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第一章
プロローグ(♡)
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真っ暗な洞窟の中なのに、なぜかぼんやりと明るく、濃い魔力で満ち溢れた不思議な場所。
超巨大で規格外の特殊な魔法生物―――その体内に広がる迷路のような空間が『魔の迷宮』と呼ばれている。
途方もない大きさだが、ダンジョンそのものは攻撃どころか自力での移動すら不可能であり、単体では何も出来ない非力なモンスターである。
その代わり、自らの食料となる欲深き者達―――ヒューマン、エルフ、ドワーフといった知的種族を誘引する金銀財宝を撒き餌の如く生成し、そうして自らの体内へと誘い込んだ人間を殺してその生命力を吸収する為に『魔物』や『罠』を生み出す。
特にモンスターは危険な存在だが、倒すことができれば鱗一枚が金貨に変わるような希少素材なども得られる。だからこそ、ダンジョンでは一攫千金が狙えるのだ。
ハイリスク、ハイリターン。故に『冒険者』と呼ばれる者達は、命を賭して魔の迷宮へと挑む。
「クソ、しつこい連中めっ……!」
東方の珍しい意匠がある反りの浅い曲刀―――打刀を腰に差し、追ってくるモンスターの群れに悪態をつきながら走る異邦人の剣士。
彼もまた、己の命を賭け金にしてダンジョンへと挑む駆け出し冒険者の一人。
首の後ろで一本に縛った長めの黒髪に真っ黒な瞳というこの辺りに住む只人としては珍しい容姿に加え、貴族の男性が普段着に使う略服に似た詰襟の黒服に袖を通した黒ずくめの剣士は、まだ十代半ばの少年だった。
外見こそ珍しいが、彼のように年若い冒険者自体は珍しくも何ともない。
どの種族にしても15歳も過ぎれば大人扱いが普通で、自分一人の力で生きていくことを余儀無くされる。
少年と同じくらいの年頃になれば孤児院から出て行かなくてはいけないし、貧乏な寒村では長男が無事に家業を継いだら、次男以降の男児は口減らし同然に独り立ちさせられるのが当たり前。
職人の元へ弟子入りしたり、金持ちの家に下男として雇われたりもするが、大抵の場合、他に行く当てもなく冒険者になるケースがほとんど。
実際にはこの世界の東方の出身ではなく、とんでもなく遠い場所から迷い込んでしまったこの少年も、冒険者をやる以外に選択肢がなかった口だ。
だが彼の場合、選択肢がたった一つだけでも自ら選択することができただけマシな部類だった言えよう。
「はぁはぁっ……!」
先を行く少年に手を引かれ、息を切らせて走りながらボブカットの綺麗な栗毛を揺らすヒューマンの少女。
紅白のヒーラーローブを纏い、革の背嚢を背負って錫杖を手にした彼女は白魔導士である。
見ての通り、前衛の剣士に後衛の白魔導士とで二人組の最小パーティを組んでいるものの、彼女にはパーティの方針に意見することは叶わず、それどころか自らの意思で抜け出すことも不可能。
パーティのリーダーが少年とはいえ、冒険者とは本来、お互いに“自由”で“平等”なもの。
冒険者ギルドが設けた『等級』という区別は存在するが、それは実力や経験に応じてギルドが斡旋する依頼を定める時の目安というだけであり、貴族の爵位や軍隊の階級みたいに上下関係ではない。
ランクが違っても「冒険者同士は平等で同じ立場である」というのが冒険者ギルドの掟。
なのにどうして少女に拒否権すらないのかと言えば、その細い首に巻かれている『隷属の首輪』というマジックアイテムが全てを物語っていた。
厳密に言えば、この少女はパーティを組む“仲間”ではなく、その“代替品”である。
その黒革の首輪は彼女が『奴隷』という身分であることの証左で、首輪には絶対服従の魔法が込められている。
だから少女は自分の所有者である少年に対し、逆らうことも逃げることも許されないのだ。
例え隷属の首輪が何の効果も持たないただの首輪だったとしても、反逆奴隷や逃亡奴隷はお尋ね者にされて見つかり次第“処分”されてしまう為、奴隷が自分の主を裏切るのは自らの首を絞めるに等しい。
だから少女は少年の命令に対して従うしかない。もっとも彼女の場合、愛しく感じている彼に対して不利益を及ぼすなんて真似をするわけがないのだが。
「チッ、行き止まりか……。」
一本道の長い通路。二人が逃げた先は、残念ながら行き止まりだった。
「ご主人様っ! ヤバいよ、もうすぐそこまで来てるって!」
「ああ、わかってる」
少年は即座に少女と位置を入れ替え、自分の背中と壁との間に彼女を挟んでから抜刀する。
妖しげな色気にも似た雰囲気を纏う刃紋が露わになると同時に、瞬くような鋭い太刀筋が一閃した。
「「「グギャギャァァァッ!!!」」」
二人を追いかけてきた暗緑色の小鬼の徒党が三匹纏めて斬り伏せられ、どす黒い血が飛び散って辺りを染める。
粗悪な作りの棍棒や錆びた短剣といった武器ごと綺麗に両断され、真っ二つになったゴブリン達は断末魔と一緒に腸をぶちまけながら倒れ伏せていく。
死を迎えた肉体から流れ出る血と一緒に零れる生命力―――そこに宿っている新鮮な魔力を感知し、ダンジョンはそれを啜るように吸収し始める。
地面に転がったゴブリンの屍は見る見るうちに干乾びていき、あっという間に原型を留めなくなる。そして最後には砂のように崩れていき、生みの親であるはずのダンジョン自身に文字通り、骨までしゃぶり尽されてしまう。
後に残ったのはゴブリンの落とした粗末な武器と、ダンジョンにとっては食べられない部分である搾りカスの『魔石』だけ。
モンスターは体内に魔石という魔力の宿った核石を持つ。
その大きさや形状、色合いなどはモンスターの種類によって異なり、当然その価値もモンスターごとに変わる。
ゴブリンが落とす戦利品など集めて売っても二束三文のガラクタに等しい。一方、魔石は低級モンスターの雑魚であっても数が揃えばそれなりの金になるのだ。
しかし、今は悠長に魔石を広い集めている暇などない。後続のゴブリンが次々と押し寄せているからだ。
このダンジョンの最奥で要となるボスモンスターのホブゴブリンを倒し、地上へ帰還しようとする侵入者達―――つまり、少年と少女のことをゴブリン達は追撃している。
殺された頭目や同胞の敵討ちなんて立派なものではない。しつこく追いかけ回す理由は若いメス―――白魔導士の少女がいるからだ。
基本的にモンスターと呼ばれる存在はダンジョンにしか生み出せないのだが、列記とした生物なのでモンスターは同種の雌雄同士で繁殖することが可能である。
獣と大差ないモンスターは雌雄の番いで子を成すし、植物系のモンスターなら草木と同じように受粉し、魔石の宿った種子を植えたりして個体数を増やす。
