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第8章 英雄の育成

第395話 チートでレベルアップ

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「さてランゼ、クリスティ、サイファ、今日も頑張って訓練してもらうよ」

「「「はいっ!」」」

 訓練開始2日目。
 昨日と違うのは、早朝から馬車移動ではなく、『空間転移スペースジャンプ』で一気に森まで来たことだ。
 一度訪れた場所へは、簡単かつ安全に転移できるからね。なので、まだかなり早い時間だけど、僕たちはすでに訓練開始ができる状態だ。

 ちなみに、王都内でいきなり転移するのではなく、馬車で出発してから人目のないところで転移した。
 王都を出たという形跡を残しておかないと、場合によっては不審がられるかもしれないからだ。
 そこまで気を遣う必要はないかもしれないけど、あの学院長はかなりサイファたちを目の敵にしていたので、一応念のための策である。

「3人ともいい返事だ。とその前に、まずは朝食を食べようか」

 実は3人には朝食を抜いてきてもらった。これはある目的のためだ。

「待ってました! 朝メシ抜きだったから腹ペコだぜ」

「ヒロくんが何かご馳走してくれるって言うから、楽しみにしてたわ」

 ここはかなり危険な森だというのに、ランゼたちはすっかり安心しきっているようで、ピクニック気分で食事の態勢を整える。
 昨日一日一緒に過ごしたことにより、お互いの絆を深めた効果だ。
 僕がいれば、この森でも安全に行動できると信頼してくれてるのだろう。

 草地の上にシートを広げて4人で座ったあと、そこに持ってきた朝食を並べる。
 これは僕が昨夜のうちに作っておいた物だ。アイテムボックスに入れておけば劣化することなく保存できるので、作り置きでも出来立てほやほやのままである。

「うわあ~今日のお料理もすごいですね! でもコレ、昨日いただいた物とは何か雰囲気が違うような……?」

「ああそれは、この料理は僕が作ったからだよ」

「ええっ、ヒロくんが作ったの!?」

 そう、僕が朝食用に持ってきたのは、モンスターの肉を調理した特製の『魔料理』だった。
 それも、とっておきの『邪黒竜』料理である。コレを食べることによって、通常では到底得られないような経験値を入手することが可能なのだ。
 パワーレベリングで経験値稼ぎするよりも、コレを食べたほうが圧倒的に早く成長できるだろう。

「すげーなヒロ、お前こんな料理もできるのか!」

「ヒロさんはなんでもできるんですね!」

「味には少し自信がないから、君たちの口に合うといいんだけどね。さ、食べてみてよ」

「おう、いただきまーす!」

 3人が魔料理を取って口に入れる。
 モンスターの肉は少々クセがあるので、レベル10の『料理』スキルで調理しても、万人向けの味とはならない。
 まあ食べられないほど不味いということはないので、多分問題ないとは思うけど……。
 僕は3人の反応をじっと窺う。

「ヒロさん、美味しいです! 柔らかくてとってもジューシーで……」

「そうね、私たちあまりお肉とか食べたことないんだけど、何か不思議な味がして高級感があるわ」

「スゲーうめーぞ! いったいなんの肉なんだよコレ!?」

 ほっ……よかった。
 よほど味にうるさいグルメの人以外なら大丈夫とは思ってたけど、3人には美味しく感じられたようだ。
 あまりいいお肉を食べてないというのもあるんだろうけど。
 ランゼたちはがっつくように口に入れ、あっという間に料理を平らげた。

「ぷはーっ、食った食った! いけねっ、腹ペコすぎたから、ちょっと食い過ぎちゃったかもしれねー」

「満足してもらえて何よりだよ。ところで、ちょっと経験値をチェックしてみてくれないかな?」

「経験値? いいけど、昨日から何も変わってなんか……ええっ、何よコレッ!?」

「どうしたのクリスティちゃん……あれっ、ボクの経験値が!?」

「2人ともどうし……な、なんじゃこりゃあああっ!? アタシの経験値が100万も溜まってるぞ!?」

 よし、ちゃんと経験値を取得することができたな。
 あれ、でも100万? 邪黒竜料理をコレくらい食べたら、もう少し入っててもおかしくない気がするけど?
 ま、とりあえずはOKだ。

