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人は見た目で、そうではないと、男が知った色々な現実 後編

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 「ねえっ、本当に大丈夫なの、今月の支払いまでに入金しないとカードを止められるわ」
 「大丈夫だ、あの猫さえ手に入れば、金には困らない」
 男の言葉に女は安心したように頷きながらほっとした笑顔になる。
 もし、今月の引き落としが滞ればバッグ、服、いやアクセサリーを預けなければいけないかもしれない。
 バッグだけではない、アクセサリーや服など、全てブランド商品で大事なものだ、どれ一つとして手放したくない、いや、失いたくない。 そのくせ、何度か着てしまうと服などは興味を失ってしまい、衣装ケースに放り込んでクリーニングにも出さずにそのままだ。
 アルバイトも短期ではたいした金にならない、夜のバイトならと思って働き始めた、最初の頃はうまくいったと思っていた。
 客の話を聞いて優しくすれば年上の男は自分に都合良く何でもいうことを聞いてくれる。
 バイト生活で困っていると告げれば、これを生活費の足しにしてほしいと数枚の万札を渡してくれる。
 軽い気持ちで付き合い、寝たこともあった、だが、それで失敗した。 病気を移されたのだ、水商売といえど昔と違って、その点は厳しくなった。
 秘密、内緒にしていたのに性病になっていたことを店のオーナーだけではない従業員、全員が知っていた。
 店を辞めてくれと言われたときには驚いた。
 後から知ったのだが、ばらしたのは客の男だった。
 自分が店外デートをして複数の男から金をもらっていたことを知って、店の女の子に告げ口したらしい。
 病気の自分のことが可愛そうで、どうしても慰めたいと思っている抱かれてもいいと言われて、拒む事ができなかった。
 それを知ったとき、女は腹が立って仕方がなかった。
 数ヶ月かかって、ようやく完治した後、再び、夜のバイトで働こうとすると自分の事が知られていた。
 店外デート、複数の男と関係を持ち、病気を客に移して平気な顔で店で働いていた厚顔無恥な女、ひどい人間だと、
 
 嘘ですと、自分は被害者なんですと言っても無駄だった。
 夜の店、バイトは手っ取り早く金を稼ぐのは自分にとって都合がよかった、どうしようかと迷っているとき、男と出会ったのだ。
 男は顔はいい、着ているものも、金のあるいい男だと思ったが、そうではなかった。
 自分より若く顔のいい男はどこからネタを仕入れてくるのか、夜の繁華街で女をナンパし、寄生して生活しているような住所不定の男だった。
 頼りになるのはスマホのようで、それで金になりそうなネタを見つけては小遣い稼ぎのようなことをしているらしかった。
 そして見つけたのが、今度の件だ、行方不明の猫を探していますというネットの広告を見たのだという。
 以前にも行方不明の犬を探しているという広告を見て見つけて連れて行ったら、かなりの謝礼を受け取ったという。
 「まあ、ちょっとした、こつがあるんだけどな」
 男は、そのそのときのことを詳しくは話さないし、女も聞こうとはしなかった。
 金が十分すぎるほとあって、贅沢な生活できれば、好きなものを買うことができたら満足だと思っていたのだ。
 「よし、行くぞ、金が手に入ったら焼き肉でも食いに行くか」
 
 アパートを訪ねた男女はすぐに猫を引き渡してもらえると思っていた、だが、インターホンを鳴らして出てきたのは男性だ。
 ぱりっとした着こなしのいいスーツは一目で仕立てのいいものだとわかる。
 「ああ、猫を探していたという方ですね」
 「ええ、そうです、先日は事情があって引き渡せないと言われたんですが」
 「戸籍は、出生証明書はお持ちいただけましたか」
 男は頷きながらバックから取り出した紙を男に渡した。
 今では犬猫の売買、準血、mixを問わず、ブリーダーやペットショップで犬猫の譲渡の証明する為に書類は必要だ。
 男はスマホで検索して色々な証明を調べて、それを繋ぎ、貼り合わせてコンビニのネットプリントで作成した。
 つまりは偽造書類ということになる、だが、万が一の為に友人に頼んで見てもらったのだ。
 これなら大丈夫だと思った。
 
