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書籍未収録⑤ 異世界からの救世主編

2.真の勇者?

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「この世界はオレたちが救ってやる! ま、オレは勇者ならぬ『真勇者』ってところだ」

 肩に担いでいた剣を前へかざしながら、牙無魔ガンマが救世主宣言をする。

「『真勇者』だと……? 部外者のくせに目障りなヤツらだ。お前たち以外にも『異世界人』は居るのか?」

「そっちから喚んでおいてずいぶんな言いぐさだぜ。オレたちゃ自分の意志でこの世界に来たわけじゃねえのによ。仲間だが、一緒に来た異世界人ヤツらは全部で40人居た・・よ」

「40人も居るのか……ちっ、面倒なことになりそうだ」

「もう……オレたち以外は残っちゃいねえけどな……」

 牙無魔ガンマが悲痛な面持ちで唇を噛みしめる。
 そう、召喚された40人のうち、牙無魔ガンマたち4人を除く36人は、すでに全員殺されていたのだった。
 強力な『ギフト』など、様々な能力を授かった異世界人を次々と始末していった男――それはゴーグだった。


 そう、ゴーグたちが受けていた任務とは、異世界人の抹殺だったのだ。


 ヴァクラースが西の最果て――パスリエーダ法王国の動きに不穏なモノを感じ、その調査のためゴーグを派遣した。
 悪魔では『聖地』法王国に近付くことが困難だからだ。
 魔王軍の邪魔になるような存在はすべて排除する命令を受けたゴーグは、片っ端から異世界人たちを抹殺していく。

 その中には、1対1なら最強とまで言われていた異世界人も居た。
 それは『呪人形キラードール』のギフトを持つ、駄芭呂ダバロという男だった。

 相手の魂の一部を奪うことができ、それを相手そっくりの小型人形『呪人形キラードール』として手元に実体化させる。
 それは相手本体とリンクしており、その人形を傷付けると相手も同じ場所を負傷するという、まさに無敵の能力だった。
 相手がどんなに強かろうと、リンクした『呪人形キラードール』を破壊すれば、簡単にその存在を葬ることができた。

 対象が1人のみだったので乱戦には向かなかったが、能力がまだ未完成な時点で、すでに魔王軍幹部クラスより強いと言われていたほどである。
 成長すれば魔王ですら倒せると、大いに期待されていた男だったが、不幸にもゴーグと出会ってしまった。

 駄芭呂ダバロは手順通りゴーグの魂を『呪人形キラードール』とリンクさせ、それの破壊を試みる。
 ところが、その人形が壊れない。
 人形はけっして硬い素材ではない。握り潰せば、枯れ木のように粉々にできるほどだ。

 なのに、ゴーグの人形は少しも崩れることはなかった。
 ドラゴンですら、簡単に破壊することができたのに。

 コレは人間の魂なんかじゃない!
 何者にも破壊されない強靱な魂――それは悪魔すら超える異質な存在。
 駄芭呂ダバロがその事実に気付いたとき、ゴーグに殺されてしまった。

 異世界人は秘密の存在だっただけに、これらのことは世界に知られることはなかった。
 その最後の生き残りが、このイザヤたちの前に居る牙無魔ガンマたち4人だ。
 牙無魔ガンマたちはたまたま別な地で修業をしていたため、ゴーグと出会うことはなかった。
 かろうじて仲間の最期に立ち会い、ゴーグの存在を知ることができたのだった。


「ここにはゴーグってヤツは居ないのか?」

「ゴーグ? 何故その名前を知っている?」

「そんなことはどうでもいい。居るのか、居ないのか?」

「ヤツなど知らん。アイツは人の命令など聞くようなヤツじゃないからな」

 憎きゴーグがこのアマトーレ王都に居ないことを知り、少し肩を落とす牙無魔ガンマ
 その能力は異世界人の中でも群を抜き、今は亡き『呪人形キラードール』の駄芭呂ダバロと並んで魔王に対する秘密兵器と称されている存在だ。
 絶対に魔王と……そしてゴーグを倒し、仲間の仇を取ると心に誓っている。

「ちっ、ゴーグは居ねえのか……因みにお前は誰なんだ? ずいぶん偉そうなだけに、ひょっとして『勇者』ってヤツか?」

「オレは『剣聖』イザヤだ。剣の腕でオレに勝るヤツは居ない」

「へー、そんなにやる・・んだ。んじゃあどの程度か試させてもらうことにすっかな」

 牙無魔ガンマが不敵に笑いつつ、イザヤに向かって剣を構える。

 イザヤたちはあとから魔王軍へと取り込まれたので、『魔王の芽デモンシード』がまだ完全には成長しきっていない状態だ。
 しかし、それでもレベルは500を超えていた。
 上位称号である『剣聖』たちは成長の上限がもう少し上で、時間さえあればレベル700程度までいけたはずだが、今回は時間が足らなかったようだ。

