上 下
163 / 258
第7章 新国テンプルム

第330話 勘違いさせちゃった?

しおりを挟む
「どうだ、こんなスゲーの見たことないだろ!」

 牙無魔ガンマという男が自慢しているのは、いま僕たちが移動するために通っている『時空通穴ワームホール』のことだ。

 異世界人たち4人と、僕と眷女たち6人は、久魅那クミナという子の『空間魔法』――『時空通穴ワームホール』で、戦いの地へと移動している。
 彼ら異世界人たちが、戦闘するのにちょうどいい場所をテンプルムへ来るときに見つけたというので、みんなでそこに向かっているという状況だ。
 一応僕も『時空通穴ワームホール』は使えるけど、せっかく機嫌良さそうなので、余計なことは言わないようにしている。

 彼らから突然戦いを申し込まれてしまって驚いたが、話を聞いてみると、どうやら力試しをしたいようだった。
 彼らはヴァクラースと戦って負けてしまい、その雪辱のため、人里離れた地でひたすら鍛え直したらしいんだけど、いざ修業を終えて法王国へ戻ってみれば、すでに僕がヴァクラースを倒したあとだった。

 せっかく死ぬ思いで頑張ったのに、肩すかしを食らったみたいで、気持ちのぶつけどころが無くなってしまった。
 それで、ヴァクラースを倒したという僕と戦って、修業した成果を確認したいということだった。

 まあそれくらいなら付き合ってもいいかなと思って、僕も戦いを了承した。
 法王国の許可なしに勝手に来られちゃったのは少し困ったけど、自分の力を確認したい気持ちは分かるからね。
 彼らは人類にとって心強い味方だし、魔王軍攻略のためにお互い協力するのは悪いことじゃない。

 ただ戦闘する場所については、僕もちょうどいい所を知っているので、みんなで一気に『空間転移スペースジャンプ』しても良かったんだけど、僕が何かの罠に嵌めると思われるのも困るので、彼らの希望に従うことにした。
 というのも、どうも僕に対して、彼らは未だに『魔王ユーリ』の疑惑が拭いきれないらしい。
 これは彼ら異世界人だけじゃなく、法王国の人たち全体が、『魔王ユーリ』をイマイチ快く思っていないようだ。

 法王国と帝国には、僕は全然接触する機会がなかったからね。だから、どうしても不審に思われてしまう。
 それ以外の国では、もう僕を怪しむようなことは無いんだけど。
 いい機会なので、彼ら異世界人を通じて法王国の人にも、僕が危険人物じゃないことを知ってもらいたいところだ。



「着いたぞ。ここなら思う存分力を出せるだろ?」

時空通穴ワームホール』から出てみると、確かに周りに障害物もなくて、充分な広さがある場所だった。
 これなら問題なく戦えるだろう。

「無理矢理付き合わせちまってすまねーな。聞きゃあ魔王軍は今どこにもいないっつう話だったから、どうにも力を持て余しちまってよ」

「分かります。僕で良ければ、好きなだけぶつけてください」

「ああいや、オレはもう気が抜けちまったんで、お前が思う存分力を出せればそれでいいんだ。胸を貸してやるから、好きなように掛かってこいよ」

 …………………………………………え?
 どういうこと?

「倒すべき魔王軍もいねーし、法王国でブラブラしててもしょうがないってことで、お前、つまり『魔王ユーリ』ってヤツの強さを確かめに来たんだけど、どうやら修業をやり過ぎて、オレはとっくにヴァクラースを超えちまってたようだ」

「あ、あの……すみません、言っていることがイマイチよく分からないんですが……?」

「お前程度にヴァクラースが倒されたなら、もうオレに敵はいないってことだ。厳しい修業の成果とはいえ、まさか『魔王ユーリ』ですら全く脅威に感じないくらい、オレはケタ外れに強くなっちまうとは……なんか少々物足りない気はするが、オレは選ばれた人間だから仕方ないのかもな」

 んー分かった、この牙無魔ガンマって人は、僕=魔王ユーリよりも自分は圧倒的に強いと思ってる……ってことだよね?
 その僕程度にヴァクラースが倒されたんで、もう力試しをするまでもなく、修業で超強くなれたと確信した……ってことかな?

 うーん、この人少々思い込みが強すぎて付いていけないな。
 まあ僕の見た目がどうにも弱そうだから、勘違いさせちゃったんだろうけど……。
 本人が一応満足したんだったら、これ戦わなくてもいいのかな?


「あの、力試ししなくてもいいようなら、特に戦う理由もないのですが……」

「あん? せっかくここまで来たんだ、ビビらずに掛かってこいって! 大丈夫、手加減してやるよ。なんなら、後ろの女たちも一緒に全員で掛かってきていいぜ。オレ1人で相手してやるから安心しな」

牙無魔ガンマってば、勝手に決めないでよ」

「でも、こんなの相手に、全員で戦うのも可哀想だろ?」

「そうかも知れないけど……でも、戦ってみないと分からないわよ?」

「分かるよ。オレの敵じゃねえって。弐琉須ニルス礼威次レイジも手を出すんじゃねーぞ」

「コイツ……も~う許せないわ! ユーリ、アタシにやらせて!」

「わたくしも我慢の限界を超えましたわ」

「オレもだ。ユーリ殿をここまでコケにするとは……ギッタギタにしてやる!」

「いや、僕が相手するよ。みんなは下がってて」

 こっちとしても、眷女みんなの戦闘訓練にはちょうどいいかなと思ったけど、熱くなり過ぎちゃってるので危険だ。
 それに、ちょっと気になることがある。
 この牙無魔ガンマって人の力だ。

「なんだ、このオレとタイマンするってか? じゃあ『魔王ユーリ』と呼ばれるほどの力を見せてもらうことにすっかな」

 僕と牙無魔ガンマを残してみんなは離れ、僕たちは至近距離にて対峙する。
 何か不思議な人だ。この僕でも、彼の力が掴めない。
 確かにベースレベルもスキルレベルも高いけど、それほど驚異的に育ってるわけじゃない。
 いや、剣聖イザヤと互角以上に戦えるくらいの力はあるけど、その程度じゃ、あのヴァクラースに勝つなんて到底不可能だ。
 しかし、この牙無魔ガンマという男からは、解析で見る以上の強さを感じる。

 彼が持つ『唯一者ザ・ワン』という能力のせいだろうか?
 これは称号でもスキルでもなく、『ギフト』という特別な力らしい。恐らく、異世界人のみが持つ能力だろう。
『あらゆる並行世界にある力を1つに融合する』ってなってるけど、どういう意味なんだろうな。


「ほれ、好きに掛かってこいよ」

「えーじゃあお言葉に甘えて……」

 なんとなくで戦闘が始まってしまった。

 ***********************************

 是非是非、書籍版『無限のスキルゲッター』もよろしくお願いいたしますm(_ _)m
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。