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第8章 英雄の育成

第387話 本物のアイドル

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「アリーシア、べ、別にオレはランゼたちをいじめてるわけじゃないぜ」

「そ、そうさ、今日の試験についてアドバイスしてただけさ」

 アリーシアという少女が現れたら、ゴライアスとデミトフの態度が途端に変わった。
 なるほど、これだけの美少女だ。クラスの……いや、この学院のアイドルって感じなのかな。

 アリーシアは身長160㎝程度、細身ながらもスタイル抜群で、ピンクのワンピースを着ている。
渇望の女帝エゴイスト』というSSランクの称号を持っていて、これは自分を慕ってくれる人たちから少しずつ魔力を分けてもらえる能力らしい。
 ただ1人からもらえるのはかなり微量で、そして吸収する対象相手も男性のみのようだ。よって、女性から何人慕われようとも、能力には関係ない。

 シャルフ王が持つ『統べる者』の下位版ってところだけど、少し違うのは、対象が近くにいなくても問題ないということ。
 つまり、相手が自分を思ってくれている限り、どんなに離れていても魔力を分けてもらえる。この点は便利だ。
 1人1人から吸収できる量が少ないとはいえ、大勢の男子生徒たちがこの子の虜になっていたら、結構な魔力が集まるかもしれない。
 何せこの学院には、2年生の男子だけでも1500人ほどいるみたいだからね。
 2年制の学校だから、1年生も含めると男子は3000人くらいか?
 果たしてアリーシアは、どれくらい男子生徒の心を掴んでいるのだろうか。

「さあお二人とも、そろそろお時間だからお戻りになったほうがよいですわ」

 アリーシアがデミトフたちを促すと、2人はそそくさとこの場から立ち去った。
 美少女に逆らえないなんて、あいつらも可愛いとこあるじゃないか。
 恐らくこの3人が、英雄養成学院のトップ3ってところだろう。

「そこの冒険者の方、お見苦しいところを見せてしまってごめんなさいね。彼らも悪い人じゃありませんのよ」

「いや、僕は全然気にしてないよ」

「よかったわ。ふふっ、ランゼさんたちもよいパートナーを見つけましたわね。今日の試験頑張ってくださいね」

 そう言って、アリーシアは僕の右手を両手で握ってきた。
 おしとやかでいい子だな。こんな子がいるなんて少しホッとしたよ。

「それではごきげんよう」

 さっきまでの険悪な空気を吹き消すように、爽やかな風を振り撒いてアリーシアという少女は去っていった。
 この手の子に会ったのは久しぶりだ。
 うちの子たちは暴れん坊しかいないから……。
 なんとなく出会った頃のフィーリアを思い出したよ。結局フィーリアはアレな子だったけど。

「おいヒロ、鼻の下伸ばしやがって。まったく男ってヤツはバカだよな」

「ホント、ちょっと可愛い子を見たら、思考停止でデレデレしちゃうんだから!」

 ランゼとクリスティが呆れた表情で僕を見る。

「えっ、いま僕デレデレしてた?」

「ジッとアリーシアのこと見つめてたじゃん! やらしい目付きしてたし」

 いやそれは、『真理の天眼』で能力を解析してたからなんだけど……。
 やらしい目付きだなんて、ちょっと心外だな。
 というか、そもそもアリーシアと友好的な関係になることを嫌がってるような雰囲気を感じるのはなんでだ?

「ひょっとして、アリーシアのことを警戒してるの? あんなにいい子なんだから、仲良くしたほうがいんじゃない?」

「それがバカなんだって。絶対ダマされてるぞ」

「えっ、そ、そう?」

 なんでアリーシアのことそんなに悪く言うんだ?
 彼女の美貌に嫉妬してるのかな。

「言っておくけど、アタシは嫉妬なんかしてねーからな。そもそも外見で負けてると思ってねえし」

 う、またしても心を読まれたような……ホントに勘が鋭いな。
 獣人は五感が優れているから、そのあたりも関係してるのかな。

「それに、男からの人気ならサイファだって負けてないぜ」

「そうよ、サイファのほうがアリーシアよりずっと可愛いんだから!」

 そう言いながら、クリスティはサイファの頭を抱き寄せる。

「そ、そんなことないよ、ボクは見た目パッとしないし落ちこぼれだし、アリーシアちゃんとは全然違うよ」

「サイファってば、謙遜することないんだから! サイファが一番よ」

「ああやめてクリスティちゃんっ、恥ずかしいっ……!」

 クリスティがサイファにほおずりをする。
 クリスティはサイファのことが大好きみたいだな。仲がよくて微笑ましいね。

 さて、ナンバー0の子供だけど、もしこの中にいるとしたら、可能性が高いのは今の3人――デミトフ、ゴライアス、アリーシアあたりか。
 ざっと見渡した限りでは、この3人が能力的に抜けている。
 あとは本人たちの素性がどうかというところだ。

