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第5章
34話 きっかけがあれば
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「ねぇ早く来てよ」
振り向いて、後をついてくる景を見た。やれやれと言った表情で顎鬚を摩っている。
「そんなに急いだって、あんまり変わらないと思うぞ」
景はそう言うが、私は早く新宿に行きたかった。
と言うのも、透哉君の行動に変化が起きたからだった。透哉君の言葉の内容が変わった。それは、私を助けに来てくれるという事。私はいてもたってもいられなかった。
「うるさいわね」
「相変わらず、口が悪いな」
景がそう言うのを横で聞こえたと思うと、颯爽と駆けて行った。
「早く来いよ」
景は振り向いて小馬鹿にしたように笑みを含ませて言った。
「あーほんとイライラする。早くこの1日から抜け出したい。そうしたら、あんたに会わなくて済むんだから」
聞いているのか聞いていないのか、景は私の声に反応しなかった。
2線ホームに着くと、景が列に並んでいた。私に気が付くと、早く来いよと言わんばかりに、手招きをしている。
私は仕方なく、小走りで景の所へ向かった。
「さっき透哉はお前に何て言ってたんだ?」
景は腕を組んでいる。
「一つは、あんたにとって朗報だわ」
景の眉根が上がる。
「というと?」
「透哉君が片割れのネックレスを詩穂さんへ渡したらしいわ」
景は一瞬驚いた表情を見せたが、口元が緩くなっていくのが見えた。
「もう一つは、私の事なんだけど、あんたにも関係あるかも」
「どういうことだ?」
私が景の疑問に答えようとした時、電車が到着した。とりあえず、私たちは電車に乗った。
吊革に掴み、景の方を見た。
「あの時、石を重ねてもダメだったじゃない?」
「ああ」
景は、車窓から景色を見ている。
「透哉君、何か手掛かりを見つけたみたいなの」
「ほう。それで?」
景は私を見た。ギョロっとした目をぱちくりさせている。
「詳しい事は言ってなかったんだけど、こうなる前に何をしたか。だって」
景は手で口を覆った。
「何をしたか。か……」
私は何をしたのだろうか。今日や昨日の事がまるで、何年、何10年前の事かと錯覚する。記憶も次第に薄れ、自分が今日、昨日何をしていたのかさえ、わからなくなってきていた。
「覚えてる?」
私は景に聞いた。
「……いや。覚えているかと言われると、覚えていない。まるで自信がない。何かきっかけがあれば、思い出すのかもしれないが」
私も同じだ。
「きっかけか~」
「あいつと会って、それからにしよう。結局俺たちじゃ、正解に辿り着くのは、難しい」
「確かにそうだけど」
私は、腑に落ちなかったが、景の言う事は満更でもなかった。
「なぁ。お前気付いているか?」
「え? 何?」
私は辺りを見渡した。
「透哉の行動は当たり前だけど、周りの行動の変化に気付いたか?」
私は首を左右に振った。
「そうか。俺にはわかる。微妙に違う」
景は頬を掻いた。私は薄っすらと何か、良くない事なんじゃないかって、思った。
「まぁいつもの推測なんだが、透哉と詩穂。いわゆるバグってやつだな」
「バグ?」
「そう。前も話したと思うけど。バグが発生したことで、この世界に微妙なズレが生じてきている」
景は私から視線を外し、車窓に目線をやった。
「ズレって表現はおかしいのかも知れないけど。本来起きるはずじゃないものが起きたり、本来起きるはずだったものが起きなかったり。何も変化が無かったりすることもあるかもしれない。それで、人の行動に変化が生じるなら、それ以外にも変化が生じる可能性もある。例えば」
私は景を見た。
「例えば?」
景は車窓から景色を見つめている。
「さっきの、2番線のホームだけど、俺は列に並んでいた」
「まぁ。多少早く行ってたのもあるんじゃない?」
「と思うだろ? 実際には、電車の出発時刻が変わっていたんだ」
「え?」
景がニヤッとしたのが、横顔でもわかった。
「まぁそういう事だよ」
景が私を見た。
「とりあえず、まずは、あいつらに会うことだな」
景はそう言うと、それ以上、何も言わなかった。
確かに、私たちは運命というレールの上から逸脱している。運命は自分で切り開くものだってよく言われるけど。実際はそうじゃないと思う。運命は自分で切り開くって言うのは、あらかじめそうなるとわかっている、今、私がやっていることがそうなんだと思う。
運命を切り開くという事は、他人にも影響を与える。そして、他人の運命も左右させている。
景が言うように、この世界に多少なりとも影響を与えているとしたら、私たちの存在は、本当は邪魔なんじゃないか。いっそ、何もしない方がいいんじゃないか。って思えてくる。
でも、残酷なのかもしれないけど、何かの、例え誰かの運命を変えてしまったとしても、私はこの一日から早く抜け出したい。
「ほら、降りるぞ」
私は顔を上げると、新宿という文字が見えた。どうやら、新宿駅に着いたようだ。
