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第8章 英雄の育成
第419話 異界軍との決戦④ -Another side-
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「魔神……バルベロ!?」
本物の魔神がいたということに、さすがのメジェールも驚きを隠せない。
勇者としての勘から、コイツが魔王ではないことも分かる。完全に別の存在だ。
問題は、魔王より強いのかどうか。
魔王より強いのなら、自分たちでは到底敵う相手ではない。
この魔神を倒せるのはユーリだけだろう。
だが魔王以下の強さなら、自分たちにも勝機はある。
幸い、ここにいるメンバーはこの世界の最強クラスばかりだ。
単純な攻撃力だけで言うなら、精霊王を喚べるサクヤや空間魔法を使える久魅那は勇者メジェールをも超える。
ほかの者たちも、威力だけを追求するならそう劣るものではない。
それを魔神に喰らわせるのが難しい問題ではあるが、互いの連携を駆使すれば、倒すのはけっして不可能ではないかもしれない。
ほかのメンバーも、おおよそ同じことを考えていた。
「ま、魔神様~っ」
「あっ、待ってアンタたちっ!」
メジェールたちが慎重に身構えている中、ジャヴォルとその側近5人が魔神バルベロへと駆け寄っていく。
ジャヴォルたちのことは一応取り押さえていたのだが、落下のハプニングにより自由になっていた。
彼らは落ちた衝撃で怪我もしているようだったが、魔神復活の嬉しさで気にも止めてない様子。
メジェールたちは一瞬制止しようと考えたが、魔神のことで動揺していて、ついそのまま見過ごしてしまった。
「魔神様、復活おめでとうございます」
「魔神様のお姿を拝見できて感無量です」
「ああ、これで世界は我らのものに!」
魔神のもとに着いたジャヴォルたちは、これでもう大丈夫だとばかりに安堵の表情を浮かべている。
永年の悲願だった魔神復活も成就し、完全にお祝いムードだ。
その浮かれた様子を見ながらも、メジェールたちは動くことができない。
「ジャヴォル、よくやった。お前たちのおかげで力を取り戻すことができた。お前たちには褒美をやろう」
「ははっ、ありがたき幸せ」
魔神がジャヴォルたちに褒美を与えるという。
いったい何が起きるのか?
メジェールたちは警戒しながらその成り行きを見守る。
すると、信じられないような光景が目に映った。
魔神が何気なく手を上げると、いきなりジャヴォルたち6人がぺしゃんこに潰れてしまったのだ。
どれほどの力でプレスされればそうなるのか、厚みなどまるでないペラペラの状態だ。
メジェールたちは、地面に残った赤黒いシミを呆然とした表情で見つめる。
「ア……アンタの信者なんでしょ? 復活させてもらったのに、なんで殺したのよ!?」
やっとの思いで声を搾り出すメジェール。
自分がこれほど恐怖に怯えるのは初めてかもしれない。
それを悟られないように、必死に冷静を装う。
「そうだ。だからひと思いに殺してやったのだ。我なりの慈悲でな」
コイツ……間違いなく魔神だ。
人間がコントロールできる相手じゃない。
メジェールたちは、もはや戦いは避けられないことを覚悟する。
「まったく無能なヤツらであった。余計な計画など立てず、始めから魔法陣を発動しておれば、もっと早く我も復活できたであろうに……。さて、では手始めにお前たちを皆殺しにしてやろう」
魔神がそう言い終えた瞬間、先頭にいたメジェール、ゼルマ、ネネの3人がとっさにその場を離れる。
直後、今までいた空間が何かに押し潰された気がした。
強者の持つ直感で、かろうじて攻撃を躱したのだった。
「ほう……これは面白い。この世界にもお前たちのような者がいるとはな」
「みんなその場を離れて! 止まっちゃダメ、見えない攻撃が来るわ!」