だがメスの個体が存在しないゴブリンやオークといった人型モンスターの場合、繁殖には“孕み袋”となる人間の女を必要とするため、このダンジョンのゴブリン達は執拗に白魔導士の少女を追っていたのである。
やや幼さが残るものの美人で可愛い整った顔立ちに、ヒューマンの女性としては平均的な背丈。しかし出るところは出て、引き締まるべきところは引き締まっている抜群なスタイルの良さに加えて安産型。
これで十代半ば―――少年と同い年の17歳とはとても思えないグラマラスな肉付き。孕み袋としては理想的すぎる故にゴブリン達も執着しているのだった。
「奥から足音が沢山反響してる……またゴブリンの群れがくるよ」
「大丈夫だ、ここなら迎え撃てる」
洞窟内という閉鎖空間においては、小さな体躯のゴブリンの方が有利。
だが横幅の狭い一本道の行き止まりなら背後や左右から挟み撃ちにされる心配はなく、細い道なので一度に大勢の敵を相手にすることもない。
「白魔法で強化を頼む」
「うん、わかった」
頷いた少女は手にした錫杖を鳴らし、祈りへ集中するためにゆっくりと目を閉じた。
魔法には“白”と“黒”で大きく二通りの魔術がある。
治療や守護を司る“白魔法”を発現させる『白魔術』と、殺傷や呪縛を御する“黒魔法”を発動させる『黒魔術』の二つ。
どちらも同じ“魔法”を行使するための技術には違いないものの、この二つは対極にあって似て非なるモノ。
白魔術を用いて白魔法を使う白魔導士の場合、神々の元へ祈りの言葉を届けるための白の術式により、術者の魔力を供物として奇跡や加護といった“神の御業”を白魔法として現すのだ。
「戦女神さん、戦女神さん。そのかっこいい鱗鎧、ちょっとだけ私のご主人様に貸して頂戴な―――」
まるで親戚のお姉さんや同性の友人にでも頼み込むような物言いで、少女は祈る。
他の白魔導士なら「勇猛果敢なる戦女神様~」だったり「戦乙女の守護を請う~」などとそれらしい文頭で始まるのだが、少女の祈りは実に気さくなものだった。
地母神コスモスとその子神らを信仰する敬虔なコスモス教の信者達―――特に戦女神を崇拝する騎士や戦士が聞けば「馴れ馴れしいぞ」と怒られそうなくらいだが、少女が祈りと魔力を込めた願いの声はしっかりと届いたらしい。
「聖なる守りを―――プロテクト・スケイル!」
少年を中心に淡い光が球体状になって彼を包む。すぐにその光は正六角形状の鱗を繋げ合わせたような鎧となって全身を覆うと、水の中に沈めたガラスのように透明になって見えなくなる。
物理的なダメージを軽減する防御魔法の一つである〈プロテクト・スケイル〉という白魔法だ。この魔法による不可視の鱗鎧を頼りにしているからこそ、少年は鎖帷子どころか革鎧といった軽鎧すら身に着けていない。
少年は手にした刀を前傾姿勢になって構え、突きによる刺突と斬り上げを繰り返し、増援のゴブリンを葬っていく。
斜め上から滑らすように刀の切っ先を振り下ろす。そして魔石とニコイチになった心臓がある急所の左胸をピンポイントに貫き、刀身を引き抜かずに突き刺したまま斬り上げることで傷口を胸元から喉元まで広げ、致命傷を与えて確実に一匹ずつゴブリンの数を減らしていった。
まるで鋭い牙が血を求めて手当たり次第に噛み付くような連続突き。少年の手にした刀が恐ろしいほど切れ味に優れた業物だからこそ可能な芸当だった。
ゴブリンの身体構造は人間のそれとほぼ変わらず、少年が体得している対人剣術は人型モンスターを効率よく殺傷し、刃が急所へと喰らい付く度、敵がバタバタと斬り捨てられて死んでいく。
それでも数の暴力で押し切ろうとゴブリン達は突撃してくる。所詮、知能はサル以下の連中だった。
最後の一匹まで、ゴブリンは残らず倒されてしまう。
何とか襲ってきたゴブリンの群れを全て斬り伏せたのを確認すると、少年は刃に付いた血脂を振り落とし、最後にボロ布と懐紙で綺麗に拭ってから流れるような動作で納刀する。
相手がモンスターの中でも雑魚の代名詞なゴブリンで、更に〈プロテクト・スケイル〉の魔法がかかっていたから強気に立ち回れたとはいえ、少年は見事な剣捌きで終始圧倒してみせた。
そう、難なく脅威を退けた―――そのはずである。
「ぐっ……ううぅっ……!」
だがダンジョン内にいたゴブリンを全て倒して刀を鞘に納めた瞬間、彼は苦しそうに蹲ってしまう。
「ご主人様っ! ちょっと、大丈夫っ!?」
後方で控えていた少女は慌てて主人の元に駆け寄った瞬間、彼女は荒い息遣いで別人のように豹変した少年に抱き寄せられ、強引に唇を奪われる。
「んむぅぅっ!?」
少女の形のいいピンク色の唇に吸い付き、少年は無理やり舌を捻じ込んで口の中を舐め回す。舌と舌が激しく絡み合い、二人の唾液が混ざり合う音がダンジョンの片隅に響く。
「んっ、んぅっ……♡」
少年は無理やりディープキスをしながら、少女には不釣合いな大きい尻を鷲掴みにしたり、もう片方の手で豊かに実った巨乳を揉んだり、滅茶苦茶に女体を撫で回すような愛撫を繰り返す。
こんな場所でいきなり発情するなど、それこそゴブリンどころか発情期を迎えて盛る獣に等しいが、これでも少年は自らの衝動を抑えている方である。
己を見失っても強靭な理性の鎖で何とか欲望を縛り付けているのだ。そうでなければ今すぐにでも少女のことを組み伏せて犯そうとするくらい、豹変した今の少年は“気が狂いそうな性欲”によって支配されている。
「んんぅっ……♡」
身長差があるので目いっぱいに顔を上げ、つま先立ちになった状態で激しい接吻をされたまま、少女は錫杖を手放してその手を必死に下へ伸ばす。
テントを張ったような状態の少年の股間をズボン越しに弄り、手探りで目当てのモノを見つける。
男性用に限らずズボンの前開きと言えばボタンかホックで留まっているものだが、少年の黒いズボンの前開きは奇妙な金具でピッタリと閉じられていた。
少女はこの主人と出会うまで見たことも聞いたこともなかったが、これはジッパーという非常に便利なものらしく、指で掴んでいるスライダーという部分を上げ下げすると簡単に開いたり閉じたりする不思議な作りになっているのだ。
そのジッパーとやらを開くと、ズボンの中から下着を押し退けてブルンッと少年の逸物―――ギンギンに勃起した大きな男性器が顔を出す。
「(あっ……す、すごい……とっても硬くて、こんなに熱くなって……♡)」
熱した鉄棒みたいになっている陰茎に両手を伸ばし、少女は優しく撫でるように扱き始める。
「(大丈夫だからね、ご主人様♡ オチンチンに溜まっちゃってるエッチな呪いは、私がすぐに精液と一緒にピュッピュッって出させちゃうから♡)」
手の平と両手の指を総動員した手コキで肉棒を刺激し、心地良い快感を与え、少女は慣れた手付きで男根を射精へと導く。
――――――どびゅるるるるっ!
