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第8章 英雄の育成
第403話 アリーシアの想い人
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「ここがファーブラ国立劇場か、大きいなあ……」
先日アリーシアからチケットをもらったので、早速その舞台を見にファーブラ王都中央にある大きな建物に来た。
観劇専用に作られたその施設は2階3階席もあり、観客の収容人数は世界でも2番目に多いという話だ。
ちなみに、世界最大の劇場はグランディス帝国帝都にあるとのこと。
劇場を見上げてみると、その建物正面には宣伝用の大きな看板が貼り付けてあって、そこには公演されている舞台の題名が書いてあった。
それを見た僕は、思わず二度見をしたあと、大声を上げてそのタイトルを読み上げてしまう。
「ま……『魔王ユーリの伝説』~っ!?」
若いイケメンの役者と美しい少女、そしておどろおどろしい悪魔たちが描かれている看板絵には、間違いなくそのタイトルが書かれていた。
『魔王ユーリの伝説』って、そんなのが舞台になってるのか!?
アリーシアからもらったチケットにはタイトルや公演内容は書いてなく、金色の紙に『特等優先席』とだけ印刷されていたので、どんな劇なのか知らなかった。
まさか『魔王ユーリ』の舞台だとは………………。
ちょっと待て。
こんなチケットを僕にくれたということは、ひょっとしてアリーシアは僕の正体に気付いてるんじゃないのか?
だとしたらまずいな。
まあいい子だから、頼めばきっと内緒にしてくれると思うけど……。
とりあえず、こんな舞台を見に来る客たちだ。
僕の正体を誰に気付かれるか分かったものじゃない。
万が一を考え、変装用の伊達メガネをかけて僕は建物に入るのだった。
◇◇◇
「ユーリ様、あなたは魔王ではなかったのですね? わたくしを……いえ、この世界を救いに来てくださった救世主様だったのですね!」
「そうです、ソフィア姫。さあ、あとは本物の魔王を倒すだけ。それにはあなたの力が必要です。この私にあなたの力を貸していただけませんか」
「もちろんです。わたくしの全てをあなたに捧げます」
主人公ユーリ役の俳優に、ヒロインの少女が抱きつく。
ヒロイン役を演じているのはもちろんアリーシアだ。
この場面は物語のハイライトのようで、囚われになっていたソフィア姫のもとに『魔王ユーリ』が単身で駆け付け、無事救い出すシーンだ。
その迫力ある演技に、観客席は息を呑んでしんと静まりかえっている。
舞台の内容は実際とは違ったオリジナルストーリーで、『魔王ユーリ』の正体は『真の勇者』という設定になっており、愛と戦いがちりばめられた冒険活劇だった。
かなりお金もかけられているようで、有名な役者や豪華な舞台セットも含め、その素晴らしい劇を最前列の特等席で堪能させてもらっている。
そして物語は魔王軍との最終決戦――クライマックスへと突入していく……。
『魔王ユーリ』の劇ということで少し不安はあったけど、とても好意的な内容だったので安心した。
こんな大きな公演で『魔王ユーリ』の恐ろしさとか演じられちゃったら、それを信じてまた怖がる人が出てくるかもしれないからね。
まあ『魔王ユーリ』はテンプルムの王様だから、失礼な扱いはできないだろうけどさ。ファーブラはテンプルムとも非常に友好的な関係だし。
感動のラストシーンも終えて無事舞台は終了し、その素晴らしい内容に観客からは惜しみない拍手が送られた。
アリーシアの魅力も存分に発揮されていたし、多くの人々から愛されるのも納得の演技だった。
終了後のカーテンコールでアリーシアが現れると、客席からの歓声がまた一段と大きくなる。
そのとき、アリーシアはふと僕のほうを見ると、軽くウインクをしてきた。
ひょっとして僕に送ってくれたのかな? でも、いま僕は伊達メガネをかけてるから気付かないかも?
誰に向けてウインクしたのかは分からないけど、視線の先に該当していた席は大熱狂の状態だ。
もちろん僕の両隣と後ろの客も、思わず立ち上がってアリーシアに両手を振っている。
そのまま舞台に突撃しそうな勢いになってきたので、慌てて警備員たちが現れて舞台前を完全ガードしていた。
そういえば、以前は英雄養成学院にもファンが押し寄せたりして、逮捕者が出たりする騒ぎもあったらしい。
そのあたりは厳重に注意されたようで、今は学院にくるファンはいないようだけど。
出演者たちの挨拶も終え、全員退場して全てが終了したので僕も席を立つ。
実はチケットと一緒に手紙も入っていて、そこには是非楽屋――控え室にも来てほしいと書いてあったので、僕はアリーシアのところに向かった。
◇◇◇
「誰じゃお前は~っ!!」
「す、すみません、すみませんっ」
手紙に書いてあった通り、関係者用の通路を進んで部屋の近くまで行くと、大柄なガードマンにいきなり怒鳴られてしまった。
ど、どうしよう? こういうところに来るのは初めてだから、どう説明したらいいか分からないんですけど?
