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2巻
2-3
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◇◇◇
コイツが……村を襲っていたのか! こんな近距離で見たのは初めてだ。
そこにいたのは世界最強の生物種――体長二十メートルを超えるドラゴンだった。
『真理の天眼』で解析してみると、そいつはノーマルドラゴンだった。ドラゴンにもランクがあって、たとえば女神様を襲った邪黒竜は最上位種に近く、今の僕でも恐らく敵わない。
しかし、通常種なら倒すのは充分可能だ。通常種は、やっかいな『竜語魔法』も使ってこないし。
ただ、倒すにはそれ相応の武器が必要だ。
強靱な身体を持つドラゴンには、生半可な武器は通用しない。僕が以前作った『炎の剣』があれば、なんとかなったかもしれないが……果たして予備の剣でどこまで通じるか?
剣を強化したいところだが、大量のMPを消費するため、迂闊に強化することもできない。
とにかく、追い払うだけでもしないと、村が滅びてしまう!
ドラゴンは低空を飛びながら、村に向かってブレスを吐いていた。アマゾネスたちは何もできず、ひたすら逃げるだけだ。
そうだ、飛び出していったソロルはどこにいるんだ?
注意深く見回していると、逃げ惑うアマゾネスたちの中に、ソロルの姿を見つけた。
ソロルは戦皇妃として、自分の身を犠牲にして仲間を守ろうとしているらしい。派手に動いて、ドラゴンを引き付けようとしている。
無茶だ、無駄死にするだけだぞ!
そこに、大型化した『猫獣』――『村守』も駆けつけ、ソロルに加勢した。
たとえ本気状態となった『村守』でも、ドラゴンには到底太刀打ちできない。本能的に『村守』にも分かっていると思うが、それでも必死にアマゾネスたちを守ろうとしている。
僕も戦闘に加わるため、全力でそこへ向かっていく。
そのとき、無理な体勢でドラゴンの攻撃を回避しようとして、ソロルの体勢が崩れた。そこにブレスが直撃コースで吐かれる。
間に合えっ!
僕は全身の筋力を極限まで収縮し、一気に爆発させて矢のようにソロルのもとへ飛び込む。
間一髪、ブレスが到達する前にソロルを救い出せた!
「お、お前は……!? いったいどうやって抜け出した?」
「説明はあとだ、ここからすぐ離れ……」
ソロルを逃がそうとした瞬間、僕たちを追ってきたドラゴンが顎を開ける。
その喉奥にブレスの光が見えたとき、『村守』が僕らを守るために立ち塞がった。
まずい、これではソロルと『村守』を同時に救えない!
僕は瞬時に判断し、イチかバチかの剣技を放つ!
「『超超特大衝撃波』っ!」
音速の衝撃波が僕たち目がけて放たれたブレスを斬り裂き、ドラゴンの顔に直撃する。
思わぬ反撃にドラゴンは一瞬面食らったようだが、ガルルと唸って首を一振りしただけだった。
やはり衝撃波などではダメだ、直接剣を打ち込まないと!
その時、予想外のことが起きた。
『村守』――『猫獣』に対して、僕のスキル『眷属守護天使』が反応したのだ。
どういうことだ? まさか『猫獣』がスキルの対象になっているのか?
これは『眷女』という従者を作るスキルで、獣は対象外のはずだ。
戸惑いを覚えるが、迷っている暇はない。僕の眷属となれば恐らく『村守』も強化されるはず!
僕は『村守』を『眷属守護天使』で『眷女』――いや『眷獣』にした。
すると……
「む……『村守』様っ、なんだ、これはいったい……!?」
ソロルが驚くのも無理はない。
なんと、六メートルほどだった『猫獣』の身体が、ムクムクとさらに巨大化して十メートル近くにもなったのだ。
そして体毛がキラキラと黄金色に輝きだし、青だった瞳も金色に変化した。
まて、この姿の獣って、心当たりがあるぞ! そう、伝説の幻獣『キャスパルク』だ!
まさか『村守』って、成長途中の『キャスパルク』だったのか!? それが僕の眷属となったことにより、本来の姿に覚醒した?
「ンガーオ!」
少し喉にかかるような鳴き声を発し、『村守』は空中にいるドラゴンへと飛びかかった。
凄い! あの巨体にして、なんと軽やかな身のこなしなんだ!
驚いたドラゴンが爪や尻尾、ブレスで応戦するが、『村守』は素早くそれを躱していく。そして強烈な雷撃をドラゴンに撃ち放つ。
よし、いける! ドラゴンに負けてないぞ!
ただ、空を飛べない『キャスパルク』には、ドラゴンを倒すだけの決め手がないようだが。
とにかく、ドラゴンを引き付けてくれているうちに、こっちも反撃の準備だ!
「ソロル、この村に何か強い武器はないか?」
「武器? 剣ならば、戦皇妃として受け継いだこの『戦士の剣』が一番強いが……?」
僕はソロルが持っていた『戦士の剣』を鑑定してみる。
なるほど、さすが村一番の武器だ。最上級クラスの出来はある。
この剣を強化すれば、ドラゴンにも対抗できるはず!
「ソロル、その剣を貸してくれ! あのドラゴンは僕が倒す!」
「戦神……様、村を守ってくれるのか? あのような仕打ちをしたというのに」
「もちろんだ、僕を信じてくれ」
小さく頷いたソロルが、僕に『戦士の剣』を渡してくれる。その剣に『魔道具作製』スキルと『装備強化』スキルを施し、即席ながら対竜族専用武器――『ドラゴンキラー』を作り上げた。
ドラゴンの硬さに対抗するため、破壊力重視の剣だ。
きっとコレなら、あの強靱な鱗ごと叩き斬れる!