メジェールが全員に指示を出す。
魔神は何か謎の力を操っている。さっきジャヴォルたちを殺したのもこの能力だ。
不可視の攻撃ではあるが、ただ、能力を発動するとき魔神は手を動かしていた。
攻撃の方向に軽く手を向けるだけだが、これが発動の合図なら、躱すことも不可能ではなかった。
「ふむ、いいだろう。我はいま大変機嫌が良い。我の力を思い知らせるため、少し遊んでやる。だがその前に……」
魔神が大きく息を吸い、両手を握りしめて全身に力を入れる。
すると、地面が激しく揺れだした。
「なっ、なんなのこの地震は!?」
「くっ……でかいぞっ! まさかこの洞窟を破壊してオレたちを生き埋めにするつもりか!?」
かつてないほどの大地震に、エンギが洞窟の崩壊を危惧するが、魔神の狙いはそれではなかった。
自分が元いた世界から手下たちを喚び寄せるため、魔力を使って異界のゲートを開いたのだった。
これにより異界の魔力も魔神に流れ込むので、さらにパワーアップすることもできる。
何が起こっているのか、この場にいるメジェールたちには理解できなかったが、とてつもなく状況が悪化していることだけは感じていた。
「外のことはこれでよいだろう。配下の者たちに任せておけば、この程度の世界などすぐに制圧できる。では待たせたな、今から余興を始めるとしよう」
大地の震動が収まり、魔神は意識をまたメジェールたちに向ける。
それを受け、メジェールたちも戦闘を開始した。
「言っておくけど、アタシたちをナメないほうがいいわよ。ここにいるのは、この世界最強クラスのメンバーなんだからね」
メジェールがあえて魔神を牽制する。
これは少しでも自分たちを警戒させ、戦闘時間を長引かせるためだ。
戦わなくても分かる。この魔神には、自分たちでは敵わない。
逃げることすら難しいだろう。
だからユーリが来るまで時間を稼ぐしかない。
メジェールが持つ『天眼』は、相手の力をある程度見極めることができる。
正確な解析は無理としても、自分より強いかどうかくらいは判断できた。
ところがこの魔神は、『天眼』で見ても何も分からなかった。
ここまでまったく解析できないのは初めてのことだ。
そしてもう1つ。
メジェールは現象がゆっくりに見えるスキル『思考加速』を持っているが、その能力をもってしても、魔神の動きがスローにならない。
これも初めてのことだった。
間違いなく、今まで戦ってきた敵とは異質な存在だ。
魔神の強さは一切不明だが、これらのことからも到底勝てる相手とは思えない。
魔神の謎の力に困惑するメジェールだが、ほかのメンバーも同じように戸惑っていた。
「お、おかしいですっ、わたしの空間魔法が全然反応しませんっ!」
「ワシの能力も何も発動せぬっ!? 空を飛ぶことすらできぬとは……!」
「わらわも精霊が喚び出せない! 何故じゃ!?」
「むっ、確かに、オレも魔弓術が使えんっ! 何1つ技が出ない……!」
「ネネも影が操れぬ! いったい何が起こっているのだ!?」
久魅那、ゼルマ、サクヤ、エンギ、ネネも、スキルや魔法などの特殊能力が使えなかった。
リノたちも同じだ。
全員が為す術なくただ魔神の攻撃から逃げるだけとなっている。
「ククッ、慌てているようだな。この世界の者は知らぬだろうから教えてやるが、我に見られた者は特殊な力が全て無と化す。我の前ではどんな強い能力も無効なのだ」
「な……なんですってえええっ!?」
衝撃の事実を聞いて、メジェールが思わず絶叫した。
ほかのメンバーは、ショックで言葉も出ない状態だ。
この世界での強さは、スキルや魔法の能力で決まるといっていい。
もちろんベースレベルも重要だが、強力な特殊能力こそが強さのカギだ。
強い者は例外なく強い能力を持っている。
勇者のスキルも、魔王との戦いには必須のものだ。
それがこの魔神の前では使えない?
まさかユーリの能力も、この魔神には通用しないのか?
