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第二章
第36話「野宿」
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半日ほどリナート山を登り歩き、やっと山の中腹まで辿り着く頃には夕方。
山の中腹は木々も疎らで開けた土地となっている。俺達がやってきた登り道を除けば、ここから二手に道が分かれていて、安全な街道である峠道とダンジョンである山道へそれぞれ続いているのだ。
普段であれば、ここでリナート地方とヴァナランド地方とを行き来する行商人や隊商がいくつもテントを張っており、キャンプ地として賑わっているらしい。時には商人同士で、あるいはここを訪れる冒険者達も交え、いつもバザーのような光景になっているとか。
だが峠道の方は今、土砂崩れで通行不可。なので今は嘘のように人の姿がない。
俺達のように山道を越えていこうとする別の冒険者パーティがいるかと思っていたが、その予想も外れてしまった。
「今日はここで野宿だね……あー、疲れた」
「麓からずっと登ってきたわけだしな。モンスターと出くわさなかっただけ良かったが……足は大丈夫か、ライラ?」
「パンパンになっちゃってるけど何とか。ツェツィちゃんは平気? ずっと歩いてて足痛くなってない?」
「だいじょーぶ! チェチー、へーき!」
筋力と体力に溢れるドワーフらしく、まだまだ元気そうなツェツィーリア。
戦闘はともかく、冒険の旅には余裕で付いてこれるフィジカルだ。
「日が暮れないうちに竈を作り、火を起こしてしまいましょう」
正確な時間はわからないが、日没まで一時間は切っている。まずは明かりとなる火を確保するのを優先するあたり、流石にノエルはうちのパーティで一番野営に慣れている。
「じゃあ、私とハイディさんで薪を拾いに行きますね」
「そう遠くへは行かないし、何かあったら集めた薪と一緒にトリシアとワープで逃げてくるから心配しないでよ」
トリシアとハイデマリーは背負っていた背嚢を置き、自分達の装備だけ持って道から外れ、二人で木々の中へと行ってしまう。
ここはまだ山道の入り口だ。いざという時、ハイデマリーは移動魔法の〈ワープ〉を躊躇わずに使うはずなので、錬金術師と黒魔導士の後衛二人だけで薪拾いに行かせても問題ない。
「ノエルはツェツィと一緒にテントとタープを張ってくれるか? 手順を教えながらで、ゆっくりで構わない」
「かしこまりました。ではツェツィーリア様、私と一緒に組み立てていきましょう」
「うん! わかった! ノエルおねーちゃんと、いっしょにテントつくる!」
嬉々とした表情のツェツィーリアに、ノエルは荷物の中から天幕を取り出して道具の説明をしながらテントの設営を始めていく。
「ご主人様と私で、かまどを担当だね」
「ああ、さっさと済ませよう」
その隣で、俺とライラは手頃な大きさの石を集めて“かまど”を作り出す。
できるだけ平らな地面に石を並べて置いていき、丸い囲みを作る。吹いてくる風の方向を見て、丸く組み上げる際に一方向だけは開けておく。
風が流れ込まないと、せっかく起こしても火は大きくならないからだ。
「(小学校の頃、サマーキャンプでこういうのを教えて貰った経験が生きたな)」
雨季の頃は雨のせいで火を起こすのも一苦労だったが、ここ数日はずっと晴れの天気が続いているので、火起こしも簡単にできるだろう。
マッチやライターどころかファイヤースターターのようなモノもないが、流石にそろそろ火打石で火を点ける作業にも慣れてきた。
火打石を出すついでに背負い袋から燃料を取り出す。煉瓦ほどの大きさのそれは、乾燥させた草木をすり潰し、砕いた炭と一緒に油や薬を混ぜて四角く練り固めた固形燃料だ。
一個丸々は使わず、半分に割って残りは布を巻いて戻しておく。今から火を灯す方は更に半分に割り、まずは片方を粉々に砕き、かまどの中に突っ込んで火打石を打ち鳴らす。
