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3巻
3-3
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自分は一度死んで生き返った不死身の男だと、勝手に自負していたコンスター。
怖いもの知らずで生きてきた男にとって、目の前の現実は受け入れがたいことだった。
このままでは、この城が落とされてしまう……
――いいや、まだじゃ! この王城には超強力な退魔の結界が張ってある。一度たりとも魔の者の侵入を許したことのない、無敵の障壁じゃ! いくら魔王と言えど、そう簡単に城に入れるわけがない。
そう己を鼓舞するコンスターだったが……
「『虚無への回帰』っ!」
ドラゴンに乗った少年が何かをつぶやくと、王城を防御する退魔の結界が全て霧散した。
「しょんな、しょんなはずあるわけ……」
「今から我はそこへ行く。愚王よ、心して待つがよい」
我がもの顔で振る舞ってきた独裁者に、かつてない恐怖が襲いかかる。
怯えるコンスターなど意にも介さず、少年はドラゴンの背から飛び降りると、歩いて王宮内へと侵入する。
「ヴォルク、ヴォルクーっ! た、頼む、ヤツを、あの魔王を倒してくれえっ」
「ちっ、マジで魔王だったんか? やっかいだが、この王宮内で戦うならオレにも勝機はあるぜ」
謎の少年を迎え撃つべく、ヴォルクは足早に移動した。
3.魔王になりきってみる
「よし、今日は魔王らしい演技をしなくちゃな。ガッツリ脅せば相手も抵抗する気なくなるだろうし、戦闘も早めに終わるだろう」
ゼインの背に乗って移動しながら、魔王のイメージを反芻する。
ゼルドナには、本物の魔王のフリをして乗り込もうと思っているからだ。
今回の戦闘は僕一人で行くことにした。
リノたちを連れていると舐められそうだからね。もちろん、彼女たちに万が一があっても困るし。
頑張って魔王らしいところを見せてやるぞ。
「ンガーオ!」
「そうだ、ルクも一緒だったね」
ルクが来たがったので一応連れてきた。伝説の『キャスパルク』は、魔王の威厳を見せるのに充分な存在だし。
もちろん、ルクには手加減するようにお願いしてある。
また、魔王のフリをするに当たって、僕の衣装もそれっぽい感じになっている。
それっぽいといっても魔王なんか誰も見たことないので、おとぎ話に出てくるような格好に雰囲気を合わせてるだけだが。
衣装はリノたちがわいわいと楽しく作ってくれた。
どうすれば邪悪な感じになるかとか、魔王に相応しい雰囲気が出せるかとか、みんなノリノリだったようだ。
世界を相手に戦うかもしれないのに、危機感ないというか……まあ楽しそうで何よりだけど。
僕の外見が魔王っぽく見えるかはともかく、ゼインがいるのは本当に大きい。
僕だけでは、そう簡単には恐怖を与えることはできないだろう。
だけどこんな巨大なドラゴンで乗り込めば、否が応でも魔王の存在を信じる気になるはず。
ゼインが仲間になってくれて本当によかった。
今回色々とちょっかいを出されたが、諸悪の根源はゼルドナ王で、無理矢理命令されてる兵士も多いはずだ。
善良な人は傷つけたくないし、被害は最小限に抑えたい。
こうやって脅しを重視してるのは、魔王の恐ろしさをこれでもかと見せつけ、逆らうのは無駄と思わせたほうが、相手の諦めも早いだろうという目算からだ。
あとは、『神遺魔法』の『分身体』で僕のコピーを十体作り、そいつらにも戦わせる予定だ。
ハッタリを利かせるため、分身体の体格は最大限に大きくし、顔はのっぺらぼうにした。
僕と同じ顔が十人もいるとさすがにおかしいからね。
分身体はベースレベル999の僕と同じステータスなので、かなり強い。
僕の持つスキルや魔法まではコピーできないが、素のステータスだけでもSSSランク冒険者くらいには戦えるはずだ。
何せレベル999なので、HPがべらぼうに高い。
耐久スキルがなくても充分化け物クラスで、余程のことがない限り、まずHPは尽きないだろう。
その分身体に、『魔道具作製』レベル10で強化した装備を着けさせるので、あの『ナンバーズ』のボルゴスくらいは強いかもしれない。
分身体には状態異常攻撃は効かないし、ダメージを受けても怯まないし、怪力で巨体な上にHPも山ほどあるしで、相手にとってはかなり恐ろしい存在だ。
結構怖がってくれると思っている。
この分身体たちを、最強の死霊馬『蹂躙せし双角獣』に乗せて騎兵隊を作った。
『蹂躙せし双角獣』は『死霊魔法』レベル10じゃないと召喚できないので、まず喚び出せる人はいないだろうし、普通は見たことすらないはずだ。
『蹂躙せし双角獣』は近付くだけで相手を『精神破壊』しちゃうんだけど、それでは多くの怪我人が出そうなので、今回はその能力は封印することに。
