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第8章 英雄の育成

第393話 ポンコツ3人組

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「じゃあみんな、使っている武器を僕に見せて」

 戦闘訓練に入る前に、みんなの装備を確認することに。
 とまあ見るまでもなく、3人が持つ物はオンボロだった。
 お弁当があれだったからね。貧しいようだから仕方ないけど、これじゃいい戦闘なんてできない。

「こんな装備で戦闘なんかしたら危険だ。ちゃんとした物を身に着けないと」

「でも、アタシたち買うお金がないんだ」

「大丈夫、僕が持ってる物を貸してあげるよ」

 そう言って、アイテムボックスからミスリル装備一式を取り出す。
 拳闘士であるランゼには手甲に鋭い3本の爪が付いている『ミスリルクロー』を、弓使いのクリスティには『ミスリルアロー』、神官のサイファには『ミスリルロッド』、そしてそれぞれの職に相応しい防具を渡した。

 ミスリルは軽い上に硬くて、そして魔力も帯びやすい素晴らしい金属だ。
 特に筋力のない女性には最適だろう。
 コレを一式揃えられるようになったら、上級冒険者の仲間入りといえる。

「こんなの借りちゃっていいのかよ!?」

「もちろん。安全が第一だからね」

 本当はもっと凄い装備も渡せるんだけど、いきなりよい物を使うと装備に頼ってしまう可能性がある。
 ちゃんと自力で戦えるよう、まずは基礎能力の底上げをしないとね。

「それと、君たちに1つずつアイテムボックスと治療用のアイテムも渡しておくから、何かあったら自分たちで対処するように」

 一辺が3mサイズのアイテムボックスに、各種必要なアイテムを入れてランゼたちに渡す。
 荷物袋でも多分問題ないけど、余計な物は少しでも減らしたほうが戦闘しやすいだろう。

「すげーっ、1人1個ずつアイテムボックスなんて、デミトフたちだって持ってないぜ!」

「ヒロくんって、もしかして凄いお金持ちなの!?」

「まさか、たまたま持ってただけだよ」

「ありがとうございます、ヒロさん!」

「さ、準備が整ったところで、訓練開始といこうか」

「「「はいっ!」」」


 僕たちはモンスターを探しに、森を移動し始めた。
 実はちょうどいい気配を捉えているので、そちらに向かって進んでいく。
 10分ほど歩くと、体長2.5mほどのオーガと遭遇した。

「うわあっ、オーガだっ」

「だ、大丈夫よ、ヒロくんは凄い強いんだから」

「ヒロさん、お、お願いします!」

 ランゼたちは隠れるように僕の後ろに引っ込んだ。
 しかし、ここに来たのは僕が戦うためではない。
 こんな弱いモンスターで僕がパワーレベリングしても、もらえる経験値はたかが知れているからね。
 この辺りでは比較的弱いオーガを選んだのには、別の目的がある。

「君たちの実力がちょっと見たいんだ。3人で戦ってみてくれないかな?」

 僕はランゼたちに戦闘を促した。
 そう、3人を戦わせるためにオーガを選んだのだった。

「ええっ、ヒロさん、パワーレベリングするんじゃないんですか!?」

「無理言うなよ、ア、アタシたちがこんなモンスターと戦えるわけないだろ!」

「そ、そうよ、意地悪しないでヒロくん早く倒して!」

 僕に戦うように言われて、3人は顔を真っ青にして慌てている。
 3人のベースレベルは19だから、確かにオーガはちょっとキツいかもしれない。
 まだ戦闘スキルを育ててないしね。
 ただノーマルオーガなので、特殊攻撃などしてこないから危険度は低めである。
 本当はもう少し弱いモンスターがよかったんだけど、この森は結構危険な場所なので、コイツより弱いのがなかなか見つからないんだ。

「僕はただパワーレベリングしようと思って君たちの師匠になったわけじゃないよ。しっかり戦えるように鍛えるためだ。それにはまずやることがある」

「で、でも、こんなヤツと戦うって、アタシたちまだそういうレベルなんかじゃないって」

「まあいいから戦ってみてよ。僕がそばに付いててあげるから絶対大丈夫!」

「わ……分かりましたヒロさん。じゃあランゼちゃん、クリスティちゃん、いくよ!」

「仕方ないわね……ランゼ、前衛をお願い!」

「くそっ、もうやけくそだ!」

 3人は覚悟を決めたようで、素早くフォーメーションを取ってオーガへと挑んだ。
 って………………え?

「こ、このやろー、かかかかってきやがれ! うわわだめっ、こっち来るなあっ!」

「えいっ、えいっ、あ、あ、当たれええええっ!」

「神のご加護を与えたまえ、『衝撃緩和ダメージクッション』、『衝撃緩和ダメージクッション』、『衝撃緩和ダメージクッション』……」

 んんんんんんん~?
 この子たち、モンスターと戦ったことないのか?
 ランゼはまったく届かない間合いからパンチを振り回したあと、オーガに近づかれないよう足元の石を拾って必死に投げつけている。
 クリスティはまるで目を瞑っているかのように、明後日の方向に向けて矢を放ち続ける。
 そしてサイファは、ダメージ緩和のシールドを何度も重ねがけをしている。この手の魔法は重複しても効果アップにはならないので無意味だ。

 なんていうかその……言葉は悪いが、まさにポンコツ3人組。
 さっき『あまり強くない』なんて言ってたけど、まるでダメじゃないか。
 うーん、見下されるのには理由があるな。もはやしかない。