「あ、あのですね、アリーシアに呼ばれたので控え室にいきたいんですが、どの部屋でしょうか……?」
「この小僧、アリーシア様のことを呼び捨てにするとはいい度胸だ。アリーシア様はお前のようなオタクファンが会えるお人じゃないのだ。痛い目に遭わないうちにさっさと帰れ~っ!」
「は、はい、失礼しました。それじゃあまた……」
めっちゃ怖い……。
どう見ても話が通じる感じがしないので、トラブルになる前に帰ろう。
アリーシアにはあとで説明すればいいだろう。
僕はクルリと向きを変え、いま来た通路を引き返そうとした。
「……ヒロ様? いらしてくれたのですね!?」
とそのとき、少し先にある扉が開いて、アリーシアが顔を出して叫んだ。
ああ、すぐそこにあったのか! 良かった、アリーシアが天使に見えるよ。
「ドズルさん、わたくしに会いに来る方がいるとお伝えしておいたはずですが?」
「い、いえスミマセン、すっかり忘れてました」
あ、ウソだ。解析では、このドズルという男はウソをついてるのが分かる。
うーん……そうか、アリーシアが男と会うと知って、恐らく嫉妬したんだろう。
誰が来ても追い返すつもりだったな?
だけど威嚇のため大きく怒鳴りすぎて、逆にアリーシアに知らせちゃったというわけだ。
まあこれほどのアイドルだ、ついヤキモチ焼いちゃうのも仕方ないか。
「ヒロ様、わたくしからお呼びしたのに手違いが起こってしまって申し訳ありません。さあこちらへどうぞ」
アリーシアが手招きしてくれたので、それに従って僕も控え室に入る。
うう、このドズルという人の殺気が凄いんですけど?
別に邪悪な人というわけじゃないので、本当にアリーシアに心酔してるだけなんだろうな。
恋は人を狂わせますね……。
部屋の中は広くかなり豪華で、さすがトップアイドルの楽屋といったところだ。
そこに僕とアリーシアが2人だけ。
ちょっと意外だったのは、SSSランク冒険者のキリエさんがいないこと。
まあ彼女はあくまでもパワーレベリングのパートナーであって、アイドル活動とは無関係なんだろう。
警備とか少し心配に思ってしまうが、考えてみれば、アリーシアを襲えるような人もそうはいないか。
あのドズルとかいう警備員よりも強いしね。
部屋の中央にある来客用の小さなテーブルに2人で座り、その上にある高価そうなティーカップにアリーシアがお茶を注いでくれた。
僕のためにすでに用意してくれてたようだ。
「ヒロ様、わたくしの舞台を見に来てくださってありがとうございます。いかがでしたか?」
「ああ、凄く面白かったよ。アリーシアの演技も素晴らしかった」
「ふふっ、嬉しいですわ。舞台の上からでもヒロ様のことはすぐに見つけましたので、今日は特に演技に力を入れましたのよ」
そっか、最前列の指定席だったから、僕が来ているのは分かってたのか。
ってことは、やっぱりあのウインクは僕に向けてのものだったのかな?
そうだ、これだけは聞いておかないと。
「あの……『魔王ユーリ』の話だなんて珍しいと思うけど、これを題材に選んだ理由とかってあるのかい?」
「あら、『魔王ユーリ』様は世界を救ってくださった英雄ですわ。舞台化しても当然と思われますけど」
「そ、そうかな? でも、怖い噂とかもあったじゃない? アリーシアはそういうの気にしないの?」
「少しも気になりませんわ。というより、『魔王ユーリ』様のお話はわたくしが演じてみたくて、是非とお願いして実現していただいたんですの」
「ア、アリーシアがやりたかったの!?」
え、アリーシアって『魔王ユーリ』のファンなの?
そういうの初めて会ったな。
待てよ、そこまでファンということは、『魔王ユーリ』の顔を知ってても不思議じゃないぞ!?
やはり僕の正体がバレてる?