「ヒ、ヒロさん、これっていったいどういうことなんですか?」

「そ、そうだぜ。まさか、今の料理を食べたからこんなに経験値が入ったのか?」

「うん、まあそうなんだ。これが僕のとっておきのレベリングってこと」

「す、す、すごいじゃないの! こんなの聞いたこともないわ! 英雄級に強かったり、馬車ごと転移する魔法使ったり、凄いアイテムいっぱい持ってたり……ヒロくんって何者なの!?」

「たまたまだって。コレもちょっとした秘伝の料理ってだけさ。でもこのことは内緒だよ?」

「「「はいっ!」」」

 3人は元気よくまた返事をした。

「ヒロくんが全然パワーレベリングしてくれないから、経験値をどうするのかと思ってたけど、こんな方法があったなんてビックリよ!」

「で、でもヒロ、こんな凄い料理があるんだったら、アタシたちここで戦う必要なんてないんじゃ?」

 簡単にレベルアップできることを知って、何故こんな森にわざわざ来たのかを疑問に思っているようだ。

「ランゼの言う通り、経験値はこの料理で入手できる。でもスキルは自分たちでなんとかするしかない。みんなにはここで頑張って、たくさんスキルを習得してもらうつもりだ」

「ボクたちがここに来た本当の目的は、スキルを覚えるためなんですね」

「そうだ。それに、戦闘経験を積む目的もある。経験値でただレベルを上げただけでは、その能力を上手く使うことができないからね。ちゃんと自分で戦ってみないと、モンスター相手にどうしていいか分からないだろ?」

「なるほど……。よっしゃ、俄然やる気が出てきたぜ。じゃあ早速この経験値で自分をレベルアップして……」

「待った! 3人とも、僕がいいと言うまで経験値には一切手を付けないでくれ」

 ランゼが経験値を使おうとしたので、慌てて止める。

「えっ、経験値を使っちゃダメなんですか? どうしてですかヒロさん?」

「そうよ、これじゃなんのために経験値を入手したのか分からないじゃない」

 レベルアップを止められて、3人は驚いている。
 確かに、これほど多くの経験値を獲得したら、すぐにも自分を強化したいと思うのは当然だ。
 だが、それだと計画が狂ってしまう。

「いいかい、ベースレベルやスキルを強化してしまうと、新しいスキルが出づらくなってしまうんだ。だから自分を強化するのは、なるべく多くのスキルを習得してからのほうが効率がいい」

「スキルって、そういうモノなんですか?」

「そうだ。自分が窮地になるほど、スキルは発現しやすい。なので、経験値は使わずじっと溜めて、みんなにはあえて危険な状態で戦ってもらう。……できるかい?」

「……怖いけど、ヒロくんを信じて頑張ってみるわ」

「ああ、ヒロの言う通りにするよ。ヒロがいてくれれば、アタシたちも頑張れる!」

「ボクも頑張ります!」

 よかった。3人とも僕の言うことを聞いてくれるようだ。
 昨日魔料理を食べさせなかったのは、しっかり信頼関係を築いてからのほうがいいと思ったからだ。
 これで計画通り、3人を強化することができる。

「よし、では今日の訓練開始だ!」

「「「おー!」」」


 その後、昨日と同じようにスキルの習得に努め、3人はいくつかの新たなスキルを獲得した。
 それはいいんだけど、ちょっとだけ予定外のことが……。

 みんなには昼食にも魔料理を食べてもらったんだけど、なんと経験値が入らなかったのだ。
 朝食で得た経験値が100万というのが少なく感じたんだけど、どうやらそれは、1日に入手できる経験値の上限に達したかららしい。

 魔料理には元々経験値の上限があって、邪黒竜料理では最大で1日1000万もらえるはずなんだけど、レベルの低い3人にはさらに制限がかかっているようだ。
 これはちょっと想定外だったけど、あとでレベルを上げれば上限値も増えるはず。
 とにかく、何はともあれまずはスキル習得が最優先。片っ端から取ってもらおう。
 それまで邪黒竜肉を使うのはもったいないから、通常のドラゴン肉でまかなうことにするか。

 そして2日目の訓練を終え、僕たちはファーブラ王都へと帰還した。
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