それでも、この死霊馬はドラゴン並みの体力があるので、まあそこらの兵士が何人集まっても殺せないだろう。
ゼルドナ王都に近付いたところで突撃準備を整え、この最強の騎兵隊を引き連れながら、僕たちは王都内へ突入した。
戦闘が始まると、兵士たちが『デスライダー』とか言いながら騒ぎ始めた。
どうやらたまたま作ったこの騎兵隊が、『デスライダー』というのに似てるらしい。
多分ゼルドナに伝わる架空の騎士なんだろうけど、おかげで想定以上に怖がってくれてラッキーだ。
ルクも手加減しながら上手に活躍してくれている。
そしてゼインの背中からゼルドナ王に宣戦布告。
王城には悪魔を拒絶する退魔の結界が張られているようだけど、人間の僕には全然関係ない。
ただ、一応魔王という設定で攻めているので、結界はちゃんと壊してあげないとね。
僕は『神遺魔法』にある解除魔法――様々な効果を打ち消す『虚無への回帰』で、結界を全て無効化した。
「今から我はそこへ行く。愚王よ、心して待つがよい」
そう宣言した後、ゼインの背から飛び降り、ゼルドナ王がいる王宮の正面から中へと入る。
一階には謁見の間とかあるみたいだけど、さっきゼルドナ王は三階から顔を出してたな。
恐らく下には降りず、そのまま上の階にいることだろう。
僕は階段を見つけて二階に上がっていく。
独裁者で敵の多かったゼルドナ王だけに、王宮内の防犯対策にはかなり力を入れていたようだ。
あちこちに侵入者撃退用の罠が仕掛けてあるけど、もちろん僕には通用しない。
そのまま無人の野を歩くが如く、全ての罠を破壊して三階へと向かう。
三階へ上がると、あとは王様の部屋まで一直線だけど、その通路の途中に怪しげな一角が。
まあ分かりやすい罠だ。『領域支配』スキルで、隠れているヤツの殺気もガッツリと感知してるし。
回り道を探すのも面倒だし、そのまま罠に直行してみる。
そういえば、ゼルドナには名高い将軍がいたっけ。確か獣人で、負け知らずってほど強かったはず。
かなり残虐な性格で、あちこちの戦いで容赦なく敵を殺してるとか。
待ち受けてるのは多分その人だな。
特に気にすることもなく、僕は無防備に通路を歩いていく。
予想通り、怪しい区画に差し掛かったとたん、後ろに鋼の棒が下りて僕の退路を断った。
そして、前からは獣人らしき男――身長百八十センチを超える屈強な体格の狼人が現れる。
ちなみに、獣人の見た目は普通の人間とほぼ変わらないが、頭部の獣耳と手首足首あたりの毛がフサフサしていることで見分けがつく。
「クックックッ、よく来た魔王よ。オレは人類最強のヴォルクだ。せっかく復活したようだが、このオレが魔界へ叩き帰してやる。いや、行くのは地獄かな?」
やはりその将軍か。
解析してみると、なるほど強い。全体的なポテンシャルの高さに加え、当然のように『称号』まで持っている。
その名は『白銀の狼』。
『ナンバーズ』のボルゴスやフォルスさんと同じSSランク称号だ。
能力を解放すると野獣化となって、大幅に戦闘力が上がるらしい。
「このエリアでは魔法は全て使えない。つまり、オレとの肉弾戦だ。いくら魔王とて、この狭い空間ならオレには勝てんぞ」
あっ、ホントだ! いつの間にか魔法封鎖結界が発動してた。
人間の結界にしては規格外なほど、かなり強い魔力を感じる。多分、増幅装置を使った強化結界だろう。
対象エリアも極力絞って、その分高出力になっている感じだ。
ただ、封じているのは『属性魔法』や『光・闇魔法』、『神聖魔法』などの通常魔法で、上位の『界域魔法』とかは問題なく使えるようだ。
まあ知らないんだろうな。
ここは通路の幅七メートル、前後の奥行きが十五メートルほど。
この狭い場所なら自信ありってことか。
いいだろう。せっかくだから、『呪王の死睨』も魔法も使わずに付き合ってやる。
「行くぞ魔王っ! 時代遅れはもはや用なしだ。尻尾を巻いて地の底へと帰るがいい! 満ちよ月光、獣王進化!」
ゼルドナが誇る将軍――獣人ヴォルクが『白銀の狼』の能力を発動する。
すると、灰色の体毛が一気に伸びて、そして全身の骨格もゴリゴリと音が聞こえてきそうなほど大きく変形し始めた。
基本的に獣人は体毛が濃いが、それはあくまで一般的な人間と比較してであって、本物の獣のように全身が毛に覆われているわけではない。
顔も、獣耳を除けば普通の人間と同じだ。
それが、ヴォルクが力を解放したとたん、まるで本物の魔獣のように全身が体毛で覆われ、筋肉も魔獣のそれに変化し、そして顔もヘルハウンドのようにアゴを突き出した獣顔になった。
これは……『人狼』だ!
すでに絶滅したと言われる魔族で、最強魔族『吸血鬼』と並ぶほどの力を持っていたという。
その能力が、『称号』として受け継がれていたんだ!