僕は『飛翔』で上空へ上がり、『剣身一体』を発動した。そして、ドラゴンの前に立ち塞がる。
僕の『飛翔』はレベル10。ドラゴン相手でも空中戦で後れを取ることはない。
「『村守』様、ドラゴンを引き付けてくれてありがとう。あとは僕がやるよ」
僕の言葉を理解したのか、『村守』――『キャスパルク』はドラゴンに飛びかかるのをやめて後ろに下がる。
ドラゴンは目の前に現れた僕を焼き尽くそうとブレスを吐くが、回避特化の『幽鬼』と、先の行動が見える『超越者の目』があるので、そう簡単には喰らわない。
習得したばかりの『竜体進化』もあるし、今の僕にはドラゴンの攻撃はそれほど脅威じゃない。
落ち着いてブレスを躱し、あとは反撃のチャンスを待つだけだ。
攻撃を避けまくる僕に、一瞬ドラゴンが迷いを見せた。その隙を見逃さず、一気に接近して対ドラゴン必殺技を叩き込む。
「竜滅閃斬っ!」
上位剣術スキル『斬鬼』の技で、硬き竜を真っ二つに断ち斬るほどの、ひたすら攻撃力に特化した必殺技だ。
これが無事決まり、ドラゴンの首は胴体から離れ、地上へと落ちていった……
4.ひとときの平和
「あなたは真の戦神様だった。どうか我らの罪を許してほしい」
長老を含め、アマゾネス全員が頭を地に付けてお詫びしてきた。さながら、神の怒りを恐れる子羊だ。
村がドラゴンに襲われるなんていうのは初めてのことで、どうやら僕に無礼を働いた天罰だと思っているらしい。
すっかり神様だと思われている。この誤解、解けるかな。
ドラゴンの襲撃中、リノとフィーリアは眠らされたまま離れに放置されていたが、今はもう目を覚まして無事合流している。もし離れを襲われていたらヤバかったな。
ドラゴンに急襲されながらも、大怪我した人はいなかった。
負傷したアマゾネスたちは、すでに僕が作った薬で全員治療を終えている。村の損害は決して小さくないが、この程度なら復興可能だろう。
そして僕を襲ったソロルはというと、別人のようにしおらしくなって、かいがいしく僕の世話をしてくれている。子種だけが欲しいとかじゃなくて、正式に僕に嫁ぎたいそうだ。
アマゾネスは基本的には村から出ずに一生を村内で過ごすらしいが、ソロルは特例で村から出る許可をもらっているとのこと。
真の『戦神』の子を授かるのは部族の悲願。生まれた子は女王となって、アマゾネスを進化させる役目を担うというのだ。
そんなわけで、僕は部族全員からソロルとの婚姻を懇願されている。おかげでリノとフィーリアがカンカンだ。
ちなみにソロルは現在十八歳で、僕より一歳年上だった。もし結婚したら姉さん女房になるな。まあ、リノたちが断固として阻止するだろうけど。
それと、どういうわけかソロルにも『眷属守護天使』が反応するようになった。
ほかのアマゾネスたちにはスキルが無反応なので、『眷女』にするには何か条件があるらしい。今後詳細を検証していきたいと思う。
とりあえずソロルにスキルのことを説明したら、是非『眷女』になりたいと言ってくれたので、『眷属守護天使』をかけてみた。
すると、彼女には『闘神姫』という称号が付き、リノたちと同じように基礎ステータスがパワーアップした。
僕もソロルから、一部のスキルを継承する。彼女が持っていたスキルのうち、僕は『武術』を持っていなかったので、それを習得することができた。
そして『武術』をレベル10にしてみると、『腕力』スキルと融合して、『闘鬼』という上位スキルに進化した。
これは素手での近距離打撃戦で猛威を振るうスキルらしい。これで万が一武器がない状況となっても、慌てることなく対処できる。
『闘鬼』をレベル2に上げるのには経験値が2000万必要となるので、現状では保留とした。
ソロル同様、僕の眷属となった『村守』様――伝説の幻獣『キャスパルク』だけど、これについては特にスキルを継承することはなかった。
獣には人間が使うようなスキルはないので、当然といえば当然だが。
『村守』様のほうは、『眷獣』となって能力がアップしたみたいだ。
ちなみに、あのとき十メートル程度まで巨大化したけど、戦闘後には元の三メートルほどの大きさに戻ってしまった。どうやら『キャスパルク』の姿を維持するには、時間制限があるらしい。
二百年くらい前に拾ったという話だったけど、現状でもまだ幼体だったんだな。伝説の幻獣とまで言われるだけに、きっと寿命も相当長いんだろう。
それにしても、『眷属守護天使』が動物にも反応するとは……
僕に懐いてくれた理由もよく分からないけど、ひょっとして僕の中の神力を感じ取ったのかも? フィーリア曰く、僕の神力はケタ違いらしいし。
ほか、ドラゴンのブレスからひとっ飛びでソロルを助けたことにより、『縮地』スキルが発現したので取得した。これは高速移動ができる便利なスキルで、もちろんレベル10まで上げておく。
残り経験値5000万ほどをストックして、今回の強化を終えた。
ソロルとの結婚はともかくとして、僕たちはしばらくの間アマゾネス村に滞在することにした。また旅立つ前に疲労をちゃんと取っておきたいというのもあるけど、次月分の神様の経験値をもらってから次の行動に移りたかったからだ。
次にもらえる経験値は、10億を超える可能性がある。これをもらって能力強化してから、ここを出発したいのだ。
あまりのんびりとしていられない状況ではあるが、焦りは禁物。
敵は手強い。慌てずしっかりと戦力強化をしておきたいところ。
