悪役令嬢はモブ化した

F.conoe

文字の大きさ
上 下
6 / 18

リフレッシュしてきました

しおりを挟む
「アルリアー!」

「ご機嫌うるわしゅう殿下」

「うるわしくない! なぜ! 貴様がここにいる!」

「なぜってここ私のお家ですもの」

「お家ですもの、じゃない! お前の家は修道院だろうが!」

還俗げんぞくしました」

「げんぞく?」

「シスターであったものが、それをやめて俗世に帰ることを言いますわ」

「そ、そんなことは知っている! なぜ還俗しているんだ!? 私は修道院へ追放だと言っただろう!」

「ええ、ですから、不承不承ふしょうぶしょうわたくしは行く気もなかった修道院で数日過ごしましたわよ。シスターとして」

「数日だと!? それでは追放ではないではないか!」

「この書類」

バサリ、とわたくしは机の中からお父様がラブレターのようにわたくしへ渡した書類を出して、殿下の前に置きました。

「書かれているのは、修道院に入りそこで暮らすこと。ですね」

「そうだ! お前は一生そこにいなければならん! わかったらここから出て行け!」

「あらあら? 殿下、一生、なんてどこに書いてあります? それに還俗げんぞくしてはいけない。とも書いてありませんわよ? ねぇ、わたくしなにも悪いことしてないわ? どうしてそんなに責めますの? 殿下こわい」

お父様も弱腰ながら最低限(還俗はできるように)はがんばったのだと思うの。そこは評価しますわ。

「こ、こわ、はぁ!? お、お前、そんな、へ理屈じゃないか!!」

「へ理屈だろうとなんだろうと沙汰さたはもうくだりましたし。わたくしは実行致しました」

バサリ、と今度は修道院に入ったことを示す書類と、還俗したことを示す書類を重ねて出す。

「陛下のご命令に従ったわたくしへの言葉がなぜ罵倒なのかしら? これは国王陛下と殿下の署名付き。陛下と殿下は1度言ったことを反故ほごになさいますの? わたくしとの婚約を一方的に破棄はきしたように」

「きさま……!」

殿下が怒りのオーラを放っていますが、わたくしも負けません。わたくし怒ってますの。殿下にも、陛下にも、丸め込まれたお父様にも。
絵にしたなら二つのオーラがしのぎを削ってばちばち干渉かんしょうしあう光景が描かれたことでしょうけれど、描くならわたくしのオーラの方を大きくしなさいね。

「そもそも殿下とわたくしの婚姻こんいんは、隣国王室の血をひくサーバン公爵家が力をつけ過ぎたのを危惧きぐしてのものです。王都に近い公爵家であり国内派である我が公爵家に力をつけさせようという意図あってのもの。東のサーバンに対抗して西のトウレー公爵家にミレーナ男爵令嬢を入れて均衡きんこうをはかったおつもりのようですけれど、さてそううまく行くかしら?」

「何が言いたい」

「トウレー公爵家もまた西の、王族ではないものの伯爵家の血を引くお家。西のイーハー、東のセンロン。我が王家は西をとったとセンロン王国およびサーバン公爵家の方々は思ってらっしゃいますわよね。これ、昨今さっこんの民間で絵物語として広く興行こうぎょう(ストーリートミュージシャンのように紙芝居を語って聞かせる娯楽)されている話の元になっている本ですが。【古くからパーティに尽くしてきた主人公を切り捨て、新たに美貌と胸しか取り柄のない女を仲間に入れた冒険者パーティが、主人公の恩恵を失ってまたたくまに瓦解がかいしていき、反対に主人公は周囲に認められて最後に昔の仲間に勝って終わる】という話が描かれていますわ」

「そんな庶民向けの本がなんだというのだ。しょせん作り話だ。夢を見るのは勝手であるし、我が王家はサーバンを捨てたわけではない」

「これ、センロン国から入ってきた話ですのよ」

「なに?」

「他にも似た話がたくさん入ってきていますわ。逆にイーハーからは《かわいらしい女の子が、いじめっ子のいじめに耐え抜いて素敵な王子様と結婚する》というストーリーが入ってきていますね。どちらも人気ですけど。ふふ。まるで誰かの人生のようですわね?」

