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第7章 新国テンプルム

第314話 オークション

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「なにアレっ!? すっごいきれーい!」

「これはお見事ですわ」

 オークションが開始され、次々と出品物が落札されていく。
 いまメジェールたちが驚いたのは、とても綺麗な工芸品が出たからだ。

 貴金属でできた枠に硝子粉を焼き付けて作った宝飾品で、透過した光で七色に輝いている。
 とても精巧な技術が必要で、かなりの年代物らしく、現在ここまでの物を作れる工芸家はいないだろう。
至上工芸品アーティファクト』とまではいかなくても、充分素晴らしい作品だ。

「あーん、私もああいうの着けてみたーい」

「ワタシもデス!」

「え? リノたちは高価な宝飾品の数々を充分味わったじゃないか」

「違うの! ゼルドナの王宮とかにあったのは貴金属や宝石が豪華な物だけで、あんな芸術品はなかったわ」

「確かに、絵画なども王宮の宝物庫にはありませんでしたわね」

「ゼルドナの前王様も山賊のボルゴスも、芸術を愛でるタイプじゃなかったもんね」

 なるほど。言われてみれば、確かにそんな感じだった。
 さっきの工芸品は、貴金属や宝石で価値が高いのではなく、巧みな技術とデザインを評価されて高値が付いた。
 リノたちは高価な物じゃなく、そういう綺麗な芸術品を身に着けたいと思ったんだな。

「まあ気持ちは分かるけど、このオークションは来てくれた皆さんに楽しんでもらうために開いたから、僕たち国側は何も落札はしないよ」

「えーん、残念。でもユーリなら、アレくらい作れちゃうんじゃないの?」

「僕でもアレは作れないよ。ただ『魔道具作製』スキルにある『複製作成コピークリエイト』なら、全く同じ物を出すことができるけどね」

「えーっ!? じゃあ全部コピーしちゃえば……」

「そういうズルはダメ。一品物だからこそ価値があるんだから」

「もう、ユーリってば真面目なんだから!」

 リノが残念がってるけど、ここは我慢してもらおう。
 ちなみに、僕は芸術系のスキルは全く持ってないけど、仮に持っていたとしてレベルを10にしても、同じような綺麗な作品が作れるとは限らない。
 スキルのレベルというのは、あくまでも技術的なものだからだ。

 例えば、絵画関係のスキルをレベル10にしたとすると、デッサン力や彩色技術は最上級になるだろうけど、でも芸術的なセンスを補うことはできない。
 さっきの工芸品も、技術的には再現可能かもしれないけど、あれほど繊細なデザインなどは、完全に個人のセンス――それは天性のものだ。
 芸術の分野は、スキルでは到達できない領域なのだ。

 まあでも、これは戦闘についても同じかもしれない。
 いくら剣術スキルを育てても、戦闘センスがなければ十全に力を発揮できない。

 あのゴーグが強いのは、ケタ外れの戦闘センスを持っているからだ。
 それは僕にはないモノ……僕の弱点は、きっとその辺になるだろう。
 だからこそ、なるべく経験を積むため、強敵相手との戦闘は大事にしてきた。
 少しでも僕のセンスが育ってくれてればいいけど……。


 そのあとも、次々に高価な宝飾品や骨董品、由緒あるドレスなどが落札されていった。
 もちろん、貴重な武器や防具もオークションにはかけられ、その中には僕が作った物も含まれている。
 今のところは、そこまで高額になった落札品はないけどね。

「どうですユーリ陛下。素晴らしい品々が出品されているでしょう。女性の皆さまも楽しまれておりますかな?」

「あ、アパルマさん、この度は色々とご協力してくださってありがとうございました!」

 僕たちのところへ、行商人――今ではテンプルム国商人ギルド長のアパルマさんがやってきた。
 今回のこのオークション開催にあたって、アパルマさんには大変お世話になったのだ。
 こんなに順調に進んでいるのも、アパルマさんが尽力してくれたおかげである。

「いえいえ、わたしもオークションというのを初めて主催側として関わってみましたが、これは良い経験になりましたよ」

「アパルマさんの出した落札見積価格エスティメートもほぼ完璧ですよ。さすがの目利きですね」

「いやそれは、ユーリ陛下に頼まれてゼルドナの宝飾品を処分したときに、だいぶ鍛えられましたからね。あれほどの宝を売却することなど、そうはありませんからな」

 僕たちが会話している間も、オークションは進んでいく。
 今度の出品物は、僕が製作したゴーレムだ。
 ただし、戦闘力はほとんどなくて、その代わりに色んな命令を聞くことができる便利人形となっている。