肉棒が根元からビクンッと大きく震えた瞬間、半固体状でプルプルとした濃い精液が鉄砲水のような勢いで発射された。
「(あっ、いっぱい出たぁっ♡)」
呪いの力に犯され、変な魔力が籠る精液の臭いを嗅いで少女も頭がクラクラしてきてしまう。
「(んぁっ……私までエッチな気分になってきちゃうよぉっ♡ こんなの膣内に出されちゃったら一発で絶対妊娠しちゃう♡)」
尋常じゃないほど大量の射精に気圧されながらも、少女は溜まった精液をできるだけ吐き出させようと射精中もそのまま手コキを続ける。もちろん、求められるがままにディープキスを続けられたまま。
少年の着る学ランという一張羅が汚れてしまわないように、精液が吐き出される度に片方の手を受け皿にするが、女の片手では到底受け止め切れず、零れてしまった精液はボトボトと足元に落ちて白い水溜りになっていく。
普通、一回射精に達したら男性の性的興奮はある程度落ち着くはずなのだが、少年は増々興奮した様子で貪るように少女の口内を舐り、せがむように続きを促す。
少女は主の期待に応えるよう必死に手を動かし、射精中の男根を扱き上げて精液を絞り続け、二回目、三回目と連続で射精させていく。
連続して十回目の射精を迎えた時、ようやく少年の正気を取り戻させた。
「っ……!」
夢中で接吻していた少年が不意に舌を動かすのを止める。彼はハッとなって意識を取り戻したようで、混ざり合った唾液で糸を引かせながら重なっていた唇を慌てて放す。
「うっ……ら、ライラ……?」
「はぁはぁっ……♡ よ、よかったぁっ……♡ ご主人様、やっと正気に……♡」
濃い精液の咽返るような臭いにあてられ、それもずっと口付けしていて酸欠気味になったせいか、少女―――ライラと名を呼ばれた白魔導士の少女は紅潮した顔で呟く。
もし膣内に射精していたら、絶対に妊娠させていたであろう大量の精液が地面にぶちまけられているのを見て、少年は青ざめた顔をして自分が何をしようとしたのかすぐに理解する。
「そうか……俺はまた性欲が抑えられなくなって、君のことを襲おうと……すまない……本当にすまなかった、ライラ……。」
「はむっ、んっ……大丈夫、我慢できなかった分は私の方で何とか処理したから♡」
まるで水飴でも食べるみたいに精液まみれの両手を舐め取ったり、細い指で精液の塊を拭っては口に運び、官能的な仕草をしながら、白魔導士のライラは艶っぽい笑顔を浮かべた。
「すぐ綺麗にするから、ご主人様そのまま楽にしててね♡」
「い、いや、別にそこまでしなくても―――」
「いいから、いいから♡ 奴隷の私に任せて頂戴♡」
ライラはその場で跪くと、躊躇せずにまだギンギンに勃っている男根を咥え、肉竿に付着した精液まで綺麗に舐めてお掃除フェラをする。
「んぁぁっ……んぅっ、れろれろっ……♡」
そんな彼女の献身的な様子と、柔らかい唇に忙しなく動く舌、温かい口内の感触に再び“野獣”のようになってしまいそうになるのを何とか堪え、少年は何度も謝罪の言葉を口にする。
「ごめん……俺は、また“妖刀”の力に耐えられなかったんだな……。」
そう言って少年は、恨めしげに自分の腰元の妖刀を睨む。
「ぺろぺろっ……ん、仕方ないって……呪われた武器に宿ってる呪力をどうにかするなんて、高名な神官や神託を受けた聖女でもないと無理だし……♡」
少年が半ば正気を失っていたのも、尋常じゃない量の精液を射精したのも、全て彼の腰にある妖刀“村々”の恐ろしい呪いが原因だった。
「んちゅっ……倒せば倒すほど、こんなに性欲が滾っちゃう呪いの刀っていうのも、何だかおかしな話だけど♡」
倒した敵の数だけ、使い手に異常な性欲を沸かせる妖刀。
呪いの武器と言えば“狂戦士”みたいになるのが相場だが、色欲に狂わせるというのは実に変な妖刀だとライラは小さく笑う。
「……このアホな呪いさえなければ、良く切れていい刀なんだが」
倒した敵の数だけ性欲が昂ってしまう呪い。それが凄まじい切れ味を宿した、この妖刀のデメリット。
呪いで蓄積した異常な性欲は、女の肌で射精する以外に解消方法がない。それがこの妖刀の恐ろしさなのだ。
名残惜しそうに精液を舐め取った男根から口を離すと、ライラは懐から出したチリ紙で陰茎とその周りを丁寧に拭き上げ、まだ大きいままのそれを何とかパンツに収めてズボンの中へ戻す。
「ライラ……俺、今日はどれくらいモンスターを倒した?」
「ええっと、ちょっと待ってて……ボスのホブゴブリンを含めて、多分軽く30体以上はゴブリンを倒してたと思うけど」
「倒した敵の数が30を超えると性的興奮が高まり過ぎて正気を失う、か……これは肝に銘じておかないと、取り返しのつかないことになるな……。」
「(……私としては、いっそのこと『取り返しのつかないこと』が起こると嬉しいんだけどなぁ♡)」
まだ童貞を捨てようとしないご主人様のそんな呟きに対し、彼と何度も寝床で肌を重ねていながらも未だに処女のままのライラは、淫らな妄想を膨らませて下着をしっとりと濡らす。
産めよ、増やせよ、地に満ちよ―――そんな教えを説く地母神コスモスを信仰する一人の白魔導士としては、第二次性徴を迎えて肉体が成熟し切った今、妊娠して子供を授かるかどうかは別としても、ご主人様に自分の体を子作りの練習台にして欲しいとライラは望んでいる。
道具の扱いの性奴隷でも全く構わない。愛する男性の子を孕んで産みたいと願うのは、コスモス教の未婚の女性信者としては当然のこと。
「(胸もお尻も形と大きさには結構自信あるし、好きな時に抱いていいって言ってるんだけど……ご主人様、中々手を出してくれないのよね……。)」
おかしな呪いにその身を蝕まれ、娼婦以上に都合のいい女の奴隷を得ていても、この紳士的な主人はまだ自分の処女を奪おうとしないのだ。
ライラは歳の変わらないご主人様のことを、この少年に心底から惚れてしまっている。
こんな落ちこぼれの白魔導士を必要としてくれているだけでも嬉しいのに、奴隷である自分に美味しい食事に温かい寝床と破格な待遇を用意してくれる強くて優しいご主人様。
親子ほど年の離れた醜い男に汚されたり、乱暴な男達に輪姦されて一生を終えるかもしれない―――奴隷身分になってそんな諦め混じりに悲観していた時、本当の仲間のように迎え入れて重宝してくれる彼に好意を抱くなという方が無理である。