電車から降りるとホームは人でごった返していた。
振り向いて、後をついてくる景を見た。やれやれと言った表情で顎鬚を摩っている。
「そんなに急いだって、あんまり変わらないと思うぞ」
景はそう言うが、私は早く新宿に行きたかった。
と言うのも、透哉君の行動に変化が起きたからだった。透哉君の言葉の内容が変わった。それは、私を助けに来てくれるという事。私はいてもたってもいられなかった。
「うるさいわね」
「相変わらず、口が悪いな」
景がそう言うのを横で聞こえたと思うと、颯爽と駆けて行った。
「早く来いよ」
景は振り向いて小馬鹿にしたように笑みを含ませて言った。
「あーほんとイライラする。早くこの1日から抜け出したい。そうしたら、あんたに会わなくて済むんだから」
聞いているのか聞いていないのか、景は私の声に反応しなかった。
2線ホームに着くと、景が列に並んでいた。私に気が付くと、早く来いよと言わんばかりに、手招きをしている。
私は仕方なく、小走りで景の所へ向かった。
「さっき透哉はお前に何て言ってたんだ?」
景は腕を組んでいる。
「一つは、あんたにとって朗報だわ」
景の眉根が上がる。
「というと?」
「透哉君が片割れのネックレスを詩穂さんへ渡したらしいわ」
景は一瞬驚いた表情を見せたが、口元が緩くなっていくのが見えた。
「もう一つは、私の事なんだけど、あんたにも関係あるかも」
「どういうことだ?」
私が景の疑問に答えようとした時、電車が到着した。とりあえず、私たちは電車に乗った。
吊革に掴み、景の方を見た。
「あの時、石を重ねてもダメだったじゃない?」
「ああ」
景は、車窓から景色を見ている。
「透哉君、何か手掛かりを見つけたみたいなの」
「ほう。それで?」
景は私を見た。ギョロっとした目をぱちくりさせている。
「詳しい事は言ってなかったんだけど、こうなる前に何をしたか。だって」
景は手で口を覆った。
「何をしたか。か……」
私は何をしたのだろうか。今日や昨日の事がまるで、何年、何10年前の事かと錯覚する。記憶も次第に薄れ、自分が今日、昨日何をしていたのかさえ、わからなくなってきていた。
「覚えてる?」
私は景に聞いた。
「……いや。覚えているかと言われると、覚えていない。まるで自信がない。何かきっかけがあれば、思い出すのかもしれないが」
私も同じだ。
「きっかけか~」
「あいつと会って、それからにしよう。結局俺たちじゃ、正解に辿り着くのは、難しい」
「確かにそうだけど」
私は、腑に落ちなかったが、景の言う事は満更でもなかった。
「なぁ。お前気付いているか?」
「え? 何?」
私は辺りを見渡した。
「透哉の行動は当たり前だけど、周りの行動の変化に気付いたか?」
私は首を左右に振った。
「そうか。俺にはわかる。微妙に違う」
景は頬を掻いた。私は薄っすらと何か、良くない事なんじゃないかって、思った。
「まぁいつもの推測なんだが、透哉と詩穂。いわゆるバグってやつだな」
「バグ?」
「そう。前も話したと思うけど。バグが発生したことで、この世界に微妙なズレが生じてきている」
景は私から視線を外し、車窓に目線をやった。
「ズレって表現はおかしいのかも知れないけど。本来起きるはずじゃないものが起きたり、本来起きるはずだったものが起きなかったり。何も変化が無かったりすることもあるかもしれない。それで、人の行動に変化が生じるなら、それ以外にも変化が生じる可能性もある。例えば」
私は景を見た。
「例えば?」
景は車窓から景色を見つめている。
「さっきの、2番線のホームだけど、俺は列に並んでいた」
「まぁ。多少早く行ってたのもあるんじゃない?」
「と思うだろ? 実際には、電車の出発時刻が変わっていたんだ」
「え?」
景がニヤッとしたのが、横顔でもわかった。
「まぁそういう事だよ」
景が私を見た。
「とりあえず、まずは、あいつらに会うことだな」
景はそう言うと、それ以上、何も言わなかった。
確かに、私たちは運命というレールの上から逸脱している。運命は自分で切り開くものだってよく言われるけど。実際はそうじゃないと思う。運命は自分で切り開くって言うのは、あらかじめそうなるとわかっている、今、私がやっていることがそうなんだと思う。
運命を切り開くという事は、他人にも影響を与える。そして、他人の運命も左右させている。
景が言うように、この世界に多少なりとも影響を与えているとしたら、私たちの存在は、本当は邪魔なんじゃないか。いっそ、何もしない方がいいんじゃないか。って思えてくる。
でも、残酷なのかもしれないけど、何かの、例え誰かの運命を変えてしまったとしても、私はこの一日から早く抜け出したい。
「ほら、降りるぞ」
私は顔を上げると、新宿という文字が見えた。どうやら、新宿駅に着いたようだ。
電車から降りるとホームは人でごった返していた。
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