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5巻

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 第一章 いざカイダ王都へ


 1.白髪はくはつの少女


 僕、ユーリ・ヒロナダは、女神様を助けたことによって、毎月レアなスキルと大量経験値をもらえるようになった。
 この恩恵で順風満帆じゅんぷうまんぱんに過ごせると思っていたところ、なんと魔王軍のわなめられ、故郷のエーアスト国を追われることに。そして、そのエーアストも魔王軍に支配されてしまう。
 絶体絶命の状況だったけど、無事逃げのびた僕は、幼馴染おさななじみのリノ、勇者メジェール、エーアストの王女フィーリア、アマゾネスの女戦士ソロル、エルフのフラウと一緒に新たな地で再始動する。
 さらには地上最強ドラゴンの熾光魔竜ゼインや伝説の幻獣げんじゅう『キャスパルク』のルクが仲間に加わり、月日の経過と共に僕も大きく成長した。
 こうして充分に力をつけた僕たちは、いよいよエーアスト奪還だっかんに向けて行動を開始する。
 魔王軍に対抗する力を得るため、まずはゼルドナ、ディフェーザの二国を攻め落とした。
 その後、ひょんなことからマグナさん、シェナさんのベルニカ姉妹と行動を共にすることになり、最古の迷宮にて僕は強大な力を手に入れた。
 シャルフ王の国フリーデンに侵攻してきた魔王軍を撃退したあと、『ヒロ』という架空の人間に変装してファーブラ使節団のアニスさんやディオーネさんたちと合流。カイダ国のキルデアとりでにみんなで向かうことになった。
 そこには魔王軍の手強い殺し屋たちがいたが、全て打ち倒して砦の奪還に成功。
 無事ひと仕事が終わり、みんなでくつろいでいたところ、魔王軍の幹部『蒼妖騎士ケイオスナイト』が大勢のモンスターを引き連れてやってきたのだった。


 ◇◇◇


「これはいったいどういうことだ!? オレが少し留守にしてる間に砦が落ちているとは……何故オレが与えた『厄災の大蛇神エンシェントナーガ』を使わなかったのだ!?」

 どこからか戻ってきたらしい『蒼妖騎士ケイオスナイト』が、砦の前で叫ぶ。
 背後に百体ほどのモンスターを連れているところを見ると、ひょっとして魔物たちを集めに出かけていたのではないだろうか?
 恐らく、ヤツこそこのキルデア砦の本当の管理者なのだろう。
 やはりというか、僕の元クラスメイトのフクルースや殺し屋たちだけでこの砦を管理しているのはおかしいと思ってたんだ。焦って王都に出発しないで良かったよ。
 殺し屋たちは未だ口を割ってないけど、それはこの蒼妖騎士ケイオスナイトの帰りを待っていたからに違いない。
 まあ特に拷問ごうもんとかしてないので、口を割らなくて当然なんだけどね。上手くしゃべらせる方法がないか、思案中ってところだった。
 何をされようとも口を割るような奴らじゃないけど、あの蒼妖騎士ケイオスナイトを倒せば、状況が変わるかもしれないな。
 それにしても、引き連れている百体ほどのモンスターはどうやって集めてきたんだ?
 魔王軍とはいえ、基本的には魔物を自在に操れるわけじゃないからなあ。
 ある程度手懐てなづけるのは上手いかもしれないけど、魔物はけっして魔王軍の仲間じゃない。
 ……いや、まさかと思うが、蒼妖騎士アイツには手懐けるそういう能力があるのかも知れないぞ。
 エーアストにモンスターが集まったり、ゼルドナに一万の大群が押し寄せたりと、魔王軍の仕業しわざと思うことがあったけど、あれはこの蒼妖騎士ケイオスナイトの能力だったんじゃないか?