だからライラは「自分が彼にとって初めての女になりたい」と心から願っているし、処女を捧げて「彼に抱かれて女にして欲しい」と強く望んでいるのだが、購入されてから一ヶ月が経とうとしても未だにその機会は訪れていない。
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……うん、やっぱり30体以上は倒してるみたい。今日集めた魔石は全部で40個ね」
ライラは少年が倒したゴブリンの魔石を拾い集め、魔石回収用の巾着袋に入れて鈍い緑色のビー玉みたいなそれを数え出す。
そこにダンジョンの最深部に位置するボス部屋で倒したボスモンスター、ホブゴブリンの拳大の大きさがある魔石も合わせると、手に入れたモンスターの魔石の数は全部で40個。
つまり、この最初級ダンジョン『ゴブリンの洞穴』で倒した敵の数は丁度40体になる。
一番難易度が低いとされる最初級ダンジョンは罠や仕掛けがない代わりに宝箱の類もなく、ダンジョンとしてはしょっぱい場所だが、それでも魔石だけでかなりの額を稼げている。
大半が雑魚の魔石とはいえ、ほとんど単身でやるのと変わらない二人組のパーティで一日にこれだけ集められたのならば、駆け出し冒険者の一日分の稼ぎとは思えないほどいい収獲だ。
だがその代償はあまりにも大きい。少なくとも少年にとっては。
妖刀村々のムラムラする呪いはまだ完全に解けてなどいない。少年の男性器は今、ライラが手で抜いた10発分の射精を差し引いても、まだ30発分―――約一ヶ月分のオナ禁に相当する性欲でギンギンに勃起している。
ずっしりと重い睾丸には大量の精液が物理法則を無視したように濃縮され、精子の大軍がビチビチと跳ね回って射精を催促している。
正気を取り戻してはいるが、何とか理性が辛勝して平静を保っているに過ぎなかった。
「……ライラ」
「どうしたの、ご主人様?」
「冒険者ギルドへの報告は明日にして……今日は町に戻ったら、そのまま宿に帰ろう」
「うん、了解」
「それで宿に帰ったら……あー、悪いんだけど……今夜も、その……。」
厄介な妖刀の呪いについて理解し、夜伽相手になることを承諾して既に何度も同衾した相手だからと言っても、面と向かって「エッチなことがしたい」なんて中々言えずに恥ずかしくなってしまう。
歯切れが悪そうに少年は俯いてしまうが、皆まで言わなくともライラは自分が何をすべきか知っている。
「奴隷は身も心も所有者の物。だから私の体、ご主人様が好きにしていいんだよ? 大丈夫、呪いが解けてスッキリするまでちゃんとご奉仕するからね」
「……よろしく頼む」
宿に戻ってからのことを考えただけで、せっかく収まった股間がまた勃起しそうになってしまう。慌てて煩悩を断ち切ろうとするが、人一倍エロいことに興味津々な年頃の男子に修行僧のような真似は不可能。
気付けばその視線は、同年代と比べても不釣合いなほど大きいライラの胸や尻に向けられ、前が開いたヒーラーローブから覗くヒラヒラとした赤いミニスカートから覗く太腿を仰視している。
主の熱い視線に気付いているライラは、今日こそ彼をその気にさせて“本番”まで持ち込もうと羞恥心を抑え込み、背嚢の位置を直してはわざとヒーラーローブの裾とミニスカートを巻き込んでパンチラしたり、ポーチ類などをぶら下げる革ベルトを弄るフリして柔肌を晒したり、色街の娼婦みたいな真似でとにかく誘惑する。
ライラの思惑など露とも知らずに、少年はラッキースケベと信じて視姦し続け、欲情を煽られながら拠点とする町への帰路につく。
今宵も解呪という名目で、この綺麗で可愛らしい美少女と寝床を共にできると考えただけで興奮は最高潮に達し、生唾を飲み込む少年の鼻息は自然と荒くなってしまう。
そんなむっつりスケベの彼―――異世界転移者である糸色倫太郎は、一ヶ月ほど前に買ったばかりの奴隷である白魔導士のライラと一緒に来た道を引き返し、ダンジョンと化した洞窟から脱出する。
道中、自分の傍を歩くライラが「今夜もこの異常な性欲を処理してくれる」のを想像してしまい、気が付けば彼女の方に手が伸びてしまうのを寸前で引っ込める。
自分達は主人とその奴隷という主従関係にある。だが実際にはまるで友達以上、恋人未満な仲のいい同い年の男女。
孤児院出身で面倒見のいいライラは積極的に距離を詰めてくるタイプなのもあって、二人の距離感は色々な意味で手を伸ばせばすぐ届くほどに近い。
ダンジョンを抜けて獣道を行き、森の中から街道に出て暫く歩いていると、不意に隣に並んでいた彼女と手と手が軽くぶつかる。
それだけのことなのに倫太郎はドキッとしてしまう。彼の初々しい様子を見て微笑み、ライラは肩を寄せて恋人同士のように腕を絡めて手を繋ぐ。
白魚のような手指の温もりと、密着した状態で感じる女の子特有のいい匂い。ゆったりとしたヒーラーローブを着ていても一目瞭然な大きい胸は歩く度に揺れ、布越しでも感じる柔らかさが倫太郎の二の腕へムニッと押し付けられる。
ダンジョンと比べれば地上の街道はずっと安全とはいえ、だからと言って警戒を怠っていいわけではない。だが倫太郎の視線は、斜め横にある深い胸の谷間へと釘付けになってしまう。
このままでは我慢できず、町へ帰る途中で彼女を襲ってしまいそうになる―――倫太郎は煩悩を退散させようと、何か別のことを考えようとした。
けれども考え付くのはライラが服を脱ぐことだったり、ベッドの上で裸になることだったり、とにかくスケベなことしか思いつかない。
これから先のことを考えようとすればするほど、ライラとのエッチなことしか思いつかず、理性を圧殺しようと雪崩れ込む色欲にひたすら耐えて耐えて耐え続ける。
もう我慢の限界だ、となる一歩手前で“未来”のことではなく“過去”を振り返って“現在”を見つめ直すという妙案が浮かぶ。
とにかく何か思考して気を紛らわせないと、気が付いたらライラの体に手が伸びてしまいそうになる。
斯くして倫太郎は、自分がどうして異世界に来て奴隷まで買ってしまったのかを最初から思い出すのだった。
超巨大で規格外の特殊な魔法生物―――その体内に広がる迷路のような空間が『魔の迷宮』と呼ばれている。
途方もない大きさだが、ダンジョンそのものは攻撃どころか自力での移動すら不可能であり、単体では何も出来ない非力なモンスターである。
