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2巻

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 第一章 アマゾネス村


 1.守護天使誕生


 僕、ユーリ・ヒロナダは一度死んだことがある。
 凶悪なドラゴンによって命を奪われた女神様を救うために、『神授しんじゅの儀』という儀式を通じて授かったスキル、『生命譲渡サクリファイス』を使ったのだ。
生命譲渡サクリファイス』は自分の命を犠牲にして、他者を生き返らせるという能力である。一生に一度しか発動できない超レアスキルを使った僕は、その代償だいしょうとして死んだ――はずだった。
 だが、女神様の父親……つまり神様の計らいによって、僕は奇跡的に生き返った。しかも、毎月倍々の経験値をもらえるという素晴らしい加護付きで。
 最初は1しかもらえなかったのだが、月日が経つごとに経験値はどんどん増えていって、今では億を超える経験値を授かっている。
 僕にはさらにもう一つ、ありがたい加護を授けてもらった。毎月一度だけ、ランダムに出てくる超レアスキルを経験値で取得できるというものだ。
 この二つの加護を活用して際限なく強くなれるようになった僕は、悠々自適ゆうゆうじてきな冒険者生活を送る気でいたんだけど……とある事件によって大きな戦いに巻き込まれてしまう。
 謎の存在――恐らくその正体は悪魔であろうヴァクラースとセクエストロ枢機卿すうききょうに、愛する母国エーアストを奪われたのだ。
 ひょんなことから行動を共にしていた僕と、幼馴染おさななじみのリノ、エーアストの王女であるフィーリア様はからくも彼らの魔の手からのがれた。
 こうして、僕らの逃亡者生活が始まったのだった。
 国を脱出する前、僕はろうに投獄されていた。しかし幸いなことに、アイテムボックスは所持者当人にしか開けないので、捕まっても中身は没収されなかった。
 おかげで、想定外の事態で野に飛び出したにもかかわらず、サバイバルに困ることはない。冒険者活動に使う必需品は、一通りアイテムボックスに入れてあったからね。
 残念ながら『炎の剣』などの装備していたものは全部没収されちゃったけれど、それは仕方ない。念のため予備の装備を持っていたので、現在僕たち三人はそれを身に着けている。
『炎の剣』をもう一度作ることは可能だが、それには大量のMPを消費するので、今は作るのを保留にしている。いざというときに、MPがないと困るからだ。
 ちなみに、お金に関してはかなりの金額を持っている。ただ、こんな状況ではいくら持っていても無意味だな。せっかく稼いでおいたのに……
 とりあえず、差し当たっての問題は食料だ。
 一応、携帯食はたくさんあるのだが……まあ美味しくない。栄養は問題ないんだけどね。
 それと、真夜中に適当な方向へ全力で逃げ出したので、自分たちが今どこに向かっているのかも正確には分かっていない。
 危険を回避するためにも、自分たちのいる場所を把握しておきたいところ。
 日の出の位置などから推測するに、隣国アマトーレの方角へ向かっている……と思う。
 エーアストはこの世界の最南東に位置する国で、その北にはファーブラ国、北西にカイダ国、そして西にアマトーレ国が存在している。
 アマトーレは一応エーアストから一番近い国だが、それでも歩くにしてはかなりの距離だ。
 しかし、僕たちには進む以外の選択肢がないので、このまま行けるところまで行ってみるしかない。

「どうですかリノさん、誰か人の気配は感じますでしょうか?」

 歩きながら、フィーリア王女様がリノに尋ねた。

「ううん、ぜぇーんぜん探知できない。見渡す限り無人の荒野ね」

 忍者の職業にいているリノは索敵や諜報ちょうほう系のスキルにけている。彼女が持つスキル『超五感上昇スーパーセンシティブ』で、辺りの様子を探ってもらいながら僕たちは進んでいる。
 これは五感が超人的に鋭くなるスキルで、そこそこ距離が開いていても、人間が発するかすかな音や匂いなどを感知できるのだ。
 さらに遠方まで見通せる『遠見とおみ』のスキルも併用してもらっているんだけど、いまだ人間を発見することができないでいる。


