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第二章
第40話「リナート山の頂上へ」
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「―――ようやく折り返し地点だな」
麓から登り始めて早三日目。リナート山の頂上まで辿り着いた俺達は、何とかこのダンジョンを半分まで攻略することができた。
頂上からは自然豊かなリナート地方が一望できる。出発地点であるリナートの町が、まるでジオラマのように小さく見える。
今のところ、誰かが高山病になった様子もなくて大きな怪我もない。ダンジョン攻略は予定通りに進んでいる。
「こういう山の天辺って、如何にもボスモンスターが居そうな場所だけど……本当にボスがいないんだね、このダンジョン」
平たく開けていて如何にもな場所を、ライラはキョロキョロと見渡す。
リナート山の山道は、登ってから下っていくという魔の地下迷宮と呼ばれる特異な空間の中でも異質なダンジョンだが、ボスモンスターが存在しない点でもかなり特殊なダンジョンである。
「ボスならもう倒しちゃったよ? ほら、さっきウィンド・エレメントが一気に6体も出てきて僕が全部倒したじゃない?」
「えっ? あれがそうだったの?」
ウィンド・エレメントというのは、翡翠の八面ダイスが回転して風を纏っているモンスターだった。
無機質な魔法物質系と呼ばれるモンスターの中でも「エレメント」と名の付くモンスターは代表格なモンスターで、各属性魔法に応じた姿と攻撃方法をしてくる。
ファイア・エレメントであれば赤くて魔法の火を纏っているし、ウォーター・エレメントやアイス・エレメントなら魔法の水や氷というわけだ。
「崖が切り取られて半月状になった所で戦ったでしょ? あそこが所謂ボス部屋ってやつ」
ハイデマリーが言っているのは、ついさっき通ったばかり場所だった。
「確かに、エレメントモンスターが一度にあれほど出現するのはおかしく感じましたが……。」
動物系や人型系などのモンスターと違い、群れて行動するようなモンスターではない。この山道に入ってからはコッコトリスとヒヨコリスに次いでウィンド・エレメントと多く遭遇したが、どれも単体で出てきた。
大気中の属性魔力を吸収して存在を維持するエレメントモンスターは、同じ場所に密集していると餌の奪い合いや共食いのような状態になって自滅してしまうため、生みの親であるダンジョン自身がそういう風に設計しているらしい。
エレメントモンスターは属性相性の弱点を突く攻撃魔法でもなければ有効打にならず、物理攻撃が効きづらくて非常に嫌らしい相手だ。
だが何でも斬れる村々のおかげで斬り伏せられるし、うちのパーティにはほぼ全ての属性を網羅しているノエルとハイデマリーという魔法攻撃要員が二人も揃っているので、むしろデタラメに雑魚敵を増やしてくるコッコトリスの方が手強い感じさえする。
「ダンジョンのモンスター召喚魔法は未知の部分が多いけど……あそこは多分、やってきた人間の頭数と同じ数だけウィンド・エレメントを出現させるんだと思うよ」
確かにハイデマリーの言う通り、さっき出現したウィンド・エレメントの数は六人パーティである俺達の人数と同じ六体だった。
単純に強い敵を一体だけボンッと置くのではなく、倒すのが面倒な雑魚を複数並べてくるタイプのボス部屋だったらしい。
「“リナート山の山道”って一つに纏められてはいますけど、実際には二つの初級ダンジョンでニコイチなんですよね、このダンジョンって」
トリシアが解説してくれる。実際には頂上でダンジョン化した空間が一旦途切れており、俺達が走破してきたのは風の魔力が逆巻くリナート地方側の山道。
もう片方のダンジョン―――これから挑む残り半分であるヴァナランド地方側のダンジョンは、山道というよりも洞窟に近く、土の魔力が籠っているそうだ。
「帝都の偉い地質学者さんが言うには、この辺りって大昔は山じゃなくて平原だったみたいなんです。ハイエルフの大国が滅んだ末期時代、地下のダンジョンを抉り出すために大掛かりな古代魔術で地殻変動を起こした結果、このリナート山ができたって有力な説があるんですよ」
「ええっー……! ハイエルフって、すごいっ……!」
続けて説明するトリシア。同じ内容を知っていたらしいハイデマリー以外、俺達はツェツィーリアと一緒になって驚く。
元々あったダンジョンを破壊するためだったのか、それとも何かの調査や実験だったのか定かではないが、結果として一つのダンジョンは山を挟むような形で二つに分裂してしまったようだ。
自分達が昇ってきた山が人為的に作り出された可能性があるというのは、にわかには信じがたいが本当ならばとんでもない話である。
「まだお昼過ぎくらいだけど……どうする、ご主人様?」
太陽の位置からライラは大よその時間を計りながら言った。
「ヴァナランド側のダンジョンはリナート側と比べて短いって話だし、このまま一気に下って行っちゃう?」
「いや、焦る必要はないし、今日はもうここで休もう」
ここまでくる途中で干し肉や乾パンを摘まんだので昼食自体は済ませてあるが、一日中動き続けていたせいか、肉体は休息とエネルギー補給を訴えている。
ライラ達の体力はまだまだ問題なさそうだ。だが、彼女達も休める時に休ませておいた方がいいだろう。
リナート山の頂上は、峠道との分岐地点だった山の中腹と同じく、かつては休息地として利用されている場所だった。
馬車を通すための街道の延長線として、後から峠道が整備されてからは使われることも少なくなったものの、昔はこのルートを通らなければリナート山は越えられなかったため、冒険者や行商人といった旅人達がここで野営していた形跡が随所に残っている。