その代わり、自らの食料となる欲深き者達―――ヒューマン、エルフ、ドワーフといった知的種族を誘引する金銀財宝を撒き餌の如く生成し、そうして自らの体内へと誘い込んだ人間を殺してその生命力を吸収する為に『魔物』や『罠』を生み出す。
特にモンスターは危険な存在だが、倒すことができれば鱗一枚が金貨に変わるような希少素材なども得られる。だからこそ、ダンジョンでは一攫千金が狙えるのだ。
ハイリスク、ハイリターン。故に『冒険者』と呼ばれる者達は、命を賭して魔の迷宮へと挑む。
「クソ、しつこい連中めっ……!」
東方の珍しい意匠がある反りの浅い曲刀―――打刀を腰に差し、追ってくるモンスターの群れに悪態をつきながら走る異邦人の剣士。
彼もまた、己の命を賭け金にしてダンジョンへと挑む駆け出し冒険者の一人。
首の後ろで一本に縛った長めの黒髪に真っ黒な瞳というこの辺りに住む只人としては珍しい容姿に加え、貴族の男性が普段着に使う略服に似た詰襟の黒服に袖を通した黒ずくめの剣士は、まだ十代半ばの少年だった。
外見こそ珍しいが、彼のように年若い冒険者自体は珍しくも何ともない。
どの種族にしても15歳も過ぎれば大人扱いが普通で、自分一人の力で生きていくことを余儀無くされる。
少年と同じくらいの年頃になれば孤児院から出て行かなくてはいけないし、貧乏な寒村では長男が無事に家業を継いだら、次男以降の男児は口減らし同然に独り立ちさせられるのが当たり前。
職人の元へ弟子入りしたり、金持ちの家に下男として雇われたりもするが、大抵の場合、他に行く当てもなく冒険者になるケースがほとんど。
実際にはこの世界の東方の出身ではなく、とんでもなく遠い場所から迷い込んでしまったこの少年も、冒険者をやる以外に選択肢がなかった口だ。
だが彼の場合、選択肢がたった一つだけでも自ら選択することができただけマシな部類だった言えよう。
「はぁはぁっ……!」
先を行く少年に手を引かれ、息を切らせて走りながらボブカットの綺麗な栗毛を揺らすヒューマンの少女。
紅白のヒーラーローブを纏い、革の背嚢を背負って錫杖を手にした彼女は白魔導士である。
見ての通り、前衛の剣士に後衛の白魔導士とで二人組の最小パーティを組んでいるものの、彼女にはパーティの方針に意見することは叶わず、それどころか自らの意思で抜け出すことも不可能。
パーティのリーダーが少年とはいえ、冒険者とは本来、お互いに“自由”で“平等”なもの。
冒険者ギルドが設けた『等級』という区別は存在するが、それは実力や経験に応じてギルドが斡旋する依頼を定める時の目安というだけであり、貴族の爵位や軍隊の階級みたいに上下関係ではない。
ランクが違っても「冒険者同士は平等で同じ立場である」というのが冒険者ギルドの掟。
なのにどうして少女に拒否権すらないのかと言えば、その細い首に巻かれている『隷属の首輪』というマジックアイテムが全てを物語っていた。
厳密に言えば、この少女はパーティを組む“仲間”ではなく、その“代替品”である。
その黒革の首輪は彼女が『奴隷』という身分であることの証左で、首輪には絶対服従の魔法が込められている。
だから少女は自分の所有者である少年に対し、逆らうことも逃げることも許されないのだ。
例え隷属の首輪が何の効果も持たないただの首輪だったとしても、反逆奴隷や逃亡奴隷はお尋ね者にされて見つかり次第“処分”されてしまう為、奴隷が自分の主を裏切るのは自らの首を絞めるに等しい。
だから少女は少年の命令に対して従うしかない。もっとも彼女の場合、愛しく感じている彼に対して不利益を及ぼすなんて真似をするわけがないのだが。
「チッ、行き止まりか……。」
一本道の長い通路。二人が逃げた先は、残念ながら行き止まりだった。
「ご主人様っ! ヤバいよ、もうすぐそこまで来てるって!」
「ああ、わかってる」
少年は即座に少女と位置を入れ替え、自分の背中と壁との間に彼女を挟んでから抜刀する。
妖しげな色気にも似た雰囲気を纏う刃紋が露わになると同時に、瞬くような鋭い太刀筋が一閃した。
「「「グギャギャァァァッ!!!」」」
二人を追いかけてきた暗緑色の小鬼の徒党が三匹纏めて斬り伏せられ、どす黒い血が飛び散って辺りを染める。
粗悪な作りの棍棒や錆びた短剣といった武器ごと綺麗に両断され、真っ二つになったゴブリン達は断末魔と一緒に腸をぶちまけながら倒れ伏せていく。
死を迎えた肉体から流れ出る血と一緒に零れる生命力―――そこに宿っている新鮮な魔力を感知し、ダンジョンはそれを啜るように吸収し始める。
地面に転がったゴブリンの屍は見る見るうちに干乾びていき、あっという間に原型を留めなくなる。そして最後には砂のように崩れていき、生みの親であるはずのダンジョン自身に文字通り、骨までしゃぶり尽されてしまう。
後に残ったのはゴブリンの落とした粗末な武器と、ダンジョンにとっては食べられない部分である搾りカスの『魔石』だけ。
モンスターは体内に魔石という魔力の宿った核石を持つ。
その大きさや形状、色合いなどはモンスターの種類によって異なり、当然その価値もモンスターごとに変わる。
ゴブリンが落とす戦利品など集めて売っても二束三文のガラクタに等しい。一方、魔石は低級モンスターの雑魚であっても数が揃えばそれなりの金になるのだ。
しかし、今は悠長に魔石を広い集めている暇などない。後続のゴブリンが次々と押し寄せているからだ。
このダンジョンの最奥で要となるボスモンスターのホブゴブリンを倒し、地上へ帰還しようとする侵入者達―――つまり、少年と少女のことをゴブリン達は追撃している。
殺された頭目や同胞の敵討ちなんて立派なものではない。しつこく追いかけ回す理由は若いメス―――白魔導士の少女がいるからだ。
基本的にモンスターと呼ばれる存在はダンジョンにしか生み出せないのだが、列記とした生物なのでモンスターは同種の雌雄同士で繁殖することが可能である。
獣と大差ないモンスターは雌雄の番いで子を成すし、植物系のモンスターなら草木と同じように受粉し、魔石の宿った種子を植えたりして個体数を増やす。
だがメスの個体が存在しないゴブリンやオークといった人型モンスターの場合、繁殖には“孕み袋”となる人間の女を必要とするため、このダンジョンのゴブリン達は執拗に白魔導士の少女を追っていたのである。
やや幼さが残るものの美人で可愛い整った顔立ちに、ヒューマンの女性としては平均的な背丈。しかし出るところは出て、引き締まるべきところは引き締まっている抜群なスタイルの良さに加えて安産型。
