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第8章 英雄の育成

第401話 史上最大のピンチでした

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 ユシーネは書籍版には出てこないキャラです。

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 昨日はサイファたちが久々に学院へ行ったので、訓練はお休みにして僕もテンプルムで一日を過ごした。
 まあ普段から、『空間転移スペースジャンプ』でちょこっとだけテンプルムには帰ってたんだけどね。王様がずっと留守なのはまずいと思って、夜に顔を出してその日の報告程度は聞いていた。
 なので特に懐かしいとかは感じなかったけど、メジェールたちは本当に久々の帰国だったので、どっと疲れが出て一日中グッタリしていたようだ。
 僕は途中から抜けちゃったけど、みんなは今回の旅を満喫してくれたみたいなのでまあよかった。

 さて、今日は神様から経験値をもらえる日だ。
 いつも通り100億の経験値を授かり、ストック分と合わせて現在の所持経験値は107億6000万。
 100億かぁ……毎度のことながら本当に凄いな。

 最近ではすっかり麻痺しちゃってたけど、サイファたちを訓練してみて、改めてとてつもない恩恵をいただいていることを実感した。
 100億なんて、1回もらっただけで間違いなく世界最強になれるほどだからね。それを毎月だなんて、神様にもほかの冒険者たちにも申し訳ない思いでいっぱいだ。
 この気持ちは絶対忘れないようにしておこうと思う。
 もちろん、レアスキルを授けてくれる女神様にも大感謝だ。

 その女神様からのスキルは、『気象魔法』というSSSランクのモノだった。
 基本的には天候を操る能力らしいけど、レベルを上げると、気象どころか自然現象全般を操れるようにもなるとか。
 例えば嵐を呼べるのは当然として、地震や噴火、津波などの天変地異すら起こせるようになるらしい。

 うーむ……SSSランクだけに結構ヤバい魔法だな。場合によっては一国を……いや世界すら簡単に滅ぼせるぞ。
 レベル1の状態でも、雨、風、雷、雪程度なら簡単に操れるようだ。
 そういえば、昔の伝説に天候を操るまじない師なんて出てくるけど、恐らくこのスキルを持っていたんだと思う。

 ただ、凄いスキルだけど、果たして使う機会はあるかな?
 天気を操るなんてまさしく神の領域だけど、勝手に僕が変更したらみんな困っちゃうよね? 自然のままに任せるのが一番だろう。
 まあ使うかどうかは別として、持っておくに越したことはないので、1億経験値を使って『気象魔法』を取得した。
 レベルアップについては、とりあえず必要なときが来たらしたいと思う。

 ほか、現状では特に強化したい部分は見つからないので、残りの106億6000万経験値はストックしておいた。


 ◇◇◇


「ヒロくん聞いて! 私たち、クラスメイトと模擬戦して準優勝したのよ!」

「最後はデミトフたちに負けちまったけどな。でもアタシたちがあんなに戦えたなんて、本当に嬉しいんだ!」

「これも全てヒロさんのおかげです!」

 今日の訓練のために集合すると、サイファたちが昨日学院であったことを報告してきた。
 よほど嬉しいんだろう。3人で競い合うように詳細を説明してくれる。

「まったく、あそこでアリーシアに気付かれなきゃなあ……! 最高の作戦だったのに悔しいぜ!」

「でもゴライアスの本気を初めて見たけど、あんなに強いとは思わなかったわ。デミトフは不意打ちで倒せても、結局負けちゃってたんじゃないかしら?」

「そうですね。アリーシアちゃんも全然本気じゃなかったみたいだし、今のボクたちではやっぱり勝てなかったと思います」

 ランゼはかなり悔しがってるけど、まあクリスティとサイファの言う通り、デミトフたちにはまだ勝てないだろうな。
 ベースレベルやスキルを上げるだけじゃなく、ランゼたちは戦闘センスも磨いていかないと追いつけないだろう。
 でも成長の証は充分見せることができたようだから、今はそれで充分だ。

「よし、じゃあ今日も訓練頑張ろう」

「「「はい!」」」

 僕たちはファーブラ王都を出たあと、『空間転移スペースジャンプ』でいつもの森へと移動した。


 ◇◇◇


「おらよっと! クリスティ、あとはよろしく!」

「任せて!」

 ランゼがモンスターを引きつけて足止めの攻撃をしたあと、怯んだモンスターに向けてクリスティが矢を放つ。
 それが見事急所にヒットし、モンスターは絶命した。
 もちろん、2人ともサイファから支援バフを受けて強化された状態だ。
 このコンビネーションもだいぶ板に付いてきたな。

