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書籍5巻の続きはここからです
第286話 背神の国 -Another side-
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フォルスが秘密の施設内で見たモノ――それは地に横たわっている真っ赤な天使だった。
その姿は凄惨で、顔や身体のあちこちが傷付き、削り取られ、手足や翼の先も欠損している。
すでに絶命しているようで、命の輝きはまるで見られない状態だ。
「これは……いったいどうしたのだ!?」
「帝国領土内に落ちていたところを十数年前に発見され、秘かにこの地に隠したそうです」
「十数年前だと!? ならば、まだワシがこの帝都におった頃ではないか!」
「そうです。これは国家の最重要機密でしたので、皇帝直近の配下以外は誰も知りません。もちろん、発見者や隠蔽工作に関わった者たちは全員処分されております」
関係者を処分? ……皆殺しということか?
それを隠すことなく笑顔で話すブラーヴに、フォルスは不信感を募らせる。
十年前はこんな男ではなかった。それに、天使の亡骸をそうまでして隠す理由も分からない。
この男に……いや、この帝国にいったい何が起きているのだ?
「なぜこの天使を隠している? 別に知られて困るものでもなかろう」
「この『バラクエル』を研究や実験に使ったからです。よそに知られれば、反発を招くことは必至でしたからね」
「天使を実験? いったい何をしたのだ!? それに『バラクエル』という名はこの天使のことか? どういう意味なのだ?」
「意味は知りません。この天使が自分で名乗った名です」
「名乗っただと!? ならば、生きていたのか?」
「はい。瀕死状態だったらしいですが、意識はあったようです」
「救えなかったのか?」
「それは私は聞かされておりません。私がこの施設を知ったときには、すでに死んでおりましたので」
「ちゃんと治療してあげれば、救ってあげられたかもしれないねえ」
フォルスとブラーヴが会話する中、突如として部屋に響き渡る謎の声。
フォルスが振り返ると、いつの間にか部屋の入り口に2人の男が立っていた。
いま言葉を発したのは、そのうちの30代半ばほどの銀髪の男……。
「あ、あなたは……クラトラス皇帝陛下!」
そう、世界一の権力を持つ男――グランディス帝国皇帝クラトラス・グランアフトだった。
もう1人の屈強そうな大男――黒髪の武人は、帝国軍総司令官ドラコス将軍である。
「久しぶりだねフォルス。君に誘いを断られたとき以来かな」
「クラトラス皇帝陛下、その節は誠にご無礼いたしました。我が振る舞い、謹んでお詫び……」
「いいよフォルス、気にしてなどいないよ。もう十年も前のことだしね」
実はブラーヴが騎士団に誘われたとき、フォルスも一緒にどうかと誘われていた。
しかし、帝国の意に沿って働く気が無かったフォルスは、その誘いを無下に断ったのだった。
それにしても、辺りを漂うこの不気味な空気はなんだ?
フォルスは肌が粟立つような感覚を覚える。
皇帝として人並み外れたオーラを放つクラトラスはともかく、ドラコス将軍やブラーヴさえも、何か人間という生物を超越した異質な気配を発している。
息苦しい。まるで魔王の前に立たされているような気分だ。
フォルスは自分がいま怯えているということに気付く。
そして、クラトラス皇帝はこんなに陽気な男ではなかった。
以前はいつもピリピリとした空気をまとい、笑顔の下にも他人を蔑む傲慢さが見え隠れしていた。
それが、今は……オモチャを手に入れた無邪気な子供のようだ。
「フォルス、君にもこの『半天使化計画』を手伝ってもらいたかったから、帝国を去ってしまったときは悲しかったよ。君は帝国の宝だったしね。だが、君の手を借りずとも、我が夢を成し遂げることができたよ」
「『半天使化計画』? 皇帝陛下、先ほど天使を救えたかもしれないと仰ってましたが、それはどういうことで……?」
「ああ、ちゃんと親身に治療してやれば、天使は死なずに済んだかもしれないってこと。治療をしないで、そのまま人類のために利用させてもらったのさ」
「天使を!? 人類のために利用!? いくら陛下といえども、そのような神に背く行為など……」
「何を言ってるんだ、せっかくの研究材料を治して帰しちゃもったいないだろ? それに人類の発展には必要な犠牲だったんだ、天使も本望だろう」
「犠牲……? まさか殺したのですか!? 神の使いを!?」
「人聞きが悪いね。死んじゃっただけだよ。おかげで『神の力』を解析することができたんだ、人類にとって有意義なことだと思うよ」
「陛下っ!?」
狂っている……目の前の男を見てフォルスは思う。
