上 下
159 / 258
第7章 新国テンプルム

第326話 狡猾な贋作者

しおりを挟む
 帰還後にちょっとバタバタしちゃったけど、大急ぎでヘドロノスのことを調査する。
 このテンプルムへはゾディーさんたちと一緒に来たので、その足取りを調べるのは難しくなかった。
 帝国から来る場合、大抵はフリーデンを経由してくることが多いんだけど、ゾディーさんとヘドロノスも同様だった。
 それが最短距離だからね。

 で、出国記録を調べてみたんだけど、今のところテンプルムから出た様子はない。
 泊まっている場所はさすがに分からなかったけど、まだこの国に居るなら、出国時のチェックで引き留めることは可能だ。
 恐らく、出るときもフリーデン側の出国ゲートを使うだろうけど、念のため全ゲートの監視を強化することに。

 今日はもう出国する人は居ないだろうから、出るとしたら明日以降だ。
 絶対にそこで押さえないと!

 ちなみに、オークションでヘドロノスが支払ったお金は本物だった。
 金貨や白金貨なども複製コピー可能だろうけど、通貨の偽造はかなりバレやすいから、多分その危険を避けたんだと思う。

 ヘドロノスが作った偽造品は、見た目もさることながら質感や重さも完璧に近いけど、それでも通貨に関する真贋鑑定は割と頻繁に行うので、手を出すにはリスクが高すぎる。
 ちゃんと調べれば、さすがに素材が違うことは判明してしまう。なので、コピーは品物だけにして、お金は本物を使っていたんだろう。
 わざわざ危険な通貨偽造をしなくても充分儲けられるしね。

 とりあえず、勝負は明日以降だ。


 ◇◇◇


「ユーリ国王様、たった今ヘドロノス氏を発見したという報告がありました。予想通り、フリーデン方面のゲートから出国しようとしていたようです」

 翌日、朝食を終えた直後、ネーナからヘドロノス発見を聞かされる。
 つい先ほど、朝イチの魔導バスで出国しようとしていたところを見つけたらしい。
 とりあえず、その場で引き留めて、別室で待ってもらっているとのこと。

「よし、僕が直々に相手する!」

「アタシも行くわ!」

 一緒に朝食を取っていたメジェールと、そして報告に来てくれたネーナも連れて、急いでそこへ向かう。
 僕1人で対応するより、ほかにも誰かいたほうがいいだろう。
 リノたちも来たがったけど、多すぎても困るので、ここは待っててもらうことにした。

 ちなみに、ゾディーさんは呼ぶつもりはない。
 冷静に話し合いをしたいからね。そのほうが、相手の悪事を曝きやすいし。
 そのことは、昨日すでにゾディーさんとは話し合い済みだ。
 今回の『蒼魂鋼の剣アポイタカラソード』については僕に一任させてもらっている。


 部屋に入ってみると、40代半ばほどの細身の男性――金髪をオールバックに整え、口ひげを生やした精悍な顔つきの男がソファーに座っていた。
 こいつがヘドロノスか……商人というより、教授とか研究者のような顔つきだ。身なりが豪華なので、やり手の貴族にも見える。
 どちらにせよ、相当頭が切れそうだ。

「あなたがユーリ国王陛下ですか? 国を出ようとしたところ、突然引き留められて困っているのですが、この私に何か御用でも?」

 ヘドロノスはゆっくりソファーから立ち上がって一礼したあと、何も身に覚えがないかのように立ち振る舞う。

「ヘドロノスさん、あなたに少しお聞きしたいことがあるのですが、思い当たることはありませんか?」

「特にありませんな。いったいどういうことでしょう? おかげで朝の魔導バスに乗りそびれてしまったのですが?」

「それは申しわけありません。あとで特別に魔導車にてお送りいたしますので、少しの間お時間をいただけないでしょうか」

「国王陛下の頼みでは仕方ありませんな。ではお話をお聞かせください」

 ヘドロノスは油断なく僕のことを観察している。
 ニセ物はいつバレてもおかしくないだけに、普段からこの程度のことは想定済みだろう。
 かなり狡猾そうに見えるだけに、まともにやっては、そう簡単に尻尾を出さないはずだ。
 まあ僕のほうも正攻法で解決しようとは思ってないけどね。