 拝見しますと受け取った男性は書類を見ると、わずかに顔を上げた、そしてどういうことですと尋ねた。
 「これは、どういうことです」
 何を言われた、いや、聞かれたのか、男は言葉の意味がわからず、あっけにとられた。
 「元の飼い主である方は不慣れで譲渡や全ての書類に使うのはやめてほしいと仰ったはずです、何故、この書類は日本語なんです」
 「えっ、ああ、いや、このアパートの住人は日本人でしょう、この間、応対してくれた人も、それで」
 「では、○○○語の書類、元本はお持ちなのですね」
 日本語以外、英語ならわかる、だが、男が口にしたのは聞いたことのない言葉だ。
 このとき男は目の前の男性の服装、スー値の襟元に光る小さなボタンを見た、いや、バッジかもしれない。
 ふと、昔の出来事を思い出した、この男、弁護士だと。
 
 
 そのとき、足音がした。
 振り返ると着物姿の長身の男が立っていた、だが、その顔は日本人ではない。
 「実は完治こそしているが、前足を両方、怪我、骨折していたということがわかりましてね」
 にっこりと笑いながら男が、若い男と隣にいる女性を見た。
 「不自然だというんですよ、医師は、もしかしたら、故意に怪我をさせられた可能性がと言いまして、本来の飼い主で有る」
 このとき、ごほんと咳払いをしたのは和服姿の男だ。
 
 
 コンビニから出ようとしたと、ぶつかりそうになった男は相手を怒鳴りつけた。
 ひゃあと声を上げた老婆は驚いたのか足を滑らし、その場に尻餅をついた。
 レジの店員が大丈夫ですかと慌てたように駆け寄る。
 「なんだい、年寄りにまで乱暴かい」
 「な、なんだと」
 「ああ、怖い、何するかわからないね、知ってるよ、あんた、犬、猫にわざと怪我させて金をせしめていたんだろ」
 老婆の言葉に男は一瞬、言葉を失った。
 
 「ねえっ、あの人でしょ」
 「奥さん、万引きで掴まったじゃない」
 「えっ、掴まりそうになって刃物を振り回してた人」
 「ちょっと、危なくない」
 このとき男は気づいた、周りの視線に。
 まるで、異常な、犯罪者を見るような目で見られている事にだ、自分が。
 慌てて、その場を立ち去る、背後から追い立てられているような気持ちが拭えない。
 どうして、こんなことになった。
 あの日、猫を手に入れる事はできなかった。
 
 そのことに女は怒って、自分にものを投げつけてきた、カードを止められるとヒステリックに半泣きになってだ。
 それから数日後、ブランドショップで女は万引きをした。
 咎められた女は定員に向かってカッターナイフで切りつけようとしたのだ、小型のカッターだったが、店員は怪我をした。
 逃げようと女が店の外に出たとき、子供とぶつかった。
 泣き出す子供の声で騒ぎは一層、大きくなった。
 
 男は思った自分は、もうここには居られないと、女と暮らす事も無理だ、自分は異常者のレッテルを貼られたといってもいいだろう。
 逃げようと思ったとき、肩を叩かれた。
 振り返ると男が立っていた、誰だと思ったとき、いきなり顔面に拳が叩きこまれた。


 「じょうさんの旦那さん、来ないの」
 「仕事が忙しいらしいです」
 「ああ、ほら」
 床の上では子猫が這い回るように動き回っている。
 「そういえば、青年、バイトを始めたんだって」
 「自分の部屋に猫ベッドを置くからって」
 「あらあら、で小説家は」
 「あの人、今、恋してるは」
 「それって、猫と一緒に来た」
 
 キーボードを叩いていた女は、一休みしようかと手を止めた。
 コーヒーよりも甘いものが欲しいと思い、椅子から立ち上がり冷蔵庫に向かう。
 冷蔵庫の前にたまこがいた。
 何か食べると声をかける。
 子猫が無事に生まれて子育てで大変だと思う、ミルクの量が足りない時は住人たちが数時間ごとに交代してミルクをあげている。
 最初は難産かもしれないと言われていたが、無事に生まれた、それも六匹もだ。
 自分の今月の書いたものはどうだろう、もし駄目ならネットにあげよう、どこかの投稿サイトにupするのもいいだろう。
 「写真集、だすのかな」
 二階の住人の事を思い出した。
 最近はペットの写真集なんて珍しくない、商業誌よりも個人出版、同人として出巣のもいいんじゃないという話が出ている。
 住人、デザイナーの提案だ。
 子猫が生まれたら里親をと思っていたのに、住人たちは、その話になると無言になる。
 「まあ、バイト、職探ししているしね、皆」
 冷蔵庫のドアを開けると、コーラが入っていることに気づいた。
 五百ミリのペットボトルだ、買ってきたのはあの人だろう。
 今度は、あんパンを買っておこうと思いながら、足下を見るといつの間にか猫はいない。
 子供たちのところに行ったのかもしれない。
 「よし、もうひと頑張りしよう」
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