「このくらいの相手なら、アタシたちもう負けない気がするぜ」

「そうねヒロくん、もう少し強いモンスターでも私たち大丈夫そうよ」

「そうだな。じゃあ手強い敵にチャレンジしてみるか」

 と、モンスターを探しに移動しようとしたところ、すぐ近くから人の気配が。
 こんな危険な森に来るなんて結構珍しいな。
 恐らく、かなり手練れの冒険者に違いない。

 どんな人が来たのかなと様子を窺っていると、そこには驚きの人物たちが現れた。


「…………あれ? もしかしてユーリ君?」

「ええっ、君たちは……!?」


 なんと、森の奥から出て来たのは女子3人――元クラスメイトのマズリィンとサマンサ、ユシーネさんだった。
 テンプルムを作っていたときに会って以来、約半年ぶりの再会だ。

「こんなところで会えるなんてビックリだよ。ひょっとして、僕のことを誰かから聞いたのかい?」

「いえ、あたしたちはただ依頼を受けてモンスター討伐に来ただけよ」

「誰も受けてないと思ってたんだけど、ユーリ君が私たちより先に受けてたの?」

 彼女たちにも想定外の出来事だったようで、マズリィンとユシーネさんが驚きながら答えてくれる。
 一瞬、僕がここにいると知っててやってきたのかと思ったよ。偶然と分かってちょっとホッとした。
 確かにこの辺りには危険なモンスターが多いから、討伐依頼が出ててもおかしくないか。

「僕は依頼で来てるわけじゃなく、この子たちを鍛える目的で戦闘訓練してるんだ」

「この子たち? 鍛える…………? ああ、あの噂の学院の生徒たちね! ユーリ君てば、王様のくせ……」

「おわあああああああっ」

 僕は慌ててサマンサの言葉を遮る。
 しまった、うっかりしてた!
 今の会話をランゼたちに聞かれちゃったぞ!?

「ヒロ、王様とか、ユー……なんとかってのはなんのことだ?」

 は~よかった。
 いきなりのことで、ランゼたちもよく状況が分からずにポカンとしていた。
 これならなんとかごまかせそうだ。

「ぼ、僕の本名は、ヒロ・ゼイン・ユウリックスなんだ。彼女たちは、エーアストの学校で一緒だった同級生だよ」

「へー、ヒロのフルネームってそんなだったんだ?」

「ちょっとユーリ君、なに言ってるの……」

「うわあああああ、サ、サマンサ、マズリィン、ユシーネさん、こっち来て!」

 僕は強引に3人を離れた場所に連れていく。
 この状況をちゃんと説明しないと、僕の正体がランゼたちにバレちゃう!


「ふむふむ……何よ、ユーリ君てばそんなことしてるの? 王様なのに変なの」

「そういうことなんだ。だから、ここは上手く話を合わせてほしいんだけど、いいかな?」

「それはいいけど、女の子3人の師匠になるなんて、あのメジェールたちがよく許したわね?」

「ま……まあね。これでも僕は王様だからね。メジェールたちだって命令には従ってくれるよ」

「……あ! はは~ん……な・る・ほ・ど」

「そういうことか」

「ユーリ君てば、ウソが下手ね」

 な……なになに?
 マズリィンたち3人は何かを察したらしく、僕のことを勝ち誇ったような目で見てるんだけど?
 なんだろう、この底なし沼に沈んでいくような凄まじいプレッシャーは?
 もはやとてつもなく嫌な予感しかしない……



「ユーリ君、メジェールたちに内緒でこの女の子たちの面倒見てるでしょ?」×3



 ぐ っ は あ あ あ あ あ あ あ あ っ !
 3人同時に見破られていたとは……
 女の子って、どうしてそんなに勘がいいんだろ?

