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別れを切り出された男は自信があった、そして楔は打ち込まれた
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「そう、ところで、そちらの様子は」
「香港人は仕事熱心ですからね、日本人も勤勉だが、金に対する強欲さは負けるよ」
確かにとオザキは頷いた。
「準備はとどこおりなくといいたいところだが、同行女性の動きがおもしろくてね」
男は小指をわずかに動かした。
「そうですか、で、トラブルでも」
「下手なドラマよりもおもしろいと皆、モニターに釘付けだよ」
「あなたは、どう思います、勝敗は」
「クィーンだと思うが」
その言葉にオザキは笑った、意外な答えを聞いたといいたげな表情に相手は言葉を続けた。
「今まで女に勝ったと思ったことは一度もないんだ、自分は」
そうですねと頷くオザキはわずかに口元を歪めた。
「おい、どうして、昨夜はバーに来なかったんだ」
待っていたんだと言葉を続ける孝史に女は肩を竦めると、呼び出されたのよと小声になった。
「専務から、提出した奴、向こうが不満を感じているってね」
「なんだって、しかし」
「あなたの提案に不満があるみたい、で、僭越ながらあたしが代替え案を出したの、ほら、以前、駄目だって言われた奴、そしたら気に入ったみたいで」
人員とコスト削減、少し無理があるのではと向こうが不安になったみたいよと言われ、孝史はむっとした。
「俺より君の意見を取ったってわけか」
「そう、だから行かなかったの、ねえっ、あたし達、ライバル」
まさか、それはないだろう、だが、返ってきた笑顔、まるで自分の答えを否定するような表情に感じたのは違和感だ。
「そろそろかしら」
何がと訊ねるが、まさかと思った。
「仕事だけでなく、手を抜いているように見えるんだもの、最近は、特に、そう感じてしまうの」
「そんなことはないよ、君のことは大事にしているつもりだ」
「不満を感じているのは、あたしよ、つもりなんて都合のいい言葉よね、決定権は、こちら、違うかしら」
付き合う時にと言われて頷いたが、納得はいかないと思ってしまったのは男の見栄、いや、我が儘だろうか。
にやりと笑う女の顔は、今まで見たことのないぐらい綺麗だと思ってしまった、自慢したいぐらいだ、彼女は自分の恋人だと。
それなのに今、別れを切り出されている、正直、何故と思ってしまう。
本音をいえば手放したくない、それなのに引きとめる為の言葉が、すぐには出てこないのだ。
いや、彼女は強がっているだけだ、以前にもあった、自分の気を非行としてわざと別れたいと言い出したことがあった。
普段とは違う場所で仕事をして、認められたことに有頂天になっているだけだ、日本に帰ったら、また自分に甘えてくるはずだ。
そう思って、このときは黙って見送ったのだ。
「お義父さん、夕飯、何か食べたいものありますか」
ドアをノックして顔を覗かせた彼女の声に読みかけの本を閉じて時計を見る、時間は三時を少しすぎていた、今から買い物に行くのだろう。
「いや、よかったら映画に行かないか、そして帰りは蕎麦を食べるというのはどうだい、実は先ほど京介君から連絡があってね、近くに用があるから、よかったら映画館まで送るって言われてね」
もし都合が悪ければと言いかけた瞬間。
「行きます、すぐ用意しますね」
気持ちがいいほどの即答に正幸は思わず笑みをこぼした。
「すまないね、あちら側がどうしてもと、こちらも強くはでれない」
「仕方ないですよ」
表面上は笑って誤魔化す、自分は気にしていないというふりをするが内心はそうではない。
「実は彼女には引き続き、こちらに残ってもらいたいという申し出があってね、内容次第では了承の返事をださなければならないから、私も残ることになる」
上司の言葉を聞きながら、内心憮然としたが、それを表情に出すことはしなかった。
「ありがたい、それにしても、あなた本当に日本人ですか」
数人の男たちに囲まれて女は喜色の笑みを隠そうとしない、それが正直、気に入らないというより腹が立った。
「随分とモテるんだな」
「あら、それってもしかして」
まさかと否定するが、女はそうかしらと笑っている、その笑顔に正直、むっとしてしまった。
「なあ、別れるって本気なのか」
だが、返事はない、わざと返事をしないのか、今まで、彼女と付き合ってきたが追いかけてくるのはいつも女の方からだ。
それが今は、自分の方が、そう考えるとおもしろくない。
「あたしね、こちらに移転するかもしれないわ」
「どういうことだ、それって」
「繋ぎというか、こちらで業務の手伝いをしてほしいって」
話がうますぎる、いや、何か裏があるんじゃないかと言われて、確かにねと女は頷いた。
「誰かさんより、利用価値があると思われたんたんじゃないかしら」
「おい、その言い方は」
以前のように笑って、やり過ごすことができないのは何故だろう、多少の気まずいことがあっても、元通りになるはずだった。
それが今は違うのではないかと思ってしまう、正直、苦手だ、日本に早く返りたいと思ってしまった。
「ところで、奥さんには電話したの、もしかしたら予定は延びるかねしれないわよ」
「ああ、スマホの調子が悪くてね」
大丈夫だ、妻は自分の連絡がなくてもという男の言葉に、女はでしょうねと頷いた。
「奥さんも、ほっとしているんじゃない、あなたがいなくて、自由にできるって」
「なんだ、それは浮気でもしているっていうのか」
妻は寂しがっていても、仕事の邪魔になるようなことはしないよ、勿論、俺の浮気のと言いかけたとき、女はあらあらと肩をすくめた。
「本気で思っているの、それ」