「た、大変だぞヒロ、またとんでもない奴が現れやがった! 蒼妖騎士アイツの戦闘力は、なんと『厄災の大蛇神エンシェントナーガ』すら大きく超える51000だ! もうデタラメすぎるぜぇっ!」

 食後の休憩中だった盗賊シーフのケットさんや魔法剣士のヨシュアさんたちも騒ぎを知って駆けつけ、相手の戦闘力を称号の能力で数値化できるケットさんが、蒼妖騎士ケイオスナイトの戦闘力を測った。
 確かに、あの怪物『厄災の大蛇神エンシェントナーガ』を上回る強さを感じる。
 まあでも、『赤牙騎士ブラッドナイト』と同レベルかなあ……

「今回はオイラの『測定者カウンター』で計測できたから、アイツは幻術じゃない。本物の蒼妖騎士ケイオスナイトはこんなに強いのかよーっ!」
「いや、噂ではそこまで強くなかったはずだ! くそっ、どうなってんだ、化け物が次から次へと現れやがって……!」

 ケットさんとヨシュアさんが蒼妖騎士ケイオスナイトの強さに動揺する。
 ただ、ディオーネさんとアニスさんは比較的落ち着いている感じだ。

「いや、大丈夫だ、ヒロなら絶対勝てる!」
「そうですわ! だって、ヒロ様は神様のお使いなのですから」

 だから神様のお使いじゃないですって!
 二人とも僕をすっかり信用しちゃって、どうやら負けるなんて思ってないようだ。
 まあそこまで信頼されてるのはありがたいことなので、ご期待にはこたえないと。
 僕たちは蒼妖騎士ケイオスナイトの待つ外に出た。


 外に出てみると、砦の前にはズラリとモンスターが並んでいた。
 みんなには砦内で待ってていいと言ったんだけど、何かしら力になれることがあるかもしれないと、カイダ国の猛将ダモン将軍も含め全員一緒に来ている状態だ。
 特にファーブラ使節団のアニスさんとディオーネさんは、『夢魔主ナイトメア』戦が少しトラウマになっていて、僕のそばを離れたくないらしい。

「お前たちか、我が砦を落としたのは……!」

 背後に百体の魔物を従えた蒼妖騎士ケイオスナイトが、怒りをあらわにして僕たちを迎えた。
夢魔主ナイトメア』のまぼろしと同じく、二メートルを超える巨体に深藍ふかあいの鎧を着け、その恰幅かっぷくの良い体格はかなりの重厚感を感じさせる。
『真理の天眼』で解析してみると、『従魔術スレイバー』という能力を持っていた。
 これは称号やスキルとは違う悪魔特有の能力のようで、思った通りモンスターを操れるようだ。
 いわば悪魔版の『魔物使役』ってところだろう。ただし、どんなモンスターでも簡単に従えられるわけではなく、何かしらの制限はあるみたいだが。
 僕たちが砦に来るときに出会ったスフィンクスやデュラハンロードも、この蒼妖騎士ケイオスナイトが連れてきたに違いない。
 フクルースが従えていた『厄災の大蛇神エンシェントナーガ』も、恐らく真の主は蒼妖騎士ケイオスナイトだ。さっき『オレが与えた厄災の大蛇神エンシェントナーガ』って言ってたし。
 フクルースの『魔獣馴致じゅんち』は、配下のモンスターの力を上げる効果もあるので、それで『厄災の大蛇神エンシェントナーガ』を任せたんだろう。
 まああの怪物が負けるとは思わないよな。

「解せぬ、何故フクルースは『厄災の大蛇神エンシェントナーガ』を使わなかったのだ。アレを使えば、砦を奪われることなどなかったろうに。お前たちが何かの罠に嵌めたのか?」

 砦が落ちたことがに落ちないらしい蒼妖騎士ケイオスナイトが、僕たちに疑問をぶつけてくる。

「罠に嵌める必要なんてなかったよ。『厄災の大蛇神エンシェントナーガ』は僕が実力で倒した」
「何をバカな。アレは人間ごときが倒せる魔物ではない。このオレですら、アレを従えるのにどれほど苦労したことか」
「あんなヤツ一秒で殺したけどね」
「ぐははは、面白いヤツだ。なるほど肝もわっておるし、強さもなかなかと見える。どうだ、このオレの部下にならぬか? 特別待遇で迎えてやるぞ」