ということで、僕たちのアマゾネス村での生活が始まった。
◇◇◇
「さ……さすが我が夫、あの大猿をこんな簡単に退治するなんて……」
村から少し遠出をした場所で、ギガントエイプという体長十メートルもある巨大猿型モンスターと遭遇したので、僕が瞬殺した。それを見たソロルが、感嘆の声を漏らしている。
「だからソロルってば、『夫』じゃないでしょ!」
「そうですわ、いい加減にしないと闇魔法で呪いますわよ!」
同行していたリノとフィーリアが、間髪を容れずに抗議。
「分かったよ、ユーリ殿って呼べばいいんだろ! うるさい小娘たちだ」
うんざりとした顔をしながら、ソロルはそう言って軽く舌打ちした。
僕とリノ、フィーリア、ソロル、そしてお供の『村守』様は現在、レベル上げをするために魔物の棲む森まで遠征している。
村の周りには強いモンスターが棲息してないからね。当たり前だけど、危険な場所には村を作らないだろうし。
ということで、注意しながら森の探索中だ。
ここには集団で襲ってくる獰猛なヘルハウンドや、三メートルの長足を持つ大蜘蛛バーブレスアラクニドのほか、多足巨虫デビルクロウラー、石化攻撃を使うバジリスク、そして猛毒蛇のアゴニーヴァイパーなど、様々な凶悪モンスターがたくさんいた。
それでこそレベル上げ――いわゆるレベリングのしがいがあるというもの。『竜体進化』を習得した僕には毒などの状態異常はまったく怖くないしね。
魔道具の素材になるかもしれないので、念のため倒したモンスターの一部も素材として採取している。
ちなみに今倒したギガントエイプは、たまに村の近くまで来ることがあったらしく、どうやって退治しようか頭を悩ませていたとのこと。
せっかくだから、このあともレベル上げついでに危険なモンスターたちを駆除しておくか。
基本的には僕が戦うけど、一応リノたちの戦闘訓練も兼ねているので、比較的弱いモンスターについてはみんなに任せている。今後のためにもここで経験を積んでおきたいのだ。
少し心配ではあるが、『眷女』になった効果でリノたちの基礎ステータスは上がっているし、装備も大幅に強化したので、よほどのことがない限りは大丈夫。
そうそう、先日倒したドラゴンの身体が魔道具用の素材になったので、それでみんなにも強力な装備を作ってあげたんだ。
まずドラゴンの爪から『竜爪の装甲具』を作った。これはまあその、要するにビキニアーマーの強化版である。
基本的にビキニアーマーは防御力度外視の防具で、通常は街の中などで着るファッション装備なのだが、アマゾネスたちはみんなこの防具を着けていた。軽装で狩りに向いているから定着したのだろう。
アマゾネスが主に狩猟するキングボアーやブロントバッファローは、身体こそ大きいけどモンスターではない。そのため重装備は必要ないからね。
本当はもっと守備力の高い『竜爪の鎧』を作ろうと思ったんだけど、アマゾネスは重装備を着けないと言われ、仕方なく同じようなものにした。
ただし、『竜爪の装甲具』は防御面積こそ狭いけど、ドラゴンの加護として物理ダメージを軽減する『物理減殺』の効果が付与されているのだ。
これをソロルとアマゾネスたち用に何着か作り、そして僕用には『竜爪の胸当て』を作った。
これにも『物理減殺』の効果があり、軽くて頑丈だ。
鱗からは『竜鱗の盾』を作ることができた。盾としてめちゃくちゃ硬質な上に非常に軽く、そして魔法やブレス攻撃を軽減する『魔法減殺』が付いている。
僕は盾を使わないので、『竜鱗の盾』は全てソロルとアマゾネスたちに贈呈した。
二本の大きな牙からは、『竜牙の剣』が二本作れた。この剣には『炎の剣』のような特殊効果はないが、どんな敵でも断ち斬るほどの凄まじい斬れ味を持っている。これは僕とソロルがもらうことにした。
あとは翼二枚から『竜翼の腕輪』を二個作った。身に着ければ『物理減殺』と『魔法減殺』のシールドを張ることができる。これはリノとフィーリアに渡した。
ほか、ドラゴンの血を採取して、保存しておくことにした。竜の血には不老不死の効果がある、なんて言い伝えもあるくらいなので、きっと何かの役に立つだろう。
こんな調子で魔装備を作っていたおかげで、僕は毎日MP切れになっていた。
まあアマゾネスたちにはとても感謝されたので、頑張った甲斐はあったけど。
ちなみに、『村守』様は僕の眷属になったからか、すっかり懐いて四六時中僕にベッタリだ。村では普段大きな檻に入れられていたんだけど、僕のそばに来たがるので、今では放し飼い状態にされている。
村の守り神なのに、なんとなく申し訳ない気持ちです。
「あれ? ユーリ、『村守』ちゃんが何か咥えてるよ?」
レベリング中、ふとリノがそう言ってきた。
「ホントだ。なんだコレ?」
『村守』様の口元をよく見ると、五十センチほどの茶色いトカゲを咥えていた。僕が戦っている間に、いつの間にか獲っていたようだ。
僕たちが調べようとすると、ソロルがその正体を教えてくれる。
「ああ、ここらで獲れる『ヴィールリザード』ってヤツだ。『村守』様の好物で、オレたちアマゾネスもよく食べている。なかなか美味しいんだぜ」
へー、エーアストではあまりこういうのは食べないけど、アマゾネスの村では貴重な食料なんだろうな。モンスターじゃないみたいだから、獲るのも難しくないだろうし。
って、ちょっと待って、『村守』様がヴィールリザードを僕に渡そうとしてくるんだけど?
えーと、僕にどうしてほしいのかな……?