これで十代半ば―――少年と同い年の17歳とはとても思えないグラマラスな肉付き。孕み袋としては理想的すぎる故にゴブリン達も執着しているのだった。
「奥から足音が沢山反響してる……またゴブリンの群れがくるよ」
「大丈夫だ、ここなら迎え撃てる」
洞窟内という閉鎖空間においては、小さな体躯のゴブリンの方が有利。
だが横幅の狭い一本道の行き止まりなら背後や左右から挟み撃ちにされる心配はなく、細い道なので一度に大勢の敵を相手にすることもない。
「白魔法で強化を頼む」
「うん、わかった」
頷いた少女は手にした錫杖を鳴らし、祈りへ集中するためにゆっくりと目を閉じた。
魔法には“白”と“黒”で大きく二通りの魔術がある。
治療や守護を司る“白魔法”を発現させる『白魔術』と、殺傷や呪縛を御する“黒魔法”を発動させる『黒魔術』の二つ。
どちらも同じ“魔法”を行使するための技術には違いないものの、この二つは対極にあって似て非なるモノ。
白魔術を用いて白魔法を使う白魔導士の場合、神々の元へ祈りの言葉を届けるための白の術式により、術者の魔力を供物として奇跡や加護といった“神の御業”を白魔法として現すのだ。
「戦女神さん、戦女神さん。そのかっこいい鱗鎧、ちょっとだけ私のご主人様に貸して頂戴な―――」
まるで親戚のお姉さんや同性の友人にでも頼み込むような物言いで、少女は祈る。
他の白魔導士なら「勇猛果敢なる戦女神様~」だったり「戦乙女の守護を請う~」などとそれらしい文頭で始まるのだが、少女の祈りは実に気さくなものだった。
地母神コスモスとその子神らを信仰する敬虔なコスモス教の信者達―――特に戦女神を崇拝する騎士や戦士が聞けば「馴れ馴れしいぞ」と怒られそうなくらいだが、少女が祈りと魔力を込めた願いの声はしっかりと届いたらしい。
「聖なる守りを―――プロテクト・スケイル!」
少年を中心に淡い光が球体状になって彼を包む。すぐにその光は正六角形状の鱗を繋げ合わせたような鎧となって全身を覆うと、水の中に沈めたガラスのように透明になって見えなくなる。
物理的なダメージを軽減する防御魔法の一つである〈プロテクト・スケイル〉という白魔法だ。この魔法による不可視の鱗鎧を頼りにしているからこそ、少年は鎖帷子どころか革鎧といった軽鎧すら身に着けていない。
少年は手にした刀を前傾姿勢になって構え、突きによる刺突と斬り上げを繰り返し、増援のゴブリンを葬っていく。
斜め上から滑らすように刀の切っ先を振り下ろす。そして魔石とニコイチになった心臓がある急所の左胸をピンポイントに貫き、刀身を引き抜かずに突き刺したまま斬り上げることで傷口を胸元から喉元まで広げ、致命傷を与えて確実に一匹ずつゴブリンの数を減らしていった。
まるで鋭い牙が血を求めて手当たり次第に噛み付くような連続突き。少年の手にした刀が恐ろしいほど切れ味に優れた業物だからこそ可能な芸当だった。
ゴブリンの身体構造は人間のそれとほぼ変わらず、少年が体得している対人剣術は人型モンスターを効率よく殺傷し、刃が急所へと喰らい付く度、敵がバタバタと斬り捨てられて死んでいく。
それでも数の暴力で押し切ろうとゴブリン達は突撃してくる。所詮、知能はサル以下の連中だった。
最後の一匹まで、ゴブリンは残らず倒されてしまう。
何とか襲ってきたゴブリンの群れを全て斬り伏せたのを確認すると、少年は刃に付いた血脂を振り落とし、最後にボロ布と懐紙で綺麗に拭ってから流れるような動作で納刀する。
相手がモンスターの中でも雑魚の代名詞なゴブリンで、更に〈プロテクト・スケイル〉の魔法がかかっていたから強気に立ち回れたとはいえ、少年は見事な剣捌きで終始圧倒してみせた。
そう、難なく脅威を退けた―――そのはずである。
「ぐっ……ううぅっ……!」
だがダンジョン内にいたゴブリンを全て倒して刀を鞘に納めた瞬間、彼は苦しそうに蹲ってしまう。
「ご主人様っ! ちょっと、大丈夫っ!?」
後方で控えていた少女は慌てて主人の元に駆け寄った瞬間、彼女は荒い息遣いで別人のように豹変した少年に抱き寄せられ、強引に唇を奪われる。
「んむぅぅっ!?」
少女の形のいいピンク色の唇に吸い付き、少年は無理やり舌を捻じ込んで口の中を舐め回す。舌と舌が激しく絡み合い、二人の唾液が混ざり合う音がダンジョンの片隅に響く。
「んっ、んぅっ……♡」
少年は無理やりディープキスをしながら、少女には不釣合いな大きい尻を鷲掴みにしたり、もう片方の手で豊かに実った巨乳を揉んだり、滅茶苦茶に女体を撫で回すような愛撫を繰り返す。
こんな場所でいきなり発情するなど、それこそゴブリンどころか発情期を迎えて盛る獣に等しいが、これでも少年は自らの衝動を抑えている方である。
己を見失っても強靭な理性の鎖で何とか欲望を縛り付けているのだ。そうでなければ今すぐにでも少女のことを組み伏せて犯そうとするくらい、豹変した今の少年は“気が狂いそうな性欲”によって支配されている。
「んんぅっ……♡」
身長差があるので目いっぱいに顔を上げ、つま先立ちになった状態で激しい接吻をされたまま、少女は錫杖を手放してその手を必死に下へ伸ばす。
テントを張ったような状態の少年の股間をズボン越しに弄り、手探りで目当てのモノを見つける。
男性用に限らずズボンの前開きと言えばボタンかホックで留まっているものだが、少年の黒いズボンの前開きは奇妙な金具でピッタリと閉じられていた。
少女はこの主人と出会うまで見たことも聞いたこともなかったが、これはジッパーという非常に便利なものらしく、指で掴んでいるスライダーという部分を上げ下げすると簡単に開いたり閉じたりする不思議な作りになっているのだ。
そのジッパーとやらを開くと、ズボンの中から下着を押し退けてブルンッと少年の逸物―――ギンギンに勃起した大きな男性器が顔を出す。
「(あっ……す、すごい……とっても硬くて、こんなに熱くなって……♡)」
熱した鉄棒みたいになっている陰茎に両手を伸ばし、少女は優しく撫でるように扱き始める。
「(大丈夫だからね、ご主人様♡ オチンチンに溜まっちゃってるエッチな呪いは、私がすぐに精液と一緒にピュッピュッって出させちゃうから♡)」
手の平と両手の指を総動員した手コキで肉棒を刺激し、心地良い快感を与え、少女は慣れた手付きで男根を射精へと導く。
――――――どびゅるるるるっ!