女の呆れた表情と視線に男は、まさかと思った、妻が浮気、男がいる、あり得ないと思いつつも、それは最初の楔になったことに、このときは気づきもしなかった。
「香港人は仕事熱心ですからね、日本人も勤勉だが、金に対する強欲さは負けるよ」
確かにとオザキは頷いた。
「準備はとどこおりなくといいたいところだが、同行女性の動きがおもしろくてね」
男は小指をわずかに動かした。
「そうですか、で、トラブルでも」
「下手なドラマよりもおもしろいと皆、モニターに釘付けだよ」
「あなたは、どう思います、勝敗は」
「クィーンだと思うが」
その言葉にオザキは笑った、意外な答えを聞いたといいたげな表情に相手は言葉を続けた。
「今まで女に勝ったと思ったことは一度もないんだ、自分は」
そうですねと頷くオザキはわずかに口元を歪めた。
「おい、どうして、昨夜はバーに来なかったんだ」
待っていたんだと言葉を続ける孝史に女は肩を竦めると、呼び出されたのよと小声になった。
「専務から、提出した奴、向こうが不満を感じているってね」
「なんだって、しかし」
「あなたの提案に不満があるみたい、で、僭越ながらあたしが代替え案を出したの、ほら、以前、駄目だって言われた奴、そしたら気に入ったみたいで」
人員とコスト削減、少し無理があるのではと向こうが不安になったみたいよと言われ、孝史はむっとした。
「俺より君の意見を取ったってわけか」
「そう、だから行かなかったの、ねえっ、あたし達、ライバル」
まさか、それはないだろう、だが、返ってきた笑顔、まるで自分の答えを否定するような表情に感じたのは違和感だ。
「そろそろかしら」
何がと訊ねるが、まさかと思った。
「仕事だけでなく、手を抜いているように見えるんだもの、最近は、特に、そう感じてしまうの」
「そんなことはないよ、君のことは大事にしているつもりだ」
「不満を感じているのは、あたしよ、つもりなんて都合のいい言葉よね、決定権は、こちら、違うかしら」
付き合う時にと言われて頷いたが、納得はいかないと思ってしまったのは男の見栄、いや、我が儘だろうか。
にやりと笑う女の顔は、今まで見たことのないぐらい綺麗だと思ってしまった、自慢したいぐらいだ、彼女は自分の恋人だと。
それなのに今、別れを切り出されている、正直、何故と思ってしまう。
本音をいえば手放したくない、それなのに引きとめる為の言葉が、すぐには出てこないのだ。
いや、彼女は強がっているだけだ、以前にもあった、自分の気を非行としてわざと別れたいと言い出したことがあった。
普段とは違う場所で仕事をして、認められたことに有頂天になっているだけだ、日本に帰ったら、また自分に甘えてくるはずだ。
そう思って、このときは黙って見送ったのだ。
「お義父さん、夕飯、何か食べたいものありますか」
ドアをノックして顔を覗かせた彼女の声に読みかけの本を閉じて時計を見る、時間は三時を少しすぎていた、今から買い物に行くのだろう。
「いや、よかったら映画に行かないか、そして帰りは蕎麦を食べるというのはどうだい、実は先ほど京介君から連絡があってね、近くに用があるから、よかったら映画館まで送るって言われてね」
もし都合が悪ければと言いかけた瞬間。
「行きます、すぐ用意しますね」
気持ちがいいほどの即答に正幸は思わず笑みをこぼした。
「すまないね、あちら側がどうしてもと、こちらも強くはでれない」
「仕方ないですよ」
表面上は笑って誤魔化す、自分は気にしていないというふりをするが内心はそうではない。
「実は彼女には引き続き、こちらに残ってもらいたいという申し出があってね、内容次第では了承の返事をださなければならないから、私も残ることになる」
上司の言葉を聞きながら、内心憮然としたが、それを表情に出すことはしなかった。
「ありがたい、それにしても、あなた本当に日本人ですか」
数人の男たちに囲まれて女は喜色の笑みを隠そうとしない、それが正直、気に入らないというより腹が立った。
「随分とモテるんだな」
「あら、それってもしかして」
まさかと否定するが、女はそうかしらと笑っている、その笑顔に正直、むっとしてしまった。
「なあ、別れるって本気なのか」
だが、返事はない、わざと返事をしないのか、今まで、彼女と付き合ってきたが追いかけてくるのはいつも女の方からだ。
それが今は、自分の方が、そう考えるとおもしろくない。
「あたしね、こちらに移転するかもしれないわ」
「どういうことだ、それって」
「繋ぎというか、こちらで業務の手伝いをしてほしいって」
話がうますぎる、いや、何か裏があるんじゃないかと言われて、確かにねと女は頷いた。
「誰かさんより、利用価値があると思われたんたんじゃないかしら」
「おい、その言い方は」
以前のように笑って、やり過ごすことができないのは何故だろう、多少の気まずいことがあっても、元通りになるはずだった。
それが今は違うのではないかと思ってしまう、正直、苦手だ、日本に早く返りたいと思ってしまった。
「ところで、奥さんには電話したの、もしかしたら予定は延びるかねしれないわよ」
「ああ、スマホの調子が悪くてね」
大丈夫だ、妻は自分の連絡がなくてもという男の言葉に、女はでしょうねと頷いた。
「奥さんも、ほっとしているんじゃない、あなたがいなくて、自由にできるって」
「なんだ、それは浮気でもしているっていうのか」
妻は寂しがっていても、仕事の邪魔になるようなことはしないよ、勿論、俺の浮気のと言いかけたとき、女はあらあらと肩をすくめた。
「本気で思っているの、それ」
女の呆れた表情と視線に男は、まさかと思った、妻が浮気、男がいる、あり得ないと思いつつも、それは最初の楔になったことに、このときは気づきもしなかった。
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