「『村守』様はユーリ殿に食べてほしいみたいだぜ? 多分、プレゼントのつもりなんだろう」
「えええっ!?」
いや、気持ちはありがたいけど、あまり好みではないかなあ。
「ユーリ、『村守』ちゃんがせっかく獲ってくれたんだから、食べてあげなよ」
「そうですわ。ご厚意を無駄にしてはいけませんわよ」
リノもフィーリアも、他人事だと思って面白がっているな。ニヤニヤ笑っているし。
『村守』様はキラキラと期待した目で僕を見ている。これじゃとても断れないぞ。
「あ、ありがとう『村守』様、ではいただきます……」
僕は火属性魔法で軽く焼いたあと、トカゲのお腹にかぶり付く。
……ああ、なるほど。確かに美味しいかも。でも、見た目がどうにもなあ……
『村守』様が嬉しそうに僕を見つめ続けるので、なんとか頑張って食べた。
「『村守』様、ご馳走様でした。美味しかったよ」
「ンガーオ!」
笑顔で頭を撫でてあげると、『村守』様は満足げな顔をしていた。
身体は大きいけど、まだ子供だもんね。甘えん坊で可愛いな。
「じゃあレベリングを再開しようか」
しばらくモンスターを狩っていると、またしても『村守』様が何かを咥えてきた。
「ちょ、ちょっとユーリ、コレ……!」
「あら、『村守』さん凄いですわね」
「おおっ、やるじゃないか『村守』様!」
『村守』様が上機嫌で持ってきたのは、なんと三匹ものヴィールリザードだった。
ちょっと待って、まさかコレ、僕に全部食べろと……?
「ンガーオ! ンガーオ!」
僕の足元に三匹のトカゲを置いて、得意気に鳴く『村守』様。
僕は苦い笑みを浮かべながら、途方に暮れるのだった……
こんな調子で僕たちは日々レベリングを続け、地道に経験値を稼いでは能力を強化していった。
『眷女』の効果によって、僕がベースレベルを上げれば彼女たちのステータスも上がる。そのため、リノたちはベースレベルを上げる必要がない。スキルの強化に経験値を全部使うことができるので、非常に効率よく成長することができた。
特にフィーリアの成長は著しく、かなり魔道士としての能力は上がったと思う。
ただ、相変わらず彼女が魔法を使うときは怖いんだけどね。
そしてまた神様から経験値をもらえる日がやってきた。
今月神様からもらった経験値は、約10億7000万。さすがに10億が限界かもと思っていたけど、なんとまだ上限ではなかった。
このまま行くと、ひょっとしてひと月100億もらえるかも?
そうなれば、あの強敵ヴァクラースにもきっと勝てるはずだ。
今回もらった経験値とストックしていた分を合わせると、現在約11億2000万ほどの経験値を持っている。これを全部ベースレベルに使うと、ヴァクラースのレベル520を超えて、レベル600近くまで上げることができる。
しかし、単純にレベルが高いだけでは、ヴァクラースやセクエストロ枢機卿には勝てないだろう。
ベースレベルとはあくまで強さの基礎だ。どんなにステータスが高くても、強力なスキルなしでは倒せない。
毎月女神様からもらえるスキルは、強力無比なモノが多い。ただベースレベルを高くするよりも、これらのレアスキルを強化したほうが、能力アップに繋がるはず。
スキル強化こそが、打倒ヴァクラースのカギだ。
今回女神様から提示されたスキルは、SSランクの『詠唱破棄』だった。これは以前にも一度出てきたことがあり、魔法の詠唱をキャンセルできるという、本来は勇者のみが使える貴重なスキルだ。
前回は経験値が足りなくて取れなかったが、今回は足りる。
取得に必要な経験値は1000万。もちろん取った。
『眷女』になったフィーリアから魔法を継承したことにより、僕も魔法が使えるので、『詠唱破棄』ができるのは非常にありがたい。
そしてこれで、女神様のスキルは取り逃してもまた出ることが分かった。チャンスは一度きりということじゃないようなので、少し安心した。
まあでも、強力なスキルを取り逃すことがないよう、経験値は無駄遣いすることなく溜めておきたいと思う。
そのあとは少し経験値の使い道に悩んだが、チーム全体の戦力を底上げするため、経験値を3億以上使って自分のベースレベルを400まで上げた。
さらに経験値3億を使って、『眷属守護天使』のレベルを5にする。
『眷属守護天使』は僕のステータスの一部が『眷女』たちの各ステータスに加算されるわけだが、レベルを上げるとその割合が上がるらしい。レベル1だったときは割合が5%だったけど、レベルを5に上げてみると25%になっていた。
つまり、レベル400である僕のステータスの25%が、『眷女』であるリノたちに加算されることになる。
これによってリノたちの力は格段に上がり、実にレベル150相当のステータス値になった。
まあ基礎能力が高くても、彼女たちは戦闘スキルのレベルが低いため、強さはまだSSランクにも届かないと思う。ソロルは別だけどね。
それと『眷獣』である『村守』様も、もちろん能力が上昇している。
ほかには、経験値3億使って『竜体進化』をレベル5にした。防御用のスキルとしては非常に優秀なので、しっかり耐久力を上げておこうと思ったのだ。
この一連の強化により、もはや生半可な攻撃では、僕はダメージを喰らうことはないだろう。
あとは一応『詠唱破棄』も、経験値6000万使ってレベル3にしたので、レベル3までの魔法は無詠唱で撃つことができる。
今回はここまでとし、残り約1億5000万の経験値は残しておくことにした。
まだまだ強化したいスキルはたくさんあるが、来月は恐らく20億以上の経験値がもらえそうだし、段階的にレベルアップしていこう。
さて、神様から経験値ももらったし、みんなの力もかなり底上げできたので、いよいよここを出発するときが来た。
コイツが……村を襲っていたのか! こんな近距離で見たのは初めてだ。
そこにいたのは世界最強の生物種――体長二十メートルを超えるドラゴンだった。
『真理の天眼』で解析してみると、そいつはノーマルドラゴンだった。ドラゴンにもランクがあって、たとえば女神様を襲った邪黒竜は最上位種に近く、今の僕でも恐らく敵わない。
しかし、通常種なら倒すのは充分可能だ。通常種は、やっかいな『竜語魔法』も使ってこないし。
ただ、倒すにはそれ相応の武器が必要だ。
強靱な身体を持つドラゴンには、生半可な武器は通用しない。僕が以前作った『炎の剣』があれば、なんとかなったかもしれないが……果たして予備の剣でどこまで通じるか?