 結局僕たちは日が暮れるまで歩き続け、状況は何も進展せずに一日が終わってしまった。
 夜は僕の『魔道具作製』スキルで作った簡易テントにて寝泊まりする。もちろん、男女別々にだ。
 就寝中モンスターに襲われないよう、『魔道具作製』スキルで『感知魔鈴エネミーセンサー』を作って設置してある。僕たち以外の存在が近付いてくると、このアイテムが小さな音を鳴らしてしらせてくれるのだ。
 テントの中はそれなりに過ごしやすいが、いかんせんその場しのぎの道具なので、ふかふかのベッドのある宿屋とは比ぶべくもない。
 よって、寝心地はイマイチであり、移動の疲れは日々溜まっていってしまう。
 一応テント内は魔法処理されているので、外気温に左右されず、快適な温度を保てるのはありがたいけどね。


 ◇◇◇


 そんな旅を続けること数日。
 自分たちが考えているよりも方向がズレているのか、街道すら見つけられずに、今日も僕たちは彷徨さまよい歩いている。
 まあ見つけたところで、追われている身の僕らとしては、安易にその道を歩くこともできないのだが。

「ふう~……正規の街道じゃないと、ホントになかなか人って出会えないのね。もう六日も経つのに、まったく人の気配がないわ」

 疲れたようにリノがつぶやいた。

「お腹もきましたわ……」

 気丈なフィーリア王女様も、満足に食事もできない状況が続いて弱音を吐き始めた。むしろ、ここまでよく頑張っていると思う。
 不味まずい携帯食を大事にかじりながらさらに何日か進んでいくと、ある日空をバタバタと飛ぶモンスターと遭遇した。
 全長およそ四メートルの魔鳥まちょう――コープスイーターだ!
 それが数羽、こちらへぎこちなく羽ばたいてきた。
 コープスイーターは、死んだ旅人などの身体を食いあさる飛行型モンスター。飛ぶのがあまり得意ではなく、今も低空を舞っている。
 コープスイーターは襲ってくるでもなく、僕たちの頭上を旋回していた。あそこで僕たちが死ぬのを待っているんだろう。
 あの程度ならジャンプで到達できる高さだ。僕は『飛翔フライ』スキルを持ってないので、低空にいてくれるのはありがたい。
 地上から遠隔攻撃する手段もないわけではない。ただ、失敗すると逃げられちゃうので、ここは接近して確実に仕留めることに。
 久々の鳥肉を食べるためにも、慎重に狙いを定めて一気にジャンプ!
 一瞬で上空に現れた僕に、コープスイーターたちは仰天ぎょうてんして飛び去ろうとするが、もう遅い。
 電撃のように剣を振るい、三羽まとめて斬り落とした。
 残りには逃げられたけど、これだけあれば充分。
 いくつかの魔物は食用にもなることがある。このモンスターもその一種だ。主食が人の屍肉しにくというのが少し気になるところだけど、今はそんなことを言っている状況じゃない。
 しっかりと体力を付けるため、獲ったうちの一羽をリノの魔法で焼いて食べた。

「これ……美味おいしい」
「ホントですわ! 魔物がこれほど美味だなんて……」

 リノも王女様も、コープスイーターが屍肉食であることを気にせずにどんどん食べていく。
 空腹こそ最高の調味料。弾力のあるジューシーな肉を、みんな夢中になって口へ運ぶ。
 携帯食とは比較にならない美味な食料を、僕たちは充分堪能たんのうした。
 食べきれなかった分と残りの二羽をアイテムボックスに収納し、僕たちは移動を再開する。
 これでしばらくは食事に悩まされることはないな。
 こんなサバイバル生活の合間、いざというときのために王女様も自分で身を守れるように訓練してみたら、なんと彼女は『属性魔法』のスキルを習得した。
 王女様は神官系の魔法――つまり『神聖魔法』が向いてるんじゃないかと思っていたのに、魔道士が使う魔法のほうに適性があったとは……
 しかも、リノよりも圧倒的に才能を感じる。まあそうは言っても、リノには結局、魔道士の才能が全然なかったんだけどね。
 王女様はすぐに『魔術』と『魔力』のスキルも習得した。これはなんとも頼もしい。
 ただ、王女様が魔法を使うとき、ちょっと怖いんだよな……なんか狂気を感じる。
「ぐふふふふ、跡形もなく消し炭にして差し上げますわ!」って感じで。
 このまま魔法が上達していったら、どんな魔道士になるのか不安だ……