それに小さな火がついたら、周囲に落ちていた枯れ葉など燃やせるモノを投入し、息を吹きかけて種火を段々と大きくしていく。
小さな火が安定してきたら、もう片方の固形燃料の欠片も入れてそれにも着火させる。追加でその辺の小枝をくべていく頃には、薪拾い組が帰ってくるまでは持つ明かりが灯る。
松明を一本取り出し、かまどの火とは別にもう一つの火も用意しておく。これで火が消えてしまっても、また火打石を打ち鳴らす手間は無くなる。
トライポッド―――焚き火で料理するのに鍋や焼き網を吊るすための三脚も組み立て終わる頃、隣では三角テントの設置もほぼ終了していた。
「あ、もう三脚用意してくれてたんだ」
近くには綺麗な湧き水が溢れている泉があるのも事前情報として知っていた。そこまで鍋を持って水を汲みに行っていたライラが戻ってきて、水の入った鍋を三脚から吊るす。
そのまま飲んでも大丈夫な清水らしいが、念のために煮沸しておく。
先に作ったかまどとは別に、薪を拾いに行ったトリシアとハイデマリーが帰ってきてから使うための小さなかまども作る。そちらではやかんや小鍋でお湯を沸かし、お茶を飲んだり体を拭くのに使う。
太陽が地平線の向こうへ半分ほど沈み込み、ライラとノエルが夕飯の下ごしらえを済ませる頃、薪束を抱えてトリシアとハイデマリーが戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「お待たせ。薪はこれだけあれば十分でしょ?」
二人は燃えやすい乾いた枝だけ拾って帰ってきた。生木は燃えにくい上に酷く煙が出るので、燃料とするには少々使いづらい。
かまどに薪がくべられると、大きくなった火で鍋の中がグツグツと煮立っていく。
今日朝一に肉屋で買ったばかりの豚肉をさばき、塩、香辛料、香草と煮る。そこにスライスした玉ねぎ、一口大に切ったニンジンや皮を剥いたジャガイモを混ぜれば出来上がり。
香草のいい匂いが湯気とともに立ち昇っていき、かまどの白い煙の筋と一緒にユラユラと夜風にあおられて揺れていた。
俺達一行は車座になって、暫くの間、それを黙って見つめていた。
ゆるゆると時が流れ、豚肉の煮込み料理が完成する。
付け合わせはパンとチーズに簡単なグリーンサラダ。後はフルーツが少々。
長距離を移動する旅に出た際、最初の一日目はその日のうちに購入した日持ちしない生鮮食材で豪勢な食事にするパーティは多い。うちのパーティもそうである。
明日からは目的地に着くまでどうしても食事に乾き物が続く。一日でもそれが減るというのなら越したことは無い。
品目は少ないが、俺自身を含めて食べ盛りの十代ばかりなパーティでも量は十分。料理上手なライラとノエルが作ったので栄養バランスは勿論、その味も良し。
全員が一回以上はおかわりをして、夕餉のひと時が終わる。
別に沸かした湯で食後のお茶を楽しみつつ、俺達は今晩の見張り番について話し合う。
隊商はいなくても、他のパーティがここでキャンプしているのならば見張りは一人立てれば十分だと考えていたものの、実際にここでテントを張っているのは俺達だけ。
モンスターが現れることは滅多にないそうだが、ここに集まる商人やその荷物を狙って野盗が出ることは多々あるらしく、そうなると見張りが一人では不安が残る。
「交代で一人ずつテントで休むか」
ライラ、ノエル、トリシアの三人と俺を合わせて四人旅でトアールの町から出発した時は、常に三人は起きている状態を維持して夜が明けるの待っていた。
浅い眠りを繰り返す上にトータルの睡眠時間は微妙になって全員が睡眠不足を抱えながらの旅になるが、昼間の休息を増やすことで何とか帳消しにできるだろう。
「明日からダンジョンへ挑み、少なくともこの山を越えるまではダンジョン内で野営することも考慮すると……この六人の中から二人は朝までテントで休ませるという方がいいと思いますわ」
残る四人を更に二人組に分け、どちらか片方が見張り番につき、もう片方は交代するまでタープの下で仮眠を取らせる。そちらの四人は装備は着けたまま野外で寝ることになるが、パーティ全体にかかる負担は大きく減らせる。