確かに傲慢な人間ではあったが、神に対する敬意は忘れてなかったはず。
それが、どうしてこんな神をも恐れぬ男になってしまったのか……。
そして、いまこの男が言った言葉。
「陛下、あなたは大変なことをしたのを分かっておりますか? いったい『神の力』の解析とは何をされたのです?」
「ふぅむ、ではそれについて説明するため、少し移動しよう」
クラトラス皇帝に促され、フォルスとドラコス将軍、ブラーヴは、部屋を出て上へと続く階段を上がっていく。
「そうそう、フォルス知っているかい? 何やら魔王軍を壊滅させて、エーアストを奪い返した者が居るとか。3日前、魔導伝鳥でその報せが届いたよ」
「魔王軍を打ち破ったということですか!?」
「らしいよ。まあまだ魔王を倒したわけじゃないから、戦いは終わってないけどね」
そうか……あの少年――ユーリといったか、見事魔王軍を討ち倒すとは。
人類の未来を背負っていると感じただけのことはある。次に会うときが楽しみだ。
フォルスはかつて命を救ってもらったユーリに思いを馳せる。
「今回の魔王軍は、いつにも増してだらしがないらしいね。こんなに簡単に人類に負けているようじゃ、地上征服なんて夢のまた夢だろうね。せっかく我が帝国も力を手に入れたのに、魔王軍が歯ごたえないんじゃ力を持て余しそうだよ」
「皇帝陛下、けっして魔王軍が弱いわけではないと思いますが……」
「うーん、そうだといいねえ。このままじゃつまらないからね……おっとようやく着いたよ。ここだ」
階段をひたすら上へ上へと上り続け、先ほどの天使の部屋からかなり上方へと移動すると、特別強固に作られた扉が現れた。
その扉を開けると、そこは外――地上500mの山頂で、吹きすさぶ風の中、皇帝に続いてフォルスたちは外に出る。
頂上は辺り一帯に岩が転がる平坦な地となっていて、そこに強力な結界が存在していた。
そしてその結界の中に居たのは……。
「バカなっ、アレは大悪魔っ……!」
そう、そこには見ただけで並の存在ではないと分かるほどの上位悪魔――体長8mの巨大悪魔が封印されていたのだった。
その姿は凄惨で、顔や身体のあちこちが傷付き、削り取られ、手足や翼の先も欠損している。
すでに絶命しているようで、命の輝きはまるで見られない状態だ。
「これは……いったいどうしたのだ!?」
「帝国領土内に落ちていたところを十数年前に発見され、秘かにこの地に隠したそうです」
「十数年前だと!? ならば、まだワシがこの帝都におった頃ではないか!」
「そうです。これは国家の最重要機密でしたので、皇帝直近の配下以外は誰も知りません。もちろん、発見者や隠蔽工作に関わった者たちは全員処分されております」
関係者を処分? ……皆殺しということか?
それを隠すことなく笑顔で話すブラーヴに、フォルスは不信感を募らせる。
十年前はこんな男ではなかった。それに、天使の亡骸をそうまでして隠す理由も分からない。
この男に……いや、この帝国にいったい何が起きているのだ?
「なぜこの天使を隠している? 別に知られて困るものでもなかろう」
「この『バラクエル』を研究や実験に使ったからです。よそに知られれば、反発を招くことは必至でしたからね」
「天使を実験? いったい何をしたのだ!? それに『バラクエル』という名はこの天使のことか? どういう意味なのだ?」
「意味は知りません。この天使が自分で名乗った名です」
「名乗っただと!? ならば、生きていたのか?」
「はい。瀕死状態だったらしいですが、意識はあったようです」
「救えなかったのか?」
「それは私は聞かされておりません。私がこの施設を知ったときには、すでに死んでおりましたので」
「ちゃんと治療してあげれば、救ってあげられたかもしれないねえ」
フォルスとブラーヴが会話する中、突如として部屋に響き渡る謎の声。
フォルスが振り返ると、いつの間にか部屋の入り口に2人の男が立っていた。
いま言葉を発したのは、そのうちの30代半ばほどの銀髪の男……。
「あ、あなたは……クラトラス皇帝陛下!」
そう、世界一の権力を持つ男――グランディス帝国皇帝クラトラス・グランアフトだった。
もう1人の屈強そうな大男――黒髪の武人は、帝国軍総司令官ドラコス将軍である。
「久しぶりだねフォルス。君に誘いを断られたとき以来かな」
「クラトラス皇帝陛下、その節は誠にご無礼いたしました。我が振る舞い、謹んでお詫び……」
「いいよフォルス、気にしてなどいないよ。もう十年も前のことだしね」
実はブラーヴが騎士団に誘われたとき、フォルスも一緒にどうかと誘われていた。
しかし、帝国の意に沿って働く気が無かったフォルスは、その誘いを無下に断ったのだった。
それにしても、辺りを漂うこの不気味な空気はなんだ?
