上 下
116 / 258
書籍未収録⑥ 実は強かったヴァクラース編

2.別格の存在

しおりを挟む
牙無魔ガンマ君、だめです! この悪魔は何も分析できませんぞ!」

「なんだと!?」

 牙無魔ガンマがもし苦戦するなら、その間に弐琉須ニルスがヴァクラースのスキルをコピーする予定だったのだが、何1つ分析対象にはならなかったようだ。
 ヴァクラースから強力なスキルを頂いて、それをって戦闘に利用する算段だったのだが、弐琉須ニルスの分析はこの上位悪魔には通用しないらしい。

「作戦を切り替えましょう。今ある手持ちのスキルでサポートします」

 無念ではあるが、弐琉須ニルスも素直に分析できるとは思ってなかったので、コピーはすぐに諦めて次の作戦へと移行する。

「では悪魔よ、コレを喰らうですぞ! 雷界召喚『天裂く咎人の断罪クリミナル・レトリビューション』っ!」

 すばやく詠唱を終えた弐琉須ニルスが、テツルギからコピーした界域魔法の1つをヴァクラースへと行使する。

「ほう……『大賢者』でない者が界域魔法を使うか。やるな。だがこの程度の魔法は以前の大戦で何度も喰らっているぞ。『暗黒素子拡散ダーク・ディフュージョン』!」

 弐琉須ニルスの魔法に対しヴァクラースが術を発動すると、その身の回りに黒い霧が充満した。
 その瞬間、曇天を裂く太い雷光の柱が、ヴァクラース目掛けて撃ち放たれる。
 それは一撃でヴァクラースを跡形もなく塵に変えるはずだったが、その巨大な閃光は、黒い霧に接触すると一気に大きく広がってそのまま霧散した。

「なんですとぉっ!?」

 このヴァクラースを包む黒い霧は、進入してくるエネルギーを拡散して吸収する効果があった。
 完全に無効にするわけではないが、弐琉須ニルスの界域魔法程度なら、ほぼヴァクラースにダメージはない。


「くそっ、まさか剣も魔法もここまで封じられるとは……」

 牙無魔ガンマ弐琉須ニルスは、自分たちの攻撃が一切ヴァクラースに届かないことに焦り始める。
 一応、かなりの苦戦も覚悟はしていたが、それにしてもまだ1つも上手くいったところがないのだ。

 些細なことで千変万化する極限の戦闘では、一瞬のミスが命取りとなる。
 自分たちだって充分強い。魔王軍ボス相手とはいえ、何か予想外の幸運があったっていいはずだ。

 しかし、戦闘開始から圧倒されっぱなしだ。
 認めたくはないが、自分たちとヴァクラースはそれほど力の差があるというのか?
 とにかく、劣勢の牙無魔ガンマたちは、まずは一度態勢を立て直して自分たちのリズムを取り戻したいところ。

「それならば、『狩猟者の領土ハンターズエリア』!」

 弐琉須ニルスは相手の力をデバフで下げることにした。
 これほどの悪魔には弱体化の結界は効きづらいだろうが、少しずつでも力をそぎ落とす作戦に。

 ほかにもいくつかデバフの魔法はある。それらを使って地力の差を埋め、なんとか長期戦に持ち込む。
 苦しい戦いになるだろうが、粘り強く戦えば、やがて勝利に繋がるはずだ。
 もちろん、相手の能力を下げる技――礼威次レイジの『羅刹の睨み』も、最初から全力で発動している。

牙無魔ガンマ、俺っちの術の効果がそろそろ出てくる頃だ。もう少し辛抱すれば、一気にコイツの力は弱まる。そのときがチャンスだ!」

「分かった! 頼りにしてるぜ!」

『羅刹の睨み』は急な効果は望めないが、それでも時間とともに確実に相手は弱まっていく。
 ヴァクラースといえども、長期戦になればいずれ子供のごとく無力にされよう。


 だがしかし……。


「コレは……そうか、何か変だと思っていたが、オレの力に干渉していたのか。こざかしいヤツらめ。ならばオレもお前たちに鎖を巻き付けてやろう。にえを我が主のもとへ! 『魔の王 君臨せし地獄ジュデッカ・ドミニオン』!」

 ヴァクラースが術を発動すると、辺り一面が赤黒い空間に覆われ、地面から光の粒子が天空へと浮き上がっていく。
 空には大きな穴が開いて、そこにエネルギーが吸い込まれていくような光景だった。
 そしてそれと同時に、牙無魔ガンマたちは身体が一気に重くなるような錯覚を覚える。

「なんだこりゃ……力が上手く入らねーぞ!?」

「これは……どうやら我らの能力が大きく下げられてしまったようですぞ!?」

「なんだって!?」

 弐琉須ニルスが『魔の王 君臨せし地獄ジュデッカ・ドミニオン』の効果に気付いた通り、いわばコレはユーリが使う『支配せし王国キングダム』の悪魔版といった技だ。
 このせいで、礼威次レイジがヴァクラースを弱体化させる前に、逆に牙無魔ガンマたち全員が大きく能力を下げられてしまった。
 こんな状態では、長期戦など到底望むべくもない。

「ふん、このオレがせっかくまともに相手してやっているのに、つまらない術など仕掛けてくるからだ」


 コイツ、強すぎる……!


 ヴァクラースと黒騎士ザガンでは格がまるで違うことは分かっていたが、ここまで別格の存在だとは思ってもいなかった。
 牙無魔ガンマたちは、白騎士=大悪魔バラムとも戦っていれば、ヴァクラースの強さも少しは測れたかもしれないが……。

 しかし、牙無魔ガンマたちにはまだ最後の切り札がある。
 じっと温存していた久魅那クミナの『空間魔法』だ。
しおりを挟む
  ツイッター始めました☆ まるずし@maruzusi です。どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m
感想 677

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。