 蒼妖騎士ケイオスナイトが僕を魔王軍に引き込もうとそそのかしてくるが、もちろんそんな勧誘に乗る僕じゃない。

「そうだな、ヴァクラースと魔王の命を差し出すなら考えてもいい」

 ピシャリと皮肉交じりに答えたら、蒼妖騎士ケイオスナイトの表情は急に凍りつき、強烈な殺気を放って言葉を返してきた。

「……れ者が。素直に服従するなら助けてやろうと思ったものを。言ってはならぬことを言ってしまったな、もうお前の死は避けられぬ」
「おあいにく様、お前程度に生殺与奪権せいさつよだつけんを握られるほど、僕は弱くはないんでね」
「このオレと百頭の魔獣を前にしてそれを言うのか。いいだろう、殺してくれと懇願するほどの地獄を喰らわせてやる」

 お互いを探りあう舌戦はコレで終わり。ここからは相手を叩き潰すだけ。
 問題はどうやってそれをするかだ。
 モンスター一万体を一瞬でほうむった『冥霊剣エリュシオン』を使うのは、みんなの手前ちょっとはばかられる。
呪王じゅおう死睨しげい』もできれば使いたくない。
 蒼妖騎士ケイオスナイト一体ならともかく、百体のモンスターを即殺そくさつしたらさすがに引かれるだろう。
 せっかくパーティメンバーのみんなと良好な状態なのに、派手にやりすぎると魔王認定されてしまうこともあり得る。
 さぁて、百体ものモンスターをどうやって相手しようか悩むところ。
 倒すのは簡単なんだ。問題は、に全滅させること。
 ちなみに集まっているモンスターは、スフィンクス、ギガントエイプ、トロールキング、ジャイアントワームなど。それなりに強力ではあるけど、ゼルドナを襲ったモンスターよりはかなり弱い。
 あのときの一万体に比べ、数も百体ほどしかいないしね。
 そもそもゼルドナを襲ってきたモンスターが特別で、アレは結構頑張って集めたんだろうな。あのレベルを簡単に集められるのなら、どんどんモンスター軍団を作って攻め込めばいいし。
 ってことは、一万のモンスターを僕が撃退したのは、魔王軍にとってかなりの大ダメージだったのか!
 あのときはよく分からなかったとはいえ、我ながらグッジョブだ。
 この程度のモンスター百体しか集められないなら、それほど怖くはない。
 とはいえ、普通の人ではなかなか対応できないとは思うけど。

「この魔物たちの数……いくらヒロ殿とはいえ、さすがに手に余るであろう。此奴こやつらなら、ワシでも力になれるはず」
「ああ、今回はオレの出番もありそうだぜ。ちと数が多すぎるが、けっして手にえない相手じゃない」
「ワタシもだ。そもそもワタシの称号は掃討戦に強い。まとめてぎ払ってやる」

 ダモン将軍やヨシュアさん、ディオーネさんが協力を申し出てくれる。

「おいおいディオーネ、この戦力差でだって!? ははっ、ヒロがいなけりゃ絶対に言えない言葉だな。まあでも、何故か勝てる気がするぜ」

 いつもは臆病おくびょうなケットさんも、もう相手を怖がってはいなかった。
 そしてアニスさんが僕に近付いてきて、両手を祈るように組んで言葉を発する。

「私は皆さんのサポートに回ります。またヒロ様の御業みわざにおすがりすることになりますが、是非人類に力をお貸しください」

 人類に力を……って、いやだから僕は神様じゃないんですよぉ。
 あれだけ否定したのに全然信じてないなこりゃ。

「ということだ。あの魔物どもはワシらが請け負うゆえ、ヒロ殿は蒼妖騎士ヤツを倒すことに注力してくれ」

 みんなの協力は嬉しいけど、さすがに百体相手はキツいんじゃないかな。二十体くらいなら、みんなでもなんとかなるかもしれないけど……
 そうだ、『神域魔法』の『支配せし王国キングダム』があった! これを使えば、敵の力が大幅に下がるはず。
 僕は素早く詠唱して、このエリア一帯に『支配せし王国キングダム』をかける。