体力を回復したら明日の朝、一気にこのダンジョンを通り抜けてヴァナランド地方に出よう。俺はリーダーとしてそう判断を下し、今日は眺めのいい山頂で早めの休息を取ることにした。
麓から登り始めて早三日目。リナート山の頂上まで辿り着いた俺達は、何とかこのダンジョンを半分まで攻略することができた。
頂上からは自然豊かなリナート地方が一望できる。出発地点であるリナートの町が、まるでジオラマのように小さく見える。
今のところ、誰かが高山病になった様子もなくて大きな怪我もない。ダンジョン攻略は予定通りに進んでいる。
「こういう山の天辺って、如何にもボスモンスターが居そうな場所だけど……本当にボスがいないんだね、このダンジョン」
平たく開けていて如何にもな場所を、ライラはキョロキョロと見渡す。
リナート山の山道は、登ってから下っていくという魔の地下迷宮と呼ばれる特異な空間の中でも異質なダンジョンだが、ボスモンスターが存在しない点でもかなり特殊なダンジョンである。
「ボスならもう倒しちゃったよ? ほら、さっきウィンド・エレメントが一気に6体も出てきて僕が全部倒したじゃない?」
「えっ? あれがそうだったの?」
ウィンド・エレメントというのは、翡翠の八面ダイスが回転して風を纏っているモンスターだった。
無機質な魔法物質系と呼ばれるモンスターの中でも「エレメント」と名の付くモンスターは代表格なモンスターで、各属性魔法に応じた姿と攻撃方法をしてくる。
ファイア・エレメントであれば赤くて魔法の火を纏っているし、ウォーター・エレメントやアイス・エレメントなら魔法の水や氷というわけだ。
「崖が切り取られて半月状になった所で戦ったでしょ? あそこが所謂ボス部屋ってやつ」
ハイデマリーが言っているのは、ついさっき通ったばかり場所だった。
「確かに、エレメントモンスターが一度にあれほど出現するのはおかしく感じましたが……。」
動物系や人型系などのモンスターと違い、群れて行動するようなモンスターではない。この山道に入ってからはコッコトリスとヒヨコリスに次いでウィンド・エレメントと多く遭遇したが、どれも単体で出てきた。
大気中の属性魔力を吸収して存在を維持するエレメントモンスターは、同じ場所に密集していると餌の奪い合いや共食いのような状態になって自滅してしまうため、生みの親であるダンジョン自身がそういう風に設計しているらしい。
エレメントモンスターは属性相性の弱点を突く攻撃魔法でもなければ有効打にならず、物理攻撃が効きづらくて非常に嫌らしい相手だ。
だが何でも斬れる村々のおかげで斬り伏せられるし、うちのパーティにはほぼ全ての属性を網羅しているノエルとハイデマリーという魔法攻撃要員が二人も揃っているので、むしろデタラメに雑魚敵を増やしてくるコッコトリスの方が手強い感じさえする。
「ダンジョンのモンスター召喚魔法は未知の部分が多いけど……あそこは多分、やってきた人間の頭数と同じ数だけウィンド・エレメントを出現させるんだと思うよ」
確かにハイデマリーの言う通り、さっき出現したウィンド・エレメントの数は六人パーティである俺達の人数と同じ六体だった。
単純に強い敵を一体だけボンッと置くのではなく、倒すのが面倒な雑魚を複数並べてくるタイプのボス部屋だったらしい。
「“リナート山の山道”って一つに纏められてはいますけど、実際には二つの初級ダンジョンでニコイチなんですよね、このダンジョンって」
トリシアが解説してくれる。実際には頂上でダンジョン化した空間が一旦途切れており、俺達が走破してきたのは風の魔力が逆巻くリナート地方側の山道。
もう片方のダンジョン―――これから挑む残り半分であるヴァナランド地方側のダンジョンは、山道というよりも洞窟に近く、土の魔力が籠っているそうだ。
「帝都の偉い地質学者さんが言うには、この辺りって大昔は山じゃなくて平原だったみたいなんです。ハイエルフの大国が滅んだ末期時代、地下のダンジョンを抉り出すために大掛かりな古代魔術で地殻変動を起こした結果、このリナート山ができたって有力な説があるんですよ」
「ええっー……! ハイエルフって、すごいっ……!」
続けて説明するトリシア。同じ内容を知っていたらしいハイデマリー以外、俺達はツェツィーリアと一緒になって驚く。
元々あったダンジョンを破壊するためだったのか、それとも何かの調査や実験だったのか定かではないが、結果として一つのダンジョンは山を挟むような形で二つに分裂してしまったようだ。
自分達が昇ってきた山が人為的に作り出された可能性があるというのは、にわかには信じがたいが本当ならばとんでもない話である。
「まだお昼過ぎくらいだけど……どうする、ご主人様?」
太陽の位置からライラは大よその時間を計りながら言った。
「ヴァナランド側のダンジョンはリナート側と比べて短いって話だし、このまま一気に下って行っちゃう?」
「いや、焦る必要はないし、今日はもうここで休もう」
ここまでくる途中で干し肉や乾パンを摘まんだので昼食自体は済ませてあるが、一日中動き続けていたせいか、肉体は休息とエネルギー補給を訴えている。
ライラ達の体力はまだまだ問題なさそうだ。だが、彼女達も休める時に休ませておいた方がいいだろう。
リナート山の頂上は、峠道との分岐地点だった山の中腹と同じく、かつては休息地として利用されている場所だった。
馬車を通すための街道の延長線として、後から峠道が整備されてからは使われることも少なくなったものの、昔はこのルートを通らなければリナート山は越えられなかったため、冒険者や行商人といった旅人達がここで野営していた形跡が随所に残っている。
体力を回復したら明日の朝、一気にこのダンジョンを通り抜けてヴァナランド地方に出よう。俺はリーダーとしてそう判断を下し、今日は眺めのいい山頂で早めの休息を取ることにした。
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