「『魔王ユーリ』様のご活躍を聞いて、その強さに憧れましたの。わたくしもそんな強い存在になりたいと」
「ええと……アリーシアは『魔王ユーリ』の顔を知ってるのかい?」
「いいえ、残念ながらご尊顔は存じません。舞台の関係者には、ちらとユーリ様のお顔を拝見したという方もいますが、皆あまり知らないで演じております。そこがユーリ様には申し訳なくて……」
「い、いや、いいと思うよ。『魔王ユーリ』もそのほうが嬉しいんじゃないかな?」
「そうかしら?」
「そそ、そうだよ」
ふーっ、よかった、僕のことには気付いてないようだ。
まあ『ユーリ』の肖像画はないし、魔導影像ももちろんない。
僕を見たという人でも、直接会って話でもしない限り、そう簡単にはバレないはずだ。
「ああ、『魔王ユーリ』様の魔導影像がありましたら、わたくしが全部買い占めますのに……」
「そんなに好きなの?」
「はい、心から愛しております」
「ブフゥーーーーーーーーッ」
いけねっ、アリーシアの爆弾発言を聞いて、思わず口に含んでいたお茶を吹き出しちゃった。
しかし、なんで会ったこともない『魔王ユーリ』をそこまで好きなんだ?
「何故ヒロ様が驚かれるのですか? あ、もしかしてわたくしのこと……」
「い、いや違うよ、大人気アイドルが『魔王ユーリ』のことを愛してるだなんて知ったら、普通驚くって」
「あら、わたくしとしたことが失礼しました。ヒロ様がわたくしに気があると思うなんて、少々自意識過剰でしたわね。でも、大勢のファンの皆様には大変申し訳ないのですが、わたくしの心も体も全てユーリ様のモノなのです」
ごはっ……うっかり口から血を吐きそうになった。
劇中でソフィア姫が『全てを捧げる』とか言ってたけど、アレをもじって冗談を言っているのではなく、アリーシアは完全に本気だ。
こんなことがメジェールたちにバレようものなら、僕は100回殺されてもおかしくない…………あれ、今回に関しては僕にまったく落ち度はないよな?
でも彼女たちは許してくれないだろうな……。
しかし、マズリィンたちとの会話を詳しく聞かれてたら、危うく僕の正体がバレてしまったところだった。
仮にもしバレてもアリーシアなら大丈夫と思ってたけど、逆にアリーシアにだけはバレるわけにはいかなくなったぞ。
僕にとってアリーシアは心のオアシスだと思ってたのに、とんでもない展開になってきたな……。
***********************************
本日コミカライズが更新されておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
先日アリーシアからチケットをもらったので、早速その舞台を見にファーブラ王都中央にある大きな建物に来た。
観劇専用に作られたその施設は2階3階席もあり、観客の収容人数は世界でも2番目に多いという話だ。
ちなみに、世界最大の劇場はグランディス帝国帝都にあるとのこと。
劇場を見上げてみると、その建物正面には宣伝用の大きな看板が貼り付けてあって、そこには公演されている舞台の題名が書いてあった。
それを見た僕は、思わず二度見をしたあと、大声を上げてそのタイトルを読み上げてしまう。
「ま……『魔王ユーリの伝説』~っ!?」
若いイケメンの役者と美しい少女、そしておどろおどろしい悪魔たちが描かれている看板絵には、間違いなくそのタイトルが書かれていた。
『魔王ユーリの伝説』って、そんなのが舞台になってるのか!?
アリーシアからもらったチケットにはタイトルや公演内容は書いてなく、金色の紙に『特等優先席』とだけ印刷されていたので、どんな劇なのか知らなかった。
まさか『魔王ユーリ』の舞台だとは………………。
ちょっと待て。
こんなチケットを僕にくれたということは、ひょっとしてアリーシアは僕の正体に気付いてるんじゃないのか?