この魔神バルベロが持つ力――それは『虚幻眼』という、相手の特殊能力を完全無効にする能力だった。
魔神の目に見つめられただけで、特殊能力は全て封じられてしまう。
たとえユーリであろうとも同じだ。
そして魔神には前後3つの顔にそれぞれ3つの目が付いているため、どこにいようともその視線から逃れることはできない。
つまり、基礎ステータスのみで戦うことになる。
そのことをすぐに理解するメジェールたち。
この状態では、久魅那の空間魔法を使って逃げることも不可能だ。
思わぬ事実を知って血の気が引いた彼らだが、少し落ちつくと、諦めるのはまだ早いと考え直す。
自分たちの能力が封じられたのは痛いが、ステータス勝負となっても、絶望的な状況ではないかもしれない。
メジェールたち『眷女』は、ユーリの『眷属守護天使』の効果でレベル999のステータスとなっている。
いわゆるカンスト状態だ。
ユーリがこの魔神に見られたら、ユーリのスキルは全て無効化されてしまうため『眷属守護天使』の効果もなくなってしまうが、現状では問題なかった。
特にメジェールは、『レベル999の勇者』だ。
真の覚醒をしてないとはいえ、過去においてもこんな高レベルな勇者など存在したことはない。
通常の勇者はレベル200にもいかない。よって、ステータスだけで言うなら歴代最強だ。
魔神を倒すのはともかく、時間を稼ぐだけならなんとかなるかもしれない。
「みんな、ユーリが来るまでなんとか持ち堪えるのよ」
「分かってる! 逃げるのは得意なんだから!」
リノが力強く返事をする。
ユーリは迷宮にいるため『魔導通信機』でも連絡が取れなかったが、この異変にも気付いているだろうし、迷宮攻略が終わっているなら、そう時を待たずしてユーリから連絡が来るはず。
ユーリの状況が分からないため、メジェールたちはとりあえず魔神の攻撃を避けることに集中した。
その魔神の攻撃の正体は、『思念爆撃』という念動力に近いものだった。
魔神のもう1つの力――それは『思念創型』という能力で、思念によって空間固体ともいうべき不可視の物体を作り上げる。
これは非常に硬質であり、アダマンタイトをもってしても破壊するのは難しいほど。
この力を応用して、ターゲットの近くに空間固体の基点を定め、そこから爆発的に空間を凝固しながら広げて目標を押し潰したりするのが『思念爆撃』だ。
非常にやっかいな能力ではあるが、発動する方向には手を向けるので、ここにいるメンバーならかろうじて避けることくらいはできた。
そして自分たちの特殊能力が使えないなら、地道に通常攻撃でダメージを与えるしかないわけだが……。
「まるで当たらないわ! なんなのコイツ!?」
体長20mの巨体ながら、魔神は10人からの攻撃を軽々躱していく。
そして指で軽く弾くように攻撃をすると、それを受けた者は激しく吹き飛ばされて地を転がった。
『思念爆撃』を喰らうよりはマシだが、けっして小さいダメージではない。
というより、『思念爆撃』を使わないで戦ったほうが魔神は強いかもしれない。
魔神が本気になれば、恐らく一瞬でメジェールたちは蹴散らされてしまうに違いない。
完全に遊ばれているようだった。
「レベル999の勇者であるアタシが、こんなに手も足も出ないなんて!」
勇者メジェールのレベル999ステータスは、ユーリがレベル999だったときのステータスより遥かに高い。恐らく数倍の数値だろう。
メジェール以外も、ステータスだけなら歴代最強クラスが揃っている。
特に『吸血姫』であるゼルマは、メジェールに匹敵するステータスの持ち主だ。
これほどのメンバーが揃って、まったく相手にならないとは……。
倒せないのはしょうがないとしても、魔神にかすることすらできなかった。
「何も不思議がる必要などない。我とお前たちでは素のステータスが違いすぎるからな」
魔神の言葉にハッとするメジェール。
確かに、それについては深く考えていなかった。
『天眼』で何も分からなかったため、相手の基礎能力値を意識しなかったのだ。
少しでも何かを感じれば、だいたいの数値を感覚的に理解したりするのだが。
何せ魔神だ、とんでもないステータスでもおかしくない。
HP(生命力)は100万以上あるだろう。いや200万を超えるかも……。
ちなみに、一般的な冒険者(戦士系)のHPはだいたい300前後である。
上位冒険者ならHP1000くらいだ。
ほかSTR(筋力)などの各数値は、かなり優秀な者でも2~300程度。
最上位冒険者である『ナンバーズ』のエンギなら、
【エンギ:魔弓士】 Lv124
HP(生命力) 3610/3610
MP(魔力量) 1312/1312
STR(筋力) 1004
STA(体力) 985
VIT(耐久) 828
AGI(敏捷) 1132
DEX(器用) 2090
RES(反応) 888
INT(知性) 616
MAG(魔力) 593
CDF(異常耐性) 750
MDF(魔法耐性) 541
LUK(幸運) 277
といった感じである。
人類最高ステータスであるメジェールは、
【メジェール:勇者】 Lv999
HP(生命力) 98150/98150
MP(魔力量) 72900/72900
STR(筋力) 29030
STA(体力) 31400
VIT(耐久) 28520
AGI(敏捷) 33310
DEX(器用) 29660
RES(反応) 35100
INT(知性) 27580
MAG(魔力) 28170
CDF(異常耐性)40950
MDF(魔法耐性)26720
LUK(幸運) 24500
この数値まで成長しているが。
そもそもステータスだけでは強さは決まらないため、それほどこだわる必要もないのだが、この魔神戦においては非常に重要なファクターとなってくる。
あまりに差があるようでは、特殊能力が使えない現状では完全に絶望的だからだ。
魔神は、いったいどの程度の数値を持っているのか?