ノエルの合理的な案に誰も意義は唱えなかった。朝までテントで熟睡できるペアを選ぶのは公平にジャンケンで選出しようとする。
「ご主人様はテントで寝ること確定でしょ?」
「そうですよ。剣士は体が資本なんですから、明日に備えてご自愛ください」
だが、俺はその輪から弾かれてしまう。
「いや、でも―――」
「私の方からもお願いしますわ。攻撃役を担うご主人様の太刀筋が鈍ってしまうと、パーティとしての戦闘能力が下がってしまいますので……それに、その、ご主人様の場合は特殊な事情もございますし……。」
性に疎いツェツィーリアを前に、言葉を選びながら喋るノエルの視線が「察して欲しい」と言わんばかりに俺の腰から鞘ごと外された妖刀村々の方に向けられる。
これから先、俺は夜の見張りに参加するよりもテント内で「性欲発散に専念してくれ」という意思がキョトンとしているツェツィーリア以外の奴隷四人から伝わってきた。
「夜の見張りなんて、僕ら奴隷に丸投げしていいんだよ。そういうのはマスターの特権なんだからさ」
「みはるの、チェチーがんばる! だからおにーちゃん、やすんでていーよ!」
駄目押しにハイデマリーとツェツィーリアにまで言われてしまい、多数決で負けた俺は渋々と頷くしかなかった。
奴隷の彼女達は主人である俺を他所に、五人でジャンケン大会が開催される。
最初に負けたのはトリシア、次いでハイデマリーとツェツィーリアが脱落してしまい、決勝はライラとノエルの一騎打ち。
「ふっふっふっ……恨みっこ無しだからね、ノエル」
「望むところですわ」
ダンジョンに挑んだり、モンスターと戦っている時以上に本気の目をしている二人を見て、俺はようやく自分の奴隷達が夜伽相手の争奪戦をしているのだと認識する。
「(……ツェツィが残らなくて、良かったような悲しいような……。)」
ホッとしたいのか残念な気持ちなのか、自分でも言葉に出来ない心をどうにかしている間に、ライラとノエルのジャンケン勝負はライラの勝利で幕を閉じた。
こうして今夜は、久しぶりにライラと二人っきりで過ごすことになるのだった。
山の中腹は木々も疎らで開けた土地となっている。俺達がやってきた登り道を除けば、ここから二手に道が分かれていて、安全な街道である峠道とダンジョンである山道へそれぞれ続いているのだ。
普段であれば、ここでリナート地方とヴァナランド地方とを行き来する行商人や隊商がいくつもテントを張っており、キャンプ地として賑わっているらしい。時には商人同士で、あるいはここを訪れる冒険者達も交え、いつもバザーのような光景になっているとか。
だが峠道の方は今、土砂崩れで通行不可。なので今は嘘のように人の姿がない。
俺達のように山道を越えていこうとする別の冒険者パーティがいるかと思っていたが、その予想も外れてしまった。
「今日はここで野宿だね……あー、疲れた」
「麓からずっと登ってきたわけだしな。モンスターと出くわさなかっただけ良かったが……足は大丈夫か、ライラ?」
「パンパンになっちゃってるけど何とか。ツェツィちゃんは平気? ずっと歩いてて足痛くなってない?」
「だいじょーぶ! チェチー、へーき!」
筋力と体力に溢れるドワーフらしく、まだまだ元気そうなツェツィーリア。
戦闘はともかく、冒険の旅には余裕で付いてこれるフィジカルだ。
「日が暮れないうちに竈を作り、火を起こしてしまいましょう」
正確な時間はわからないが、日没まで一時間は切っている。まずは明かりとなる火を確保するのを優先するあたり、流石にノエルはうちのパーティで一番野営に慣れている。
「じゃあ、私とハイディさんで薪を拾いに行きますね」
「そう遠くへは行かないし、何かあったら集めた薪と一緒にトリシアとワープで逃げてくるから心配しないでよ」
トリシアとハイデマリーは背負っていた背嚢を置き、自分達の装備だけ持って道から外れ、二人で木々の中へと行ってしまう。
