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第5章
28話 谷中銀座で探し物
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俺は今、山手線に乗っている。というのも今日は、葵がネックレスを買ったという、谷中銀座商店街に向かっている。平日ともあり、車両は空いていた。
俺は7列シートの一番右端に座っている。正面には、おじいちゃんとおばあちゃん夫婦だろうか、楽しくおしゃべりをしている。その隣にくたびれたサラリーマンが寝ている。
ガタンゴトンと音をたて車内は微かに揺れている。
本当に何を言っているのか聞き取れない車内アナウンスが車両に流れる。車窓から見える看板で高田馬場駅に着いたのがわかった。
昨日の夜、俺は将輝に電話をした。将輝の第一声はなんで学校を休んだのかだった。
俺は理由を話すのを少し躊躇った。でも、初めて自分の境遇を話した時、将輝だけは信じてくれた。興味を持ったというのが正しいのかもしれないけど。だから、俺は本当の事を話した。
やはりと言うか、当然というか、初めて将輝に話した時と同じリアクションをされた。そして、将輝は当然協力的だった。さらに、他に何かネックレスに関する目撃情報がないかを調べてくれることになった。
電車は日暮里駅に着いた。駅構内はJRと京成線に乗り継ぐ人で行き交っている。北口改札を出て、谷中銀座商店街のある西口を出た。
昨日、インターネットであらかじめ下調べをしておいたのが功を奏した。じゃなけりゃ、恐らく迷っていたかもしれない。印刷した地図を片手に歩いた。
日差しが顔に照り付け暑い。六月の季節特有のじめっとした湿気でさらに嫌気がさす。
日暮里の駅前は想像していた以上に、落ち着いた街並みだった。なんで葵はこんなところに立ち寄ったのだろう。
階段を降りると谷中銀座の商店街が広がって見えた。今日は人が閑散としている。土日ともあれば人がいっぱいで賑やかなんだろうか。
俺は一通り商店街を見て回ったが、それらしき露天商は見当たらなかった。そもそもこんなところに露店を出せるのだろうか。店を構えるスペースはあまりない。甚だ疑問だった。それでも、葵はこの谷中銀座の商店街で買ったと言っていた。場所が違うんじゃないのか。
お店の人にも露天商について聞いて回ったが、そんなお店はない、聞いたこともないの一点張りだった。俺は首を傾げた。
やっぱり葵の勘違いなのか。どういうことなんだろうか。
スマホを取り出し、将輝に電話をした。
「もしもし?」
「ああ、透哉か」
「学校か?」
「いや、サボった」
将輝は電話越しに笑っている。俺があんなことを言ったから、将輝も学校をサボったようだった。なにか悪い事をしてるような気がして胸が少しだけ痛んだ。
「今、谷中銀座の商店街を見て回ったんだけどさ、露天商なんてなかったよ」
「まじ?」
「一応お店の人にも聞いて確認してみたんだけど、そんな露天商なんて見たことないって」
将輝はしばし沈黙していた。
「どういうことなんだろう。透哉の彼女はそこで買ったって言ったんだろ?」
「うん。確かにここで買ったって言ってたんだよな。勘違いかもしれないけど。あいつ東京にはまだ数回しか来たことないし」
俺は頭を掻いた。
「でもさ、透哉の嘘みたいな話を聞いていると、今回の件もあながち嘘のような話で本当の事なんじゃないかな」
「というと?」
「ようするに、露天商は彼女の前には現れたってこと」
「はい?」
俺は将輝の言おうとしていることが理解できなかった。
「だから、幽霊みたいなもんだよ。お前だって俺たちからしたら、物理学的っていうのか、何て言うのかわからないけど、幽霊みたいなもんだろ?」
将輝は笑っていた。
「ちょっ。幽霊って。いや、でも、なんかそう言われると、しっくりくるのが悔しい」
「まぁ、本当の事は俺にもわかんないけどさ、そういう風に考えた方がさ、筋道がスッキリするんだよな」
透哉は頷いた。
「お前すげーな。初めて尊敬した」
俺は笑った。将輝も笑っている。
「オカルトには仮説が大事なんだよ。究極的には答えがわからないことに答えを出そうとしているんだから。今の科学じゃ絶対に分からない。もしかしたら、数百年数千年後には解明できているかもしれないけど。ようするに、人が未解明の物について人は恐れたり、馬鹿にするけど、そう言うのを発見するには、第六感が必要なんだと思うんだよな」
「な、なるほどな」
俺は将輝の説明に対しハハっと笑って誤魔化した。でも、その後に将輝が言った言葉が俺は忘れられなかった。