伸びた体毛は見るからに硬質なモノへと変化し、ギラギラと銀色に輝き出す。
なるほど、ヴォルクが自信に溢れているのも分かる。
『人狼』や『吸血鬼』は、人間を遙かに超えた存在だ。常人では到底敵うような相手じゃない。
変身が完了したヴォルクには、すでに人間だった面影はなかった。
「では魔王よ、戦闘開始だ!」
ヴォルクはそう宣言したあと、ほんの少し屈んだかと思えば、一瞬で間合いを詰めてその両手の爪で攻撃してきた。
人狼になったヴォルクは、全身が筋肉の塊みたいなモノだ。
通常の人間では考えられないような動きで攻撃を仕掛けてくる。
だが僕は、相手の少し先の行動が見える『超越者の目』を持っている。
この程度では僕の虚を衝くことはできない。
「やるな魔王! しかし、これは避けられるかな?」
ヴォルクの姿が、一瞬視界から消えた。
それは上下左右の壁を使って、立体的に攻撃をしてきたからだ。
コレは凄い!
壁に飛んだかと思えば、天に着いたり地を蹴ったりと、戦闘のセオリーでは考えられない動きをしている。
その常識外の動きに、さすがの僕も少し面食らった。
この狭い空間はヤツの巣穴だ。
ここなら魔王に勝てると言ったのも、あながちウソではなかった。
しかし、残念ながら僕には当たらない。
そして僕の剣がヴォルクを捉える!
ザギンッ!
えっ? なんだこのおかしな感触は……!?
「さすが魔王、人狼になったオレに攻撃を当てたのは、お前が初めてだぜ。だが、オレを斬ることはできない!」
ヴォルクの銀色の体毛は想像以上に硬くなっていて、それでいてしなやかに衝撃を吸収し、僕の『竜牙の剣』でも斬れなかった。
これはドラゴンを超える強靱さだ。
ここまでとは……
ドラゴンですら即死だった『呪王の死睨』に耐えられるかどうか、少々実験してみたくなるほどの生命力だ。
これほどの強敵と戦えることは本当にありがたい。
ゴーグやヴァクラースにあって僕に足らないモノ――それは戦いに対してのセンスや野性的な勘だ。戦闘本能といってもいい。
それをしっかり養っておかないと、いくら強いスキルを持っていても十全に活用することはできない。
僕が成長するためにも、このヴォルクの力を存分に味わいたいところだ。
「これでも喰らいやがれ! 『消滅の咆哮』っ!」
ヴォルクが口を大きく開けて咆哮を上げる。
これは破壊の振動波だ。立ちはだかるモノを全て粉砕していく。
まあ喰らっても大丈夫だろうが、あまり手抜きの戦いには慣れたくない。
なので、しっかり避ける。
「くっ……コレも躱すのか!? さすが魔王と言われるだけあるぜ!」
ヴォルクは動きのスピードをさらに上げる。もはや残像が見えるほどの速さだ。
並の動体視力では追えないほど、上下左右を跳ね回り、有り得ない角度から攻撃を仕掛けてくる。
結界で通常クラスの魔法は封じられてるし、この状況でヴォルクに勝てるのはそうはいないだろうな。
ちなみに、僕の持つ『蜃気楼の騎士』は回避不能の攻撃を出せるが、それは適当な方向を斬っても相手に当たるということではない。
当たり前だが、ちゃんと相手を狙わなくては当てることはできない。
いったいどういう現象が起こっているのか、技を使っている僕には分からなかったが、攻撃を受けたメジェールいわく、剣がまさしく蜃気楼のように消えて、防御も回避もできなくなるとのこと。
そういう効果なので、ちゃんと動きを捉えないと、『蜃気楼の騎士』をもってしてもヴォルクを斬ることはできない。
しかし、動きを捉えたら、攻撃を躱すのは不可能だ。
そして『竜牙の剣』で斬れないなら、斬れる剣を使えばいい!
こういう戦闘は僕にとってもいい経験になるが、あまり長引かせるのも良くない。
そろそろ決着をつけさせてもらうとするか。
僕は先日作った聖剣『冥霊剣』をアイテムボックスから取り出す。
「魔王よ、コレで終わりだーっ!」
人間を遙かに超越した動きでヴォルクは僕の背後に回り、鋭く伸びた爪でこの首をハネにきた。
きっとこれがヴォルクの最速の攻撃なんだろうけど、残念だが僕には見えている。
両手を使った必殺の二連撃を躱し、『冥霊剣』でその両腕を斬り落とす。
『竜牙の剣』では歯が立たなかったが、さすが聖剣、その硬質な体毛ごとすんなりと切断することができた。
「ぐあああっ、そんなバカなっ、オレの身体が斬られるはずがあああっ……」
「自分の肉体を過信したな。覚えておけ、魔王に斬れないモノはない」
ザシュッ……!
