上 下
181 / 258
第7章 新国テンプルム

第348話 勇者の血を飲んだ吸血姫

しおりを挟む
「ん……ん? だ、誰っ!?」

 いつも通り国王の寝室で寝ていると、部屋の隅に何かの気配を感じた。

 また眷女のみんなが侵入してきたのか?
 でも寝室には入ってこられないように、強力な結界が張ってある。その僕の結界を越えることができるのは、久魅那クミナの空間魔法しかない。
 しかし、そんなことには空間魔法を使わないように、久魅那クミナとは固い約束をしたはず。
 まさかそれを破ったのか? いや、何かおかしい。

 異様な気配に、僕は瞬時に眠気を飛ばして警戒態勢を取る。
『領域支配』で感知できなかったということは、問答無用で僕を殺しに来たわけではないようだが……。
 なんにせよ、この僕に気付かせずにここまで接近できるのは、並大抵の者じゃない。

「貴様が当代の『勇者』か? ……ふん、まだ子供だな」

 女性の声!? だが、眷女のみんなじゃない、知らない声だ。
 暗い部屋の中、声の主を暗視で見てみると、そこに居たのは……。

 闇にも輝く紫色の長髪に赤く仄光る瞳、真っ白い肌には薄手の布がピタリと張り付き、均整の取れた身体のなまめかしいラインを作り出している。
 身長はメジェールよりも少し高く見え、162~3センチというところだ。
 背には骨張った黒い翼を生やし、そして僕を見つめながらニヤリと笑う口元からは、鋭い牙がのぞいていた。
 外見上は20歳そこそこという年齢に見えるが、恐らくアテにならないだろう。
 この気配といい魔力といい、こいつの正体は……。

「お前は……『吸血鬼ヴァンパイア』か!?」

 最強の魔族『吸血鬼ヴァンパイア』。
 魔族は悪魔とは別の種族で、魔界ではなく地上にて生活をしているが、基本的には人類と敵対している存在だ。
 それが僕の部屋に? いったい何の目的があってきたんだ?

「ふむ、少し違うな。ワシはただの吸血鬼ではなく、いにしえの王の血を受け継ぐ『吸血姫ヴァンパイア・プリンセス』だ」

吸血姫ヴァンパイア・プリンセス』!?
 吸血鬼一族をまとめる姫様ってこと?

 確か、古代には4人の『吸血王ヴァンパイア・キング』が居て、その上に『真祖トゥルーブラッド』という吸血鬼の始祖が君臨していたということらしいけど、もう数千年もそれらの存在は確認されてない状態だ。
 彼らが住んでいたという城もあったようだけど、その場所もすでに忘れ去られている。
 現在、通常の吸血鬼はたまに出現するが、上位種はとっくに滅んだと思われていた。

 その吸血鬼の王族が生きていたのか!
 そうか、あの穴から出てきたのが、この『吸血姫ヴァンパイア・プリンセス』なんだ!

吸血鬼ヴァンパイア』は通常でも相当手強い存在ではあるが、その姫ともなると、最強クラスの人間でもないかぎりまず太刀打ちできるような相手じゃない。
 しかし、僕は別だ。たとえ『吸血姫ヴァンパイア・プリンセス』といえども、僕の敵ではないはず。
 その僕の強力な結界を越えてこられるなんて、ちょっと信じられないんだが……。


「小僧、貴様の前の勇者……ヴァンルーグはまだ生きておるのか?」

「えっ、前の勇者だって?」

 前回の勇者が生きていたのは、数百年前――確か、亡くなってからすでに500年以上経っているはずだ。
 当たり前だが、現在生きているはずはない。

「前の勇者になんの用があるか知らないが、もうとっくに亡くなってるよ」

「…………ふん、やはりワシの眠っている間に死んでしまったか。ワシを封印した仕返しをしたかったのに残念だ」

「お前を封印!?」

 なるほど、前回の勇者が、あの穴があった場所にこの『吸血姫ヴァンパイア・プリンセス』を封印したのか。
 復活したついでに、その復讐をしにここまでやってきたということなんだろうな。
 多分、現勇者メジェールの気を感じてやってきたんだろうけど、何か間違って僕の部屋に入ってしまったんだろうか?

 ……あれ、ちょっと待て。
 前回の勇者って、ヴァンルーグって名前じゃないぞ?
 ヴァンルーグって誰だ?

「お前はいま『ヴァンルーグ』という名前を出したが、そんな勇者は居ないぞ? いったい誰のことを言ってるんだ?」

「バカな、何故そんなくだらぬウソをつく?」

「ウソじゃない、前回の勇者はそんな名前じゃ……」

 いや、『ヴァンルーグ』という人は前回の勇者ではなく、なのでは?
 この吸血姫が長い間――つまり500年より遙かに長期間封印されていたなら、勇者はさらに以前の人になるはずだ。
 恐らくこいつは、自分がどれだけの期間封印されていたのか知らないんだろう。

 しかし、それにしても『ヴァンルーグ』という名前には心当たりがない。
 歴代勇者は10人以上いるらしいけど、記録に残ってるのはここ3000年程度。それより以前となると、名前の残ってない人がほとんどだ。
 ……まさか、この吸血姫は3000年以上封印されていたってこと?
 それが、何故いまになって蘇ったんだ?


「久々に起きてみれば、地上はすっかり変わっておって驚いたぞ。ちと眠りすぎたようで、魔力の回復に時間が掛かってしまったがな」

 ……そうか、僕のせいだ!
 僕がこのテンプルムを作るとき、整地作業で封印を吹き飛ばしちゃったんだ!
 それでこの吸血姫は目を覚まし、魔力が回復したところで地上に出てきたってことか。
 なら、僕がきっちりカタをつけないとな。

「ヴァンルーグという勇者に復讐をしたかったんだろうけど残念だったな。それに、言っておくが僕は勇者じゃないぞ。だが、勇者の代わりに僕がお前を退治することにしよう」

「貴様が『勇者』ではないと? またくだらぬウソを。ワシがここに居ることこそ、貴様が『勇者』である最大の証拠だ」

「お前がここに居ることが証拠? 何故それが……って、そうだ、よくこの僕の結界内に入ってこられたな? 自慢じゃないけど、魔王ですらそう簡単に侵入を許す結界じゃないんだが?」

「だから、それが貴様が『勇者』である証なのだ。ワシだからこそ、『勇者』の結界を無効にできる。ワシはからな」


 な……なんだってーっ!?
しおりを挟む
感想 677

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

ある日無職を職業にしたら自宅警備員になったのでそのまま働いてみました

望月 まーゆ
ファンタジー
西暦2117年。 突如現れた社会ゾンビクリーチャー。 その対処に困った政府が白羽の矢を立てたのは引きこもり世代と呼ばれる無職の若者達だ。 この時代になりたくない職業、警察官・自衛官がトップを占めていて人員不足。 その穴埋めの為、自宅警備隊制度を導入した。 僕、神崎カケルも漏れなく自宅警備員として働く事になった。 更に入隊前に行われる魔導適性検査結果がランクAと判明する。 チート能力【 レイブル 】を使いこの新トーキョーを守る!! ☆が付いている話は挿絵ありです。あくまで雰囲気がわかる程度です。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。