上 下
199 / 258
第7章 新国テンプルム

第366話 魔獣王 炎駒

しおりを挟む
 ようやく見つけた『迷いの森』――謎の異界を『赤き天馬』に向かって進む僕たち。
 ここにも魔物は居るようで、出会うモンスターは今までよりもさらに1ランクアップしている。
 これはたとえ吸血鬼でも、生き抜くのは難しいだろう。迷い込んだ吸血鬼たちが、死にもの狂いで逃げたというのも納得だ。
 ゼルマは最強クラスの吸血鬼なので、ここのモンスターでも相手にならないようだが。

坊主ぼうじゅ、思った通りお前は戦闘も一流でしゅね」

「ふん、ワシが『勇者』と間違えたほどだからな」

 この森に来て、僕も初めて戦っている。
 まあ『呪王の死睨』を使えば簡単に皆殺しにできるんだけどね。でも強すぎる力は見せたくないので、『次元斬』なども含めて、ピンチになったとき以外は封印だ。
 そして謎の存在『赤き天馬』だけど……。

「ゼルマ、『赤き天馬』は本当に『神獣』なのかい?」

 だいぶ接近してきたけど、やはり『神獣』という感じには思えない。
 これ以上近付いて良いものか、ちょっと悩んできた。

「いや、それはすまぬが保証できぬ。あくまでも言い伝えで、神のしもべになったという話だ。そもそも元は凶悪な魔獣だったらしいからな」

「そういえばそうだったね。ちなみに、『赤き天馬』と出会った吸血鬼は、なんて言ってたの?」

「そのときは、恐怖を感じて逃げたということだった。あとから考えてみれば、あれが『赤き天馬』だと気付いたらしい」

 うーむ……そっか、元々は凶悪な魔獣だと言っていたっけ。
 なら、『神獣』となっても、気の荒いところはあるかも?
 いやまて、この強烈な気配を勝手に『赤き天馬』と決めつけているが、違うヤツかもしれない。
 実は『赤き天馬』は、まったく別の場所に居るなんてことも考えられる。
 ただ……この気配以外に大きな存在は探知できないので、結局のところ行ってみるしかないか。

 まあ違ったら違ったで諦めは付く。
 正体が確認できず、無駄にこの森を探し続けるのが一番つらいからね。


 2時間ほど移動していくうちに、夜が明けるかのように周りも明るくなっていったけど、しかし霧は立ちこめたままで、視界が悪いのは変わらない。
 もうしばらく行ったところで、また周囲の気配が変わったことを感じた。

「これは……何か居るでしゅ! あっ、あれは森の出口では!?」

「なるほど、この先に『赤き天馬』が待っているわけだな」

 2人の言う通り、正面奥には森の出口があり、その先は地面が岩だらけの広い空間になっていた。
 霧も薄まっていて、地の岩が果てしなく続いているのがうっすら見える。

 僕たちは森を抜け、その地へ足を踏み入れると、霧の彼方からゆっくりとこちらへ近付いてくる存在に気付いた。
 そう、目撃情報通り、巨大な赤い魔獣が……いや、赤いのではない、身体が紅蓮の炎に包まれているんだ!

 それは馬のような外見ながら、体高は10m――頭の高さまで入れると13mを超え、左右に大きく広がった黒い翼も含め、全身からは灼熱の炎が吹き上がっていた。

「なんと、これが『赤き天馬』でしゅと!?」

「『神獣』というにはほど遠い、まさに凶悪な魔獣ではないか!」

 確かに、『神獣』などという神々しい気配ではなく、コイツが振りまいているのは死の匂いだ。
 ただし、間近に来てみて分かったが、何故か神聖な力も一部感じ取ることができる。
 なんだこの違和感は? 『赤き天馬』とはいったい……?

 いや……ちょっとまて、ひょっとしてこの魔獣って……


 伝説の魔獣王『炎駒』じゃないのか!?


 伝説というよりは、もはや神話だ。
 遙か昔、各地を大暴れして荒らしまわり、魔獣の王として地上に君臨したあと、終いには神様に反逆して天罰を受けたという。
 おとぎ話のレベルだったけど、本当に存在していたとは……!

 しかし、人間に伝わっている話では、神のしもべになったなんて事実はない。
 吸血鬼一族に語り継がれている伝承とは、結末が全然違う。
 しょせん昔話と言われてしまえばそれまでだけど。

「神聖な魂を分けてほしいと思ってましゅたが、どうやらそういうわけにもいかないようでしゅね」

「どうするのだ? 退却するか?」

「……戦ってみるでしゅ。せっかくここまで来たんでしゅから、何もせずに逃げるのは納得いかないでしゅ!」

「ほう……気が合うなドワーフ。ワシも手ぶらでは帰れぬ。言い伝えが本当だったのかどうか確かめてやる」

 こんな怪物相手でも、2人は戦うつもりらしいな。
 僕としても、このまま帰るのは少々物足りないと思っていた。
 伝説の正体を、是非解き明かしたいところだ。

「あたいに任せろでしゅ! ここ数日坊主ぼうじゅの手料理を食べて、あたいの力は大幅にパワーアップしてるでしゅ。魔破門マハト流剣法の真髄を見せてやるでしゅよ!」

「ワシも小僧の血を何度も飲んで、パワーが漲っておる。今のワシに不可能はない!」

 ドマさんとゼルマが『赤き天馬』――『炎駒』へと向かって突進する。
 2人の勇ましさには感服するけど、さすがにちょっと無謀かな。僕が援護しよう。
 もちろん僕が戦ってもいいんだけど、この『炎駒』にはどうも気になるところがあるので、もう少し時間を掛けて分析がしたいんだ。

 危険は承知だけど、せっかくなので2人に任せてみるか。
 僕は素早く詠唱して、ドマさんとゼルマに『神域魔法』の防御結界を掛ける。

「炎熱消え失せよ、『耐熱多重断層障壁パイルヒート・プロテクション』っ!」

 もういっちょ!