僕はヴォルクにトドメを刺した。
ほんの少し迷ったが、これほど残忍で力のある側近は、やはり生かしておくことはできない。
禍根は断っておかないと。
……あ、覚えておけって言葉が無駄になっちゃった。せっかくカッコ付けたのに……
さぁて、とうとう王様の部屋に到着しましたよ。
人狼ヴォルクを倒した僕は、目的地の扉に手をかける。
大人しく待ってたかなあと思ったら、扉を開けた瞬間、いきなり数十発という魔法が飛んできた。
ま、当然ですよね。
「殺せ殺せ! 魔王を退治せよ! ありったけの魔法を撃ち込んでやれ!」
ゼルドナ王の声が、大量の魔法で視界を覆われた向こう側から聞こえてくる。
この魔法なかなか強力だな。そこらの魔道士には使えない上位レベルの魔法だ。
そうか、ここにいるのは王を守る宮廷魔道士隊だから、外の魔道士たちよりも遙かに強いんだ。
まあでも、全然効かないけどね。
「どうした、そんなものか? もっと強い魔法をぶつけてこい!」
僕は敢えて挑発した。魔王という設定だからだ。少し『威圧』スキルも使ってみた。
本気でやると全員失神しちゃうかもしれないので、相手が状態異常にならない程度に手加減して威圧する。
すると、魔王のプレッシャーに恐怖したのか、死にもの狂いで魔法を撃ちまくってきた。
「死ねっ、殺してやる!」とか「消滅しろ!」など、必死な叫び声も聞こえてくる。
僕は薄ら笑いを浮かべながら、それらの魔法を無抵抗に浴び続けた。
しばらくすると、魔道士隊の魔力が尽きて、魔法の嵐は収まった。
もはや誰も声を上げる者はいない。
シーンと静まりかえった部屋を見渡してみると、魔道士たちが絶望のまなざしで僕を見つめていた。
泣いている人もいるようだ。
「終わりだ……我が国はもう滅ぶしかない……」
いや、滅ぼす気は一切ないので安心してください。
むしろ、救いに来たんですけど……って、いま言っても絶対信じてくれないだろうな。
魔道士たちはすでに抵抗する気力はないようだけど、肝心の王様の姿が見えないな。
さっきまで声がしてたのに。
大臣らしき側近の姿は確認できるんだけどね。
「な、何をやっとる! もっと死ぬ気で戦えっ! 誰か、誰かあの魔王を殺すのじゃああっ!」
おっ、いたいた。玉座の後ろに身を潜めてたのか。
自分だけ隠れて部下をけしかけるなんて、評判通りの愚王だな。
さて、どうやって懲らしめようか……あ、まずはコレをやらないと!
「頭が高い、跪け!」
僕は重力魔法の『超圧重力圏』で、この場にいる全員をいっせいに這いつくばらせた。
脅しも兼ねて、少し強めに掛けてやる。
「ぷぎいいいっ、おひちゅぶされりゅ~」
「ま、魔王の前では、立つことすらできないとは……」
全員地べたに頬を擦りつけるような状態にさせてから、僕は言葉を続けた。
「ゼルドナ王よ、お前には忠告をしたはずだ。我には手を出すなと」
「ぷひいっ、し、知らんっ、は、配下の者どもが勝手にやったのじゃあっ」
「では、騎士たちがやって来たのは、お前が命じたわけではないと?」
「当たり前じゃ、魔王に逆らう気など毛頭ない」
ふぅん……王から直々の命令を受けてやって来たって、あの騎士たちは言ってたけどね。
そもそも下手なウソなんて、『真理の天眼』で見れば全てお見通しだ。
「こやつらの命はやる! だから、わしの命だけは助けてくれ!」
「陛下、そんなご無体な……魔王様、この魔道士たちや兵士、国民どもはいくら殺しても構いません。生涯忠誠をお誓いいたしますから、我らの命もお助けください!」
う~ん、聞きしに勝る酷い王様だ。シャルフ王と同じ一国の主とはとても思えない。
そしてこの側近たち。
忠誠を誓うと言っておきながら、めっちゃくちゃ敵意あるんだけど。
解析で丸わかりだぞ。
まあ僕は魔王と思われてるから、素直に従わないのは決して悪いことじゃないけど、この側近たちは我が身可愛さに国民の命まで売り渡そうとしてたからな。
正義感からの敵意じゃないだろう。
それに、ドス黒い悪意のような濁った心も、僕の『真理の天眼』スキルでは分かる。
普通の人からはこんな邪悪な感情は感じないので、少なくともこいつらは善人ではないな。
王の一番近い場所で甘い汁を吸っていた側近たちだ。
心の歪みもかなり感じるし、生かしておくと何を企むか分からない。
火種は消しておくべきかもしれない……
非情なようだが始末させてもらう。
この作戦を遂行する前に、甘い考えは捨てると決意したんだ。
何せ、これから世界を相手にするのだから、ちょっとした油断が命取りになる。
僕はともかく、邪悪な側近たちのせいでみんなを危険に晒すことはできない。
もちろん、罪のない者には危害を加えるつもりはないけど。
この側近たちはいらない。
「では聞こう。我に忠誠を誓えるか?」
「誓います、終生魔王様に従いますぅ~っ」
答えを聞いたあと、『呪王の死睨』で側近たちを即殺した。
最終勧告でも、やはり敵意も悪意も変わってなかったからだ。
「ひっ、ひええええっ」