「これは問題よユーリ君。このことがメジェールたちにバレたら、になるでしょうねえ」

 ユシーネさんが、ムフフと意地悪い顔で僕を見る。
 うう、怖い……学校時代ユシーネさんにはずっと無視されてたから、少し苦手意識があるんだよね。
 とても逆らえる気がしない。

「どうしよっかなあ……元クラスメイトとして、メジェールたちには報告してあげなくちゃダメよね?」

「いや、その、サマンサ、それはちょっと困る……」

「じゃあユーリ君、あたしたちの言うこと聞いてくれる?」

 マズリィンまで、いいオモチャを手に入れたとばかりに満面の笑みを作った。
 どうしよう、完全に主導権を握られちゃったぞ。
 しかし、これは秘密にしていた僕が悪いんだ。
 素直にメジェールたちに怒られ…………やっぱり怒られるの怖い!


「あの、今日だけなら君たちの言う通りにするから、このことはどうかみんなには内緒にしてください……」


 王様の僕、女性に頭が上がらず。
 もう慣れました。僕はそういう運命なんだ。

「冗談よ。まあせっかくだから、今日一日あたしたちの依頼を手伝ってちょうだい。それでチャラにしてあげるわ」

「あ……ありがとうマズリィン!」

 ああよかった。解析で見ても、それで許してくれるみたいだ。
 寿命が10年縮まるところだったよ。

 それにしても、たった3人でこんな森に来るとは、さすが対魔王軍戦力と言われてるだけあるな。
 マズリィンは強力なSSランクスキル『超能力エスパー』を持ってるし、サマンサの『魔眼』もユシーネさんの『魔法剣』もなかなか強力だ。
 ベースレベルも高いし、よほどのことがない限りはこの3人がやられることはないだろう。
 僕の力なんて必要ないだろうけど、頑張って協力しよう。


「おい、おばさんたち、ヒロになんかイチャモン付けてるのか?」

 僕が困ってる様子を見て、ランゼたちがこっちにやってきた。
 ちょっ、この3人に向かって、なんて怖い物知らずなことを言うんだ!?
 殺されますよ?

「お……ですって……!?」

「子供のくせにナメた口きいて、あたしたちが誰か知ってんの!?」

 ああっ、一難去ってまた一難、今度は別の問題が発生したあっ。
 まさに一触即発状態の女子6人。

「ヒロくんの元クラスメイトなんでしょ? じゃあおばさんじゃない。ヒロくんよりも老けて見えるし」

「このクソガキ……ぶっ殺す!」

「ああ待ってサマンサ、子供の言うことだから許してあげて……!」

 サマンサだって、以前アニスさんたちのことおばさんって言ったくせに……これが因果応報ってヤツか。
 まさか言われる立場になるなんて思わなかっただろうな。
 まあサマンサたち3人は、元々クラスの中でも特に大人びた雰囲気を持ってたから、年齢よりも少し上に見られやすい感じはするけど。

 僕は必死に3人をなだめる。しかし、サマンサたちの怒りは収まらないようだ。
 女性にとって年齢は本当に禁句なんだね……。

「ガキのくせに調子に乗って、ホントに頭くるわ! だいいち、アンタたちのようなガキがこの男に報酬払えるの? 貧乏人は大人しくしてなさいよ!」

「アタシたちお金は持ってないけど、ヒロには身体で払う約束してるんだ」

「そうよ、だから問題ないわ!」

「「「ええ~~~~っっっっ!?」」」

 どわあああっ、ランゼたちってば、とんでもない爆弾発言してくれちゃったあああああ~っ!
 マズリィン、サマンサ、ユシーネさんの3人は、蔑むような視線で僕を見る。

「ちょっとユー……ヒロ君だっけ? さすがに引くわよ」

「これはメジェールたちにも内緒にできないわね……」

「ちがうっ、ホントに違うんだ! あとでちゃんと説明するから、お願いみんなには黙っててえええええ~っ!」


 幸か不幸か、この爆弾発言のおかげで女の子たちの争いは収まった。
 ただ、僕は死ぬかと思いましたよ……。

 このあと、半泣きになりながら討伐を手伝う僕でした。

 ***********************************

 本日コミカライズが更新されておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 それと、12/25にクリスマス特別編をアップしました。
 目次の上部にありますので、よろしかったらご覧になってみてください。

 今年の更新はこれで最後となります。
 年明けはしばらくお休みしようと思ってますので、次の更新までちょっとだけお待ちくださいませ。
 次回はいよいよスーパーアイドル・アリーシアがユーリに接触してきます。
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