上 下
4 / 15

4,コミュニケーション実習

しおりを挟む
 ショートカットのはつらつとしたお姉さんが指導者だった。ここの教授ではない。
 教壇に立ったお姉さんは、両腕を広げて話し出す。

「コミュニケーション学へようこそ、みなさん。この新しい教育システムにコミュニケーションが加えられたことを心より嬉しく思っています。
とくに今、大学生である皆様、あなた方は旧時代の人々の中に突撃していく新時代の先兵隊。
まず間違いなく、めんどくさい大人に『お前リーダーシップとか学んだんだって? やってみせてくれよ』とニヤけ顔で揶揄やゆされる人が現れる可能性一億%! このめんどくさい人に対処するのに必要なのはリーダーシップではなくコミュニケーション能力です」

 はは、と講堂内に笑いが起きる。

「最近はゲーム設定の話が一般に知られるようになってきましたので、分かりやすくゲーム風に言ってみましょうか。
めんどくさい人というのはモンスターであり、どのように対処するかの能力を鍛えた人物は冒険者といえるでしょう。このコミュニケーション実習は、新人冒険者に冒険の心得を教えるようなものです。これだけでベテランにはなれませんが、ゴブリンに殺されなくなるかもしれない」

 真剣な声音で言う。

「過信は禁物です。あなたのコミュニケーション能力では対処不能な相手に出会ったら、冒険者ギルドに討伐依頼を要請してください。
現実的に言いますと、コンプライアンス部や労基に告発してください。
Sランク冒険者が対処に動きだします。林田総理は労基の拡充と改善にも着手されるご予定です」

 あの総理なら本当にやる。という怖いくらいの信頼感が出てくる。
 ああ、良くなるのはいいことなのに、どうして人は変化をこんなに怖いと感じるのだろう。仁実は、ぶるっと少し震えた。

「それではこれより、私の持ち得るコミュニケーション技術を皆様にたたき込んでまいります。効果はご安心ください。なにせ私は、元Sランク冒険者ですからね」

 ぱちりとウィンクして締めたお姉さん。おお、と会場に笑いがあふれた。ピューと調子の良い誰かが指笛を吹く。
 新しい教育に緊張していた空気は、あっというまに消え去っていた。

「コミュ力つよい」

 仁実のつぶやきに、隣から返事があった。

「あっというまに呑まれたな」

 声に振り向くと、これまたコミュ力の高そうな明るい目をした短い茶髪の男子がいた。にかっとした笑顔を向けられる。

「さすが元Sランクだ。楽しみだな」
「う、うん」

 初対面の他人と普通に会話はじめられる君にコミュ力の授業必要? と思ったけれど仁美は黙って固まるしかできませんです。

「実習はじまったら実習相手になってくれるか? 俺は三山みやま詠太えいた

 そう手を差し出してくる。
 男子と!?
 仁実は目をぱちぱちさせながら考えた。
 まだ友だちがうまく作れなくて今ぼっちだから、相手が必要で助かるのだけれども。別に男子を避ける理由もないけれども。差し出された手を拒否する強さもないのだけれども!

「よ、よろしくお願いします……。八郷仁実やさとひとみです」

 握手して言う。

「よろしくな! 俺色んな奴と話してみたいからさ、仁実ちゃん一人っぽいから声かけてみた。いやじゃなかった?」
「へいき」

 やっぱり君にコミュ力の授業必要ですか? と仁実は思ったけれど、それが言えるようになったのは授業が終わってからだった。

「俺Sランクじゃ無いし、まだまだ学ぶことは多いよ」

 と彼は当たり前な顔で笑う。

「まぶしぃ」

 なんとなく目をつむってしまう。いや本当にまぶしい。人に声かけるの怖いぼっちにはまぶしい。

「はは! 仁実ちゃんってけっこう面白いよね」
「おもしれー女言われたー」
「はははは! やべーね、俺少女漫画じゃん」

 ケラケラ笑う。

「コミュニケーション得意でもないのに向上心無くて申し訳ない気持ちになってきたよ」
「ハハ! いいんだよ。それこそ首相の言葉にあったじゃん。得意を鍛えて、協力するのが大事なんだって。俺がみんなの仲を取り持つから、仁実ちゃんは仁実ちゃんの得意を鍛えて、ちょっとだけコミュニケーションもがんばれば良いんだよ」
「詠太くん、ほんといい人」
「へへ。どんと頼りにしろよ! でもいい人止まりはイヤだな! 負けキャラじゃん!」
「詠太くんはどう見てもモテキャラでしょ!」
「バレた? でも今はフリーだよ。狙ってくれていいよ?」
「まぶしぃ」
「ははは! ほんと面白いね」

 いや本当にまぶしいから。夏の太陽みたいに明るくて焼かれそうだから。
 ちらっと目を開けて見た彼は、笑った顔のそばかすもかわいく見えた。
 やばい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...