 ◇◇◇


 日々僕たちは荒野を進み続ける。
 道中コープスイーターと度々たびたび遭遇し、その都度ジャンプで仕留めていたら、僕のスキルボードに『飛翔フライ』のスキルが出てきた。
 また、『暗視』と『探知』スキルも現れている。毎夜監視や警戒をおこたらなかったからかな。
 もちろん、経験値を消費してこれら全てを取得する。
 皮肉なことに、スキルゲットを目指して活動してたときはなかなか成果が出なかったのに、今では次々と有用なスキルを覚えていく。これは毎日死にもの狂いで過ごしているからだと思う。
 やはりスキルを出現させるには、必死の思いが重要なんだろう。
 ただ、スキルをゲットしたのはいいものの、現在ストックしている経験値が300万しかなくなった。レベルを上げるのはあと回しだ。
 経験値が尽きてしまうと、何かあったときに対応できなくなっちゃうからね。
 しかし、経験値が300万しかない、なんてあせってるけど、本来は300万って結構凄い数字なんだよなあ……僕はたくさんもらいすぎて、完全に感覚が麻痺まひしちゃっているようだ。
 確か、冒険者の総取得経験値の平均が4~500万くらいのはず。300万経験値なんて、容易にはかせげない。
 僕は取得したスキルを簡単に最大のレベル10にしているけど、それにかかる経験値は最低でも1000万を超える。よほど優秀な人でもない限り、基礎スキル一つすらレベル10にできないのが普通だ。ましてやレアスキルとなると、レベル10にするのは不可能といっても過言ではない。
 自分がケタ外れに恵まれていることをもっと自覚したほうがいいな。
 ちなみに、『飛翔フライ』は長距離の移動には向かない。飛行できる時間が短いからだ。
 それと、浮遊力もそれほど強くないので、重い荷物を持って飛ぶことも難しい。
 つまり、僕は『飛翔フライ』を覚えたものの、リノと王女様の二人を抱えながら空を移動するというのは、ちょっと無理ということ。
 川の向こう岸に渡る程度とかなら、多少重くてもなんとか可能だと思うが……
 とにかく、二人を連れての長距離飛行は絶対に不可能だ。もしそれができれば、移動がだいぶ楽になったんだけどね。
 アイテムボックスには生きている人間を入れられないため、リノたちを収納して運ぶという手段も取れない。結局、『飛翔フライ』はコープスイーターを獲るときか、上空から前方を確認するときにしか使っていない。
 そんな調子で歩き続けているが、未だに旅人に出会うことはなく、そして当然隣国らしき景色も見当たらない。
 まあ、馬車で街道を通っても通常一週間くらいはかかるしね。隣国に辿たどり着くのはまだまだ先になりそうだ。
 そもそも正規ルートからだいぶ外れている可能性もある。このままでは、もはやいつまで歩き続けることになるのか想像も付かない。
 せめて人と出会えれば、そこを足がかりに目的地までのルートを検討できるんだけどなあ……