「透哉さ、これも俺の仮説と言うか、勘なんだけどさ、もしかしたら、お前の本体は既にどこかで死んでいるんじゃないのか?」
俺は7列シートの一番右端に座っている。正面には、おじいちゃんとおばあちゃん夫婦だろうか、楽しくおしゃべりをしている。その隣にくたびれたサラリーマンが寝ている。
ガタンゴトンと音をたて車内は微かに揺れている。
本当に何を言っているのか聞き取れない車内アナウンスが車両に流れる。車窓から見える看板で高田馬場駅に着いたのがわかった。
昨日の夜、俺は将輝に電話をした。将輝の第一声はなんで学校を休んだのかだった。
俺は理由を話すのを少し躊躇った。でも、初めて自分の境遇を話した時、将輝だけは信じてくれた。興味を持ったというのが正しいのかもしれないけど。だから、俺は本当の事を話した。
やはりと言うか、当然というか、初めて将輝に話した時と同じリアクションをされた。そして、将輝は当然協力的だった。さらに、他に何かネックレスに関する目撃情報がないかを調べてくれることになった。
電車は日暮里駅に着いた。駅構内はJRと京成線に乗り継ぐ人で行き交っている。北口改札を出て、谷中銀座商店街のある西口を出た。
昨日、インターネットであらかじめ下調べをしておいたのが功を奏した。じゃなけりゃ、恐らく迷っていたかもしれない。印刷した地図を片手に歩いた。
日差しが顔に照り付け暑い。六月の季節特有のじめっとした湿気でさらに嫌気がさす。
日暮里の駅前は想像していた以上に、落ち着いた街並みだった。なんで葵はこんなところに立ち寄ったのだろう。
階段を降りると谷中銀座の商店街が広がって見えた。今日は人が閑散としている。土日ともあれば人がいっぱいで賑やかなんだろうか。
俺は一通り商店街を見て回ったが、それらしき露天商は見当たらなかった。そもそもこんなところに露店を出せるのだろうか。店を構えるスペースはあまりない。甚だ疑問だった。それでも、葵はこの谷中銀座の商店街で買ったと言っていた。場所が違うんじゃないのか。
お店の人にも露天商について聞いて回ったが、そんなお店はない、聞いたこともないの一点張りだった。俺は首を傾げた。
やっぱり葵の勘違いなのか。どういうことなんだろうか。
スマホを取り出し、将輝に電話をした。
「もしもし?」
「ああ、透哉か」
「学校か?」
「いや、サボった」
将輝は電話越しに笑っている。俺があんなことを言ったから、将輝も学校をサボったようだった。なにか悪い事をしてるような気がして胸が少しだけ痛んだ。
「今、谷中銀座の商店街を見て回ったんだけどさ、露天商なんてなかったよ」
「まじ?」
「一応お店の人にも聞いて確認してみたんだけど、そんな露天商なんて見たことないって」
将輝はしばし沈黙していた。
「どういうことなんだろう。透哉の彼女はそこで買ったって言ったんだろ?」
「うん。確かにここで買ったって言ってたんだよな。勘違いかもしれないけど。あいつ東京にはまだ数回しか来たことないし」
俺は頭を掻いた。
「でもさ、透哉の嘘みたいな話を聞いていると、今回の件もあながち嘘のような話で本当の事なんじゃないかな」
「というと?」
「ようするに、露天商は彼女の前には現れたってこと」
「はい?」
俺は将輝の言おうとしていることが理解できなかった。
「だから、幽霊みたいなもんだよ。お前だって俺たちからしたら、物理学的っていうのか、何て言うのかわからないけど、幽霊みたいなもんだろ?」
将輝は笑っていた。
「ちょっ。幽霊って。いや、でも、なんかそう言われると、しっくりくるのが悔しい」
「まぁ、本当の事は俺にもわかんないけどさ、そういう風に考えた方がさ、筋道がスッキリするんだよな」
透哉は頷いた。
「お前すげーな。初めて尊敬した」
俺は笑った。将輝も笑っている。
「オカルトには仮説が大事なんだよ。究極的には答えがわからないことに答えを出そうとしているんだから。今の科学じゃ絶対に分からない。もしかしたら、数百年数千年後には解明できているかもしれないけど。ようするに、人が未解明の物について人は恐れたり、馬鹿にするけど、そう言うのを発見するには、第六感が必要なんだと思うんだよな」
「な、なるほどな」
俺は将輝の説明に対しハハっと笑って誤魔化した。でも、その後に将輝が言った言葉が俺は忘れられなかった。
「透哉さ、これも俺の仮説と言うか、勘なんだけどさ、もしかしたら、お前の本体は既にどこかで死んでいるんじゃないのか?」
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