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誇り
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政争に負けただけ。
ただそれだけのことだ。悪行をなすりつけられ処刑されるも、人質をとられて悪事に手を貸す日々になるも、よく聞く話、よくある話。
だが、この敗北の先の未来、この国はどうなるだろう。
「魔術兵器を他国に流し、他国と共謀して我が国を支配しようとしたその悪行。死をもって償うべきである!」
断頭台に立つ私を、城のバルコニーから見下ろして叫ぶ元婚約者の王子。絶対の正義感と愛ゆえに、彼の目に迷いはなく、声もまた力強い。
あなたのその真っ直ぐさを愛していたけれど、浮気する心の持ち主とは思わなかった。
ああ、そうね、正義感の強いあなただからこそ、協力し合える私より、泣いてすがる娘に心なびいたのでしょう。私がどんなに努力しても、逆効果だったのね。
儚い女を演じなければあなたの一番にはなれなかったのね。あなたの正義感は私を守ることには向かわなかったのね。あなたの正義感は、悪にだまされる程度のものだったのね。
失恋で痛む心は冷えて暗く、何も感じない。
うつろな心で、逆に冷静に頭は働きつづける。
断頭台から見下ろす民草は、王子の言葉に呼応して、おおおと叫んだ。
我が国を強国たらしめている魔術兵器を他国へ流すことは重罪だが、まだ直接だれかを害したわけではない。その罪の真偽はともかく。私を悪と信じている民たちでも、処刑に興奮はすれど私への憎しみを持つには至っていないようだ。愛国心の強すぎる者ならどこかで憎んでいるかもしれませんけれど。
だから。
民は私を憎んでいないようだから、だから、私はゆらいでいた心を強く、決めた。
愚かだと思う。馬鹿だと思う。そんな義理、捨ててしまえばいいのにと、きっと誰かは言うだろう。
私の罪は家族には及ばず、私一人がすべて悪いとすることでかろうじて家族は生きながらえた。爵位を侯爵から伯爵に落とされることにはなったが。
王子の側近候補だった弟は今も王子の側近候補として彼の側にいる。今私がここにいてなお家族は許されたのは、弟の助力が大きい。それでも、王子に近づく儚げな美女を消すことができなかったと、王子を諫めることができなかったと、己の無力を嘆く弟に未来をたくす。
「刑を執行せよ!」
しゃん、と涼やかな音をたてて、処刑人の手に持たれていた断頭の剣が抜き放たれる。
一振りで首を切り落とすその魔剣は、あまりの斬れ味の鋭さゆえに王家保有の国宝である。
その国宝を宝の持ち腐れするでなく処刑に使えと命じた古き王は、なかなか型破りな方であると思う。確実に一瞬で命を奪う、それを可能にするものが当時ほかになかったからだといわれている。
「かがみなさい」
処刑人の低い声に従い、腰を落とす。首を差し出すように前へ身をかがめた。
幾多の罪人の命を奪ってなお、清き輝きを失わない神秘の魔剣の、強い魔力を頭上に感じる。
処刑人はその剣を持たされるがゆえに、伯爵位以上の貴族のみがつとめる仕事だ。忌み嫌われる仕事ではあるが、剣筋の確かな、実力ある者しか任命されない名誉な職でもある。
だから私も苦しまずに一瞬でいけるだろう。
そこに関して恐れはない。死への恐れはあるはずだけれど、幸か不幸か、失恋の痛みで胸にぽっかり黒い穴が空いていてよく分からない。
実力ある処刑人は、戦となればこの魔剣を持って戦うことになる。一騎当千の英雄となろう。
そんな男だから私は言った。
「国を頼みます」
動揺なく、剣が振り下ろされる。
それに先んじて私は魔術を発動させた。
しゃん、と剣が首を斬り、通り過ぎていく音を間近に聞く。
首を落とされてもすぐには意識は落ちないと聞いていたが、自分の首が落ちた音を聞くなんて思わなかった。もう少し長く息が続いたら、ちょっと恐怖で気が狂ったかもしれない。
視界が暗がる。わああ、と歓声が聞こえる。
