上 下
86 / 258
書籍未収録① 究極の称号編

2.精霊の王を喚ぶ少女

しおりを挟む
「サクヤ様っ!」

 ギュンターという男に促されて魔道士集団から現れたのは、艶やかな黒髪を肩口あたりでおかっぱに切り揃えた、15歳くらいの少女だった。
 あの男――宰相が気を遣うような存在の少女とは一体……?

「ギュンター宰相、この少年は本当に魔王ではありません! だから、サクヤ様にお力は使わせないで下さい!」

「そうです、サクヤ様のお力は、ここで使うモノではありません!」

「そう吠えるな姉妹よ、今お前達ごと魔王を葬ってやるからに。ではサクヤ様、お願い致します」

 ベルニカ姉妹が慌てて何かを制止している。
 少女の力? 何か特別な力を持っているのか?
 僕は『真理の天眼』で解析してみた。

 こ、これは……この少女、『鬼巫女』という称号を持っている!
 聞いたことが無い称号だけど、なんと『剣聖』や『統べる者』と同じくSSSランクだ。
 能力は……上位精霊の召喚だって!?


「ユーリ、サクヤ様は魔導国イオの姫様で、代々特殊な能力を受け継がれている血族のお方だ。その力は強力無比な精霊を召喚し、中でもサクヤ様は、歴代最強とも言える潜在能力をお持ちなんだ」

「ただ、サクヤ様は重い病に冒されていて、ずっと寝たきりなのよ。もしそのお力を使えば、死んでしまうかも知れない」

「なんだって!?」

 それじゃ、こんな所で無駄に力を使わせるわけにはいかない。
 どうすれば僕が魔王じゃないって分かって貰えるんだ?

「魔王よ……わらわが生きてきた証としてお前を滅ぼす。わらわはそのためだけに、今まで必死に生きながらえてきたのだ。その使命を果たせるのなら、わらわは死んでも構わない」

「待って、サクヤ様!」

「よせ、やめるんだっ!」

「霊王召喚!」


 僕たちが必死に止めるのも構わず、そのサクヤという少女は称号の力を解放してしまった。
 夕焼けに染まっていた赤い景色が灰色の空虚な世界へと変わり、地面に浮き上がった黒い魔方陣から召喚された精霊が浮上してくる。

 コイツは……。


「火焔神『闇の炎王カオスイフリート』よ、その力で魔王を焼き尽くせ!」


 それは黒い炎を全身に纏った、火の精霊の王だった。
 その体高は10mを超え、あらゆる生物を超越した存在――漂う神のオーラに背筋が凍りつく。

 こんな凄いヤツをあの少女が召喚したのか!?
 まずい! コイツ、いやこの精霊王かなり強い!
 ここで戦えば、僕はともかく、リノ達やベルニカ姉妹が危険だ。

極限遮断障壁フローレスシールド!」

 僕は素速く詠唱して、熾光魔竜ゼイン戦の時に使った結界をリノ達に撃ち放った。
 今の僕が持つ最強の結界だ。
 しかし、僕の能力は相手の結界によって5%ほどダウンさせられている。
 この最強結界でも万全では無い。

 なので、急いでリノ達に下がるように指示し、僕だけで『闇の炎王カオスイフリート』へと突進していく。
 目的は僕だろうから、わざわざリノ達を狙うようなことはしないだろう。

 その推測通り、『闇の炎王カオスイフリート』は僕に向かって攻撃を放つ。
 一瞬全身が光ったかと思うと、超高熱の波動が一気に僕へと押し寄せた。


「ユーリっ!?」

「ユーリ様っ!?」

「ぐはははっ、見たか炎の王の力! 魔王よ、永遠に滅ぶがいいっ! マグナ、シェナ、魔王と共に散ったお前達のことは末永く語り継がれることだろう。安心して死ね」

闇の炎王カオスイフリート』は全身にらせん状の炎をまといながら、紅蓮、青白、橙色、赤紫、白光など、様々に色を変えて猛炎を放射している。
 その名も『極彩色の炎柱オーロラ・エクスプロージョン』。
 あまりの高熱に、周りの景色が大きく波立つように揺らめく。

 その余波は50m離れた魔道士達にも届いているはずだが、恐らく耐熱結界を張ってあるのだろう。
 それでも抑えきれぬ熱風に、魔道士達の表情は歪んでいる。

 確かに凄いが……解析した限りでは、熾光魔竜ゼインのブレスの方が強烈だった。
 なので、この程度では僕は倒せない。
 しかし、問題は相手『闇の炎王カオスイフリート』だ。