「……何が言いたい」

「作者の違う物語は決して交錯こうさくすることはありませんけれど、現実はどうかしら? 強いのはどっち? 恋に恋するお姫様? それとも復讐に燃える元メンバー?」

「そんなもの作り話だ!」

「ふふ、そうですか。どう思おうとご自由に。わたくしには関係ありませんもの」

「は? あるだろう! お前だってこの国の公爵令嬢だろう!」

「ふふ。その身分を捨てさせようとしたくせに。わたくしにそれを言うんですの? 殿下が?」

ぐっと歯を食いしばって、殿下が視線をそらした。
勝った。

「わたくしが守るのはわたくしの領民と関係者のみ。もはやわたくしは未来の王妃ではありませんので。殿下はお姫様とご相談なさったら? きっと素敵なストーリーが展開しますわ」

「ちっ……お前の還俗げんぞくは認めてやる。ダンジョン運営だのもうかっているようだしな。その成果は認めてやる。その調子で国に尽くせ。だが忘れるなよ。公爵家は王家の下だ。命令には逆らえない。決してな」

「心得ております」

「ふん」

ふふふ。
ちゃお。殿下。
わたくしはセンロン派になりましたのよ。
ま、国を売るつもりもないので教えて差し上げましたけど、そういう危機的状況ですのでね、わたくしにかまっていないでそっちでてんやわんやしてなさいな。

さて、次はどれに手をつけようかしらね。
どの国に属そうとも、大事なのは地の力。民の暮らしが繁栄しているか否かですわ。
金は力なり。
金は民なり。
我が国に伝わるこの言葉、かんちがいして民から搾取さくしゅする貴族が多いですけど、本来の意味は
だから民をはぐくいつくしみ大きく育てよ。
というものですからね。
目を向けるべきは隣国? それとも愛する人?
いいえ、足元ですわ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

チートなんて願わなければよかった・・・

かぜかおる
ファンタジー
子供を助けてトラックに轢かれた私は気づいたら真っ白な空間に 自称神様という人から転生とそれにあたって一つ加護を与えると言われ チートを望んで転生してみると・・・ 悪役令嬢転生モノの、ザマァされる電波系ヒロインに転生してた!? だけど、ん?思ってたんと違う!

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

イジメられっ子は悪役令嬢( ; ; )イジメっ子はヒロイン∑(゚Д゚)じゃあ仕方がないっ!性格が悪くても(⌒▽⌒)

音無砂月
ファンタジー
公爵令嬢として生まれたレイラ・カーティスには前世の記憶がある。 それは自分がとある人物を中心にイジメられていた暗黒時代。 加えて生まれ変わった世界は従妹が好きだった乙女ゲームと同じ世界。 しかも自分は悪役令嬢で前世で私をイジメていた女はヒロインとして生まれ変わっていた。 そりゃないよ、神様。・°°・(>_<)・°°・。 *内容の中に顔文字や絵文字が入っているので苦手な方はご遠慮ください。 尚、その件に関する苦情は一切受け付けませんので予めご了承ください。

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

悪役令嬢のいない乙女ゲームに転生しました

かぜかおる
ファンタジー
悪役令嬢のいない乙女ゲームに転生しました!しかもサポートキャラ!! 特等席で恋愛模様を眺められると喜んだものの・・・ なろうでも公開中

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

シナリオよ、お前本当にそれでいいのか…?

F.conoe
ファンタジー
異世界にて乙女ゲームが進行しておりますが、なにやら棒読みである。 強制乙女ゲームを解除する方法は?

ネット小説の悪役令嬢になってしまった……

菜花
ファンタジー
赤塚千冬は事故に巻き込まれて転生してしまう。けれど転生した先は直前まで読んでいた小説の悪役令嬢セレスティアだった……! 選択式の小説だったけど、ヒロインの子がセレスティアを選ばない限り死ぬまで幽閉され続けるキャラじゃない!いや待てよ、まだ本編は始まってない。始まる前に幽閉フラグを折ればいいのよ――! 冷遇された聖女の結末のセルフパロのようなものです。 詳しくは該当作を見てね!

処理中です...