だとしたらまずいな。
まあいい子だから、頼めばきっと内緒にしてくれると思うけど……。
とりあえず、こんな舞台を見に来る客たちだ。
僕の正体を誰に気付かれるか分かったものじゃない。
万が一を考え、変装用の伊達メガネをかけて僕は建物に入るのだった。
◇◇◇
「ユーリ様、あなたは魔王ではなかったのですね? わたくしを……いえ、この世界を救いに来てくださった救世主様だったのですね!」
「そうです、ソフィア姫。さあ、あとは本物の魔王を倒すだけ。それにはあなたの力が必要です。この私にあなたの力を貸していただけませんか」
「もちろんです。わたくしの全てをあなたに捧げます」
主人公ユーリ役の俳優に、ヒロインの少女が抱きつく。
ヒロイン役を演じているのはもちろんアリーシアだ。
この場面は物語のハイライトのようで、囚われになっていたソフィア姫のもとに『魔王ユーリ』が単身で駆け付け、無事救い出すシーンだ。
その迫力ある演技に、観客席は息を呑んでしんと静まりかえっている。
舞台の内容は実際とは違ったオリジナルストーリーで、『魔王ユーリ』の正体は『真の勇者』という設定になっており、愛と戦いがちりばめられた冒険活劇だった。
かなりお金もかけられているようで、有名な役者や豪華な舞台セットも含め、その素晴らしい劇を最前列の特等席で堪能させてもらっている。
そして物語は魔王軍との最終決戦――クライマックスへと突入していく……。
『魔王ユーリ』の劇ということで少し不安はあったけど、とても好意的な内容だったので安心した。
こんな大きな公演で『魔王ユーリ』の恐ろしさとか演じられちゃったら、それを信じてまた怖がる人が出てくるかもしれないからね。
まあ『魔王ユーリ』はテンプルムの王様だから、失礼な扱いはできないだろうけどさ。ファーブラはテンプルムとも非常に友好的な関係だし。
感動のラストシーンも終えて無事舞台は終了し、その素晴らしい内容に観客からは惜しみない拍手が送られた。
アリーシアの魅力も存分に発揮されていたし、多くの人々から愛されるのも納得の演技だった。
終了後のカーテンコールでアリーシアが現れると、客席からの歓声がまた一段と大きくなる。
そのとき、アリーシアはふと僕のほうを見ると、軽くウインクをしてきた。
ひょっとして僕に送ってくれたのかな? でも、いま僕は伊達メガネをかけてるから気付かないかも?
誰に向けてウインクしたのかは分からないけど、視線の先に該当していた席は大熱狂の状態だ。
もちろん僕の両隣と後ろの客も、思わず立ち上がってアリーシアに両手を振っている。
そのまま舞台に突撃しそうな勢いになってきたので、慌てて警備員たちが現れて舞台前を完全ガードしていた。
そういえば、以前は英雄養成学院にもファンが押し寄せたりして、逮捕者が出たりする騒ぎもあったらしい。
そのあたりは厳重に注意されたようで、今は学院にくるファンはいないようだけど。
出演者たちの挨拶も終え、全員退場して全てが終了したので僕も席を立つ。
実はチケットと一緒に手紙も入っていて、そこには是非楽屋――控え室にも来てほしいと書いてあったので、僕はアリーシアのところに向かった。
◇◇◇
「誰じゃお前は~っ!!」
「す、すみません、すみませんっ」
手紙に書いてあった通り、関係者用の通路を進んで部屋の近くまで行くと、大柄なガードマンにいきなり怒鳴られてしまった。
ど、どうしよう? こういうところに来るのは初めてだから、どう説明したらいいか分からないんですけど?
「あ、あのですね、アリーシアに呼ばれたので控え室にいきたいんですが、どの部屋でしょうか……?」
「この小僧、アリーシア様のことを呼び捨てにするとはいい度胸だ。アリーシア様はお前のようなオタクファンが会えるお人じゃないのだ。痛い目に遭わないうちにさっさと帰れ~っ!」
「は、はい、失礼しました。それじゃあまた……」
めっちゃ怖い……。
どう見ても話が通じる感じがしないので、トラブルになる前に帰ろう。
アリーシアにはあとで説明すればいいだろう。
僕はクルリと向きを変え、いま来た通路を引き返そうとした。
「……ヒロ様? いらしてくれたのですね!?」
とそのとき、少し先にある扉が開いて、アリーシアが顔を出して叫んだ。
ああ、すぐそこにあったのか! 良かった、アリーシアが天使に見えるよ。
「ドズルさん、わたくしに会いに来る方がいるとお伝えしておいたはずですが?」
「い、いえスミマセン、すっかり忘れてました」
あ、ウソだ。解析では、このドズルという男はウソをついてるのが分かる。
うーん……そうか、アリーシアが男と会うと知って、恐らく嫉妬したんだろう。
誰が来ても追い返すつもりだったな?
だけど威嚇のため大きく怒鳴りすぎて、逆にアリーシアに知らせちゃったというわけだ。
まあこれほどのアイドルだ、ついヤキモチ焼いちゃうのも仕方ないか。
「ヒロ様、わたくしからお呼びしたのに手違いが起こってしまって申し訳ありません。さあこちらへどうぞ」
アリーシアが手招きしてくれたので、それに従って僕も控え室に入る。
うう、このドズルという人の殺気が凄いんですけど?
