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第7章 新国テンプルム

第364話 チョロイン?

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 僕たちは『赤き天馬』の探索を再開した。
 この途方もなく広い森を、ただ闇雲に歩くだけではさすがに見つからないと思い、怪しげなポイントまで『飛翔フライ』で移動してから、辺りを探るようにしている。
 相変わらず手強いモンスターは居るが、とりあえず僕らにとっては問題にはならない。

 それよりも、覚悟していたとはいえ、まるで手掛かりが得られないことに少々焦りを感じ始めた。
 正直、だいぶ考えが甘かった。ここに来る前までは、何かしらヒントがあると思っていたんだ。
『神獣』だの『迷いの森』だの言われるくらいなので、高精度の探知スキル――『超五感上昇スーパーセンシティブ』や『領域支配』を持つ僕なら、すぐに手掛かりくらい見つかるんじゃないかと。

 しかし、それらしい気配を探知できない。
 だけど、ただの森じゃない。そんな雰囲気だけは、ひしひしと感じ取れる。
 まだここに来たばかりなので、根気強く探っていきたいところだけど、果たして『赤き天馬』は居るのかどうか……。

 もし本当に『神獣』であるなら、ほぼ不老不死の存在だ。数千年経っても生きている可能性は高い。
 今はそれに賭けるしかない。


 結局、探索初日は何も手掛かりを得ることができずに終了した。
 僕たちは『空間転移スペースジャンプ』でテンプルムへと戻ることに。

 一度ここに来てしまえば、次からは『空間転移スペースジャンプ』で簡単に来られるので、わざわざ野営をする必要もない。
 こんな調子で、気長にやっていくしかないのかな?
 先行きが不安の中、僕は眠りについた。


 ◇◇◇


 探索を始めてすでに5日。
 結構あちこち探したつもりだが、僕たちは未だ『赤き天馬』を見つけることができずにいる。
 ゼルマも、最初こそ道先案内人という立場で張り切っていたけど、あまりの手応えのなさに責任を感じているようで、しょぼんと気を落としてしまっている。
 吸血鬼なのに、なんとも律儀なヤツだ。

 まあ毎日テンプルムには帰っているので、疲労はそれほどないんだけどね。
 モンスターも手強いとはいえ、僕らにとっては大したことはないし、ほとんど日帰りクエストのような状況だ。
 だから、ゼルマもそんなに気にする必要はないんだけど。

 ただ、ここまで探索したところで、ちょっと気になっていることがある。
『迷いの森』などと言われている割には、特に僕たちは迷ったりなどしてないことだ。
 僕たちが強すぎるから、という可能性もあるけど、吸血鬼たちの間で言われていたくらいだから、何かそれらしき現象があるような気がして……。

 それに、かなり広域にわたって探索したけど、僕の『超五感上昇スーパーセンシティブ』にも『領域支配』にも引っ掛からないなんて、何かおかしい。
 仮に『神獣』ほどの存在なら、かなり離れていても、僕ならば何かしら感知できるはずだ。
 ということは、やはりここには居ないのか? しかし、どうにも何かが腑に落ちない。
 もう一度、ゼルマに『赤き天馬』のことを詳しく聞いてみる。

「すまぬ……これ以上は本当にワシにも分からぬのだ。記憶の限りでは、この森で三日三晩彷徨さまよった挙げ句、『赤き天馬』に遭遇したという話だった」

「三日三晩彷徨さまよう? 少し気になるんだけど、その吸血鬼は、空を飛んで森から出ようとはしなかったのかい?」

「ああそれは、確か傷付いて飛べない状態だったらしい。それで森を迷っているうちに、『赤き天馬』に出会ったとか」

 飛べない状態? ……ひょっとして、それに秘密があるのでは?

「ゼルマ、吸血鬼の間でここは『迷いの森』と言われてたらしいが、なぜ空を飛べる吸血鬼がここを迷うんだ?」

「それは……なんだったかのう。……そうそう、この辺りに居住しようと考えたヤツが何人かいたようで、それで森を開拓しようとして、逆にモンスターに襲われることがあったらしい。仕方なくここを引き上げたが、傷付いて森を彷徨さまよううちに、何故か方向感覚を失ってしまったとのこと。何日も迷い続け、死にもの狂いで逃げ帰ってきたようだ」

 それで『迷いの森』か。なるほど、僕の中で推測が固まってきたぞ。
 傷付いて森を彷徨さまよったというのは、飛べない状態だったに違いない。
 やはり『空を飛ばない』ということが1つのカギだ。

 つまり、この森をことに何か意味があるのでは?