剣を強化したいところだが、大量のMPを消費するため、迂闊に強化することもできない。
とにかく、追い払うだけでもしないと、村が滅びてしまう!
ドラゴンは低空を飛びながら、村に向かってブレスを吐いていた。アマゾネスたちは何もできず、ひたすら逃げるだけだ。
そうだ、飛び出していったソロルはどこにいるんだ?
注意深く見回していると、逃げ惑うアマゾネスたちの中に、ソロルの姿を見つけた。
ソロルは戦皇妃として、自分の身を犠牲にして仲間を守ろうとしているらしい。派手に動いて、ドラゴンを引き付けようとしている。
無茶だ、無駄死にするだけだぞ!
そこに、大型化した『猫獣』――『村守』も駆けつけ、ソロルに加勢した。
たとえ本気状態となった『村守』でも、ドラゴンには到底太刀打ちできない。本能的に『村守』にも分かっていると思うが、それでも必死にアマゾネスたちを守ろうとしている。
僕も戦闘に加わるため、全力でそこへ向かっていく。
そのとき、無理な体勢でドラゴンの攻撃を回避しようとして、ソロルの体勢が崩れた。そこにブレスが直撃コースで吐かれる。
間に合えっ!
僕は全身の筋力を極限まで収縮し、一気に爆発させて矢のようにソロルのもとへ飛び込む。
間一髪、ブレスが到達する前にソロルを救い出せた!
「お、お前は……!? いったいどうやって抜け出した?」
「説明はあとだ、ここからすぐ離れ……」
ソロルを逃がそうとした瞬間、僕たちを追ってきたドラゴンが顎を開ける。
その喉奥にブレスの光が見えたとき、『村守』が僕らを守るために立ち塞がった。
まずい、これではソロルと『村守』を同時に救えない!
僕は瞬時に判断し、イチかバチかの剣技を放つ!
「『超超特大衝撃波』っ!」
音速の衝撃波が僕たち目がけて放たれたブレスを斬り裂き、ドラゴンの顔に直撃する。
思わぬ反撃にドラゴンは一瞬面食らったようだが、ガルルと唸って首を一振りしただけだった。
やはり衝撃波などではダメだ、直接剣を打ち込まないと!
その時、予想外のことが起きた。
『村守』――『猫獣』に対して、僕のスキル『眷属守護天使』が反応したのだ。
どういうことだ? まさか『猫獣』がスキルの対象になっているのか?
これは『眷女』という従者を作るスキルで、獣は対象外のはずだ。
戸惑いを覚えるが、迷っている暇はない。僕の眷属となれば恐らく『村守』も強化されるはず!
僕は『村守』を『眷属守護天使』で『眷女』――いや『眷獣』にした。
すると……
「む……『村守』様っ、なんだ、これはいったい……!?」
ソロルが驚くのも無理はない。
なんと、六メートルほどだった『猫獣』の身体が、ムクムクとさらに巨大化して十メートル近くにもなったのだ。
そして体毛がキラキラと黄金色に輝きだし、青だった瞳も金色に変化した。
まて、この姿の獣って、心当たりがあるぞ! そう、伝説の幻獣『キャスパルク』だ!
まさか『村守』って、成長途中の『キャスパルク』だったのか!? それが僕の眷属となったことにより、本来の姿に覚醒した?
「ンガーオ!」
少し喉にかかるような鳴き声を発し、『村守』は空中にいるドラゴンへと飛びかかった。
凄い! あの巨体にして、なんと軽やかな身のこなしなんだ!
驚いたドラゴンが爪や尻尾、ブレスで応戦するが、『村守』は素早くそれを躱していく。そして強烈な雷撃をドラゴンに撃ち放つ。
よし、いける! ドラゴンに負けてないぞ!
ただ、空を飛べない『キャスパルク』には、ドラゴンを倒すだけの決め手がないようだが。
とにかく、ドラゴンを引き付けてくれているうちに、こっちも反撃の準備だ!
「ソロル、この村に何か強い武器はないか?」
「武器? 剣ならば、戦皇妃として受け継いだこの『戦士の剣』が一番強いが……?」
僕はソロルが持っていた『戦士の剣』を鑑定してみる。
なるほど、さすが村一番の武器だ。最上級クラスの出来はある。
この剣を強化すれば、ドラゴンにも対抗できるはず!
「ソロル、その剣を貸してくれ! あのドラゴンは僕が倒す!」
「戦神……様、村を守ってくれるのか? あのような仕打ちをしたというのに」
「もちろんだ、僕を信じてくれ」
小さく頷いたソロルが、僕に『戦士の剣』を渡してくれる。その剣に『魔道具作製』スキルと『装備強化』スキルを施し、即席ながら対竜族専用武器――『ドラゴンキラー』を作り上げた。
ドラゴンの硬さに対抗するため、破壊力重視の剣だ。
きっとコレなら、あの強靱な鱗ごと叩き斬れる!