ここはまだ山道の入り口だ。いざという時、ハイデマリーは移動魔法の〈ワープ〉を躊躇わずに使うはずなので、錬金術師と黒魔導士の後衛二人だけで薪拾いに行かせても問題ない。
「ノエルはツェツィと一緒にテントとタープを張ってくれるか? 手順を教えながらで、ゆっくりで構わない」
「かしこまりました。ではツェツィーリア様、私と一緒に組み立てていきましょう」
「うん! わかった! ノエルおねーちゃんと、いっしょにテントつくる!」
嬉々とした表情のツェツィーリアに、ノエルは荷物の中から天幕を取り出して道具の説明をしながらテントの設営を始めていく。
「ご主人様と私で、かまどを担当だね」
「ああ、さっさと済ませよう」
その隣で、俺とライラは手頃な大きさの石を集めて“かまど”を作り出す。
できるだけ平らな地面に石を並べて置いていき、丸い囲みを作る。吹いてくる風の方向を見て、丸く組み上げる際に一方向だけは開けておく。
風が流れ込まないと、せっかく起こしても火は大きくならないからだ。
「(小学校の頃、サマーキャンプでこういうのを教えて貰った経験が生きたな)」
雨季の頃は雨のせいで火を起こすのも一苦労だったが、ここ数日はずっと晴れの天気が続いているので、火起こしも簡単にできるだろう。
マッチやライターどころかファイヤースターターのようなモノもないが、流石にそろそろ火打石で火を点ける作業にも慣れてきた。
火打石を出すついでに背負い袋から燃料を取り出す。煉瓦ほどの大きさのそれは、乾燥させた草木をすり潰し、砕いた炭と一緒に油や薬を混ぜて四角く練り固めた固形燃料だ。
一個丸々は使わず、半分に割って残りは布を巻いて戻しておく。今から火を灯す方は更に半分に割り、まずは片方を粉々に砕き、かまどの中に突っ込んで火打石を打ち鳴らす。
それに小さな火がついたら、周囲に落ちていた枯れ葉など燃やせるモノを投入し、息を吹きかけて種火を段々と大きくしていく。
小さな火が安定してきたら、もう片方の固形燃料の欠片も入れてそれにも着火させる。追加でその辺の小枝をくべていく頃には、薪拾い組が帰ってくるまでは持つ明かりが灯る。
松明を一本取り出し、かまどの火とは別にもう一つの火も用意しておく。これで火が消えてしまっても、また火打石を打ち鳴らす手間は無くなる。
トライポッド―――焚き火で料理するのに鍋や焼き網を吊るすための三脚も組み立て終わる頃、隣では三角テントの設置もほぼ終了していた。
「あ、もう三脚用意してくれてたんだ」
近くには綺麗な湧き水が溢れている泉があるのも事前情報として知っていた。そこまで鍋を持って水を汲みに行っていたライラが戻ってきて、水の入った鍋を三脚から吊るす。
そのまま飲んでも大丈夫な清水らしいが、念のために煮沸しておく。
先に作ったかまどとは別に、薪を拾いに行ったトリシアとハイデマリーが帰ってきてから使うための小さなかまども作る。そちらではやかんや小鍋でお湯を沸かし、お茶を飲んだり体を拭くのに使う。
太陽が地平線の向こうへ半分ほど沈み込み、ライラとノエルが夕飯の下ごしらえを済ませる頃、薪束を抱えてトリシアとハイデマリーが戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「お待たせ。薪はこれだけあれば十分でしょ?」
二人は燃えやすい乾いた枝だけ拾って帰ってきた。生木は燃えにくい上に酷く煙が出るので、燃料とするには少々使いづらい。
かまどに薪がくべられると、大きくなった火で鍋の中がグツグツと煮立っていく。
今日朝一に肉屋で買ったばかりの豚肉をさばき、塩、香辛料、香草と煮る。そこにスライスした玉ねぎ、一口大に切ったニンジンや皮を剥いたジャガイモを混ぜれば出来上がり。
香草のいい匂いが湯気とともに立ち昇っていき、かまどの白い煙の筋と一緒にユラユラと夜風にあおられて揺れていた。
俺達一行は車座になって、暫くの間、それを黙って見つめていた。
ゆるゆると時が流れ、豚肉の煮込み料理が完成する。
付け合わせはパンとチーズに簡単なグリーンサラダ。後はフルーツが少々。