流れた血のあたたかさをほおにかんじた。それがさいごだった。
ただそれだけのことだ。悪行をなすりつけられ処刑されるも、人質をとられて悪事に手を貸す日々になるも、よく聞く話、よくある話。
だが、この敗北の先の未来、この国はどうなるだろう。
「魔術兵器を他国に流し、他国と共謀して我が国を支配しようとしたその悪行。死をもって償うべきである!」
断頭台に立つ私を、城のバルコニーから見下ろして叫ぶ元婚約者の王子。絶対の正義感と愛ゆえに、彼の目に迷いはなく、声もまた力強い。
あなたのその真っ直ぐさを愛していたけれど、浮気する心の持ち主とは思わなかった。
ああ、そうね、正義感の強いあなただからこそ、協力し合える私より、泣いてすがる娘に心なびいたのでしょう。私がどんなに努力しても、逆効果だったのね。
儚い女を演じなければあなたの一番にはなれなかったのね。あなたの正義感は私を守ることには向かわなかったのね。あなたの正義感は、悪にだまされる程度のものだったのね。
失恋で痛む心は冷えて暗く、何も感じない。
うつろな心で、逆に冷静に頭は働きつづける。
断頭台から見下ろす民草は、王子の言葉に呼応して、おおおと叫んだ。
我が国を強国たらしめている魔術兵器を他国へ流すことは重罪だが、まだ直接だれかを害したわけではない。その罪の真偽はともかく。私を悪と信じている民たちでも、処刑に興奮はすれど私への憎しみを持つには至っていないようだ。愛国心の強すぎる者ならどこかで憎んでいるかもしれませんけれど。
だから。
民は私を憎んでいないようだから、だから、私はゆらいでいた心を強く、決めた。
愚かだと思う。馬鹿だと思う。そんな義理、捨ててしまえばいいのにと、きっと誰かは言うだろう。
私の罪は家族には及ばず、私一人がすべて悪いとすることでかろうじて家族は生きながらえた。爵位を侯爵から伯爵に落とされることにはなったが。
王子の側近候補だった弟は今も王子の側近候補として彼の側にいる。今私がここにいてなお家族は許されたのは、弟の助力が大きい。それでも、王子に近づく儚げな美女を消すことができなかったと、王子を諫めることができなかったと、己の無力を嘆く弟に未来をたくす。
「刑を執行せよ!」
しゃん、と涼やかな音をたてて、処刑人の手に持たれていた断頭の剣が抜き放たれる。
一振りで首を切り落とすその魔剣は、あまりの斬れ味の鋭さゆえに王家保有の国宝である。
その国宝を宝の持ち腐れするでなく処刑に使えと命じた古き王は、なかなか型破りな方であると思う。確実に一瞬で命を奪う、それを可能にするものが当時ほかになかったからだといわれている。
「かがみなさい」
処刑人の低い声に従い、腰を落とす。首を差し出すように前へ身をかがめた。
幾多の罪人の命を奪ってなお、清き輝きを失わない神秘の魔剣の、強い魔力を頭上に感じる。
処刑人はその剣を持たされるがゆえに、伯爵位以上の貴族のみがつとめる仕事だ。忌み嫌われる仕事ではあるが、剣筋の確かな、実力ある者しか任命されない名誉な職でもある。
だから私も苦しまずに一瞬でいけるだろう。
そこに関して恐れはない。死への恐れはあるはずだけれど、幸か不幸か、失恋の痛みで胸にぽっかり黒い穴が空いていてよく分からない。
実力ある処刑人は、戦となればこの魔剣を持って戦うことになる。一騎当千の英雄となろう。
そんな男だから私は言った。
「国を頼みます」
動揺なく、剣が振り下ろされる。
それに先んじて私は魔術を発動させた。
しゃん、と剣が首を斬り、通り過ぎていく音を間近に聞く。
首を落とされてもすぐには意識は落ちないと聞いていたが、自分の首が落ちた音を聞くなんて思わなかった。もう少し長く息が続いたら、ちょっと恐怖で気が狂ったかもしれない。
視界が暗がる。わああ、と歓声が聞こえる。
流れた血のあたたかさをほおにかんじた。それがさいごだった。
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