「汝に金剛の加護あれ、『絶衝撃吸収防御殻ショック・アブソープション』っ!」

 僕の放った防御膜シールドが2人を包み込む。
 コレで守られていれば、『炎駒』の炎でも簡単にはダメージを受けないし、物理的な攻撃もほぼ無効だ。

「おおっ、こんな魔法まで持っておったとは……! 小僧、貴様なかなかやるではないか!」

坊主ぼうじゅ、援護かたじけないでしゅ!」

 一応、いま使った魔法よりもっと強力な、『極限遮断障壁フローレスシールド』という防御結界もあるんだけどね。熾光魔竜ゼインと戦ったときに使ったことがあるけど。
 ただ、これは場所に固定して張る結界なので、動いて戦闘するときにはちょっと向かない。

 守りの補強をしたあとは、次は全体的な戦闘面での強化だ。
 超強力な支援バフ魔法を2人に掛ける。

「その身、光の如くはやくなれ、『神速の騎士ヘルメスナイト』っ!」

 これは『時間魔法』の1つで、これによって2人は通常の5倍の速さで動けるようになった。
『時間魔法』レベル6の時は3倍の速さだったけど、今はレベル8まで上げたから、その効果も上がっている。持続時間も長くなったし。
 ちなみに、今の僕なら20分くらい時間を停止することができる。

「こ、これはどういうことでしゅか!? 『赤き天馬』の動きが、亀のようにノロマになったでしゅ!?」

「違うぞ、ワシらの動きが異常に速くなったのだ! まさか、これも小僧の魔法だというのか!? これほどの支援バフ魔法など、ワシは知らぬぞ!」

「これならば、敵の攻撃も怖くないでしゅね。まったく、とんでもない弟子を持ったでしゅ。もう一生手放せないでしゅ!」

「勘違いするなドワーフ、小僧はお前のモノではないぞ」

「ほほう、では坊主ぼうじゅを賭けて勝負でしゅ。この怪物を倒したほうがもらい受ける、いいでしゅね!」

「小僧などいらぬが、売られたケンカは買わねばならぬな。ワシの力を思い知るがいい」

 なんだ? 5倍速で喋ってるからイマイチ聞き取りづらかったけど、ドマさんとゼルマがよく分からないこと言ってたな。
 僕のこと弟子とかなんとかドマさんが言ってたような……まあいいけど。
 おっと、最後の仕上げに、『神遺魔法ロストマジック』も使っておこう。

「崇めよ、我この地を統べる覇王なり!! 『支配せし王国キングダム』っ!」

 この魔法は、相手の能力を大幅に下げる効果があるので、これでさらに有利に戦えるはず……と思ったら、なんと『炎駒』にはほぼ効果がなかった。
 うーむ、さすが伝説の怪物、能力弱体化デバフはあまり効かないか。

 同じような効果――異世界人礼威次レイジからコピーした『羅刹の睨み』もあるけど、レベルを上げてないんだよね。
『羅刹の睨み』はSSランクなので強化に必要な経験値が多いし、それに仮に上げたとしても『炎駒』には効果が薄いかもしれない。
 現在、経験値ストックが11億2000万しかないので、なるべく節約したいところ。

 まあゼルマたちをかなり強化したので、そう簡単にはピンチにならないはず。
 ただ、この異界では飛行能力が使えないので、巨大な『炎駒』相手には少し戦いづらそうだ。
 バフ効果にも時間制限はあるし、あまり悠長にはしていられないな。

 とりあえず、2人が戦っている間に、『炎駒』のことをもう少し分析しよう。
 この『炎駒』――『赤き天馬』には何か秘密がある。
 ただの魔獣じゃない。どうにも違和感があるんだ。

 そう、この『炎駒』からは神聖な気配を感じないけど、その身を包む『神の炎』からは聖なる力を感じる。
 さっき感知した神聖な力の正体はコレだ。
 なんでこんなちぐはぐな現象が起きてるんだ!?

 それが分かるまでは、しばらく様子を見ていたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

遺跡に置き去りにされた奴隷、最強SSS級冒険者へ至る

柚木
ファンタジー
 幼い頃から奴隷として伯爵家に仕える、心優しい青年レイン。神獣の世話や、毒味役、与えられる日々の仕事を懸命にこなしていた。  ある時、伯爵家の息子と護衛の冒険者と共に遺跡へ魔物討伐に出掛ける。  そこで待ち受ける裏切り、絶望ーー。遺跡へ置き去りにされたレインが死に物狂いで辿り着いたのは、古びた洋館だった。  虐げられ無力だった青年が美しくも残酷な世界で最強の頂へ登る、異世界ダークファンタジー。  ※最強は20話以降・それまで胸糞、鬱注意  !6月3日に新四章の差し込みと、以降のお話の微修正のため工事を行いました。ご迷惑をお掛け致しました。おおよそのあらすじに変更はありません。  

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。