僕は『飛翔』で上空へ上がり、『剣身一体』を発動した。そして、ドラゴンの前に立ち塞がる。
僕の『飛翔』はレベル10。ドラゴン相手でも空中戦で後れを取ることはない。
「『村守』様、ドラゴンを引き付けてくれてありがとう。あとは僕がやるよ」
僕の言葉を理解したのか、『村守』――『キャスパルク』はドラゴンに飛びかかるのをやめて後ろに下がる。
ドラゴンは目の前に現れた僕を焼き尽くそうとブレスを吐くが、回避特化の『幽鬼』と、先の行動が見える『超越者の目』があるので、そう簡単には喰らわない。
習得したばかりの『竜体進化』もあるし、今の僕にはドラゴンの攻撃はそれほど脅威じゃない。
落ち着いてブレスを躱し、あとは反撃のチャンスを待つだけだ。
攻撃を避けまくる僕に、一瞬ドラゴンが迷いを見せた。その隙を見逃さず、一気に接近して対ドラゴン必殺技を叩き込む。
「竜滅閃斬っ!」
上位剣術スキル『斬鬼』の技で、硬き竜を真っ二つに断ち斬るほどの、ひたすら攻撃力に特化した必殺技だ。
これが無事決まり、ドラゴンの首は胴体から離れ、地上へと落ちていった……
4.ひとときの平和
「あなたは真の戦神様だった。どうか我らの罪を許してほしい」
長老を含め、アマゾネス全員が頭を地に付けてお詫びしてきた。さながら、神の怒りを恐れる子羊だ。
村がドラゴンに襲われるなんていうのは初めてのことで、どうやら僕に無礼を働いた天罰だと思っているらしい。
すっかり神様だと思われている。この誤解、解けるかな。
ドラゴンの襲撃中、リノとフィーリアは眠らされたまま離れに放置されていたが、今はもう目を覚まして無事合流している。もし離れを襲われていたらヤバかったな。
ドラゴンに急襲されながらも、大怪我した人はいなかった。
負傷したアマゾネスたちは、すでに僕が作った薬で全員治療を終えている。村の損害は決して小さくないが、この程度なら復興可能だろう。
そして僕を襲ったソロルはというと、別人のようにしおらしくなって、かいがいしく僕の世話をしてくれている。子種だけが欲しいとかじゃなくて、正式に僕に嫁ぎたいそうだ。
アマゾネスは基本的には村から出ずに一生を村内で過ごすらしいが、ソロルは特例で村から出る許可をもらっているとのこと。
真の『戦神』の子を授かるのは部族の悲願。生まれた子は女王となって、アマゾネスを進化させる役目を担うというのだ。
そんなわけで、僕は部族全員からソロルとの婚姻を懇願されている。おかげでリノとフィーリアがカンカンだ。
ちなみにソロルは現在十八歳で、僕より一歳年上だった。もし結婚したら姉さん女房になるな。まあ、リノたちが断固として阻止するだろうけど。
それと、どういうわけかソロルにも『眷属守護天使』が反応するようになった。
ほかのアマゾネスたちにはスキルが無反応なので、『眷女』にするには何か条件があるらしい。今後詳細を検証していきたいと思う。
とりあえずソロルにスキルのことを説明したら、是非『眷女』になりたいと言ってくれたので、『眷属守護天使』をかけてみた。
すると、彼女には『闘神姫』という称号が付き、リノたちと同じように基礎ステータスがパワーアップした。
僕もソロルから、一部のスキルを継承する。彼女が持っていたスキルのうち、僕は『武術』を持っていなかったので、それを習得することができた。
そして『武術』をレベル10にしてみると、『腕力』スキルと融合して、『闘鬼』という上位スキルに進化した。
これは素手での近距離打撃戦で猛威を振るうスキルらしい。これで万が一武器がない状況となっても、慌てることなく対処できる。
『闘鬼』をレベル2に上げるのには経験値が2000万必要となるので、現状では保留とした。
ソロル同様、僕の眷属となった『村守』様――伝説の幻獣『キャスパルク』だけど、これについては特にスキルを継承することはなかった。
獣には人間が使うようなスキルはないので、当然といえば当然だが。
『村守』様のほうは、『眷獣』となって能力がアップしたみたいだ。
ちなみに、あのとき十メートル程度まで巨大化したけど、戦闘後には元の三メートルほどの大きさに戻ってしまった。どうやら『キャスパルク』の姿を維持するには、時間制限があるらしい。
二百年くらい前に拾ったという話だったけど、現状でもまだ幼体だったんだな。伝説の幻獣とまで言われるだけに、きっと寿命も相当長いんだろう。
それにしても、『眷属守護天使』が動物にも反応するとは……
僕に懐いてくれた理由もよく分からないけど、ひょっとして僕の中の神力を感じ取ったのかも? フィーリア曰く、僕の神力はケタ違いらしいし。
ほか、ドラゴンのブレスからひとっ飛びでソロルを助けたことにより、『縮地』スキルが発現したので取得した。これは高速移動ができる便利なスキルで、もちろんレベル10まで上げておく。
残り経験値5000万ほどをストックして、今回の強化を終えた。
ソロルとの結婚はともかくとして、僕たちはしばらくの間アマゾネス村に滞在することにした。また旅立つ前に疲労をちゃんと取っておきたいというのもあるけど、次月分の神様の経験値をもらってから次の行動に移りたかったからだ。
次にもらえる経験値は、10億を超える可能性がある。これをもらって能力強化してから、ここを出発したいのだ。
あまりのんびりとしていられない状況ではあるが、焦りは禁物。
敵は手強い。慌てずしっかりと戦力強化をしておきたいところ。