「ん? 今のはなんの魔法だヒロ? オレの知らない魔法のようだが……」
「みんなの幸運を祈るおまじないですよ」

 疑問の声を上げるヨシュアさんにそう言っておく。
 味方の能力を上昇させるバフ効果と違って敵の力を下げる魔法だから、みんなは特に影響を感じないはず。
 ちなみに、『支配せし王国キングダム』の効果が以前よりはるかに強力になっていて、ちょっと僕も驚いた。
 敵の能力を最大百分の一にまで弱体化する結界魔法だけど、それは耐性の低い相手だけで、今回のモンスターレベルだと二分の一から、せいぜい四分の一にするのが関の山だ。
 それでも充分凄いんだけど、目の前のモンスターたちは十分の一ほどの強さになっている。
 僕がどんどん成長しているのでその効果もあるんだろうけど、何より大きいのは、ヨシュアさんからコピーさせてもらった『武芸百般オールマイティ』のおかげだろう。
 このスキルを強化したら『神術』と『退魔術』が融合して、上位スキル『神護主しんごしゅ』になっていたんだった。
支配せし王国キングダム』の『神域魔法』は『神術』の力が影響するので、『神護主』となって大幅にパワーアップしたらしい。
 さらに、習得した『退魔術』のおかげで退魔力もアップしているので、最強退魔師シェナさん並みの祓魔ふつま効果も出ているようだ。
 よって、本来なら能力減少させるのが難しい悪魔――蒼妖騎士ケイオスナイトの戦闘力も、半分以下になっている……ように見える。
 悪魔の力は正確には分からないんだけどね。
 ケットさんの『測定者カウンター』で見ればどれくらい数値が下がったか分かると思うけど、さっき測定したばかりなので、ケットさんは『測定者カウンター』を使ってないようだ。
 とりあえず、『呪王の死睨』は使わず、この状態で上手く戦闘して蒼妖騎士ケイオスナイトを倒そう。
 モンスター百体も、十分の一の状態ならダモン将軍たちで倒せるはずだ。
 うん、なんとかなりそうだな!


「死ぬ覚悟はできたか? では行くぞ!」

 蒼妖騎士ケイオスナイトがこちらに向かってズンズンと歩きだす。
 あれ、剣は抜かないのか? 幻の蒼妖騎士ケイオスナイトは剣で戦ってたけど、本物は違うらしい。
 何をしてくるか分からないので、みんなとは離れて戦ったほうが良さそうだ。
 ダモン将軍やディオーネさんたちは左右に散り、モンスターとの距離を詰めていく。
 いよいよぶつかろうとしたとき、突然どこからともなく異音が聞こえてきた。


 ヒュヒュヒューン! ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒューン!


「な、なんだこの音!? いったいどこから……?」
「むっ、ヨシュア、上だ!」

 将軍がその音の正体に気付く。
 それは上空を飛ぶ無数の矢の音だった。
 僕も一瞬前に気付いたが、矢は僕に対する攻撃ではなかったので、探知スキル『領域支配』での発見が遅れてしまったようだ。
『領域支配』は僕に対する殺気に強く反応するからね。
 そう、その矢が狙っていたのは僕たちではなく、百体のモンスター軍団だった。


 ズドッ! ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ……!


