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第7章 新国テンプルム

第356話 伝説のドラゴン、不覚を取る

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 吸血姫ゼルマラージャ――ゼルマが僕の国テンプルムに住むようになってから数日が経った。
 ゼルマには、出てきた大穴からそれほど遠くない場所に家を建ててあげて、そこに住んでもらっている。
 郊外で建物もそれほど多くないし、閑静な場所なので、そこならゼルマも落ち着いて暮らせるはずだ。

 ちなみに、『ゼルマラージャ』ではなく『ゼルマ』と呼んでいる。ゼルマがそう呼んでくれと言ったからだ。
 僕としては、気さくに名前を呼べるようになって距離感が縮まった気はするんだけど、相変わらずゼルマの態度はツンツンしている。
 高飛車なのも変わらないままだ。まあ別にいいけど。

 吸血行為は、今のところ毎日要求されている。
 テンプルムに誘うときに、僕の血が飲み放題と言ってしまった手前、断りづらくなってしまったのだ。
 どんなに血を飲まれても全然平気だけど、みんなに内緒でやってるので、どうしても罪悪感が溜まってしまう。
 一応みんなに切り出すタイミングを見計らってはいるんだけどね。

 後ろめたいという気持ちだけじゃなく、ゼルマの吸血行為を減らせば、恐らく徐々に血を必要としなくなる気がするんだ。
 血を飲ませ続けたらいつまで経ってもそれは改善しないので、少しずつ吸血の回数を減らしてもらうことにしよう。


 と、そんなことを考えつつ過ごしていたある日の朝……。
 眷女のみんなが勢いよく戸を開けて、慌てて僕の部屋に飛び込んできた。

「ユーリ、た、大変っ! とんでもないことが起きたわっ!」

「えっ、なに!? まさか魔王軍でも現れたの?」

 なんだ? こんなに動揺しているメジェールたちを見るのは初めてだ。
 とっさには声が出なかったようで、メジェールはつばを一度飲み込んでから、続く言葉を搾り出す。

「ち、ちがっ、ぎ、銀子が、銀子が……」

「銀子? 銀子がどうかした?」

「銀子が卵を産んでるの~っ!」


 な…………な ん で す と ぉ ー っ !?


 僕は眷女のみんなと一緒に、『空間転移スペースジャンプ』で銀子のもとへと転移する。
 銀子――その白銀に輝くドラゴンのお腹のそばには、直径1mほどの卵が3つ並んでいたのだった。

「こ、これ……銀子の卵なの?」

 その衝撃の光景に、思わずトンチンカンなことを聞いてしまう僕。

「当たり前でしょ! 今朝アタシたちが銀子の世話をしに来たら、すでに産んであったからビックリしちゃって……」

「毎日お世話してたけど、卵を産んだのは初めてなの。どう思うユーリ?」

 どう思うって聞かれても、僕もドラゴンの生態はよく知らないよ!
 人間が飼育する鳥の一部には、オスと交配しなくても『無精卵』という卵を産む種類がいるけど、銀子の場合は恐らく違うだろう。

 つまり、この卵の父親は……



 熾 光 魔 竜ゼイン ー っ !!!



 あいつめ、心配無用とか言ってたくせに、結局銀子に手を出したなーっ!
 そう、銀子は週に一度モンスターパークを休ませて、熾光魔竜ゼインのところに預けていたんだ。
 そのときにんだろう。
 お互い仲が良かったから、二人の時間を作ってあげようと気を遣ってやったのに……!

 とりあえず、銀子と卵を残して、みんなで熾光魔竜ゼインのもとへ『空間転移スペースジャンプ』する。



熾光魔竜ゼインーっ、お前、銀子に手を出したなーっ!」

「おあっ、あ、あ、あ、あるじ殿、何故それを……」

「銀子が卵産んでたんだーっ!」

 熾光魔竜ゼインが棲む山に着くなり、僕は大声で熾光魔竜ゼインを叱りつけた。
 僕の言葉を聞いて、熾光魔竜ゼインは伝説の最強ドラゴンとは思えないほど、あたふたと狼狽しまくっている。
 焦りで心拍数と呼吸が乱れているせいか、熾光魔竜ゼインの口からは黒い煙まで出ていた。
 ドラゴンの身体はよく分からない構造だな。

熾光魔竜ゼイン、銀子を襲っちゃダメだってあれほど言ったのに……!」

「い、いや、あるじ殿っ、我は襲ってはいないのだ」

「じゃあ銀子が熾光魔竜ゼインを襲ったってのか?」

「ち、ちが、そうではなくて、その、銀子がでな、だから襲ったのではなく、合意というか……」

「銀子が積極的? 要するに、銀子から誘ってきたってこと?」

「ま、まあそう、ありていに言えばそういうことなのだ。そもそも我は幼女趣味ではないし……」

「幼女趣味って、なにが?」

「銀子はまだ50歳程度という若いドラゴンでな、ようやく発情期が来たというくらいの幼い竜なのだ。その発情期を銀子が上手く制御できなかったようで、とにかく何度も何度も激しく誘ってきたのだ。それで我もつい……」

「……やっちゃったと?」

 あ、いけね、うっかり下品な言い方しちゃった。
 見ると、熾光魔竜ゼインは分かりやすくしょぼーんとうなだれている。深く反省しているらしい。
 伝説のドラゴンも、こうなると形無しだな。