フォルスは肌が粟立つような感覚を覚える。
皇帝として人並み外れたオーラを放つクラトラスはともかく、ドラコス将軍やブラーヴさえも、何か人間という生物を超越した異質な気配を発している。
息苦しい。まるで魔王の前に立たされているような気分だ。
フォルスは自分がいま怯えているということに気付く。
そして、クラトラス皇帝はこんなに陽気な男ではなかった。
以前はいつもピリピリとした空気をまとい、笑顔の下にも他人を蔑む傲慢さが見え隠れしていた。
それが、今は……オモチャを手に入れた無邪気な子供のようだ。
「フォルス、君にもこの『半天使化計画』を手伝ってもらいたかったから、帝国を去ってしまったときは悲しかったよ。君は帝国の宝だったしね。だが、君の手を借りずとも、我が夢を成し遂げることができたよ」
「『半天使化計画』? 皇帝陛下、先ほど天使を救えたかもしれないと仰ってましたが、それはどういうことで……?」
「ああ、ちゃんと親身に治療してやれば、天使は死なずに済んだかもしれないってこと。治療をしないで、そのまま人類のために利用させてもらったのさ」
「天使を!? 人類のために利用!? いくら陛下といえども、そのような神に背く行為など……」
「何を言ってるんだ、せっかくの研究材料を治して帰しちゃもったいないだろ? それに人類の発展には必要な犠牲だったんだ、天使も本望だろう」
「犠牲……? まさか殺したのですか!? 神の使いを!?」
「人聞きが悪いね。死んじゃっただけだよ。おかげで『神の力』を解析することができたんだ、人類にとって有意義なことだと思うよ」
「陛下っ!?」
狂っている……目の前の男を見てフォルスは思う。
確かに傲慢な人間ではあったが、神に対する敬意は忘れてなかったはず。
それが、どうしてこんな神をも恐れぬ男になってしまったのか……。
そして、いまこの男が言った言葉。
「陛下、あなたは大変なことをしたのを分かっておりますか? いったい『神の力』の解析とは何をされたのです?」
「ふぅむ、ではそれについて説明するため、少し移動しよう」
クラトラス皇帝に促され、フォルスとドラコス将軍、ブラーヴは、部屋を出て上へと続く階段を上がっていく。
「そうそう、フォルス知っているかい? 何やら魔王軍を壊滅させて、エーアストを奪い返した者が居るとか。3日前、魔導伝鳥でその報せが届いたよ」
「魔王軍を打ち破ったということですか!?」
「らしいよ。まあまだ魔王を倒したわけじゃないから、戦いは終わってないけどね」
そうか……あの少年――ユーリといったか、見事魔王軍を討ち倒すとは。
人類の未来を背負っていると感じただけのことはある。次に会うときが楽しみだ。
フォルスはかつて命を救ってもらったユーリに思いを馳せる。
「今回の魔王軍は、いつにも増してだらしがないらしいね。こんなに簡単に人類に負けているようじゃ、地上征服なんて夢のまた夢だろうね。せっかく我が帝国も力を手に入れたのに、魔王軍が歯ごたえないんじゃ力を持て余しそうだよ」
「皇帝陛下、けっして魔王軍が弱いわけではないと思いますが……」
「うーん、そうだといいねえ。このままじゃつまらないからね……おっとようやく着いたよ。ここだ」
階段をひたすら上へ上へと上り続け、先ほどの天使の部屋からかなり上方へと移動すると、特別強固に作られた扉が現れた。
その扉を開けると、そこは外――地上500mの山頂で、吹きすさぶ風の中、皇帝に続いてフォルスたちは外に出る。
頂上は辺り一帯に岩が転がる平坦な地となっていて、そこに強力な結界が存在していた。
そしてその結界の中に居たのは……。
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