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書籍未収録② 勇者とデート編

5.レアスキル頂きました

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 僕とメジェールが昼食を終えて店を出ると、そこには午前中に因縁をつけてきた金髪男テイミッドが待ち伏せていた。
 ご丁寧に、新たな護衛を引き連れてだ。

 その護衛――イグバランという男は、フリーデン武闘大会で3連覇したほどの剣士らしく、なるほど、さっきのドチンピラさん達とは違ってかなり強いようだ。
 解析で見た限り、SSSランク冒険者以上の力はある。

 ただし、冒険者が持つような大味なスキル構成では無く、全体的にスキルがコンパクトな感じだ。
 要するに、モンスター相手に戦うのでは無く、対人戦闘用にスキルが育ててある。

 どういう事かと言うと、モンスターを相手にするときは、大きさや硬さやパワーに対抗するため、細かい技よりも威力重視になってくる。
 それに対し、対人戦だとそこまでの威力は必要無いので、技のスピードや精密さ、フェイント、急所の狙い方などが重要だ。
 イグバランのスキルはそういう強化のされ方をしていた。

 そして、『加速アクセル』というSランクスキルを持っている。
 総合的に見てなかなかの強さで、冒険者以外にも色々強い人が居るってことですね。


「さあどうする小僧? 大人しくその女を渡したら、お前は半殺しくらいで許してあげるよ。本来はボクに逆らったら死刑だからね。それとも、このイグバランと戦って殺されたいかい?」

「いや、だから、そんなこと言われても困るんですけど……」

 また返り討ちにするのも簡単だけど、あまり貴族とは揉めたくないんだよね。
 なんとか穏便に終わらせて、イグバランって人の『加速アクセル』だけスキルコピーしたいところだ。

「何、コイツらアタシが殺していいの?」

 やばっ、しつこいテイミッドに、メジェールがキレ掛かってる。
 1度ならず2度までもデートの邪魔をしに来たからね。
 さっきのダブルストロー飲みで上機嫌なところにコレだから、メジェールの怒りも相当だろう。

 まあどうしても諦めてくれないなら、仕方ないから叩きのめすけどさ。
 ぐずぐずしてるとメジェールが暴れ出しそうだから、その前にさっさと決断しよう。
 ……と、1つだけ確認しておかないと。


「あのうイグバランさんでしたっけ? 先に因縁を付けてきたのはテイミッドさんでして、このメジェールを貸して欲しいと無理矢理言ってきたんです。僕は正当防衛をしただけなんですが、それでもテイミッドさんに力を貸しますか?」

「下賤な人間のクセに、どの口でそのようなふざけた言葉を吐く? お前などに断る権利は無い、オレに殺される前にさっさとその娘を差し出すがいい」

 あ、全然ダメだこの人。
 素晴らしい腕の剣士だし、少しは騎士道精神みたいなのがあるかと思ったら、めちゃくちゃ邪悪な心だった。
 解析で分かるけど、僕のこと結構本気で殺す気で来ているし。
 シャルフ王の国なのに、こんな人が幅を利かせてるんだな。少し残念だ。

 ということで、スキルは遠慮無く強奪させてもらおうかな。
 話の分かる人だったら、スキルコピーでそのまま終わりにしようと思ってたけどね。

 移動するのも面倒なんで、ここでやっちゃおう。
 幸いこの辺は人通りも少ないし。


「じゃあイグバランさん、諦めてくれないようなので仕方なくあなたと戦いますけど、準備はイイですか?」

「オレと戦う? 武闘大会3連覇のこのオレと? ぐははは、なんていう命知らずなガキだ。昨年からさらに力を付けたこのオレは、もはや世界最強剣士と言っても過言では無いのに。シャルフ国王ですら、今のオレの敵では無いだろう。準備なんてオレには必要無い、いつでも掛かってくるがいい。だがオレと戦って片腕程度で済むと思うなよ? お前のような生意気な小僧は、両手両足を斬り落として苦しませた後バラバラに刻ん……」


 えい、チョップ!