「なんと、銀子はワタシよりもだいぶ年下でしたか。まだまだ子供デスね」

 フラウが何故か勝ち誇ってるけど、それでいいのか190歳。
 しかし、そうか……ドラゴンの世界でも女性が強かったか。
 銀子は美形っぽいし、その美竜に猛アタック掛けられたら、伝説のドラゴンといえどもイチコロかもしれない。
 シュンと肩を落とす熾光魔竜ゼインを見て、何かこう身につまされるような思いになってしまった。これは他人事ではないような……。

熾光魔竜ゼイン、アンタは悪くないわ! 女の子の気持ちに応えるのは男として当然よ。据え膳食わぬはなんとやらっていうしね。それに引き替え……」

「そうですわねえ、ユーリ様と来たら」

「全然私たちを襲ってくれないもんね」

「ダーリンはホント根性無しだからな」

 ううっ、言われると思った。みんなの冷たい視線が僕に集中する。
 この話題続けても僕にいいことは無いな。もう早めに切り上げよう。

「ゼ……熾光魔竜ゼイン、ドラゴンの卵はどれくらいで孵化ふかするのかな?」

「だいたい3ヶ月程度であるな。どの竜種でもそれほど変わらぬ」

「そ、そうか、じゃあ銀子と卵をここへ連れてくるから、孵化するまで銀子に付き添ってあげて。モンスターパークとかのことは気にしなくていいから」

「すまぬな、あるじ殿」

「いいよ、銀子と仲睦まじくしてくれ。で、では……」


 銀子と卵を熾光魔竜ゼインのもとに転移させ、僕たちはテンプルムへと帰った。

「ユーリ……アタシたちとの関係も、そろそろ進んでいいんじゃないかしら?」

「だよなー。ユーリ殿、熾光魔竜ゼインに負けてられないぜ?」

「ユーリ様がご希望でしたら、もっと激しくお誘いしてもよろしくてよ?」

「あ、はい、大丈夫です。お願いだから、どうか普通にしててください……」

 この日は一日中、眷女のみんなからアタックされまくりました。


 ◇◇◇


 また本日も、ゼルマに血を飲ませるために郊外の家へとやってきた。
 ゼルマは陽の光にもすっかり慣れて、たまに散歩とかもしてるということだ。

「しかし小僧、貴様の血も凄いが、身体も普通ではないな。遠慮なく飲んでるワシが言うのもなんだが、常人ならとっくに干涸らびておろうに」

「ま、まあちょっとした特異体質ってところだよ」

 などとたわいもない会話をしていたところ、突然ゼルマの家の中に複数の気配が出現した。
 なんだ、と思う間もなく振り向いてみると……そこにはまたしてもメジェールたちが居たのだった。


 ああああああああ、やっちまった……。
 ぼちぼちみんなに打ち明けようと思ってたところだったんだよ。
 なのに、最悪なパターンになってしまった……。

 でも、なんにせよ、内緒にしていた僕が悪い。
 この状況じゃもう言い逃れはできないし、今回はさすがに許してもらえないかもしれない。
 酷い裏切り方だもんね。
 無駄だと思いつつ、一応みんなに説明しようとしてみる。

「あ、あの……みんな、その、内緒にしてたのは申し訳ないけど、やましいことは何もしてない。血を飲ませる以外、ホントに何もしてないんだ、だから……」

「別にアタシたち何も言ってないでしょ。そんなに慌てて言い訳しなくてもいいわよ」

「え? だって……」

「全く、アタシたちが放っておいたら毎日毎日コソコソと……気付かないと思ってるの?」

「し、知ってたの?」

「当たり前でしょ。アンタ隠せてると思ってたの? リノの嗅覚は尋常じゃないのよ? すぐに吸血鬼のことは分かったわ」

「じゃあなんで……?」

「様子を見ていたんですのよ。ユーリ様がそこまでして庇うからには、よほどの理由があるのではないかと」

「ふむ、ネネも吸血鬼と戦ったことはあるが、そこの女は確かに普通とは違うようだ。信じられぬが、昼間でも動けるようだし」

「ユーリ殿はその吸血鬼を助けてあげたいんだろ? ホントにユーリ殿は甘いよな。でもそこがユーリ殿のいいところだ」

「それじゃあ……」

「今回だけは許してあげるわ。でも、今度からはコソコソせずにちゃんと報告してね。血も堂々と飲ませてあげればいいわ」

「ありがとうみんな! そしてゴメン、今度からもっとみんなを信用するよ」

 僕が間違ってた。
 僕が考えてることをみんなはちゃんと理解してくれている。最初から信頼すべきだったんだ。
 これでようやくこの問題も解決できた。

「ところで、許してあげる代わりに、アタシたちのいうこと1つだけ聞いてほしいんだけど?」

「え……ええっ? 僕にできることなら……」

 うう、イヤな予感しかない。



「アタシたちにも指をナメさせて~っ!」



 ああ、そういうオチでしたか……。
 眷女のみんな――メジェール、リノ、フィーリア、ソロル、フラウ、ネネ、そして久魅那クミナにまで、両手の指がふやけるほど舐められました。
 この子たちの性癖、絶対おかしいよ……。

 ほんの少し、僕たちの関係が進んだ一日でした。
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