 僕たちは空が飛べるゆえ、つい上空から色々と確認してしまった。
『赤き天馬』の存在を探知できないものかと、あちこち飛んで移動したりもした。
 ここを調査に来た吸血鬼たちも、空から探したはず。

 ひょっとして、森の中を地道に移動しないと、『赤き天馬』には辿り着けないのでは?
 僕の考えが正しければ、森から飛んで出たりせず、ひたすら中を進むことで何かが起きる気がする。


「ゼルマ、ドマさん、僕に1つ考えがあるんですが、試してみますか?」

「別にワシは構わぬが?」

「あたいもいいでしゅよ。いったいどうする気でしゅ?」

「今夜は……テンプルムには帰りません。3人で夜にやってみたいことがあるんです」

 僕は昼間だけじゃなく、夜も探索することを提案してみた。
 すると……

「な、な、なんでしゅとーっ!? さ……3人で夜にやってみたいことって、それは……?」

「きき貴様っ、いったいナニを考えて……それが『赤き天馬』とどう関係が……」

「3人でこのまま一晩この森で過ごすことで、何かが変わる気がするんです」

「何かが変わるって、で、でも、あたい、そんなこと、あわわわっ」

「そ、そりゃいろいろ進展するかもしれぬが、何もこんなところで……」

「ちょっと怖いかもしれませんが、僕がリードしますので安心してください」

 夜の探索はかなり危険になるからね。
 2人がいくら強いといっても、夜中に森を徘徊するのは不安に思うだろう。
 僕が2人を守ってあげないと。

「リ、リードしゅるでしゅと!? ちょ、ちょっと待つでしゅ、あたいにも心の準備というものが……!」

「ワワワワシは別にこここ怖くなどないが、し、しかし、3人というのは……」

「3人はイヤかい、ゼルマ?」

「い、いきなり3人なんて……じゅ、順序というものがあろう!」

「順序……? ああ、急に提案したので驚いたかもしれないけど、たったいま思いついたんだよ。出掛ける前に気付ければ良かったんだけどね」

「おおお思いつきでそんなことを決めるでないっ! ワ、ワシは、その、せ、せめて、初めては2人だけで……」

「あ、あたいも、複数は無理でしゅ、で、でも、坊主ぼうじゅがどうしてもと言うなら……」

 やっぱり、突然夜通しで行動すると言われても困るか。
 でも、夜も彷徨さまよってみないことには、この森の秘密が分からない。
 どうしても無理なら、僕1人でやるけど。

「みんなで一緒にと思ったんだけど、やっぱり怖いかな?」

「一緒にだと……き、きさま、くっ……そうか、そうやって女を落としていくのか……わ、わかった、ワシも覚悟を決めようではないか。ちょっと怖いが、や、やさしく頼むぞ」

「あたいもでしゅ。まさか、こんな地で経験することになろうとは……」

「良かった、2人とも承諾してくれて。じゃあとりあえずみんなで寝ようか」

 僕は宿泊用アイテム『空間裂狭邸館コモド・アルベルゴ』を取り出す。
 今夜は一晩中歩きづめになるので、一度仮眠して休もうと思ったからだ。

「いいい今からだと!? 夜ではなかったのか!? き、気が早すぎるぞ小僧、それに、こんな野営アイテムまで持っていたとは……さすがのワシも、とても心が追いつかぬ!」

「あああもうドキドキしすぎて頭がクラクラするでしゅ、坊主ぼうじゅがこんなに積極的でしゅたとは……もうすべて坊主ぼうじゅに任せるでしゅ」

 ゼルマとドマさんは、フラフラしながら『空間裂狭邸館コモド・アルベルゴ』に入っていく。
 なんだ、元気そうに見えて、2人とも結構疲れてたんだな。ここのところ、この森に通い詰めだったから、当然といえば当然なんだけど。
 2人が強すぎだから、勝手に大丈夫と思い込んでたけど、女性だもんね。もっと気を使ってあげなくちゃダメだな。

 2人には、このあと夕方過ぎまで仮眠してから、夜通し森を歩くことを伝えた。
 説明中、何か2人の様子が変だったけど、なんだったんだろう? 2人とも、どうも何かを勘違いしていたような……。
 それに気のせいか、話していくうちに2人から極悪なオーラが出始めたけど、理由がよく分からないな。
 仮眠の時間が短すぎってことかな? 足らないなら、別に夜まで寝てもいいんだけど。

 とりあえず、僕は寝た。
 先に起きて、もしまだ2人が寝てるようなら、起きるまで待ってあげよう。
 寝てるとき、どうも部屋の戸を蹴飛ばしているような音も聞こえたけど、恐らく気のせいだろう。
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