肉棒が根元からビクンッと大きく震えた瞬間、半固体状でプルプルとした濃い精液が鉄砲水のような勢いで発射された。
「(あっ、いっぱい出たぁっ♡)」
呪いの力に犯され、変な魔力が籠る精液の臭いを嗅いで少女も頭がクラクラしてきてしまう。
「(んぁっ……私までエッチな気分になってきちゃうよぉっ♡ こんなの膣内に出されちゃったら一発で絶対妊娠しちゃう♡)」
尋常じゃないほど大量の射精に気圧されながらも、少女は溜まった精液をできるだけ吐き出させようと射精中もそのまま手コキを続ける。もちろん、求められるがままにディープキスを続けられたまま。
少年の着る学ランという一張羅が汚れてしまわないように、精液が吐き出される度に片方の手を受け皿にするが、女の片手では到底受け止め切れず、零れてしまった精液はボトボトと足元に落ちて白い水溜りになっていく。
普通、一回射精に達したら男性の性的興奮はある程度落ち着くはずなのだが、少年は増々興奮した様子で貪るように少女の口内を舐り、せがむように続きを促す。
少女は主の期待に応えるよう必死に手を動かし、射精中の男根を扱き上げて精液を絞り続け、二回目、三回目と連続で射精させていく。
連続して十回目の射精を迎えた時、ようやく少年の正気を取り戻させた。
「っ……!」
夢中で接吻していた少年が不意に舌を動かすのを止める。彼はハッとなって意識を取り戻したようで、混ざり合った唾液で糸を引かせながら重なっていた唇を慌てて放す。
「うっ……ら、ライラ……?」
「はぁはぁっ……♡ よ、よかったぁっ……♡ ご主人様、やっと正気に……♡」
濃い精液の咽返るような臭いにあてられ、それもずっと口付けしていて酸欠気味になったせいか、少女―――ライラと名を呼ばれた白魔導士の少女は紅潮した顔で呟く。
もし膣内に射精していたら、絶対に妊娠させていたであろう大量の精液が地面にぶちまけられているのを見て、少年は青ざめた顔をして自分が何をしようとしたのかすぐに理解する。
「そうか……俺はまた性欲が抑えられなくなって、君のことを襲おうと……すまない……本当にすまなかった、ライラ……。」
「はむっ、んっ……大丈夫、我慢できなかった分は私の方で何とか処理したから♡」
まるで水飴でも食べるみたいに精液まみれの両手を舐め取ったり、細い指で精液の塊を拭っては口に運び、官能的な仕草をしながら、白魔導士のライラは艶っぽい笑顔を浮かべた。
「すぐ綺麗にするから、ご主人様そのまま楽にしててね♡」
「い、いや、別にそこまでしなくても―――」
「いいから、いいから♡ 奴隷の私に任せて頂戴♡」
ライラはその場で跪くと、躊躇せずにまだギンギンに勃っている男根を咥え、肉竿に付着した精液まで綺麗に舐めてお掃除フェラをする。
「んぁぁっ……んぅっ、れろれろっ……♡」
そんな彼女の献身的な様子と、柔らかい唇に忙しなく動く舌、温かい口内の感触に再び“野獣”のようになってしまいそうになるのを何とか堪え、少年は何度も謝罪の言葉を口にする。
「ごめん……俺は、また“妖刀”の力に耐えられなかったんだな……。」
そう言って少年は、恨めしげに自分の腰元の妖刀を睨む。
「ぺろぺろっ……ん、仕方ないって……呪われた武器に宿ってる呪力をどうにかするなんて、高名な神官や神託を受けた聖女でもないと無理だし……♡」
少年が半ば正気を失っていたのも、尋常じゃない量の精液を射精したのも、全て彼の腰にある妖刀“村々”の恐ろしい呪いが原因だった。
「んちゅっ……倒せば倒すほど、こんなに性欲が滾っちゃう呪いの刀っていうのも、何だかおかしな話だけど♡」
倒した敵の数だけ、使い手に異常な性欲を沸かせる妖刀。
呪いの武器と言えば“狂戦士”みたいになるのが相場だが、色欲に狂わせるというのは実に変な妖刀だとライラは小さく笑う。
「……このアホな呪いさえなければ、良く切れていい刀なんだが」
倒した敵の数だけ性欲が昂ってしまう呪い。それが凄まじい切れ味を宿した、この妖刀のデメリット。
呪いで蓄積した異常な性欲は、女の肌で射精する以外に解消方法がない。それがこの妖刀の恐ろしさなのだ。
名残惜しそうに精液を舐め取った男根から口を離すと、ライラは懐から出したチリ紙で陰茎とその周りを丁寧に拭き上げ、まだ大きいままのそれを何とかパンツに収めてズボンの中へ戻す。
「ライラ……俺、今日はどれくらいモンスターを倒した?」
「ええっと、ちょっと待ってて……ボスのホブゴブリンを含めて、多分軽く30体以上はゴブリンを倒してたと思うけど」
「倒した敵の数が30を超えると性的興奮が高まり過ぎて正気を失う、か……これは肝に銘じておかないと、取り返しのつかないことになるな……。」
「(……私としては、いっそのこと『取り返しのつかないこと』が起こると嬉しいんだけどなぁ♡)」
まだ童貞を捨てようとしないご主人様のそんな呟きに対し、彼と何度も寝床で肌を重ねていながらも未だに処女のままのライラは、淫らな妄想を膨らませて下着をしっとりと濡らす。
産めよ、増やせよ、地に満ちよ―――そんな教えを説く地母神コスモスを信仰する一人の白魔導士としては、第二次性徴を迎えて肉体が成熟し切った今、妊娠して子供を授かるかどうかは別としても、ご主人様に自分の体を子作りの練習台にして欲しいとライラは望んでいる。
道具の扱いの性奴隷でも全く構わない。愛する男性の子を孕んで産みたいと願うのは、コスモス教の未婚の女性信者としては当然のこと。
「(胸もお尻も形と大きさには結構自信あるし、好きな時に抱いていいって言ってるんだけど……ご主人様、中々手を出してくれないのよね……。)」
おかしな呪いにその身を蝕まれ、娼婦以上に都合のいい女の奴隷を得ていても、この紳士的な主人はまだ自分の処女を奪おうとしないのだ。
ライラは歳の変わらないご主人様のことを、この少年に心底から惚れてしまっている。
こんな落ちこぼれの白魔導士を必要としてくれているだけでも嬉しいのに、奴隷である自分に美味しい食事に温かい寝床と破格な待遇を用意してくれる強くて優しいご主人様。
親子ほど年の離れた醜い男に汚されたり、乱暴な男達に輪姦されて一生を終えるかもしれない―――奴隷身分になってそんな諦め混じりに悲観していた時、本当の仲間のように迎え入れて重宝してくれる彼に好意を抱くなという方が無理である。