 ◇◇◇


 エーアストを離れ、ひたすら歩き続けて二週間。いつの間にか、神様から経験値がもらえる日になっていた。
 経験値残量が少なくて心もとない日々を過ごしていただけに、まさに待ちわびた瞬間だ。
 今回もらった経験値は5億3600万以上。ストックしてあった300万を加えると、5億4000万ほどになる。
 やはり、倍々にもらえる経験値に上限はなさそうだ。つまり、来月は10億を超える可能性も……?
 とにかく、これでようやくスキルの強化ができる。
 今回女神様から提示されたスキルは、『眷属守護天使サーヴァント・ヴァルキュリア』というSSランクのモノだった。
 取得に必要な経験値は1000万。もちろんすぐに手に入れた。
 このスキルはちょっと効果が特殊だった。どんなものかというと、僕を直接パワーアップするのではなく、『眷女けんじょ』という従者を作ることで間接的に僕の能力の底上げをするらしい。
『眷女』という単語がどういう意味なのかは分からなかったが、僕には仲間がリノとフィーリアしかいない。そのため、二人にこのスキルの説明をして、協力を頼んでみた。
 そうそう、何日も苦楽をともにしたことにより、僕はフィーリア王女を名前で呼ぶようになってしまった。まあ彼女が「フィーリアと呼んでほしい」と言ったからなのだが。
 リノも、今は「王女様」ではなく「フィーリア」と呼んでいる。
 ただし、フィーリアは僕を『ユーリ様』と呼ぶし、リノのことは『リノさん』と呼んでいる。彼女がそう呼びたいならそれでいいと思う。
 さて、二人は僕の頼みを快諾した。というか、是非『眷女』になりたいと言ってくれた。
『眷女』にすることにより、どんな影響が出るか不安だったけど、二人とも僕を強く信頼してくれた。それで僕に迷いはなくなった。
眷属守護天使サーヴァント・ヴァルキュリア』を二人にかけてみると、劇的なことが僕たちの身体に起こった。
 まずは僕だ。なんと、リノとフィーリアの持つ戦闘スキルや基礎スキルが、全て僕にも継承されたのだ。経験値を使うこともなく、そのまま習得できた。
 たとえば、リノの持つ『忍術』、『刃術じんじゅつ』、『隠密』、『精密』、『遠見』、『解錠』などのスキル。そしてフィーリアの持つ『属性魔法』、『魔術』、『魔力』といったスキルだ。
 僕は魔法をずっと習得できなかったが、これによって僕も『属性魔法』が使えるようになった。
 いずれもレベル1だったが、嬉しいことに経験値を消費してレベルを上げることは可能だった。さっそく経験値を約1000万使って、『属性魔法』のレベルを10まで上げる。
 さらに、同じく継承した『魔術』と『魔力』スキルもレベル10にしたら、この二つが融合して、『魔導鬼まどうき』という上位スキルに進化した。
眷属守護天使サーヴァント・ヴァルキュリア』のおかげで、僕はあっという間に世界最強クラスの魔道士になれたわけだ。これで魔法に関しても、そう簡単に後れを取ることはなくなったと思う。
 ちなみに、『魔術』の派生スキルとして『連続魔法』と『高速詠唱ショートカット』というスキルも覚えた。『高速詠唱ショートカット』は魔法の詠唱時間を短くできるという大変便利なスキルであるため、すぐにレベル10にした。これでレベル10までの魔法を高速詠唱できる。
『連続魔法』のほうはとりあえず保留だ。これは一度の詠唱で魔法を連続で放つことができるというスキルだが、現段階ではあまり必要性を感じなかった。
 また、リノから継承された様々なスキルも、それぞれ経験値1000万使って全部レベル10にしてみた。すると、こちらもいくつかのスキルが融合された。
 まず、『刃術』と『敏捷びんしょう』スキルだ。これらは『滅鬼めっき』という上位スキルに進化した。
 それと、『忍術』と『隠密』は『冥鬼めいき』という上位スキルになった。
『滅鬼』は近接戦闘にめっぽう強いスキルで、『冥鬼』は暗殺系のスキルらしい。
 こうしてリノたちから様々なスキルを継承したことで、僕の能力は飛躍的に強化されたのだった。
 一方、『眷女』となったリノとフィーリアには、なんと称号らしき名が付いた。
 リノが『妖王妃ヘルムヴィーゲ』という名で、フィーリアが『聖魔女ロスヴァイセ』という名だ。どうやらこの名前を与えられることが、『眷女』であるあかしのようだ。
 さらに、僕の各ステータス値の5%が、彼女たちのステータスに加算されるようになった。
 5%とはいえ僕のレベルは100なので、リノたちに加算される数値はなかなか馬鹿にならない。
 しかも『眷属守護天使サーヴァント・ヴァルキュリア』のスキルレベルを上げると、加算される数値の割合も増えるらしい。つまり、今後は僕を強化することで、同時にリノたちの強化もできるということ。
 なお、リノたちが『神授の儀』で授かったスキル――リノの『超五感上昇スーパーセンシティブ』やフィーリアの『聖なる眼』は、僕には継承されなかった。
眷属守護天使サーヴァント・ヴァルキュリア』で継承できるのは、通常スキルだけみたいだ。それでも、このスキルがもたらしてくれる恩恵は非常に大きいが。
 今後は僕のベースレベルを上げると、それに比例してリノたちのステータスも上がることになる。単純に僕のレベルを上げるだけでも、パーティ強化という観点では大きな意味を持つ。
 そして恐らく、彼女たちが戦闘スキルや基礎スキルを覚える度、僕にもそれが継承される。僕たち全員がリンクしながら強くなれると思うと、かなり心強いスキルだ。
 僕は残った経験値の使い道に悩んだが、経験値を3億以上使ってベースレベルを300まで上げた。
 その僕のステータスのうち5%が、『眷属守護天使サーヴァント・ヴァルキュリア』によってリノたちに加算される。
 このスキルがあれば、リノたちはステータス上げのためにベースレベルに経験値を使う必要はなくなるだろう。今後は経験値をスキルに全振りできるので、彼女たちの成長はグッと速くなるはず。
 いいスキルを取得できて大満足だ。
 ほか、レベル1のままだった『飛翔フライ』、『暗視』、『探知』をレベル10まで上げた。すると、『探知』が『気配感知』と融合して、『領域支配』という上位スキルに進化した。
 これは周囲の索敵もさることながら、相手の殺意や敵意を鋭敏に感知できるようになるスキルらしい。このスキルがあれば、奇襲や暗殺に対し、より迅速に反応できそうだ。不意打ちを喰らうこともそうはないだろう。
 ほかの能力強化に関しては、どこか安全な地に着くまで保留としておく。もしくは、必要に応じてその都度スキルレベルを上げる。
 ということで、残り経験値約1億をストックして今回の強化を終えた。