「クククッ、我のステータスが気になるようだから特別に教えてやろう。我のHPとMPは9999999、その他の数値は全部999999だ」
その場にいる全員が静かに息を呑んだ。
***********************************
本日コミカライズ第13話が更新されました!
今回の見どころは超エロ可愛いリノと、嫌そうな表情をしているリノの顔芸ですw
ユーリがイケメン冒険者にキュンとトキめいてるようなシーンもありますw
かっちょいい敵も出てきますので、是非ご覧になってくださいませ。
第419話のステータスについて分かりづらい項目があるので、少し説明をします。
RES(反応)は反応速度のことで、レスポンスから取ってます。
CDF(異常耐性)はコンディション・ディフェンスで、
MDF(魔法耐性)はマジック・ディフェンスです。
ほかは一般的なステータス項目と同じです。
次の更新も少し遅れそうなので、気長にお待ちくださいませ(^^;
本物の魔神がいたということに、さすがのメジェールも驚きを隠せない。
勇者としての勘から、コイツが魔王ではないことも分かる。完全に別の存在だ。
問題は、魔王より強いのかどうか。
魔王より強いのなら、自分たちでは到底敵う相手ではない。
この魔神を倒せるのはユーリだけだろう。
だが魔王以下の強さなら、自分たちにも勝機はある。
幸い、ここにいるメンバーはこの世界の最強クラスばかりだ。
単純な攻撃力だけで言うなら、精霊王を喚べるサクヤや空間魔法を使える久魅那は勇者メジェールをも超える。
ほかの者たちも、威力だけを追求するならそう劣るものではない。
それを魔神に喰らわせるのが難しい問題ではあるが、互いの連携を駆使すれば、倒すのはけっして不可能ではないかもしれない。
ほかのメンバーも、おおよそ同じことを考えていた。
「ま、魔神様~っ」
「あっ、待ってアンタたちっ!」
メジェールたちが慎重に身構えている中、ジャヴォルとその側近5人が魔神バルベロへと駆け寄っていく。
ジャヴォルたちのことは一応取り押さえていたのだが、落下のハプニングにより自由になっていた。
彼らは落ちた衝撃で怪我もしているようだったが、魔神復活の嬉しさで気にも止めてない様子。
メジェールたちは一瞬制止しようと考えたが、魔神のことで動揺していて、ついそのまま見過ごしてしまった。
「魔神様、復活おめでとうございます」
「魔神様のお姿を拝見できて感無量です」
「ああ、これで世界は我らのものに!」
魔神のもとに着いたジャヴォルたちは、これでもう大丈夫だとばかりに安堵の表情を浮かべている。
永年の悲願だった魔神復活も成就し、完全にお祝いムードだ。
その浮かれた様子を見ながらも、メジェールたちは動くことができない。
「ジャヴォル、よくやった。お前たちのおかげで力を取り戻すことができた。お前たちには褒美をやろう」
「ははっ、ありがたき幸せ」
魔神がジャヴォルたちに褒美を与えるという。
いったい何が起きるのか?