「こ、これはなんという神業かみわざ! 強力な魔物たちが次々に滅せられていく……!」
「敵じゃない、味方なのか!? しかし、このような力を持つ者たちなど……」

 ダモン将軍とディオーネさんでもこの援軍に心当たりがなく、モンスターたちがどんどん倒されていく様子を呆然と見つめている。
 二人が驚くのは無理もないけど、僕の『支配せし王国キングダム』の効果でモンスターたちは相当弱くなってるんだよね。よって、見た目ほど凄いことではないんだけど、それでも遠距離から的確に狙撃しているのは大した技術だ。
 もしかして、これは一人の射撃手の技なのだろうか?
 僕たちが見つめる中、雨のように降りそそぐ謎の矢は、モンスターたちをあざやかに射貫いぬいていく。

「バカな、このオレが集めてきた魔物たちが、こんなにあっけなく……?」

 せっかく連れてきた百体ほどのモンスターが、あっという間に残り数体となってしまって蒼妖騎士ケイオスナイト愕然がくぜんとしている。
 そして、狙撃主の正体を探ろうと動きだした瞬間、地面から黒い影が蒼妖騎士ケイオスナイトの身体に巻きつくように這い上がり、その身を拘束した。

「なんだコレは!? くっ、動けぬっ!? このオレが!?」

 蒼妖騎士ケイオスナイトに巻きつく影はを増し、完全に固定して身動きできなくさせる。
支配せし王国キングダム』の効果で力が半減しているとはいえ、蒼妖騎士ケイオスナイトの能力を完璧に封じている。見事だ。


蒼妖騎士あおきし、その命もらったぞ! 『分子破壊打撃デモリションハンマー』っ!」


 累々と横たわるモンスターの死体をき分け、叫び声と共に現れたのは……魔族!?
 いや違う。実物は初めて見たぞ、龍人りゅうじんだ!
 その男はまたたく間に蒼妖騎士ケイオスナイトへと近付いて飛び上がり、手に持った黒い巨大戦鎚ウォーハンマーを、身動きできない蒼妖騎士ケイオスナイトへと打ち下ろす。

「おのれ、このオレがあああああっ」

 巨大戦鎚ウォーハンマー蒼妖騎士ケイオスナイトに触れると、その重厚な身体は一瞬でちりとなって消えてしまった。
 結局蒼妖騎士ケイオスナイトは、なんの能力を見せることもなく倒された。
 いったい何が起きてるんだ!?

「な、なんだあの龍人!? ただ者じゃないぞ! 待てよ、アイツまさか……!?」
「そうだ、オイラも初めて見るが、黒い戦鎚ハンマーを持つ龍人といったら『ナンバーズ』のヤツに違いない! 戦闘力も7300だ!」

 えっ、『ナンバーズ』だって!?
 冒険者事情に詳しいヨシュアさんとケットさんが、龍人の姿を見てその正体に気付いたようだ。
 最強冒険者ナンバーズ七人のうち、僕がまだ会ったことがないのはナンバー1、2、5の三人。
 思い当たるのはナンバー2の戦士だけど……龍人だったのか! その事実は知らなかった。
 元々『ナンバーズ』は極秘任務に就いていることが多く、一般には詳細が知られていない。
 ナンバー2は世界最強の攻撃力を持つという噂を聞いたことがあるけど、恐らくそれが今の技なんだろう。
支配せし王国キングダム』で弱体化してたとはいえ、あの蒼妖騎士ケイオスナイトを一撃で消滅させた威力は驚異的だ。

「さすがナダル、蒼妖騎士あおいヤツを首尾よく仕留めたようだな。まあお前がしくじるわけなかろうが」
「なぁにエンギよ、おぬしの狙撃もいつにも増してえておったぞ」

 数頭ほど生き残っていたモンスターを全て片付けて、後方からゆっくり近付いてきたのは、『エンギ』と呼ばれたダークエルフの男だった。
 この男があの無数の矢を放った当人なのかな?