側近たちが突然コト切れたのを見て、這いつくばっている魔道士たちが悲鳴を上げる。
「騒ぐな。こいつらは忠誠を誓うと言っておきながら、内心憎悪を燃やしていた。我にはそれが分かるのだ。よいか、魔王を欺けると思うな!」
「私たちは、私たちには一切歯向かう意思はございませんんん!!」
うん、分かってる。仮に歯向かう意思があったとしても、邪な心さえなければ問答無用で殺すなどしない。
そもそも王様に命令されてやったことだろうし、魔王を倒そうとするのも人間として当然の行為だ。さっき攻撃されたことは少しも恨んではいない。
『真理の天眼』で見た限り、全員服従しているのは分かるし、もちろん邪な心も感じない。
よって、彼らに危害を加えるつもりはないが……
「わしを、わしを殺さんでくれええっ」
さて、この王様はいったいどうしようか。
怖いもの知らずで生きてきた男にとって、目の前の現実は受け入れがたいことだった。
このままでは、この城が落とされてしまう……
――いいや、まだじゃ! この王城には超強力な退魔の結界が張ってある。一度たりとも魔の者の侵入を許したことのない、無敵の障壁じゃ! いくら魔王と言えど、そう簡単に城に入れるわけがない。
そう己を鼓舞するコンスターだったが……
「『虚無への回帰』っ!」
ドラゴンに乗った少年が何かをつぶやくと、王城を防御する退魔の結界が全て霧散した。
「しょんな、しょんなはずあるわけ……」
「今から我はそこへ行く。愚王よ、心して待つがよい」
我がもの顔で振る舞ってきた独裁者に、かつてない恐怖が襲いかかる。
怯えるコンスターなど意にも介さず、少年はドラゴンの背から飛び降りると、歩いて王宮内へと侵入する。
「ヴォルク、ヴォルクーっ! た、頼む、ヤツを、あの魔王を倒してくれえっ」
「ちっ、マジで魔王だったんか? やっかいだが、この王宮内で戦うならオレにも勝機はあるぜ」
謎の少年を迎え撃つべく、ヴォルクは足早に移動した。
3.魔王になりきってみる
「よし、今日は魔王らしい演技をしなくちゃな。ガッツリ脅せば相手も抵抗する気なくなるだろうし、戦闘も早めに終わるだろう」
ゼインの背に乗って移動しながら、魔王のイメージを反芻する。
ゼルドナには、本物の魔王のフリをして乗り込もうと思っているからだ。
今回の戦闘は僕一人で行くことにした。
リノたちを連れていると舐められそうだからね。もちろん、彼女たちに万が一があっても困るし。
頑張って魔王らしいところを見せてやるぞ。
「ンガーオ!」
「そうだ、ルクも一緒だったね」
ルクが来たがったので一応連れてきた。伝説の『キャスパルク』は、魔王の威厳を見せるのに充分な存在だし。
もちろん、ルクには手加減するようにお願いしてある。
また、魔王のフリをするに当たって、僕の衣装もそれっぽい感じになっている。
それっぽいといっても魔王なんか誰も見たことないので、おとぎ話に出てくるような格好に雰囲気を合わせてるだけだが。
衣装はリノたちがわいわいと楽しく作ってくれた。
どうすれば邪悪な感じになるかとか、魔王に相応しい雰囲気が出せるかとか、みんなノリノリだったようだ。
世界を相手に戦うかもしれないのに、危機感ないというか……まあ楽しそうで何よりだけど。
僕の外見が魔王っぽく見えるかはともかく、ゼインがいるのは本当に大きい。
僕だけでは、そう簡単には恐怖を与えることはできないだろう。
だけどこんな巨大なドラゴンで乗り込めば、否が応でも魔王の存在を信じる気になるはず。
ゼインが仲間になってくれて本当によかった。
今回色々とちょっかいを出されたが、諸悪の根源はゼルドナ王で、無理矢理命令されてる兵士も多いはずだ。
善良な人は傷つけたくないし、被害は最小限に抑えたい。
こうやって脅しを重視してるのは、魔王の恐ろしさをこれでもかと見せつけ、逆らうのは無駄と思わせたほうが、相手の諦めも早いだろうという目算からだ。
あとは、『神遺魔法』の『分身体』で僕のコピーを十体作り、そいつらにも戦わせる予定だ。
ハッタリを利かせるため、分身体の体格は最大限に大きくし、顔はのっぺらぼうにした。
僕と同じ顔が十人もいるとさすがにおかしいからね。
分身体はベースレベル999の僕と同じステータスなので、かなり強い。
僕の持つスキルや魔法まではコピーできないが、素のステータスだけでもSSSランク冒険者くらいには戦えるはずだ。
何せレベル999なので、HPがべらぼうに高い。
耐久スキルがなくても充分化け物クラスで、余程のことがない限り、まずHPは尽きないだろう。
その分身体に、『魔道具作製』レベル10で強化した装備を着けさせるので、あの『ナンバーズ』のボルゴスくらいは強いかもしれない。
分身体には状態異常攻撃は効かないし、ダメージを受けても怯まないし、怪力で巨体な上にHPも山ほどあるしで、相手にとってはかなり恐ろしい存在だ。
結構怖がってくれると思っている。
この分身体たちを、最強の死霊馬『蹂躙せし双角獣』に乗せて騎兵隊を作った。