メジェールたちは警戒しながらその成り行きを見守る。
すると、信じられないような光景が目に映った。
魔神が何気なく手を上げると、いきなりジャヴォルたち6人がぺしゃんこに潰れてしまったのだ。
どれほどの力でプレスされればそうなるのか、厚みなどまるでないペラペラの状態だ。
メジェールたちは、地面に残った赤黒いシミを呆然とした表情で見つめる。
「ア……アンタの信者なんでしょ? 復活させてもらったのに、なんで殺したのよ!?」
やっとの思いで声を搾り出すメジェール。
自分がこれほど恐怖に怯えるのは初めてかもしれない。
それを悟られないように、必死に冷静を装う。
「そうだ。だからひと思いに殺してやったのだ。我なりの慈悲でな」
コイツ……間違いなく魔神だ。
人間がコントロールできる相手じゃない。
メジェールたちは、もはや戦いは避けられないことを覚悟する。
「まったく無能なヤツらであった。余計な計画など立てず、始めから魔法陣を発動しておれば、もっと早く我も復活できたであろうに……。さて、では手始めにお前たちを皆殺しにしてやろう」
魔神がそう言い終えた瞬間、先頭にいたメジェール、ゼルマ、ネネの3人がとっさにその場を離れる。
直後、今までいた空間が何かに押し潰された気がした。
強者の持つ直感で、かろうじて攻撃を躱したのだった。
「ほう……これは面白い。この世界にもお前たちのような者がいるとはな」
「みんなその場を離れて! 止まっちゃダメ、見えない攻撃が来るわ!」
メジェールが全員に指示を出す。
魔神は何か謎の力を操っている。さっきジャヴォルたちを殺したのもこの能力だ。
不可視の攻撃ではあるが、ただ、能力を発動するとき魔神は手を動かしていた。
攻撃の方向に軽く手を向けるだけだが、これが発動の合図なら、躱すことも不可能ではなかった。
「ふむ、いいだろう。我はいま大変機嫌が良い。我の力を思い知らせるため、少し遊んでやる。だがその前に……」
魔神が大きく息を吸い、両手を握りしめて全身に力を入れる。
すると、地面が激しく揺れだした。
「なっ、なんなのこの地震は!?」
「くっ……でかいぞっ! まさかこの洞窟を破壊してオレたちを生き埋めにするつもりか!?」
かつてないほどの大地震に、エンギが洞窟の崩壊を危惧するが、魔神の狙いはそれではなかった。
自分が元いた世界から手下たちを喚び寄せるため、魔力を使って異界のゲートを開いたのだった。
これにより異界の魔力も魔神に流れ込むので、さらにパワーアップすることもできる。
何が起こっているのか、この場にいるメジェールたちには理解できなかったが、とてつもなく状況が悪化していることだけは感じていた。
「外のことはこれでよいだろう。配下の者たちに任せておけば、この程度の世界などすぐに制圧できる。では待たせたな、今から余興を始めるとしよう」
大地の震動が収まり、魔神は意識をまたメジェールたちに向ける。
それを受け、メジェールたちも戦闘を開始した。
「言っておくけど、アタシたちをナメないほうがいいわよ。ここにいるのは、この世界最強クラスのメンバーなんだからね」
メジェールがあえて魔神を牽制する。
これは少しでも自分たちを警戒させ、戦闘時間を長引かせるためだ。
戦わなくても分かる。この魔神には、自分たちでは敵わない。
逃げることすら難しいだろう。
だからユーリが来るまで時間を稼ぐしかない。
メジェールが持つ『天眼』は、相手の力をある程度見極めることができる。
正確な解析は無理としても、自分より強いかどうかくらいは判断できた。
ところがこの魔神は、『天眼』で見ても何も分からなかった。
ここまでまったく解析できないのは初めてのことだ。
そしてもう1つ。
メジェールは現象がゆっくりに見えるスキル『思考加速』を持っているが、その能力をもってしても、魔神の動きがスローにならない。
これも初めてのことだった。
間違いなく、今まで戦ってきた敵とは異質な存在だ。
魔神の強さは一切不明だが、これらのことからも到底勝てる相手とは思えない。
魔神の謎の力に困惑するメジェールだが、ほかのメンバーも同じように戸惑っていた。
「お、おかしいですっ、わたしの空間魔法が全然反応しませんっ!」
「ワシの能力も何も発動せぬっ!? 空を飛ぶことすらできぬとは……!」
「わらわも精霊が喚び出せない! 何故じゃ!?」
「むっ、確かに、オレも魔弓術が使えんっ! 何1つ技が出ない……!」
「ネネも影が操れぬ! いったい何が起こっているのだ!?」
久魅那、ゼルマ、サクヤ、エンギ、ネネも、スキルや魔法などの特殊能力が使えなかった。
リノたちも同じだ。
全員が為す術なくただ魔神の攻撃から逃げるだけとなっている。