別に邪悪な人というわけじゃないので、本当にアリーシアに心酔してるだけなんだろうな。
恋は人を狂わせますね……。
部屋の中は広くかなり豪華で、さすがトップアイドルの楽屋といったところだ。
そこに僕とアリーシアが2人だけ。
ちょっと意外だったのは、SSSランク冒険者のキリエさんがいないこと。
まあ彼女はあくまでもパワーレベリングのパートナーであって、アイドル活動とは無関係なんだろう。
警備とか少し心配に思ってしまうが、考えてみれば、アリーシアを襲えるような人もそうはいないか。
あのドズルとかいう警備員よりも強いしね。
部屋の中央にある来客用の小さなテーブルに2人で座り、その上にある高価そうなティーカップにアリーシアがお茶を注いでくれた。
僕のためにすでに用意してくれてたようだ。
「ヒロ様、わたくしの舞台を見に来てくださってありがとうございます。いかがでしたか?」
「ああ、凄く面白かったよ。アリーシアの演技も素晴らしかった」
「ふふっ、嬉しいですわ。舞台の上からでもヒロ様のことはすぐに見つけましたので、今日は特に演技に力を入れましたのよ」
そっか、最前列の指定席だったから、僕が来ているのは分かってたのか。
ってことは、やっぱりあのウインクは僕に向けてのものだったのかな?
そうだ、これだけは聞いておかないと。
「あの……『魔王ユーリ』の話だなんて珍しいと思うけど、これを題材に選んだ理由とかってあるのかい?」
「あら、『魔王ユーリ』様は世界を救ってくださった英雄ですわ。舞台化しても当然と思われますけど」
「そ、そうかな? でも、怖い噂とかもあったじゃない? アリーシアはそういうの気にしないの?」
「少しも気になりませんわ。というより、『魔王ユーリ』様のお話はわたくしが演じてみたくて、是非とお願いして実現していただいたんですの」
「ア、アリーシアがやりたかったの!?」
え、アリーシアって『魔王ユーリ』のファンなの?
そういうの初めて会ったな。
待てよ、そこまでファンということは、『魔王ユーリ』の顔を知ってても不思議じゃないぞ!?
やはり僕の正体がバレてる?
「『魔王ユーリ』様のご活躍を聞いて、その強さに憧れましたの。わたくしもそんな強い存在になりたいと」
「ええと……アリーシアは『魔王ユーリ』の顔を知ってるのかい?」
「いいえ、残念ながらご尊顔は存じません。舞台の関係者には、ちらとユーリ様のお顔を拝見したという方もいますが、皆あまり知らないで演じております。そこがユーリ様には申し訳なくて……」
「い、いや、いいと思うよ。『魔王ユーリ』もそのほうが嬉しいんじゃないかな?」
「そうかしら?」
「そそ、そうだよ」
ふーっ、よかった、僕のことには気付いてないようだ。
まあ『ユーリ』の肖像画はないし、魔導影像ももちろんない。
僕を見たという人でも、直接会って話でもしない限り、そう簡単にはバレないはずだ。
「ああ、『魔王ユーリ』様の魔導影像がありましたら、わたくしが全部買い占めますのに……」
「そんなに好きなの?」
「はい、心から愛しております」
「ブフゥーーーーーーーーッ」
いけねっ、アリーシアの爆弾発言を聞いて、思わず口に含んでいたお茶を吹き出しちゃった。
しかし、なんで会ったこともない『魔王ユーリ』をそこまで好きなんだ?
「何故ヒロ様が驚かれるのですか? あ、もしかしてわたくしのこと……」
「い、いや違うよ、大人気アイドルが『魔王ユーリ』のことを愛してるだなんて知ったら、普通驚くって」
「あら、わたくしとしたことが失礼しました。ヒロ様がわたくしに気があると思うなんて、少々自意識過剰でしたわね。でも、大勢のファンの皆様には大変申し訳ないのですが、わたくしの心も体も全てユーリ様のモノなのです」
ごはっ……うっかり口から血を吐きそうになった。
劇中でソフィア姫が『全てを捧げる』とか言ってたけど、アレをもじって冗談を言っているのではなく、アリーシアは完全に本気だ。
こんなことがメジェールたちにバレようものなら、僕は100回殺されてもおかしくない…………あれ、今回に関しては僕にまったく落ち度はないよな?
でも彼女たちは許してくれないだろうな……。
しかし、マズリィンたちとの会話を詳しく聞かれてたら、危うく僕の正体がバレてしまったところだった。
仮にもしバレてもアリーシアなら大丈夫と思ってたけど、逆にアリーシアにだけはバレるわけにはいかなくなったぞ。
僕にとってアリーシアは心のオアシスだと思ってたのに、とんでもない展開になってきたな……。
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