長距離を移動する旅に出た際、最初の一日目はその日のうちに購入した日持ちしない生鮮食材で豪勢な食事にするパーティは多い。うちのパーティもそうである。
明日からは目的地に着くまでどうしても食事に乾き物が続く。一日でもそれが減るというのなら越したことは無い。
品目は少ないが、俺自身を含めて食べ盛りの十代ばかりなパーティでも量は十分。料理上手なライラとノエルが作ったので栄養バランスは勿論、その味も良し。
全員が一回以上はおかわりをして、夕餉のひと時が終わる。
別に沸かした湯で食後のお茶を楽しみつつ、俺達は今晩の見張り番について話し合う。
隊商はいなくても、他のパーティがここでキャンプしているのならば見張りは一人立てれば十分だと考えていたものの、実際にここでテントを張っているのは俺達だけ。
モンスターが現れることは滅多にないそうだが、ここに集まる商人やその荷物を狙って野盗が出ることは多々あるらしく、そうなると見張りが一人では不安が残る。
「交代で一人ずつテントで休むか」
ライラ、ノエル、トリシアの三人と俺を合わせて四人旅でトアールの町から出発した時は、常に三人は起きている状態を維持して夜が明けるの待っていた。
浅い眠りを繰り返す上にトータルの睡眠時間は微妙になって全員が睡眠不足を抱えながらの旅になるが、昼間の休息を増やすことで何とか帳消しにできるだろう。
「明日からダンジョンへ挑み、少なくともこの山を越えるまではダンジョン内で野営することも考慮すると……この六人の中から二人は朝までテントで休ませるという方がいいと思いますわ」
残る四人を更に二人組に分け、どちらか片方が見張り番につき、もう片方は交代するまでタープの下で仮眠を取らせる。そちらの四人は装備は着けたまま野外で寝ることになるが、パーティ全体にかかる負担は大きく減らせる。
ノエルの合理的な案に誰も意義は唱えなかった。朝までテントで熟睡できるペアを選ぶのは公平にジャンケンで選出しようとする。
「ご主人様はテントで寝ること確定でしょ?」
「そうですよ。剣士は体が資本なんですから、明日に備えてご自愛ください」
だが、俺はその輪から弾かれてしまう。
「いや、でも―――」
「私の方からもお願いしますわ。攻撃役を担うご主人様の太刀筋が鈍ってしまうと、パーティとしての戦闘能力が下がってしまいますので……それに、その、ご主人様の場合は特殊な事情もございますし……。」
性に疎いツェツィーリアを前に、言葉を選びながら喋るノエルの視線が「察して欲しい」と言わんばかりに俺の腰から鞘ごと外された妖刀村々の方に向けられる。
これから先、俺は夜の見張りに参加するよりもテント内で「性欲発散に専念してくれ」という意思がキョトンとしているツェツィーリア以外の奴隷四人から伝わってきた。
「夜の見張りなんて、僕ら奴隷に丸投げしていいんだよ。そういうのはマスターの特権なんだからさ」
「みはるの、チェチーがんばる! だからおにーちゃん、やすんでていーよ!」
駄目押しにハイデマリーとツェツィーリアにまで言われてしまい、多数決で負けた俺は渋々と頷くしかなかった。
奴隷の彼女達は主人である俺を他所に、五人でジャンケン大会が開催される。
最初に負けたのはトリシア、次いでハイデマリーとツェツィーリアが脱落してしまい、決勝はライラとノエルの一騎打ち。
「ふっふっふっ……恨みっこ無しだからね、ノエル」
「望むところですわ」
ダンジョンに挑んだり、モンスターと戦っている時以上に本気の目をしている二人を見て、俺はようやく自分の奴隷達が夜伽相手の争奪戦をしているのだと認識する。
「(……ツェツィが残らなくて、良かったような悲しいような……。)」
ホッとしたいのか残念な気持ちなのか、自分でも言葉に出来ない心をどうにかしている間に、ライラとノエルのジャンケン勝負はライラの勝利で幕を閉じた。
こうして今夜は、久しぶりにライラと二人っきりで過ごすことになるのだった。
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