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書籍未収録① 究極の称号編

5.万能薬

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 精霊王を召喚した少女――サクヤの心臓には、重度の障害があった。
 その上、ギュンターという男の仕業によって、サクヤの身体には限界を超える負担が掛かってしまった。
 今すぐに治療しなければサクヤは死んでしまうだろう。

 最高の回復薬『完全回復薬エリクシール』は、傷の治療や体力・魔力の回復には役立つが、病気には効かない。
 もちろん、通常の回復魔法も、この状態には無意味だ。

 神聖魔法に軽度の病気を治す魔法はあるが、それ以外の病気となると、医療スキルを持つ医者が治療を請け負うことになる。
 しかし重度な病気は、上位医療スキルを持つ医者でも治療が難しく、薬によって症状を抑えるだけの対症療法しか出来ないのがほとんどだ。
 最高レベルの名医だと、身体を裂いて臓腑を治療する技を持つというけど、果たして世界でもそれを出来る医者が何人居ることか……。

 実は迷宮の最下層で手に入れた宝に、古代の植物の種があったんだけど、解析でちらりと見たら、それは『パナシーア』という幻の植物だった。
 今ではもう絶滅してしまったが、様々な病気を治す薬草だったらしい。
 いずれ使う機会があるかもと思っていたんだけど、まさかこんなに早く使う機会が訪れるとは。

 僕は『パナシーアの種』を触媒にして、『魔道具作製』スキルで治療薬の作製を試みる。
 レベル10まで上げた魔道具作製スキルとこれほどの素材があれば、きっと治す薬が作れるはず。
 ほどなく、レシピすら失われた伝説の薬、あらゆる病気を治すという『万能薬』を作ることが出来た。

 ポーションの効果=傷付いた細胞を神秘的な力で修復するなら、この『万能薬』は異常細胞を正常な状態へと変化させる効果がある。
 様々な病を治すほか、毒や麻痺などの異常状態からの回復や、細菌感染に対する除去(滅菌)効果もあるらしい。
 ただし、傷の治療は出来ないようで、それはポーションの領域なようだ。

 この『万能薬』でサクヤの心臓は治るはず!


「さあサクヤ、コレを飲んでみて」

 万能薬を水で溶いた物を、意識が朦朧となっているサクヤに飲ませる。
 絶対に効くはずだ。その効果を、僕たちは固唾を呑んで見守る。

「う……ふう……う……」

 サクヤの呼吸が少しずつ整い始め、身体に生気が戻ってきた。
 解析で診ると、肥大気味だった心臓が縮小し、激しかった鼓動も正常になっている。
 そして大きく1つ呼吸をすると、サクヤは目を覚ました。

「わらわは一体……」

「サクヤ様!? 意識が戻った!」

「良かった……生き返ったのね」

 マグナさんとシェナさんがサクヤを抱きしめる。


「シェナさんてば、サクヤは元々死んでないよ。それに、意識が戻っただけじゃ無く、病気も完治してるはず」

「病気じゃと……あ、あれ、わらわの胸が苦しくない。普通に呼吸が出来るぞ」

「本当ですか、サクヤ様!? さすが……さすがユーリだ!」

「ゆーり……? お、お前は魔王! 何故わらわのそばに居る!?」

「サクヤ様、この少年ユーリは魔王ではありません。それに、サクヤ様のご病気を治したのもこのユーリですよ」

 驚くサクヤに対して、シェナさんがやさしく諭してあげる。
 サクヤはいま何が起こっているのか、状況を理解出来ていないようだ。
 結界を破壊された魔道士達は遠巻きに僕らの様子を窺っているし、スキルを失ったギュンターは未だ呆然と立ち尽くしている。


「心臓に病巣があったので、僕の薬で治しました。ただ、異常だった血流量が正常になった事により、以前のような魔力はもう出せないと思います。あの精霊王たちはもう召喚出来ないでしょう」

「なんじゃと!? では、もう魔王おまえを倒すことが出来ないというのか!? おのれなんということを……!」

「サクヤ様、違います。本物の魔王はこのユーリが倒してくれるのです。もう一度このユーリを見て下さい。聖なる力を感じるでしょう?」

 シェナさんに促されて、サクヤが僕のことを――僕の目の奥を覗き見るようにじっと見つめた。

「ほ……本当じゃ! これはなんという神聖な力……。だがこやつが魔王で無いなら、なぜ迷宮口の封印が解かれたのじゃ? 勇者か魔王でも無い限り、アレは解けぬはず?」

「だから、このユーリは勇者や魔王以上の力を秘めているのです。アタシ達はそれを間近で見てきました」

「そうです。このユーリが本気になれば、ここに居る魔導兵団など一瞬で亡き者にされるどころか、精霊王達ですらまるで相手にならないでしょう」

「な、なにをほざくか! 我が魔導兵団を愚弄しおって……! お前達、コイツらをイオの秘奥義で葬り去れ!」

 黙って聞いていたギュンターが、突然我に返って魔導兵団をけしかけた。
 何故この男は、そこまで僕を倒すことに拘るのか?
 あとに引けない何かがあるのか?
 ギュンターの命令を受けて、魔導兵団がまた何か複合魔法を使おうとする。


「まだやるのか? どうしても戦うというならもう手加減はしない。皆殺しにするがどうする!?」

「お、おっ、がっ……ひいっ……!」

 僕は魔道士達に向かって強烈に威圧を放った。
 それを受けて、近くに居る魔道士から順番に腰を抜かしていく。

 もちろん、皆殺しになんてする気は無いが、ハンパな対応をしていては話が進まない。
 まずは一度、恐怖で黙らせる。でないと、話を聞いて貰えないだろう。

 しばらくすると、魔導兵団からは完全に殺気が消え失せた。
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