だからライラは「自分が彼にとって初めての女になりたい」と心から願っているし、処女を捧げて「彼に抱かれて女にして欲しい」と強く望んでいるのだが、購入されてから一ヶ月が経とうとしても未だにその機会は訪れていない。
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……うん、やっぱり30体以上は倒してるみたい。今日集めた魔石は全部で40個ね」
ライラは少年が倒したゴブリンの魔石を拾い集め、魔石回収用の巾着袋に入れて鈍い緑色のビー玉みたいなそれを数え出す。
そこにダンジョンの最深部に位置するボス部屋で倒したボスモンスター、ホブゴブリンの拳大の大きさがある魔石も合わせると、手に入れたモンスターの魔石の数は全部で40個。
つまり、この最初級ダンジョン『ゴブリンの洞穴』で倒した敵の数は丁度40体になる。
一番難易度が低いとされる最初級ダンジョンは罠や仕掛けがない代わりに宝箱の類もなく、ダンジョンとしてはしょっぱい場所だが、それでも魔石だけでかなりの額を稼げている。
大半が雑魚の魔石とはいえ、ほとんど単身でやるのと変わらない二人組のパーティで一日にこれだけ集められたのならば、駆け出し冒険者の一日分の稼ぎとは思えないほどいい収獲だ。
だがその代償はあまりにも大きい。少なくとも少年にとっては。
妖刀村々のムラムラする呪いはまだ完全に解けてなどいない。少年の男性器は今、ライラが手で抜いた10発分の射精を差し引いても、まだ30発分―――約一ヶ月分のオナ禁に相当する性欲でギンギンに勃起している。
ずっしりと重い睾丸には大量の精液が物理法則を無視したように濃縮され、精子の大軍がビチビチと跳ね回って射精を催促している。
正気を取り戻してはいるが、何とか理性が辛勝して平静を保っているに過ぎなかった。
「……ライラ」
「どうしたの、ご主人様?」
「冒険者ギルドへの報告は明日にして……今日は町に戻ったら、そのまま宿に帰ろう」
「うん、了解」
「それで宿に帰ったら……あー、悪いんだけど……今夜も、その……。」
厄介な妖刀の呪いについて理解し、夜伽相手になることを承諾して既に何度も同衾した相手だからと言っても、面と向かって「エッチなことがしたい」なんて中々言えずに恥ずかしくなってしまう。
歯切れが悪そうに少年は俯いてしまうが、皆まで言わなくともライラは自分が何をすべきか知っている。
「奴隷は身も心も所有者の物。だから私の体、ご主人様が好きにしていいんだよ? 大丈夫、呪いが解けてスッキリするまでちゃんとご奉仕するからね」
「……よろしく頼む」
宿に戻ってからのことを考えただけで、せっかく収まった股間がまた勃起しそうになってしまう。慌てて煩悩を断ち切ろうとするが、人一倍エロいことに興味津々な年頃の男子に修行僧のような真似は不可能。
気付けばその視線は、同年代と比べても不釣合いなほど大きいライラの胸や尻に向けられ、前が開いたヒーラーローブから覗くヒラヒラとした赤いミニスカートから覗く太腿を仰視している。
主の熱い視線に気付いているライラは、今日こそ彼をその気にさせて“本番”まで持ち込もうと羞恥心を抑え込み、背嚢の位置を直してはわざとヒーラーローブの裾とミニスカートを巻き込んでパンチラしたり、ポーチ類などをぶら下げる革ベルトを弄るフリして柔肌を晒したり、色街の娼婦みたいな真似でとにかく誘惑する。
ライラの思惑など露とも知らずに、少年はラッキースケベと信じて視姦し続け、欲情を煽られながら拠点とする町への帰路につく。
今宵も解呪という名目で、この綺麗で可愛らしい美少女と寝床を共にできると考えただけで興奮は最高潮に達し、生唾を飲み込む少年の鼻息は自然と荒くなってしまう。
そんなむっつりスケベの彼―――異世界転移者である糸色倫太郎は、一ヶ月ほど前に買ったばかりの奴隷である白魔導士のライラと一緒に来た道を引き返し、ダンジョンと化した洞窟から脱出する。
道中、自分の傍を歩くライラが「今夜もこの異常な性欲を処理してくれる」のを想像してしまい、気が付けば彼女の方に手が伸びてしまうのを寸前で引っ込める。
自分達は主人とその奴隷という主従関係にある。だが実際にはまるで友達以上、恋人未満な仲のいい同い年の男女。
孤児院出身で面倒見のいいライラは積極的に距離を詰めてくるタイプなのもあって、二人の距離感は色々な意味で手を伸ばせばすぐ届くほどに近い。
ダンジョンを抜けて獣道を行き、森の中から街道に出て暫く歩いていると、不意に隣に並んでいた彼女と手と手が軽くぶつかる。
それだけのことなのに倫太郎はドキッとしてしまう。彼の初々しい様子を見て微笑み、ライラは肩を寄せて恋人同士のように腕を絡めて手を繋ぐ。
白魚のような手指の温もりと、密着した状態で感じる女の子特有のいい匂い。ゆったりとしたヒーラーローブを着ていても一目瞭然な大きい胸は歩く度に揺れ、布越しでも感じる柔らかさが倫太郎の二の腕へムニッと押し付けられる。
ダンジョンと比べれば地上の街道はずっと安全とはいえ、だからと言って警戒を怠っていいわけではない。だが倫太郎の視線は、斜め横にある深い胸の谷間へと釘付けになってしまう。
このままでは我慢できず、町へ帰る途中で彼女を襲ってしまいそうになる―――倫太郎は煩悩を退散させようと、何か別のことを考えようとした。
けれども考え付くのはライラが服を脱ぐことだったり、ベッドの上で裸になることだったり、とにかくスケベなことしか思いつかない。
これから先のことを考えようとすればするほど、ライラとのエッチなことしか思いつかず、理性を圧殺しようと雪崩れ込む色欲にひたすら耐えて耐えて耐え続ける。
もう我慢の限界だ、となる一歩手前で“未来”のことではなく“過去”を振り返って“現在”を見つめ直すという妙案が浮かぶ。
とにかく何か思考して気を紛らわせないと、気が付いたらライラの体に手が伸びてしまいそうになる。
斯くして倫太郎は、自分がどうして異世界に来て奴隷まで買ってしまったのかを最初から思い出すのだった。
応援ありがとうございます!
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