「ククッ、慌てているようだな。この世界の者は知らぬだろうから教えてやるが、我に見られた者は特殊な力が全て無と化す。我の前ではどんな強い能力も無効なのだ」
「な……なんですってえええっ!?」
衝撃の事実を聞いて、メジェールが思わず絶叫した。
ほかのメンバーは、ショックで言葉も出ない状態だ。
この世界での強さは、スキルや魔法の能力で決まるといっていい。
もちろんベースレベルも重要だが、強力な特殊能力こそが強さのカギだ。
強い者は例外なく強い能力を持っている。
勇者のスキルも、魔王との戦いには必須のものだ。
それがこの魔神の前では使えない?
まさかユーリの能力も、この魔神には通用しないのか?
この魔神バルベロが持つ力――それは『虚幻眼』という、相手の特殊能力を完全無効にする能力だった。
魔神の目に見つめられただけで、特殊能力は全て封じられてしまう。
たとえユーリであろうとも同じだ。
そして魔神には前後3つの顔にそれぞれ3つの目が付いているため、どこにいようともその視線から逃れることはできない。
つまり、基礎ステータスのみで戦うことになる。
そのことをすぐに理解するメジェールたち。
この状態では、久魅那の空間魔法を使って逃げることも不可能だ。
思わぬ事実を知って血の気が引いた彼らだが、少し落ちつくと、諦めるのはまだ早いと考え直す。
自分たちの能力が封じられたのは痛いが、ステータス勝負となっても、絶望的な状況ではないかもしれない。
メジェールたち『眷女』は、ユーリの『眷属守護天使』の効果でレベル999のステータスとなっている。
いわゆるカンスト状態だ。
ユーリがこの魔神に見られたら、ユーリのスキルは全て無効化されてしまうため『眷属守護天使』の効果もなくなってしまうが、現状では問題なかった。
特にメジェールは、『レベル999の勇者』だ。
真の覚醒をしてないとはいえ、過去においてもこんな高レベルな勇者など存在したことはない。
通常の勇者はレベル200にもいかない。よって、ステータスだけで言うなら歴代最強だ。
魔神を倒すのはともかく、時間を稼ぐだけならなんとかなるかもしれない。
「みんな、ユーリが来るまでなんとか持ち堪えるのよ」
「分かってる! 逃げるのは得意なんだから!」
リノが力強く返事をする。
ユーリは迷宮にいるため『魔導通信機』でも連絡が取れなかったが、この異変にも気付いているだろうし、迷宮攻略が終わっているなら、そう時を待たずしてユーリから連絡が来るはず。
ユーリの状況が分からないため、メジェールたちはとりあえず魔神の攻撃を避けることに集中した。
その魔神の攻撃の正体は、『思念爆撃』という念動力に近いものだった。
魔神のもう1つの力――それは『思念創型』という能力で、思念によって空間固体ともいうべき不可視の物体を作り上げる。
これは非常に硬質であり、アダマンタイトをもってしても破壊するのは難しいほど。
この力を応用して、ターゲットの近くに空間固体の基点を定め、そこから爆発的に空間を凝固しながら広げて目標を押し潰したりするのが『思念爆撃』だ。
非常にやっかいな能力ではあるが、発動する方向には手を向けるので、ここにいるメンバーならかろうじて避けることくらいはできた。
そして自分たちの特殊能力が使えないなら、地道に通常攻撃でダメージを与えるしかないわけだが……。
「まるで当たらないわ! なんなのコイツ!?」
体長20mの巨体ながら、魔神は10人からの攻撃を軽々躱していく。
そして指で軽く弾くように攻撃をすると、それを受けた者は激しく吹き飛ばされて地を転がった。
『思念爆撃』を喰らうよりはマシだが、けっして小さいダメージではない。
というより、『思念爆撃』を使わないで戦ったほうが魔神は強いかもしれない。
魔神が本気になれば、恐らく一瞬でメジェールたちは蹴散らされてしまうに違いない。
完全に遊ばれているようだった。
「レベル999の勇者であるアタシが、こんなに手も足も出ないなんて!」
勇者メジェールのレベル999ステータスは、ユーリがレベル999だったときのステータスより遥かに高い。恐らく数倍の数値だろう。
メジェール以外も、ステータスだけなら歴代最強クラスが揃っている。
特に『吸血姫』であるゼルマは、メジェールに匹敵するステータスの持ち主だ。
これほどのメンバーが揃って、まったく相手にならないとは……。
倒せないのはしょうがないとしても、魔神にかすることすらできなかった。
「何も不思議がる必要などない。我とお前たちでは素のステータスが違いすぎるからな」
魔神の言葉にハッとするメジェール。
確かに、それについては深く考えていなかった。