『蹂躙せし双角獣』は『死霊魔法』レベル10じゃないと召喚できないので、まず喚び出せる人はいないだろうし、普通は見たことすらないはずだ。
『蹂躙せし双角獣』は近付くだけで相手を『精神破壊』しちゃうんだけど、それでは多くの怪我人が出そうなので、今回はその能力は封印することに。
それでも、この死霊馬はドラゴン並みの体力があるので、まあそこらの兵士が何人集まっても殺せないだろう。
ゼルドナ王都に近付いたところで突撃準備を整え、この最強の騎兵隊を引き連れながら、僕たちは王都内へ突入した。
戦闘が始まると、兵士たちが『デスライダー』とか言いながら騒ぎ始めた。
どうやらたまたま作ったこの騎兵隊が、『デスライダー』というのに似てるらしい。
多分ゼルドナに伝わる架空の騎士なんだろうけど、おかげで想定以上に怖がってくれてラッキーだ。
ルクも手加減しながら上手に活躍してくれている。
そしてゼインの背中からゼルドナ王に宣戦布告。
王城には悪魔を拒絶する退魔の結界が張られているようだけど、人間の僕には全然関係ない。
ただ、一応魔王という設定で攻めているので、結界はちゃんと壊してあげないとね。
僕は『神遺魔法』にある解除魔法――様々な効果を打ち消す『虚無への回帰』で、結界を全て無効化した。
「今から我はそこへ行く。愚王よ、心して待つがよい」
そう宣言した後、ゼインの背から飛び降り、ゼルドナ王がいる王宮の正面から中へと入る。
一階には謁見の間とかあるみたいだけど、さっきゼルドナ王は三階から顔を出してたな。
恐らく下には降りず、そのまま上の階にいることだろう。
僕は階段を見つけて二階に上がっていく。
独裁者で敵の多かったゼルドナ王だけに、王宮内の防犯対策にはかなり力を入れていたようだ。
あちこちに侵入者撃退用の罠が仕掛けてあるけど、もちろん僕には通用しない。
そのまま無人の野を歩くが如く、全ての罠を破壊して三階へと向かう。
三階へ上がると、あとは王様の部屋まで一直線だけど、その通路の途中に怪しげな一角が。
まあ分かりやすい罠だ。『領域支配』スキルで、隠れているヤツの殺気もガッツリと感知してるし。
回り道を探すのも面倒だし、そのまま罠に直行してみる。
そういえば、ゼルドナには名高い将軍がいたっけ。確か獣人で、負け知らずってほど強かったはず。
かなり残虐な性格で、あちこちの戦いで容赦なく敵を殺してるとか。
待ち受けてるのは多分その人だな。
特に気にすることもなく、僕は無防備に通路を歩いていく。
予想通り、怪しい区画に差し掛かったとたん、後ろに鋼の棒が下りて僕の退路を断った。
そして、前からは獣人らしき男――身長百八十センチを超える屈強な体格の狼人が現れる。
ちなみに、獣人の見た目は普通の人間とほぼ変わらないが、頭部の獣耳と手首足首あたりの毛がフサフサしていることで見分けがつく。
「クックックッ、よく来た魔王よ。オレは人類最強のヴォルクだ。せっかく復活したようだが、このオレが魔界へ叩き帰してやる。いや、行くのは地獄かな?」
やはりその将軍か。
解析してみると、なるほど強い。全体的なポテンシャルの高さに加え、当然のように『称号』まで持っている。
その名は『白銀の狼』。
『ナンバーズ』のボルゴスやフォルスさんと同じSSランク称号だ。
能力を解放すると野獣化となって、大幅に戦闘力が上がるらしい。
「このエリアでは魔法は全て使えない。つまり、オレとの肉弾戦だ。いくら魔王とて、この狭い空間ならオレには勝てんぞ」
あっ、ホントだ! いつの間にか魔法封鎖結界が発動してた。
人間の結界にしては規格外なほど、かなり強い魔力を感じる。多分、増幅装置を使った強化結界だろう。
対象エリアも極力絞って、その分高出力になっている感じだ。
ただ、封じているのは『属性魔法』や『光・闇魔法』、『神聖魔法』などの通常魔法で、上位の『界域魔法』とかは問題なく使えるようだ。
まあ知らないんだろうな。
ここは通路の幅七メートル、前後の奥行きが十五メートルほど。
この狭い場所なら自信ありってことか。
いいだろう。せっかくだから、『呪王の死睨』も魔法も使わずに付き合ってやる。
「行くぞ魔王っ! 時代遅れはもはや用なしだ。尻尾を巻いて地の底へと帰るがいい! 満ちよ月光、獣王進化!」
ゼルドナが誇る将軍――獣人ヴォルクが『白銀の狼』の能力を発動する。
すると、灰色の体毛が一気に伸びて、そして全身の骨格もゴリゴリと音が聞こえてきそうなほど大きく変形し始めた。
基本的に獣人は体毛が濃いが、それはあくまで一般的な人間と比較してであって、本物の獣のように全身が毛に覆われているわけではない。
顔も、獣耳を除けば普通の人間と同じだ。
それが、ヴォルクが力を解放したとたん、まるで本物の魔獣のように全身が体毛で覆われ、筋肉も魔獣のそれに変化し、そして顔もヘルハウンドのようにアゴを突き出した獣顔になった。
これは……『人狼』だ!
すでに絶滅したと言われる魔族で、最強魔族『吸血鬼』と並ぶほどの力を持っていたという。
その能力が、『称号』として受け継がれていたんだ!