「ランゼ、あのデミトフはこのファーブラ育ちなのかい?」

「ん? いいや、帝国出身って話らしいぜ」

「帝国から来たのか!? じゃあデミトフの家族は?」

「えーと、確かデミトフが幼い頃に、名家の貴族に養子として引き取られたってことだったはず」

 帝国出身で養子だって!?
 これはナンバー0の子供という可能性が高くなったな。要注意だ。

「ゴライアスの出身と家族はどんな感じなんだ?」

「アイツも確か、帝国からこのファーブラに移住してきたと思う。家族は母親と2人暮らしで、父親はいないって話だ」

 ええっ、ゴライアスも帝国出身で父親がいないのか!?
 ということは、やはりナンバー0の子供という可能性は充分ある。

「あとアリーシアについても、出身と家族を教えてくれないか」

「アリーシアも? アイツも帝国出身だぜ。ただ、家族のことは完全に秘密になってる。何せだからな。まあ金持ちの令嬢っていう噂は耳にしたけど……」

 なんてこった、アリーシアまで条件に該当するのか!
 こうなってくると、この3人の誰かが本当にナンバー0の子供かもしれない。

 っと、いま人気絶頂のアイドルって言ってたな。この学院ではそんなに凄いのか。
 でも、素性を秘密にすることないよな。しょせん生徒なんだし。

「アリーシアって、特別扱いされるくらいこの学院で人気なんだな」

「バカ言ってんじゃねえよ、アリーシア・オウシャンって全然知らねえのか!?」

「えっ、有名なの?」

「ファーブラ始まって以来、いや全世界でも人気絶頂の超有名アイドルだぞ! アリーシアを見るために、各地からファーブラへと人が押し寄せてくるくらいだ」

 なんだってーっ!?
 いや、容姿がよくて歌やお芝居が上手いと、ファンがたくさん付いてアイドルと呼ばれる存在になるけど、まさかアリーシアが本物のアイドルだったとは……。
 僕はそういうのに興味がなかったから、全然知らなかったよ。
 きっと魔導影像ブロマイドもたくさん出回ってるんだろうな。

 ……ちょっと待てよ、全世界に大勢のファンがいるってことは、アリーシアの称号『渇望の女帝エゴイスト』が凄いことになるぞ。
 慕う者たちから魔力を分けてもらえる能力だから、人気アイドルだったらとんでもない量が集まるはずだ。
 これほど相性のいい能力はないな。

「おいヒロ、なんだってそんなこと聞きやがるんだ? アイツらの素性に何か問題でもあるのか?」

「……いや、なんでもない、ちょっと知りたかっただけだよ」

「ふーん、変なヤツ」

「ところで、デミトフやゴライアス、アリーシアは、なんであんなにレベルが高いんだ?」

 そう、気になったのは、デミトフたち3人のレベルが突出していることだ。
 3人とも16歳にしてベースレベルが50を超えている。スキルレベルも同じように高い。
 これは僕たちエーアストの神徒以上の成長速度だ。いくら英雄を育てる学院とはいえ、通常ではあり得ない。
 サイファたちはまだレベル10にすら到達してないというのに。

「ああ、アイツらは特待生で、入学当初からずっと学院が支援してるんだ。だからこの『メンターパートナー』を始める前から、毎日上級冒険者と組んでパワーレベリングをしてる。それでレベルが高いのさ」

「彼らだけでなく、ほかのみんなも自主的にパワーレベリングしてるわ。やってないのは私たち3人くらいよ」

 ランゼとクリスティが交互に答えてくれる。
 なるほど、よく見てみたら、ほかの生徒たちもみんなそれなりにレベルが高い。
 パワーレベリングか……僕たちの学校ではそんなことしなかったな。
 まあクラスメイトたちが強かったから、パワーレベリングに頼らなくてもよかったということもあるけど。
 少しでも多く戦闘経験を積んだほうがいいだろうと、僕らは自分で戦わされたのだった。

 パワーレベリングは便利だけど欠点もあって、1つにはスキルを覚えづらいというのがある。
 自分で戦わないと、なかなかスキルが出てこないからだ。僕もそれで苦労したし。
 リノたちをパワーレベリングするときも、可能な限り自分で戦わせた。

 それと、パワーレベリングは途中から効率が悪くなりがちだ。
 人数が多くなると1人頭の経験値が少なくなるので、ある程度強くなったら、自分たちだけで戦ったほうがスキルも覚えられて得になる。
 結局のところ、通常は基礎能力を上げる目的で、最初の頃にちょっとだけやる程度だ。

 デミトフたちは1年ちょっとでレベル50になるほどだから、相当ガッツリやってるだろう。
 それに付き合わされる冒険者も結構大変なはず。
 上級冒険者はヒマじゃないからね。いったい誰が彼らを鍛えたんだろうな。
 それにしてもアリーシア、特待生とアイドルを両立するなんて頑張り屋じゃないか。

 ちなみにサイファたちの能力は、サイファがCランク称号の『声を聞く者』で、ランゼはDランクスキルの『手工芸クラフトワーク』、クリスティは同じくDランクの『平常心』というスキルだ。
 落ちこぼれと言われるだけあって、ちょっと頼りないかな。
 まあどんな能力も使い方次第だけど。

 ただサイファの『声を聞く者』は低ランクにしては結構珍しく、僕も初めて知った。
 能力としては、近くにいる霊の声がたまに聞こえたりするらしい。
 ちょっと怖いな。不遇の死を遂げるとアンデッドになったりするけど、そんな声も聞こえちゃうのかなあ?

 生徒や冒険者が揃ったところで、学院の教師らしき人が現れて、試験の説明を始めた。
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