『天眼』で何も分からなかったため、相手の基礎能力値を意識しなかったのだ。
少しでも何かを感じれば、だいたいの数値を感覚的に理解したりするのだが。
何せ魔神だ、とんでもないステータスでもおかしくない。
HP(生命力)は100万以上あるだろう。いや200万を超えるかも……。
ちなみに、一般的な冒険者(戦士系)のHPはだいたい300前後である。
上位冒険者ならHP1000くらいだ。
ほかSTR(筋力)などの各数値は、かなり優秀な者でも2~300程度。
最上位冒険者である『ナンバーズ』のエンギなら、
【エンギ:魔弓士】 Lv124
HP(生命力) 3610/3610
MP(魔力量) 1312/1312
STR(筋力) 1004
STA(体力) 985
VIT(耐久) 828
AGI(敏捷) 1132
DEX(器用) 2090
RES(反応) 888
INT(知性) 616
MAG(魔力) 593
CDF(異常耐性) 750
MDF(魔法耐性) 541
LUK(幸運) 277
といった感じである。
人類最高ステータスであるメジェールは、
【メジェール:勇者】 Lv999
HP(生命力) 98150/98150
MP(魔力量) 72900/72900
STR(筋力) 29030
STA(体力) 31400
VIT(耐久) 28520
AGI(敏捷) 33310
DEX(器用) 29660
RES(反応) 35100
INT(知性) 27580
MAG(魔力) 28170
CDF(異常耐性)40950
MDF(魔法耐性)26720
LUK(幸運) 24500
この数値まで成長しているが。
そもそもステータスだけでは強さは決まらないため、それほどこだわる必要もないのだが、この魔神戦においては非常に重要なファクターとなってくる。
あまりに差があるようでは、特殊能力が使えない現状では完全に絶望的だからだ。
魔神は、いったいどの程度の数値を持っているのか?
「クククッ、我のステータスが気になるようだから特別に教えてやろう。我のHPとMPは9999999、その他の数値は全部999999だ」
その場にいる全員が静かに息を呑んだ。
***********************************
本日コミカライズ第13話が更新されました!
今回の見どころは超エロ可愛いリノと、嫌そうな表情をしているリノの顔芸ですw
ユーリがイケメン冒険者にキュンとトキめいてるようなシーンもありますw
かっちょいい敵も出てきますので、是非ご覧になってくださいませ。
第419話のステータスについて分かりづらい項目があるので、少し説明をします。
RES(反応)は反応速度のことで、レスポンスから取ってます。
CDF(異常耐性)はコンディション・ディフェンスで、
MDF(魔法耐性)はマジック・ディフェンスです。
ほかは一般的なステータス項目と同じです。
次の更新も少し遅れそうなので、気長にお待ちくださいませ(^^;
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※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
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☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
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青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
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青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
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【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
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【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
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