 精霊王ということでまさに神様、全ての生物を超越した『不死の存在イモータル』で、普通にやったんじゃ倒せない。
 重力魔法も効かないようだし、『冥霊剣エリュシオン』の力も無反応、もちろん『呪王の死睨』など通用するわけも無い。
 正直お手上げではあるのだが……。

 実は現世で精霊を実体化出来る時間は有限で、僕が何もせずとも、しばらく耐えていればそのうち『闇の炎王カオスイフリート』は精霊界へ還る。
 つまり、無理に倒さなくても、それまでじっと待っていればいいわけだ。
 ただし…………

「がふっ、ぐううっ……」

「サクヤ様っ!?」

「おおおサクヤ様、あと少しの辛抱ですぞ。死ぬなら魔王を倒したあとです」

 そう、あのサクヤという少女が、このままでは力を使い果たして死んでしまう。
 僕たちの説明は一切聞いてもらえないし、かといって倒されたフリなどしても、簡単には騙されてくれないだろう。
 手遅れになる前に、何か手を打たなくては。

 サクヤという少女が力尽きる前に、あの『闇の炎王カオスイフリート』を倒す?
 どうやって!?


 火の精霊だけに水属性魔法がよく効くはずだが、『不死の存在イモータル』が相手では、たとえ界域魔法を放ってもそうは簡単には倒せない。
 界域魔法は詠唱破棄が出来ないので、連発するにも時間が掛かる。
 その間に、相手はダメージを修復してしまうだろう。

神遺魔法ロストマジック』にある『超人化ハイパー』という魔法なら、一時的に僕の全能力を限界まで引き上げてくれる。
 ただ、『超人化ハイパー』はあまり長時間は使用出来ず、そして終了後には反動がドッと来るので、勝算も無しに無闇に使うわけにはいかない。
 それに、あの『闇の炎王カオスイフリート』には物理攻撃が無効なので、無駄に全部を強化してしまう『超人化ハイパー』はあまり適切ではないように思う。
 必要なのは強い魔法力だけだ。

『無限吸収』を持っていたアピだったら、ひたすら『闇の炎王カオスイフリート』の攻撃を吸収してくれたんで、その間に色々出来たかも知れないが……。
 リノ達を守りながら戦っているから迂闊な行動も出来ず、僕の行動にどうしても制限が出来てしまう。
 当然、『奪われし者の地獄ピュア・マーレボルジェ』という結界を破ることもこのままでは不可能だ。

 だけど、僕はそれでもリノ達がそばに居てくれるのは嬉しい。
 何故なら、何かあった時に近くに居てくれれば、僕が守ってあげられる。
 カイン達クラスメイトに襲われた時、改めてリノ達の存在が大きいことが分かった。

 僕の居ないところで、リノ達がもし襲われたらと考えるだけで胸が苦しくなる。
 ふとゼルドナに残してきたメジェールの事が頭に浮かんだ。
 強い勇者だと思って放っておきがちだけど、もっとメジェールの事も心配してあげないとダメだな。


 いけね、戦闘中なのにセンチな気分になっちゃった。
 改めて考えよう。あのサクヤって子を助けるにはどうしたらいい?


「ユーリ、サクヤ様を助けてやってくれ、お前なら、お前なら絶対出来る!」

「お願いユーリ!」

 ははは、精霊の王様が相手だっていうのに、ベルニカ姉妹はもう僕が負けるなんてちっとも思ってないようだ。
 その期待には応えないとね。


 よし、この手で行ってみよう!
しおりを挟む
感想 677

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた エアコンまとめ

エアコン
恋愛
冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた とエアコンの作品色々

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ある日無職を職業にしたら自宅警備員になったのでそのまま働いてみました

望月 まーゆ
ファンタジー
西暦2117年。 突如現れた社会ゾンビクリーチャー。 その対処に困った政府が白羽の矢を立てたのは引きこもり世代と呼ばれる無職の若者達だ。 この時代になりたくない職業、警察官・自衛官がトップを占めていて人員不足。 その穴埋めの為、自宅警備隊制度を導入した。 僕、神崎カケルも漏れなく自宅警備員として働く事になった。 更に入隊前に行われる魔導適性検査結果がランクAと判明する。 チート能力【 レイブル 】を使いこの新トーキョーを守る!! ☆が付いている話は挿絵ありです。あくまで雰囲気がわかる程度です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。