 とはいえ、『次元斬』のジュードよりは圧倒的に強い。
 剣をとっては並ぶ者なしと言われるほどの『剣聖』だ。
 ユーリやメジェールを除けば、世界最強と言って間違いないだろう。

 そのイザヤと牙無魔ガンマの戦いが始まろうとするときに、『聖女』スミリスが結界魔法を放った。


「包め、『狩猟者の領土ハンターズエリア』っ!」


 これは敵の能力を制限する結界で、最大で相手の戦闘力を1/2まで弱体化させることができる。
 この魔法は以前ユーリ相手にも使ったことがあるが、あのときよりスミリスは大きく成長しているので、効果も強力になっている。

 これでイザヤが圧倒的有利になるかと思ったところ、それを許さじと異世界人チームも結界を放つ。

「むほほ、お返しの『狩猟者の領土ハンターズエリア』ですっ! これでおあいこですねえ」

 結界を使ったのは、眼鏡を掛けた男弐琉須ニルスだった。
 彼も結界魔法が使えるらしい。効力は『聖女』であるスミリスにはさすがに及ばないが、しかしなかなか優秀な完成度だ。
 お互い同じ結界を放ったことで、どちらにもアドバンテージはない状態となる。


「やるじゃないか異世界人! だが結界はあくまで補助的な術、このオレが真の超魔法を教えてやろう! 闇界召喚、『腐蝕成す黒き虹ニグレイド・グローリア』っ!」

『大賢者』テツルギが放ったのは、なんと界域魔法だ。
 これは現在ユーリしか使い手のいない、超強力な上位魔法である。
『大賢者』であるテツルギは、すでにその領域まで足を踏み込んでいたのだ。

 さすがにユーリほどの超魔法ではないが、それでもドラゴン数体を軽く塵に変える威力がある。
 その黒い波動が、異世界人たちへと襲い掛かった。

「『空間歪曲ベンド・スペース』っ!」

 ひときわ小柄な少女――久魅那クミナが魔法を放つと、異世界人たちの正面の景色が歪み、そこへ到達した黒い波動が90度上へと屈折して・・・・上空に消えた。


「こ、これは……空間を曲げたのか!? まさか今のは『空間魔法』!?」

「はい、そーです!」

 驚愕の声を上げるテツルギに、何ごともなかったような表情で応える久魅那クミナ
 そう、久魅那クミナが授かった能力は、『空間魔法』のスキルだった。

「バカな、空間をこれほど曲げる『空間魔法』が使えるヤツなど、聞いたことないぞ!? 神の奇跡に近い領域だ」

「言っておきますが、あなたたちにそのまま魔法を返すこともできました。しかし、あなたたちは何かで洗脳されているということで、殺さないように手加減したのです」

「オレたちの目的は魔王軍の悪魔と、そして仲間の仇ゴーグだけだ。それ以外のヤツを殺す気はない」

 テツルギは、自分が世界最強の魔道士という自負があった。
 次に戦えば、ユーリにすら勝てるとも。
 それが、子供と見間違うような少女に、簡単に魔法を抑え込まれてしまった。

『空間魔法』といえばあまりに難度の高いスキルなだけに、通常はアイテムボックスのように小空間を開くか、近距離転移が関の山。
 相当才能があっても、せいぜい極小規模の次元連結が可能な程度だ。

 それがこの目の前の少女は、自分が放った『腐蝕成す黒き虹ニグレイド・グローリア』を丸ごと方向転換させるほど大きく空間を曲げたのだ。
 もはやテツルギに放てる魔法はなかった。完全に『大賢者』の力を封じられてしまったのである。

『空間魔法』の秘技『次元牢獄』を人類で使えたヤツは存在しないが、この少女ならいずれ習得することが可能かも……いや、すでに習得していても不思議ではない。
 そう思わせるほど、少女に強い才能を感じたテツルギだった。


「お互い無粋なことはやめて、オレたち同士で決着付けようじゃないか、『剣聖』さんよぉ!」

 牙無魔ガンマがイザヤに1対1の決闘を申し込む。
 テツルギもスミリスも封じられた以上、イザヤに断る選択肢はなかった。
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