「みんな、いったんストップ! 戦闘をやめてオーガから離れるんだ」

 僕の言葉を聞いて、3人はうわああと叫びながらこっちに戻ってきた。

「ここ怖かったよ、ヒロ、早くアイツを倒してくれ」

「死ぬかと思ったわ」

 3人は後ろに回って、震えながら僕の背中に抱きつく。

「落ち着いて。大丈夫、オーガは襲ってこないよ」

「ええっ、そんなはず……」

「ホントだわ、あそこから動かずにじっとこっちを見てるだけね」

「オーガもヒロさんのことが怖いんでしょうか?」

 実はあのオーガは、出会って即テイムしていたんだ。
 だからランゼたちが戦闘をしても、オーガから攻撃することはなかった。
 一応、安全を確保しておきたいと思ったからね。

「みんな、さっきの戦闘はどういうことなんだい? いくらなんでも素人過ぎる気がするんだけど?」

「だ、だってアタシたち、学院じゃロクに戦い方を教えてもらってないんだよ!」

「せいぜい囮として使われるくらいで、まともにモンスターと向き合ったことなんてほとんどないわ」

「経験値のおこぼれでレベルだけは上がってますが、初心者と変わらないんです」

 なんと、そこまでの状態だったとは……。
 学院がロクに指導しなかったのなら、あれでも仕方ないか。
 じゃあ、まずはモンスターに慣れてもらうことから始めるとしよう。

「みんな、確かにオーガは弱くないけど、ヤツの攻撃は力任せで単調だ。サーベルタイガーのように変則的で素早い攻撃じゃないし、毒などの特殊攻撃もない。落ち着いて戦えば3人なら勝てるよ」

「アタシたちまだベースレベル8だぞ!? 勝てるわけないって!」

「さっきレベルを19に上げたでしょ」

「あ、そっか! でもあんなヤツ倒すの無理だって!」

「そんなことないよ。さっきミスリルの装備も渡しただろ? 3人で協力すれば、けっして倒せない相手じゃないよ」

「そ、そうかしら? ヒロくんが思ってるより、私たちずっとポンコツよ?」

 あ、自分でポンコツって言っちゃった。
 しかし、気が強くて小生意気なランゼとクリスティだけど、意外に怖がりで可愛いところもあるじゃないか。
 もっと自信満々で戦うタイプだと思ってたよ。

「とりあえず、あのオーガともう1回戦ってみよう。今度は僕の言う通りに動いてみて」

「ええっ、ほ、ほんとにボクたちで倒すんですか!? せめてもう少しレベルを上げてから……」

「強くなるには訓練する順番がある。ただレベルを上げるだけじゃ、逆効果になることもあるんだよ」

「そ、そうなんですか?」

 ま、僕がそれで苦労したからね。
 本格的にレベルを上げる前に、まずはスキルを一通り覚えておかないと。

「このオーガだけど、人間と違ってフェイント攻撃などしてこない。だから振り上げた爪に注意してれば、攻撃を避けるのも難しくないんだ」

 僕はオーガの前に立って、爪の攻撃を1つ1つ丁寧にかわしていく。

「ね、簡単でしょ? ランゼは拳闘士なんだから、最低これくらいはできないと戦っていけないぞ」

「で、でもアタシ……」

「大丈夫、ほらやってごらん」

 僕は無理矢理ランゼを連れてきて、オーガの前に立たせる。

「はわわわ、まってまって、死ぬ、死んじゃう!」

「落ち着いて、ほら右手を振り上げたから爪の攻撃が来るぞ。よく見て避けるんだ」

「うわああっ、ちょっと、ふおおおおっ!」

 ランゼは慌てながらも、なんとか攻撃をかわす。

「次は左手だ、腕を引いたから爪で突いてくるぞ」

「ひゃあああっ」

 なんとも不格好な動きであるが、ランゼはオーガの突きもかわした。
 もちろんテイム済みのオーガだけに、本当に危険な攻撃はしてこないけどね。

「よし、上手いぞ。次はただ避けるだけじゃなく、オーガの懐に入ってパンチを打ち込んでみるんだ」

「そ、そんなの無理だって!」

「大丈夫、ランゼならできるよ。攻撃をよく見て一気に潜り込むんだ!」

「うひゃっ、ふおっ、くうっ、ひえええっ! な、なんかでもタイミングが分かってきたぞ……い、今だ!」

 ランゼは何度かタイミングを計りながら、爪をかわして前へと飛び込み、オーガの腹部に右フックを打ち込んだ。
 ミスリルの爪が、オーガの身体に突き刺さる。

「グオオオンッ」

「うわっ、アタシのパンチが当たった!」

「やるじゃないランゼ!」

「ランゼちゃんすごい!」

 ダメージを受けて、オーガはよろけながら後ずさりする。
 ああオーガくん、ごめんな。申し訳ないけど、この子たちのために練習台になってくれ……。

 テイムしたモンスターには情が移ってしまうので、戦闘の実験台にするのは本当に心が痛むんだけど、これも彼女たちが成長するためだ。
 オーガくんの協力を無駄にしないためにも、3人をしっかり鍛え上げるから許してほしい。

 僕は心の中でオーガに謝るのだった。

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 本日、『無限のスキルゲッター』コミカライズ第3話が更新されます。
 あの美少女キャラもちらりと登場しますので、どうぞよろしくお願いいたします☆
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