは、どきりとした。
この声、どこかで聞いた、いや、気のせいと思いつつ、その場を離れて仕事場に向かう。
その日、仕事が終わるとマネージャーから話があると言われ、LIMAは緊張した、村沢征二の顔を思い出したのだ。
怒っているのかもしれない。
だが、そんな自分の予想は見事に外れてしまった。
「オーディションを受ける気ない、LIMA」
「久しぶりだな」
頷きながら、なんで個室をと村沢は、むすっとした機嫌が悪いと言わんばかりの表情になった。
「いや、どこで見られてるかわからないからな、知られたくないんだよ」
「溺愛してるんだな、娘を」
そうじゃないと池上は首を振った。
普段は髪を撫でつけ、スーツに身を包んだ紳士なおじさんというスタイルだが、今は違う。
髪はおろし、サングラスに、黒いジャンバーというスタイルでテレビとは別人のようだ、ぱっと見ただけでは同一人物とはわからないかもしれない。
「どうだ、写真はうまく」
「アイドル、なんだよな、娘は」
「うまくいってないのか」
「こういうのはな、本人のやる気だよ、仕事はする」
すまないと池上は頭を下げた。
周りの人に聞くと、仕事に厳しく、村沢さんに撮ってもらうと売れるという噂まであったみたいだ。
「売れるって、どういうこと」
「今、大女優と言われてる人、男もだけど彼に撮ってもらって、そのときの写真を見た監督が映画に使ったことがきっかけでって話もあるからね」
そうなんだ、頷きながらLIMAは内心、不安になった。
そんな人が、どうして自分をと思ってしまう、デビューしたばかりの頃は、どこに行っても、街中でさえ注目されていた。
だが、今は、どうだろう。
アイドルは毎日、大勢、生まれてくる。
テレビだけではない、ネットの世界、動画サイトからもだ。
出てきたのはいいが、人気がないといつの間にか消えているなんて不思議ではない。
眼光、鋭い、目つきが、黒髪が、なんだか、某映画に出てくる根暗な教授みたいだ。
それが、村沢征二を見たLIMAの最初の印象だった。
撮影の時には緊張していた、だが室内で数枚の写真を撮った後、終わりにしようと言われて驚くというよりも、拍子抜けしてしまった。
時計を見ると、まだ一時間もたっていない。
「あ、あの」
どうしてと疑問を口にしかけたとき。
「君、真面目に、いや、本気か」
すぐには返事ができなかった、勿論ですと言いかけたとき。
「そうは見えない」
完全に、いや、頭から否定されたような言葉にLIMAは何も言えなくなった。
こちらから連絡するといわれて、その日の撮影は終わりだ。
「な、何よ、真面目にやってるわよ」
クッションを壁に投げつけ、肩で荒い息を吐いた後、撮影時のことを思い出した。
今まで雑誌のグラビア写真を数回撮ったことはあるが、それだけだ。言われるままにポーズをとってシャッターを切られたら終わりだった。 村沢征二は不機嫌というよりは怒っているように見えた。
もしかしたら写真集の話はなかったことになるかもしれない、
そうなったら。
不安になり、スマホを取り出すと自分の名前を検索する。
「LIMA、写真集の話、大丈夫かな」
「村沢征二、驚いたわ」
「カメラマンをやめたと思ってたけど」
「アイドルの写真、撮るんだ、びっくり」
「LIMAって、今、人気あるのかな」
「どうだろ」
スマホの電源を慌てて切る、それ以上は見たくなかった。
アイドルとしては落ち目、終わりなんて言葉が出たら、自分は立ち直れない。
夕方からテレビの収録があるので支度をすると、部屋を出た。
最近はバラエティの出演依頼が増えてきた。
嫌いではないが、自分には笑い、コメディアンのようなセンスも才能もあるとは思えない。
自分のデビューはモデルとしてだ、その頃は可愛い、色々な服を着てグラビアの撮影が殆どだった。
仕事場に向かう途中、少し時間があると思い、本屋に立ち寄った。
写真集のコーナーを見ると、同期にデビューしたアイドルの本が平積みにされていた。
グラビアだけでなく小説も収録されている。
「文章、書くのって難しいけど楽しい、いずれ出したいんだ」
「じゃあ、アイドルの仕事は」
驚いて聞くと、彼女は首を振った。
「テレビに出るのも好き、でも、書くのも、なんというか、大変なんだけどね」
そう言って笑うのだ。
自分は今、アイドル、テレビに出るだけで精一杯、大変だ、昔より人気がなくなっているのではと不安になってしまって仕事に対して。
このとき、何故か村沢征二の顔が浮かんだ。
自分を見る鋭い眼光、真面目にやっているのかと言われた時の顔を思い出した。
「あっ、これだよ、今、噂のやつ」
「驚いたよ、昔の小説でしょ、でも今リメイクの作品が多いからね」
「映画、舞台化の噂があるんでしょ」
若い女性の会話が耳に入ってきた。
「それ、昔の噂でしょ」
「そう思ったのよ、あたしも」
女性客の会話に耳がダンボになってしまった。
小説の新刊コーナーはハードカバー、文庫、色々と平積みにされている。
驚いたのは写真集が並んでいたことだ、小説コーナーなのにと思ってしまう。
アイドルだけど、初の小説という手書きポップがかわいらしく書かれている。
手に取ろうとしたとき、気配を感じて隣に視線を向けた。
一人の女性が平積みになっていた本に手を伸ばしたのだが、その体がぐらりと揺れたのだ。
LIMAは思わず手を伸ばした。
カランと音がして床に何かが落ちる、杖だ。
「大丈夫ですか」
声をかけると女性が頷きすみませんと答えた、その瞬間、LIMAは、どきりとした。
この声、どこかで聞いた、いや、気のせいと思いつつ、その場を離れて仕事場に向かう。
その日、仕事が終わるとマネージャーから話があると言われ、LIMAは緊張した、村沢征二の顔を思い出したのだ。
怒っているのかもしれない。
だが、そんな自分の予想は見事に外れてしまった。
「オーディションを受ける気ない、LIMA」
「久しぶりだな」
頷きながら、なんで個室をと村沢は、むすっとした機嫌が悪いと言わんばかりの表情になった。
「いや、どこで見られてるかわからないからな、知られたくないんだよ」
「溺愛してるんだな、娘を」
そうじゃないと池上は首を振った。
普段は髪を撫でつけ、スーツに身を包んだ紳士なおじさんというスタイルだが、今は違う。
髪はおろし、サングラスに、黒いジャンバーというスタイルでテレビとは別人のようだ、ぱっと見ただけでは同一人物とはわからないかもしれない。
「どうだ、写真はうまく」
「アイドル、なんだよな、娘は」
「うまくいってないのか」
「こういうのはな、本人のやる気だよ、仕事はする」
すまないと池上は頭を下げた。
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