「んごげ」


 話が長そうだから、途中だけど攻撃させてもらった。
 いつでも掛かってこいって言ってたしね。

 我ながら上手に手加減出来て、一撃で殺さずに気絶させることが出来た。
 ……あ、いや、コレ首の骨折れてるぞ!? やばい!

 急いで回復魔法で治療をする。
 強い人相手だと、手加減が本当に難しいんだよね。ゆるくやり過ぎたら回避されちゃうし、耐久も高いからそれなりに強く攻撃しないとダメだし。

 あああこれ、完全に元通りには治らないかも。
 後遺症残っちゃうかもなあ……やり過ぎちゃった、ゴメンナサイ。
 上手な首の骨の折り方、本当にメジェールに教えてもらった方がいいのかもな。


 取りあえずざっと応急手当をして、このイグバランからは全スキル強奪させて貰った。
完全回復薬エリクシール』か『神遺魔法ロストマジック』を使えば完治出来るけど、そしたらもう一度叩きのめさないといけなくなりそうだし……。

 まあ命に別状は無さそうなんで、これでいいだろう。
 生活に支障が無いくらいは動けると思うけど、武闘大会4連覇は諦めて下さい。

 治療であたふたしているウチに、いつの間にかテイミッドは居なくなっていた。
 逃げ足だけは素速いなあ。

「あのねユーリ、返り討ちにしたのはいいけど、連れてる女性が狙われたらまごまごしないで『オレの女に手を出したらこのオレが許さない』って言うの! それがエチケットってものよ。分かった?」

「はい、以後そうします……」

 そういうケンカ腰なのは苦手なんだけど、でも確かに女の子を守るためには強い姿勢を示した方がいいのかもね。
 女の子も不安だろうし……ん? いや僕の場合はなんか違うな。
 メジェールが暴れると相手を殺しかねないから、相手の命を守るために僕が叩きのめしてあげてるんだよな。

 まあそれでも、相手に宣言することが大事なんだろうな。
 メジェールがそれで喜ぶなら、次こんな事があったらちゃんと言ってあげよう。


 戦いの後始末をしたあと、次の場所に移動しようとすると、メジェールがすっと横から腕を組んできた。

「むふ♪ 散々留守番してたんだから、これくらいはいいわよね?」

「う、うん、まあ……そうかな」

 色々と邪魔の入るデートだけど、メジェールはまんざらでも無いようだ。
 いつもツンツンしてることが多いメジェールだけに、ふと年相応の無邪気な笑顔を見せられると、結構ドキドキしちゃうね。

 リノ達のこともそうだけど、こんなに慕ってくれてるなら、僕も感謝の気持ちを返してあげないとダメかもなあ。
 でも、魔王軍に対する気持ちが途切れちゃいそうで怖いんだよね。

 エーアストを奪還出来たら、きっと何かが変わると思う。
 それまでは、このまま前進し続けよう。


「ユーリ、次はあそこの舞台を観に行こうよ!」

 僕たちは大きな劇場で、恋愛物のお芝居を観劇することにした。
 当然、リノ達もこっそりと付いてきている。

 こんなのも、高等学校の学校行事で観に行った以来だな。
 結構長い演劇で、前半と後半の間に一度休憩を挟んで公演している。

 物語のクライマックスでは、メジェールが感動して泣いていた。
 こういうところはやっぱり女の子なんだなーと思ってたら、リノ達も泣いてるような気配を感じるぞ。
 少し離れたところで観ているようだけど、彼女たちの感情も伝わってくる。
『眷女』だからかな。

 フラウが感極まってズビズビ鼻をかんでるようだ。
 まあ楽しんでいるようで何より。


 舞台を見終わると、日もだいぶ傾いて夕方に差し掛かっていた。
 暗くなる前には帰るので、このデートにもそろそろ終わりが迫っている。

 強引に連れ出されてしまったけど、いま僕はとても寂しさを感じていた。
 メジェールと合流してからもう何ヶ月も経ってるけど、こんな気持ちになるのは初めてだな。

 今日はいい1日だった。
 あとは最後のシメをしっかりしよう。


「ユーリ、アタシ行きたいところがあるんだ! ちょっとだけ時間掛かるけど、いいでしょ?」

「どこへでも付き合うよ」

 僕たちは馬車に乗って移動した。
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