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求婚をお受けした後、非常に速やかに私とリーンハルト様の結婚の準備は進められた。こんなに慌ただしいのは、きっと王女殿下の婚約の話が思いの外進展しているからだろう。噂を早々に収めないと、二人は無理矢理物理的に引き離されてしまうかも知れない。苦渋の決断で私と結婚し王女殿下を側で見守ることを選んだリーンハルト様が報われないのは嫌だと思った私は、日々の侍女としての職務に勤しみつつ、準備にも精力的に取り組むのだった。
そして、結婚式当日。
私には少々素敵過ぎる婚礼衣装を纏い、横に立って私の手を取るリーンハルト様を見上げる。形式上とはいえ、隣に立つには不釣り合いな素敵過ぎるイケメンがこちらを見て微笑んでいる。
これは、駄目だ。
こんなの、形式上だとわかっていても、勘違いしたくなってしまう。もしかしたら、本当に愛し合う夫婦になれる可能性があるのではないか、と。
行き遅れの平凡な私だから、期待する自分を踏み留まらせることができた。自己評価が低い事で助けられる事があろうとは。
「行きましょう」
大切なものを捧げるように、私の手を少し持ち上げエスコートする彼に、私は少しだけもやっとする気持ちを抱えたまま、教会の祭壇への道を歩き始めた。
多くはないが、道の左右には、お互いの親族他、二人を祝福してくれるために集まってくれた人たちがいて、私たちを見て歓声をあげる。
いや、見栄を張るのはよそう。歓声は素敵な新郎の装いのリーンハルト様へのものだ。老若男女問わず歓声をあげてしまう程、今日の彼はいつにも増して格好良過ぎる。
祭壇の手前、最も身分の高い者が座る位置に、王族の代表として座っているのは、王女のカナリア殿下だ。私たちの主として、この儀式に立ち会い、見守ってくれている。
いつもと変わらない、美しい微笑みを浮かべる王女殿下に、私の胸も痛む。私にどうにかできるものではなかったし、これは王女殿下の婚約を進めるためには必要な結婚ではあったけれど、申し訳ない気持ちで心持ち頭を下げる。隣に立つリーンハルト様の顔を見ることは出来なかったけれど、彼も同じように頭を下げていたのはわかった。
私にできることは、きっと彼女にとって苦行でしかないこの儀式を早々に終わらせることくらい。私は胸に抱えた何とも言えないモヤモヤしたものを振り払うように姿勢を伸ばした。
神父様の前で神に誓う。少なくとも私の心には疾しいものはないのだけれど、リーンハルト様はどのような気持ちで、今誓いの言葉を口にしているのかと考えてしまい、頭を振る。神に嘘をつくことになっても、彼は愛しい王女殿下の側にいられる方法を選んだ。その一途な気持ちを私は応援すると決めたことを、改めて自分に言い聞かせる。
「誓いの口付けを」
神父様の言葉に我にかえる。王女殿下の前で彼と口付けなど、そんな心無いことが出来るはずがない。
ベールを上げた彼の目を見ながら、誰にも聞こえないよう小さな声で、「額か頰でお願いします」と伝える。こういうことは、式が始まる前に打ち合わせしておかないといけない、と反省しながら。
すると、リーンハルト様は少し頰を染めて言ったのだ。
「恥ずかしがらなくて大丈夫です、私の可愛い人」
自分に向けられたとは思えない台詞に、一瞬頭の中が真っ白になる。
その隙をつくように、リーンハルト様は口付けをくれた。
私の唇に。
そして、結婚式当日。
私には少々素敵過ぎる婚礼衣装を纏い、横に立って私の手を取るリーンハルト様を見上げる。形式上とはいえ、隣に立つには不釣り合いな素敵過ぎるイケメンがこちらを見て微笑んでいる。
これは、駄目だ。
こんなの、形式上だとわかっていても、勘違いしたくなってしまう。もしかしたら、本当に愛し合う夫婦になれる可能性があるのではないか、と。
行き遅れの平凡な私だから、期待する自分を踏み留まらせることができた。自己評価が低い事で助けられる事があろうとは。
「行きましょう」
大切なものを捧げるように、私の手を少し持ち上げエスコートする彼に、私は少しだけもやっとする気持ちを抱えたまま、教会の祭壇への道を歩き始めた。
多くはないが、道の左右には、お互いの親族他、二人を祝福してくれるために集まってくれた人たちがいて、私たちを見て歓声をあげる。
いや、見栄を張るのはよそう。歓声は素敵な新郎の装いのリーンハルト様へのものだ。老若男女問わず歓声をあげてしまう程、今日の彼はいつにも増して格好良過ぎる。
祭壇の手前、最も身分の高い者が座る位置に、王族の代表として座っているのは、王女のカナリア殿下だ。私たちの主として、この儀式に立ち会い、見守ってくれている。
いつもと変わらない、美しい微笑みを浮かべる王女殿下に、私の胸も痛む。私にどうにかできるものではなかったし、これは王女殿下の婚約を進めるためには必要な結婚ではあったけれど、申し訳ない気持ちで心持ち頭を下げる。隣に立つリーンハルト様の顔を見ることは出来なかったけれど、彼も同じように頭を下げていたのはわかった。
私にできることは、きっと彼女にとって苦行でしかないこの儀式を早々に終わらせることくらい。私は胸に抱えた何とも言えないモヤモヤしたものを振り払うように姿勢を伸ばした。
神父様の前で神に誓う。少なくとも私の心には疾しいものはないのだけれど、リーンハルト様はどのような気持ちで、今誓いの言葉を口にしているのかと考えてしまい、頭を振る。神に嘘をつくことになっても、彼は愛しい王女殿下の側にいられる方法を選んだ。その一途な気持ちを私は応援すると決めたことを、改めて自分に言い聞かせる。
「誓いの口付けを」
神父様の言葉に我にかえる。王女殿下の前で彼と口付けなど、そんな心無いことが出来るはずがない。
ベールを上げた彼の目を見ながら、誰にも聞こえないよう小さな声で、「額か頰でお願いします」と伝える。こういうことは、式が始まる前に打ち合わせしておかないといけない、と反省しながら。
すると、リーンハルト様は少し頰を染めて言ったのだ。
「恥ずかしがらなくて大丈夫です、私の可愛い人」
自分に向けられたとは思えない台詞に、一瞬頭の中が真っ白になる。
その隙をつくように、リーンハルト様は口付けをくれた。
私の唇に。
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