伸びた体毛は見るからに硬質なモノへと変化し、ギラギラと銀色に輝き出す。
なるほど、ヴォルクが自信に溢れているのも分かる。
『人狼』や『吸血鬼』は、人間を遙かに超えた存在だ。常人では到底敵うような相手じゃない。
変身が完了したヴォルクには、すでに人間だった面影はなかった。
「では魔王よ、戦闘開始だ!」
ヴォルクはそう宣言したあと、ほんの少し屈んだかと思えば、一瞬で間合いを詰めてその両手の爪で攻撃してきた。
人狼になったヴォルクは、全身が筋肉の塊みたいなモノだ。
通常の人間では考えられないような動きで攻撃を仕掛けてくる。
だが僕は、相手の少し先の行動が見える『超越者の目』を持っている。
この程度では僕の虚を衝くことはできない。
「やるな魔王! しかし、これは避けられるかな?」
ヴォルクの姿が、一瞬視界から消えた。
それは上下左右の壁を使って、立体的に攻撃をしてきたからだ。
コレは凄い!
壁に飛んだかと思えば、天に着いたり地を蹴ったりと、戦闘のセオリーでは考えられない動きをしている。
その常識外の動きに、さすがの僕も少し面食らった。
この狭い空間はヤツの巣穴だ。
ここなら魔王に勝てると言ったのも、あながちウソではなかった。
しかし、残念ながら僕には当たらない。
そして僕の剣がヴォルクを捉える!
ザギンッ!
えっ? なんだこのおかしな感触は……!?
「さすが魔王、人狼になったオレに攻撃を当てたのは、お前が初めてだぜ。だが、オレを斬ることはできない!」
ヴォルクの銀色の体毛は想像以上に硬くなっていて、それでいてしなやかに衝撃を吸収し、僕の『竜牙の剣』でも斬れなかった。
これはドラゴンを超える強靱さだ。
ここまでとは……
ドラゴンですら即死だった『呪王の死睨』に耐えられるかどうか、少々実験してみたくなるほどの生命力だ。
これほどの強敵と戦えることは本当にありがたい。
ゴーグやヴァクラースにあって僕に足らないモノ――それは戦いに対してのセンスや野性的な勘だ。戦闘本能といってもいい。
それをしっかり養っておかないと、いくら強いスキルを持っていても十全に活用することはできない。
僕が成長するためにも、このヴォルクの力を存分に味わいたいところだ。
「これでも喰らいやがれ! 『消滅の咆哮』っ!」
ヴォルクが口を大きく開けて咆哮を上げる。
これは破壊の振動波だ。立ちはだかるモノを全て粉砕していく。
まあ喰らっても大丈夫だろうが、あまり手抜きの戦いには慣れたくない。
なので、しっかり避ける。
「くっ……コレも躱すのか!? さすが魔王と言われるだけあるぜ!」
ヴォルクは動きのスピードをさらに上げる。もはや残像が見えるほどの速さだ。
並の動体視力では追えないほど、上下左右を跳ね回り、有り得ない角度から攻撃を仕掛けてくる。
結界で通常クラスの魔法は封じられてるし、この状況でヴォルクに勝てるのはそうはいないだろうな。
ちなみに、僕の持つ『蜃気楼の騎士』は回避不能の攻撃を出せるが、それは適当な方向を斬っても相手に当たるということではない。
当たり前だが、ちゃんと相手を狙わなくては当てることはできない。
いったいどういう現象が起こっているのか、技を使っている僕には分からなかったが、攻撃を受けたメジェールいわく、剣がまさしく蜃気楼のように消えて、防御も回避もできなくなるとのこと。
そういう効果なので、ちゃんと動きを捉えないと、『蜃気楼の騎士』をもってしてもヴォルクを斬ることはできない。
しかし、動きを捉えたら、攻撃を躱すのは不可能だ。
そして『竜牙の剣』で斬れないなら、斬れる剣を使えばいい!
こういう戦闘は僕にとってもいい経験になるが、あまり長引かせるのも良くない。
そろそろ決着をつけさせてもらうとするか。
僕は先日作った聖剣『冥霊剣』をアイテムボックスから取り出す。
「魔王よ、コレで終わりだーっ!」
人間を遙かに超越した動きでヴォルクは僕の背後に回り、鋭く伸びた爪でこの首をハネにきた。
きっとこれがヴォルクの最速の攻撃なんだろうけど、残念だが僕には見えている。
両手を使った必殺の二連撃を躱し、『冥霊剣』でその両腕を斬り落とす。
『竜牙の剣』では歯が立たなかったが、さすが聖剣、その硬質な体毛ごとすんなりと切断することができた。
「ぐあああっ、そんなバカなっ、オレの身体が斬られるはずがあああっ……」
「自分の肉体を過信したな。覚えておけ、魔王に斬れないモノはない」
ザシュッ……!