「おいおい、ウソだろ!? あのダークエルフも多分『ナンバーズ』の一員だぞ! 噂に名高い『闇の狙撃者シャドースナイパー』だ!」

 ヨシュアさんは二人目の男の正体にも気付いたようだ。
 弓使いの『ナンバーズ』……それは知らなかったけど、多分ナンバー5だろう。
 何故なら、ナンバー1の情報は完全極秘で、一切知られていないからだ。
『ナンバーズ』のメンバーであるマグナさん、シェナさんのベルニカ姉妹に他のメンバーについてチラッと聞いてみたことがあるんだけど、そのときは僕は魔王と思われていたので、教えてくれなかったんだよね。
 魔王だという誤解が解けてからは、これまた色々と波乱があったので、結局『ナンバーズ』のことは聞きそびれてしまった。そのため、一般に知られている程度のことしか知らない。

「あのダークエルフも凄い、戦闘力は5370だ!」

 ケットさんの計測した数値からしても、やはりナンバー5か。
闇の狙撃者シャドースナイパー』という異名を持っているようだけど、精密な射撃でモンスター百体を殲滅せんめつするその腕前は見事の一言。
 ところで、蒼妖騎士ケイオスナイトを拘束した黒い影は、このダークエルフの技なのかな?
 遠距離からの狙撃が能力の特長だと思ったんだけど、あの距離から拘束技が使えるなら相当凄いな。
 って、ちょっと待て! 死んだはずの蒼妖騎士ケイオスナイトから、まだ気配を感じるぞ!?
 正確には、巨大戦鎚ウォーハンマーで塵となった蒼妖騎士ケイオスナイト残骸ざんがいから、何かしらの生命反応がうかがえる。
 しかし、邪悪なモノじゃない。なんだコレ!?
『真理の天眼』で解析してみると、蒼妖騎士ケイオスナイトではない存在を感知した。
 影だ! 蒼妖騎士ケイオスナイトにこびりついたままの黒い影が生きている!?
 まさかこの影は生物……いや人間なのか!?
 僕はもっと近距離で分析するため、蒼妖騎士ケイオスナイトの残骸に歩み寄る。

「待て、おぬし何をしている?」

 ダークエルフと話していた龍人――『ナダル』と呼ばれていた人が、僕に気付いて問いかけてきた。
 あれ、近付いちゃまずかったのかな?
 っていうか、この影の正体を、当然この龍人とダークエルフは知ってるはずだ。

「この影……生きてますよね?」

 特に伏せる必要性も感じなかったので、ストレートに聞いてみる。
 影からは邪悪さを感じないし、彼らの仲間ってことだよね?
 ……と、僕が尋ねた瞬間、龍人とダークエルフの顔色がみるみる変わっていく。
 ひょっとして、影のことは隠そうとしてたのかな? 聞いて失敗したかも……?

「なんと!? おぬしに気付いたのか?」
「バカな、の影術がバレただと!?」

 驚愕きょうがくの声を上げる『ナンバーズ』の二人。

「ええっ、ヒロ様、それはどういうことですか!?」
「影が生きてるだと!?」

 アニスさんとディオーネさんも驚いていた。
 驚いているのは僕も同じだけど、龍人とダークエルフの反応を見る限り、やっぱり影のことは秘密だったようだ。
 この黒い影はどういう存在なんだ?


「お……まえ、ナニモノだ?」


「うわっ、今の声はなんだ!? どこからだ!?」

 突然聞こえてきた声にヨシュアさんが驚く。

「オ、オイラには蒼妖騎士ケイオスナイトの残骸が喋ったように聞こえたけど……でも女の声だったぞ?」

 そう、ケットさんの言う通り、蒼妖騎士ケイオスナイトの残骸――黒い影から少女のような声が聞こえてきた。
 もう分かった。やはりこの影は人間だ。人間が影となって、蒼妖騎士ケイオスナイトを拘束したんだ。
 凄い、こんな技初めて見たぞ! この僕ですら、気付くのが遅れた。
 もちろん、僕に対して殺気を出せば『領域支配』で感知できただろうけど、それにしても常識を超えた能力だ。
 いったい誰なんだ?

の『死影術しえいじゅつ』、初めて見破られた……」

 少女の声と共に黒い影が一ヶ所に集まり、立体的に膨れあがっていく。
 そのまま人間のシルエットになったかと思うと、黒から色彩が変化し、白い髪の少女となった。
 この少女……まさか、今までずっと謎と言われてきた秘密の存在……
『ナンバーズ』のエースなのか!?


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