自分が何を食べ尽くしたのか、男はわかっていない

三ノ宮 みさお

文字の大きさ
上 下
2 / 2

弟の存在を知った男、感じたものは何か

しおりを挟む
 一体、誰だ、恋人と仲良くしている男にむっとしてしまった
 すると、その視線に気づいたのか、不思議そうな顔で女が尋ねた。
 「以前、会ってるでしょ、忘れたの」
 その言葉に思いだそうとするが、こんな男は見たことがないと思った、感情が顔に出たのかもしれない。
 弟の一樹ですと言われて驚いた。
 自分よりも若い、いや、それだけではない、顔もいい、まるで役者か芸能人のようだといってもおかしくはない。
 にっこりと笑った後、あのときは少し太っていましたから、その言葉にすぐには返事ができず男は相手の顔をまじまじと見た。
 太った男、その言葉に少しずつ記憶が鮮明になっていく。
 そうだ、確か、彼女の家に行ったときだと思いだした。
 だが、少しどころではない、あのときは髪は伸びてボサボサで顔の半分以上が隠れていた、体型も太っていたと、いや、それ以上で、まるで引きこもり中年男のような雰囲気だった。
 「仕事柄、入れ込んでしまって、どうしても」
 その言葉に働いていたのとか男は驚いた。
 「一樹は役者、言わなかったっけ」
 「いや、聞いて」
 言いかけて、男は憶えていないと首を振った、もし聞いていたとしても憶えてはいなかったかもしれない。
 「あのときは、知らない人は引きこもりの息子がいると思ったんじゃないかな」
 「あら、近所の人は分かってたわよ、反対に面白がってたわ、今度はどんな役って」
 
 「ところで今日は何しに来たの、泊まるの」
 「いや、そのつもりだったけど、弟さんがいるなら」
 「いいじゃないですか、章子の彼氏なら遠慮しないでください」
 
 弟と仲が良いんだ、このときは、そう思っただけだった。
 結局のところ、その日、泊まる事はなく男は自宅に戻った。
 だが、それから数日後、再び、彼女のアパートを訪れると弟はいた、それだけではない、部屋の中には見たことのない家具と服がある。
 もしかしてと思い、尋ねると一緒に住むことになったのだという。
 「稽古場が近いからね、しばらく一緒に住むことになったの、どうしたの」
 
 その日、外で夕食を食べようと男は彼女に連絡をした。
 いつもなら最初は二人でビールを頼むのだが、今日の彼女はウーロン茶だ。 
 「外食は控えるようにしてるの、一樹が作ってくれるから」
 「どうしたんだ、急に」
 「料理が得意な男、役作りのために協力よ、自炊はするタイプだし、それにしても」
 女の視線がテーブルの上の並んだ料理に向けられるのを感じた。
 チキン南蛮、チーズとはんぺんのはさみ揚げ、豚の角煮、あじフライ、全て男自身が注文した料理だが、半分近くを食べている。 
 反対に女の前にはホッケ、ぶりカマの塩焼き、大根の煮物、冷や奴だ。
 女と比べて自分は頼みすぎ、脂っこいものを食べ過ぎかと思った、だが、最近、仕事がハードなんだよと言いながら男は箸をのばして食べ始めた。
 「そうなの、でも気をつけて、カロリー高そうなものばかりだから」
 その言葉に男は内心、いらっとしてしまった。
 「ところで、あたし、しばらく留守にするから」
 「仕事かい」
 話したくなさそうだなと思った男は深く尋ねる事はしなかった。
 恋人だと思っている自分だが、女は、もしかしてそうではないのかもしれない。
 そう思ったのは弟が彼女のアパートで一緒に住み始めてからだ。
 一緒に住み始めてから何度か弟に会ったが、二人の距離が近いのだ。
 本当に、そうなのかと思うくらいだ。
  
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

恥ずかしすぎる教室おねしょ

カルラ アンジェリ
大衆娯楽
女子中学生の松本彩花(まつもと あやか)は授業中に居眠りしておねしょしてしまう そのことに混乱した彼女とフォローする友人のストーリー

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

よくある話。

果桃しろくろ
ライト文芸
よくあるシチュエーション。 気がつくと、ホテルのベッドの上で知らない男2人。そして、彼氏だった男がカメラを回していて「復讐だ」なんて言う。よくある話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

処理中です...