 ◇◇◇


 その日の夜。
 テント内で就寝中、ふと異様な気配を感じて目を開けると、すぐそばにリノとフィーリアがいた。

「……ん? な、なんだ!? ちょ、リノ、フィーリア、こんな夜中にいったい何して……?」
「ちっ、起きちゃったわ! もう少しで私の『金縛りの術』が完成したのに!」
「わたくしの『睡眠魔法スリープ』の効果が弱かったようですわ。やはり、もう少しレベルを上げてからやるべきだったのかしら?」

 どうやら僕が眠っている間に入ってきたらしい。正直、少々パニック気味だ。
 いったん心を落ち着けて、この状況を整理する。
 テントは『魔道具作製』スキルで作ったので、簡単には入ってこられない作りになっているんだけど、リノは『解錠』スキルを持っているため、それで強引に開けて入ってきたと思われる。
 先日の『眷属守護天使サーヴァント・ヴァルキュリア』で『眷女』となったことでリノたちのステータスがアップしたので、『解錠』技術も上がったのだろう。
 それにしても、『領域支配』を持つ僕のテントに忍び込むなんて、ホントただ者じゃないよ。
 まあ『領域支配』は殺意や敵意に強く反応するので、相手に攻撃する意志がない場合は、そこまで感知能力を発揮しないみたいだけどね。スキルレベルもまだ1だし。

「ユーリ、もうほかの国に行くのは諦めて、私たちだけで暮らそう!」
「そうですわ、ここで子供をいっぱい作りましょう!」
「二人ともナニ言って……!」
「フィーリア、私がユーリを押さえつけてるから、もう一度『睡眠魔法スリープ』をかけて!」
「了解ですわ! なんじ宵闇よいやみを迎え……」

 リノが僕に飛びかかり、その間にフィーリアが魔法の詠唱を始めた。
 フィーリアはまだまだレベルが低いし、こんな状態で『睡眠魔法スリープ』なんてかかるわけないでしょ!

「リノ、フィーリア、いいかげんにしなさい!」

 僕は力ずくで起き上がり、二人をピシャリと叱りつける。
 やりすぎたことに気付き、シュンと大人しくなって正座する二人。
 それにしても、フィーリアが『闇魔法』の『睡眠魔法スリープ』まで覚えていたとは。
 恐らく、僕を状態異常にするため、こっそり練習していたんだろう。うっかり気付かなかったが、『眷属守護天使サーヴァント・ヴァルキュリア』の効果で、フィーリアの『闇魔法』は僕にも継承されていた。
 僕を襲うためとはいえ、難しい『闇魔法』をこうも簡単に習得するなんて、その熱意と才能には心底感服する。というか、どんだけ本気なんだよ!
睡眠魔法スリープ』で僕を深く眠らせたあと、リノの持つ忍術『金縛り』で、僕のことを動けなくしようとしてたらしい。なんという危険な少女たちだ。
 本来なら絶体絶命だったけど、先日僕はベースレベルを300にしていたので、レジスト能力も上がっていた。
 おかげですぐ目が覚めて、危機一髪でピンチを回避できたのだった。
 食糧問題が解消し、先日経験値をもらって精神的にも余裕ができたので、僕としたことがつい油断してしまった。
 まったく、『金縛り』なんて喰らったら、いったい何をされることか……ホントにロクでもないことばっかり考える二人だ。早く『異常耐性』スキルがほしい……

「次こんなことしたら許さないよ!」
「やだユーリ、ごめんなさい、嫌いにならないで……!」
「わたくしも反省しますから、どうかお許しを……」

 僕に釘を刺され、涙目になるリノとフィーリア。僕たちは逃亡者だというのに、緊張感ってモノがないよなあ。
 まあでも、こういう彼女たちだからこそ、こんな状況でも元気付けられている。
 忘れないうちに、フィーリアから継承した『闇魔法』をレベル10にした。『闇魔法』はレベルアップに通常の倍の経験値が必要なので、ストックから2000万ほど消費し、残りは8000万。
 フィーリアの行動は大変不純だが、おかげで『闇魔法』を習得できた。一応感謝しておこう。


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