ということで、僕たちのアマゾネス村での生活が始まった。
◇◇◇
「さ……さすが我が夫、あの大猿をこんな簡単に退治するなんて……」
村から少し遠出をした場所で、ギガントエイプという体長十メートルもある巨大猿型モンスターと遭遇したので、僕が瞬殺した。それを見たソロルが、感嘆の声を漏らしている。
「だからソロルってば、『夫』じゃないでしょ!」
「そうですわ、いい加減にしないと闇魔法で呪いますわよ!」
同行していたリノとフィーリアが、間髪を容れずに抗議。
「分かったよ、ユーリ殿って呼べばいいんだろ! うるさい小娘たちだ」
うんざりとした顔をしながら、ソロルはそう言って軽く舌打ちした。
僕とリノ、フィーリア、ソロル、そしてお供の『村守』様は現在、レベル上げをするために魔物の棲む森まで遠征している。
村の周りには強いモンスターが棲息してないからね。当たり前だけど、危険な場所には村を作らないだろうし。
ということで、注意しながら森の探索中だ。
ここには集団で襲ってくる獰猛なヘルハウンドや、三メートルの長足を持つ大蜘蛛バーブレスアラクニドのほか、多足巨虫デビルクロウラー、石化攻撃を使うバジリスク、そして猛毒蛇のアゴニーヴァイパーなど、様々な凶悪モンスターがたくさんいた。
それでこそレベル上げ――いわゆるレベリングのしがいがあるというもの。『竜体進化』を習得した僕には毒などの状態異常はまったく怖くないしね。
魔道具の素材になるかもしれないので、念のため倒したモンスターの一部も素材として採取している。
ちなみに今倒したギガントエイプは、たまに村の近くまで来ることがあったらしく、どうやって退治しようか頭を悩ませていたとのこと。
せっかくだから、このあともレベル上げついでに危険なモンスターたちを駆除しておくか。
基本的には僕が戦うけど、一応リノたちの戦闘訓練も兼ねているので、比較的弱いモンスターについてはみんなに任せている。今後のためにもここで経験を積んでおきたいのだ。
少し心配ではあるが、『眷女』になった効果でリノたちの基礎ステータスは上がっているし、装備も大幅に強化したので、よほどのことがない限りは大丈夫。
そうそう、先日倒したドラゴンの身体が魔道具用の素材になったので、それでみんなにも強力な装備を作ってあげたんだ。
まずドラゴンの爪から『竜爪の装甲具』を作った。これはまあその、要するにビキニアーマーの強化版である。
基本的にビキニアーマーは防御力度外視の防具で、通常は街の中などで着るファッション装備なのだが、アマゾネスたちはみんなこの防具を着けていた。軽装で狩りに向いているから定着したのだろう。
アマゾネスが主に狩猟するキングボアーやブロントバッファローは、身体こそ大きいけどモンスターではない。そのため重装備は必要ないからね。
本当はもっと守備力の高い『竜爪の鎧』を作ろうと思ったんだけど、アマゾネスは重装備を着けないと言われ、仕方なく同じようなものにした。
ただし、『竜爪の装甲具』は防御面積こそ狭いけど、ドラゴンの加護として物理ダメージを軽減する『物理減殺』の効果が付与されているのだ。
これをソロルとアマゾネスたち用に何着か作り、そして僕用には『竜爪の胸当て』を作った。
これにも『物理減殺』の効果があり、軽くて頑丈だ。
鱗からは『竜鱗の盾』を作ることができた。盾としてめちゃくちゃ硬質な上に非常に軽く、そして魔法やブレス攻撃を軽減する『魔法減殺』が付いている。
僕は盾を使わないので、『竜鱗の盾』は全てソロルとアマゾネスたちに贈呈した。
二本の大きな牙からは、『竜牙の剣』が二本作れた。この剣には『炎の剣』のような特殊効果はないが、どんな敵でも断ち斬るほどの凄まじい斬れ味を持っている。これは僕とソロルがもらうことにした。
あとは翼二枚から『竜翼の腕輪』を二個作った。身に着ければ『物理減殺』と『魔法減殺』のシールドを張ることができる。これはリノとフィーリアに渡した。
ほか、ドラゴンの血を採取して、保存しておくことにした。竜の血には不老不死の効果がある、なんて言い伝えもあるくらいなので、きっと何かの役に立つだろう。
こんな調子で魔装備を作っていたおかげで、僕は毎日MP切れになっていた。
まあアマゾネスたちにはとても感謝されたので、頑張った甲斐はあったけど。
ちなみに、『村守』様は僕の眷属になったからか、すっかり懐いて四六時中僕にベッタリだ。村では普段大きな檻に入れられていたんだけど、僕のそばに来たがるので、今では放し飼い状態にされている。
村の守り神なのに、なんとなく申し訳ない気持ちです。
「あれ? ユーリ、『村守』ちゃんが何か咥えてるよ?」
レベリング中、ふとリノがそう言ってきた。
「ホントだ。なんだコレ?」
『村守』様の口元をよく見ると、五十センチほどの茶色いトカゲを咥えていた。僕が戦っている間に、いつの間にか獲っていたようだ。
僕たちが調べようとすると、ソロルがその正体を教えてくれる。
「ああ、ここらで獲れる『ヴィールリザード』ってヤツだ。『村守』様の好物で、オレたちアマゾネスもよく食べている。なかなか美味しいんだぜ」
へー、エーアストではあまりこういうのは食べないけど、アマゾネスの村では貴重な食料なんだろうな。モンスターじゃないみたいだから、獲るのも難しくないだろうし。
って、ちょっと待って、『村守』様がヴィールリザードを僕に渡そうとしてくるんだけど?
えーと、僕にどうしてほしいのかな……?