「あなたは先日我が国のオークションで、『蒼魂鋼の剣アポイタカラソード』を落札しましたね。落札者記録にももちろん残っています」

「はい。その代金もキッチリお支払いいたしましたが、それが何か?」

「『蒼魂鋼の剣アポイタカラソード』は代理落札でしたね? それを受け取ったオーナーのゾディーさんから、剣はニセ物だったと、出品者である国――つまりこの僕に苦情が寄せられました。それで、落札者であるあなたにお話を伺いに来たんです」

「ほほう……なぜ私に? 剣がニセ物なら、それは出品者である国の責任でしょう。それとも、アレほどの剣のニセ物をこの私が作ったとでも?」

「ではニセ物だったことについては何も知らないと? この件には一切無関係ということですね?」

「当然です。代理で落札しただけなのですから」

 そう来ると思った。
 この男がすり替えたという証拠がないもんね。

 そもそも大前提として、『蒼魂鋼の剣アポイタカラソード』のコピーを作れない限り、この犯罪を行うことは不可能だ。
 ただね、『真理の天眼』の解析では、この男は邪悪なうえにウソだらけだ。
 もちろん、『蒼魂鋼の剣アポイタカラソード』をすり替えた犯人もヘドロノスである。

 そしてこの男の持っているレアスキルは……『完全贋作フェイクメイカー』というSランクスキルだった。
 これは見た目や重さなどが完璧に同一な『複製品レプリカ』を作れるスキルで、やはり予想通りスキルでニセ物を作っていた。
 もっと正確にいうと、スキルレベルが上がるほど、その『複製品レプリカ』の完成度が上がるようだが。
 ヘドロノスのレベルではまだ完璧とまではいかないので、僕も見た目で違和感に気付けたのだ。

 これが証拠といえば証拠なんだけど、『完全贋作フェイクメイカー』を持ってることは絶対に認めず隠し通すだろうから、こっちからは証明ができない。


「私は落札した剣をそのままゾディー様にお渡ししただけです。落札代としてお支払いしたお金も問題なかったはず。証拠も無しに変な疑いをかけるなど、たとえ一国の王様でも許されない行為ですよ?」

「うーん、手強い男ね……何か手はあるのユーリ?」

「大丈夫、こんなことは全て想定のうちさ」

 メジェールと小声でやりとりをしたあと、僕はヘドロノスにある提案を持ちかけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

遺跡に置き去りにされた奴隷、最強SSS級冒険者へ至る

柚木
ファンタジー
 幼い頃から奴隷として伯爵家に仕える、心優しい青年レイン。神獣の世話や、毒味役、与えられる日々の仕事を懸命にこなしていた。  ある時、伯爵家の息子と護衛の冒険者と共に遺跡へ魔物討伐に出掛ける。  そこで待ち受ける裏切り、絶望ーー。遺跡へ置き去りにされたレインが死に物狂いで辿り着いたのは、古びた洋館だった。  虐げられ無力だった青年が美しくも残酷な世界で最強の頂へ登る、異世界ダークファンタジー。  ※最強は20話以降・それまで胸糞、鬱注意  !6月3日に新四章の差し込みと、以降のお話の微修正のため工事を行いました。ご迷惑をお掛け致しました。おおよそのあらすじに変更はありません。  

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

最弱の職業【弱体術師】となった俺は弱いと言う理由でクラスメイトに裏切られ大多数から笑われてしまったのでこの力を使いクラスメイトを見返します!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
俺は高坂和希。 普通の高校生だ。 ある日ひょんなことから異世界に繋がるゲートが出来て俺はその中に巻き込まれてしまった。 そこで覚醒し得た職業がなんと【弱体術師】とかいう雑魚職だった。 それを見ていた当たり職業を引いた連中にボコボコにされた俺はダンジョンに置いていかれてしまう。 クラスメイト達も全員その当たり職業を引いた連中について行ってしまったので俺は1人で出口を探索するしかなくなった。 しかもその最中にゴブリンに襲われてしまい足を滑らせて地下の奥深くへと落ちてしまうのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。