僕はヴォルクにトドメを刺した。
ほんの少し迷ったが、これほど残忍で力のある側近は、やはり生かしておくことはできない。
禍根は断っておかないと。
……あ、覚えておけって言葉が無駄になっちゃった。せっかくカッコ付けたのに……
さぁて、とうとう王様の部屋に到着しましたよ。
人狼ヴォルクを倒した僕は、目的地の扉に手をかける。
大人しく待ってたかなあと思ったら、扉を開けた瞬間、いきなり数十発という魔法が飛んできた。
ま、当然ですよね。
「殺せ殺せ! 魔王を退治せよ! ありったけの魔法を撃ち込んでやれ!」
ゼルドナ王の声が、大量の魔法で視界を覆われた向こう側から聞こえてくる。
この魔法なかなか強力だな。そこらの魔道士には使えない上位レベルの魔法だ。
そうか、ここにいるのは王を守る宮廷魔道士隊だから、外の魔道士たちよりも遙かに強いんだ。
まあでも、全然効かないけどね。
「どうした、そんなものか? もっと強い魔法をぶつけてこい!」
僕は敢えて挑発した。魔王という設定だからだ。少し『威圧』スキルも使ってみた。
本気でやると全員失神しちゃうかもしれないので、相手が状態異常にならない程度に手加減して威圧する。
すると、魔王のプレッシャーに恐怖したのか、死にもの狂いで魔法を撃ちまくってきた。
「死ねっ、殺してやる!」とか「消滅しろ!」など、必死な叫び声も聞こえてくる。
僕は薄ら笑いを浮かべながら、それらの魔法を無抵抗に浴び続けた。
しばらくすると、魔道士隊の魔力が尽きて、魔法の嵐は収まった。
もはや誰も声を上げる者はいない。
シーンと静まりかえった部屋を見渡してみると、魔道士たちが絶望のまなざしで僕を見つめていた。
泣いている人もいるようだ。
「終わりだ……我が国はもう滅ぶしかない……」
いや、滅ぼす気は一切ないので安心してください。
むしろ、救いに来たんですけど……って、いま言っても絶対信じてくれないだろうな。
魔道士たちはすでに抵抗する気力はないようだけど、肝心の王様の姿が見えないな。
さっきまで声がしてたのに。
大臣らしき側近の姿は確認できるんだけどね。
「な、何をやっとる! もっと死ぬ気で戦えっ! 誰か、誰かあの魔王を殺すのじゃああっ!」
おっ、いたいた。玉座の後ろに身を潜めてたのか。
自分だけ隠れて部下をけしかけるなんて、評判通りの愚王だな。
さて、どうやって懲らしめようか……あ、まずはコレをやらないと!
「頭が高い、跪け!」
僕は重力魔法の『超圧重力圏』で、この場にいる全員をいっせいに這いつくばらせた。
脅しも兼ねて、少し強めに掛けてやる。
「ぷぎいいいっ、おひちゅぶされりゅ~」
「ま、魔王の前では、立つことすらできないとは……」
全員地べたに頬を擦りつけるような状態にさせてから、僕は言葉を続けた。
「ゼルドナ王よ、お前には忠告をしたはずだ。我には手を出すなと」
「ぷひいっ、し、知らんっ、は、配下の者どもが勝手にやったのじゃあっ」
「では、騎士たちがやって来たのは、お前が命じたわけではないと?」
「当たり前じゃ、魔王に逆らう気など毛頭ない」
ふぅん……王から直々の命令を受けてやって来たって、あの騎士たちは言ってたけどね。
そもそも下手なウソなんて、『真理の天眼』で見れば全てお見通しだ。
「こやつらの命はやる! だから、わしの命だけは助けてくれ!」
「陛下、そんなご無体な……魔王様、この魔道士たちや兵士、国民どもはいくら殺しても構いません。生涯忠誠をお誓いいたしますから、我らの命もお助けください!」
う~ん、聞きしに勝る酷い王様だ。シャルフ王と同じ一国の主とはとても思えない。
そしてこの側近たち。
忠誠を誓うと言っておきながら、めっちゃくちゃ敵意あるんだけど。
解析で丸わかりだぞ。
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正義感からの敵意じゃないだろう。
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僕はともかく、邪悪な側近たちのせいでみんなを危険に晒すことはできない。
もちろん、罪のない者には危害を加えるつもりはないけど。
この側近たちはいらない。
「では聞こう。我に忠誠を誓えるか?」
「誓います、終生魔王様に従いますぅ~っ」
答えを聞いたあと、『呪王の死睨』で側近たちを即殺した。
最終勧告でも、やはり敵意も悪意も変わってなかったからだ。
「ひっ、ひええええっ」
側近たちが突然コト切れたのを見て、這いつくばっている魔道士たちが悲鳴を上げる。
「騒ぐな。こいつらは忠誠を誓うと言っておきながら、内心憎悪を燃やしていた。我にはそれが分かるのだ。よいか、魔王を欺けると思うな!」
「私たちは、私たちには一切歯向かう意思はございませんんん!!」
うん、分かってる。仮に歯向かう意思があったとしても、邪な心さえなければ問答無用で殺すなどしない。
そもそも王様に命令されてやったことだろうし、魔王を倒そうとするのも人間として当然の行為だ。さっき攻撃されたことは少しも恨んではいない。
『真理の天眼』で見た限り、全員服従しているのは分かるし、もちろん邪な心も感じない。
よって、彼らに危害を加えるつもりはないが……
「わしを、わしを殺さんでくれええっ」
さて、この王様はいったいどうしようか。
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