「『村守』様はユーリ殿に食べてほしいみたいだぜ? 多分、プレゼントのつもりなんだろう」
「えええっ!?」
いや、気持ちはありがたいけど、あまり好みではないかなあ。
「ユーリ、『村守』ちゃんがせっかく獲ってくれたんだから、食べてあげなよ」
「そうですわ。ご厚意を無駄にしてはいけませんわよ」
リノもフィーリアも、他人事だと思って面白がっているな。ニヤニヤ笑っているし。
『村守』様はキラキラと期待した目で僕を見ている。これじゃとても断れないぞ。
「あ、ありがとう『村守』様、ではいただきます……」
僕は火属性魔法で軽く焼いたあと、トカゲのお腹にかぶり付く。
……ああ、なるほど。確かに美味しいかも。でも、見た目がどうにもなあ……
『村守』様が嬉しそうに僕を見つめ続けるので、なんとか頑張って食べた。
「『村守』様、ご馳走様でした。美味しかったよ」
「ンガーオ!」
笑顔で頭を撫でてあげると、『村守』様は満足げな顔をしていた。
身体は大きいけど、まだ子供だもんね。甘えん坊で可愛いな。
「じゃあレベリングを再開しようか」
しばらくモンスターを狩っていると、またしても『村守』様が何かを咥えてきた。
「ちょ、ちょっとユーリ、コレ……!」
「あら、『村守』さん凄いですわね」
「おおっ、やるじゃないか『村守』様!」
『村守』様が上機嫌で持ってきたのは、なんと三匹ものヴィールリザードだった。
ちょっと待って、まさかコレ、僕に全部食べろと……?
「ンガーオ! ンガーオ!」
僕の足元に三匹のトカゲを置いて、得意気に鳴く『村守』様。
僕は苦い笑みを浮かべながら、途方に暮れるのだった……
こんな調子で僕たちは日々レベリングを続け、地道に経験値を稼いでは能力を強化していった。
『眷女』の効果によって、僕がベースレベルを上げれば彼女たちのステータスも上がる。そのため、リノたちはベースレベルを上げる必要がない。スキルの強化に経験値を全部使うことができるので、非常に効率よく成長することができた。
特にフィーリアの成長は著しく、かなり魔道士としての能力は上がったと思う。
ただ、相変わらず彼女が魔法を使うときは怖いんだけどね。
そしてまた神様から経験値をもらえる日がやってきた。
今月神様からもらった経験値は、約10億7000万。さすがに10億が限界かもと思っていたけど、なんとまだ上限ではなかった。
このまま行くと、ひょっとしてひと月100億もらえるかも?
そうなれば、あの強敵ヴァクラースにもきっと勝てるはずだ。
今回もらった経験値とストックしていた分を合わせると、現在約11億2000万ほどの経験値を持っている。これを全部ベースレベルに使うと、ヴァクラースのレベル520を超えて、レベル600近くまで上げることができる。
しかし、単純にレベルが高いだけでは、ヴァクラースやセクエストロ枢機卿には勝てないだろう。
ベースレベルとはあくまで強さの基礎だ。どんなにステータスが高くても、強力なスキルなしでは倒せない。
毎月女神様からもらえるスキルは、強力無比なモノが多い。ただベースレベルを高くするよりも、これらのレアスキルを強化したほうが、能力アップに繋がるはず。
スキル強化こそが、打倒ヴァクラースのカギだ。
今回女神様から提示されたスキルは、SSランクの『詠唱破棄』だった。これは以前にも一度出てきたことがあり、魔法の詠唱をキャンセルできるという、本来は勇者のみが使える貴重なスキルだ。
前回は経験値が足りなくて取れなかったが、今回は足りる。
取得に必要な経験値は1000万。もちろん取った。
『眷女』になったフィーリアから魔法を継承したことにより、僕も魔法が使えるので、『詠唱破棄』ができるのは非常にありがたい。
そしてこれで、女神様のスキルは取り逃してもまた出ることが分かった。チャンスは一度きりということじゃないようなので、少し安心した。
まあでも、強力なスキルを取り逃すことがないよう、経験値は無駄遣いすることなく溜めておきたいと思う。
そのあとは少し経験値の使い道に悩んだが、チーム全体の戦力を底上げするため、経験値を3億以上使って自分のベースレベルを400まで上げた。
さらに経験値3億を使って、『眷属守護天使』のレベルを5にする。
『眷属守護天使』は僕のステータスの一部が『眷女』たちの各ステータスに加算されるわけだが、レベルを上げるとその割合が上がるらしい。レベル1だったときは割合が5%だったけど、レベルを5に上げてみると25%になっていた。
つまり、レベル400である僕のステータスの25%が、『眷女』であるリノたちに加算されることになる。
これによってリノたちの力は格段に上がり、実にレベル150相当のステータス値になった。
まあ基礎能力が高くても、彼女たちは戦闘スキルのレベルが低いため、強さはまだSSランクにも届かないと思う。ソロルは別だけどね。
それと『眷獣』である『村守』様も、もちろん能力が上昇している。
ほかには、経験値3億使って『竜体進化』をレベル5にした。防御用のスキルとしては非常に優秀なので、しっかり耐久力を上げておこうと思ったのだ。
この一連の強化により、もはや生半可な攻撃では、僕はダメージを喰らうことはないだろう。
あとは一応『詠唱破棄』も、経験値6000万使ってレベル3にしたので、レベル3までの魔法は無詠唱で撃つことができる。
今回はここまでとし、残り約1億5000万の経験値は残しておくことにした。
まだまだ強化したいスキルはたくさんあるが、来月は恐らく20億以上の経験値がもらえそうだし、段階的にレベルアップしていこう。
さて、神様から経験値ももらったし、みんなの力もかなり底上げできたので、いよいよここを出発するときが来た。
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