大学受験はほぼ無くなりました(注※これは小説です)

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15,首相退陣ス

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 林田総理が取り組んだのは教育革命だけでなく、労働環境の改善や、国民が長らく対策を求めてきた様々な懸念事項の実施など多岐にわたった。

 あまりの急改革にとまどう国民も多かったが、改革のために仕事をあぶれることになった人々への支援も細やかで、反対の意見は徐々に減っていった。内閣支持率は就任時が一番高いという通例に反し微増している。

 しかし一番変化が多く困難であった教育革命に一段落がついたと判断した林田総理は、この年、首相の座から降りることを発表したのである。

 退任演説にかけつけたアナウンサーが、声を張り上げて言う。

「やめないで欲しいという国民の声が多くあります。どのようにお考えですか」

 前髪の白髪がちょっと増えた林田総理は、おだやかに微笑んで少し頭を下げた。

「光栄でございます。ありがたくも身に余ることです。退陣を致します。そして最後に言いたいことがございます」

 あたりを見回し、深く息を吸う。
 そしてあの就任演説の日と同じ強い目で話し出した。

「総理大臣とは、日本の王ではありません。
総理大臣とは、宰相であり官吏であり王の小間使いであり、主権者ではないのです。
主権者は国民であり、王とは国民皆様です。

王が堕落し政治をかえりみないと政治がどうなるのかは、数多の歴史が物語っていますね。政治は荒れ、腐敗は増し、悪徳官僚が増え、人が死んでいく。それを止められるのは反乱の民か国王です。
皆様、あなたがたは支配される国民ではありません。主権ある国王です。

王であるという自覚を持って、皆様ひとりひとりがリーダーとして、国王として為すべき事を為してください。自分が今なにをできるかを考えてください。あなたの国を見捨てないでください。あなた方は国王なのです。
首相である私も、国会議員も王ではなく、あなたがたの小間使いであり召使いです。召使いを主君だと思ってはいけません。召使いは管理するものであり、王が選ぶのです。

あなたが従うから政府は力を持つのであり、誰も従わなければ政府は有名無実の張りぼてでしかありません。
力を持っているのは国民です。
あなたは無力なんかじゃない!
主権を取り戻し、責任を果たしてください。あなたが今日した親切が、めぐりめぐって誰かを救う力になることだってあるかもしれない、それがこの世界です。あなたの最善を、ほんの少しでもいいのです。

過小評価せず、この程度と言わないでやってください。誰かにバカにされたとしても、私がそんな者以上に、素晴らしいと、よくやった! と褒めましょう。
私は本日を以て退陣致します。私が王であったときに考えていた仕事を終えたからです。

私の才能はここまで。あなたの才能が必要です。
国は一人で運営するものではなく、全ての国民の才能を生かし、協力して運営していくものだからです。
次の総裁に名乗りをあげます者たちは、皆様が評価してくださっている教育以外の政策の多くを提案してきた者たちです。彼、彼女たちもまた己の才にかけて国を良くしようという明確な目標があります。
我々は主君を選ぶのではなく、どの夢を叶えるかを選ぶのです。私は信頼して次代に託しましょう。
そしてまた彼らも役目を終えれば退陣します。

その次は誰でしょうか。これから先の、王たる民の国作りがどのようになっていくのか、余生の楽しみにしております。
モラトリアムは終わりです。
どうかご覚悟を持って、良き国をお作りくださいませ、国王様方」

 林田は深く深く頭を下げた。
 そのまましばらく動かなかった。





 その後、新たな総理大臣が国民の前で成し遂げたいビジョンを宣言した。その目標に達するまでには、また長い時間がかかるだろう。その間に新たな王も育つだろう。
 青い空が澄み渡り、太陽が笑っているような快晴の日のことであった。
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