操縦者マスター』認証や『波長調整シンクロ』を簡単にしてあるので、素人でも容易に使いこなせるはず。
 動力となる魔力も、魔力タンクから補充できるので問題ない。
 魔力タンクが空になったら、これは神官や魔道士に頼めば誰でも補充が可能だ。

 このゴーレムが、アパルマさんの想定落札価格を大幅に超えて落札された。
 使い道としてはそれほど価値のある物じゃないんだけど、個人でこんなゴーレムを持つことなんてまずないので、珍しさが価格にかなり影響を与えたかもしれない。

「わはは、わたしの予想より、遙かに陛下のゴーレムは価値があったようですな」

「さすがにアレは、見積もりが難しかったかもしれませんね」


 さらにオークションが進むと、素晴らしい剣が出てきた。
 素材はアダマンタイトで、僕の『真理の天眼』を使って遠目ながら鑑定してみると、通常のアダマンタイト製よりも大幅に性能が良かった。
 装備強化――つまり、+3などの追加効果を付けずに、剣の仕上がりだけで凄い斬れ味となっているようだ。

「ほう……これは見事な剣だ。ひょっとしてアレは、ドマ・ギンガイムの作ではないのか?」

「おお、そちらのお嬢さんの仰る通り、アレはドマ・ギンガイムの剣でございます」

「ネネ、あの剣を作った人を知ってるの?」

「ふむ、近年まれに見る天才鍛冶師だ。滅多に剣を打つことはないが、ひとたび製作に入れば、魔剣の如き斬れ味の名剣を生み出す」

「そんな凄い人がいるんだ……」

 さすがナンバーズ、この手のことには詳しいな。

「数十年にわたって超一流の座に居続けたが、しかし10年ほど前に一切剣作りをやめ、どこかで隠居しているという噂を聞いたのだが……まさかアレは新作なのか?」

「えっ、引退しちゃったってこと?」

「分からぬ。全てが謎の人物で、よほどのことがない限り仕事も請け負わぬ。それが、今ごろになって目にすることができようとは……」

 なるほど、凄い人がオークションに出品してくれたんだな。
 見たところ、僕の作る剣よりは性能が劣るけど、それは単純な比較だ。
 僕の剣はあまり使いやすさを考慮してなくて、ただ単純に硬かったり、魔法を付与してあるだけだ。

 それに対して、あの剣は誰が使っても高い性能が発揮できるよう、とても緻密な作りになっている。
 そして、デザインも素晴らしい。ただの剣ではなく、芸術の域まで達している。

 僕のは『魔道具作製』スキルで素材から一気に魔装備を完成させちゃうけど、そんな即席インスタントな物ではなく、あの剣には製作者ドマ・ギンガイムの魂が入っているかのようだ。
 僕の魔装備は『伝説級レジェンダリー』や『神創造ゴッズ』クラスの物だけど、スキルの力だけで強い武器を作っちゃってる自分がなんとなく恥ずかしくなった。

 いや、そんなことにこだわるよりも、強力な魔道具を作ることのほうが大事なんだけどね。
 みんなの命も掛かっているし、魔王軍を倒せるならプライドなんていらない。
 でもまあ理屈じゃなくて、ドマ・ギンガイムの作品には何か感銘を受けてしまった……。


 その後は僕が作った武器――『麻痺の短刀スタンナイフ』や『影追いの円月輪ホーミング・チャクラム』も落札されたけど、イマイチ喜べず。
 かなりの高値で落札してもらったんで、ありがたいことだけどね。

 最後の出品物は今回の目玉『蒼魂鋼の剣アポイタカラソード』で、これまたとんでもない高額で落札された。
 この剣には特殊効果を付与してなくて、ただ単に硬いだけの物となっている。
 これなら、バランスを壊すほどの強い武器にはならないだろう。まあアダマンタイトでも斬っちゃうけどね。

「ほう……またしてもヘドロノス氏が落札ですな」

「え? ……そういえばそうですね」

 あまり気にしてなかったけど、高額の品物はほとんどヘドロノスという人が落札していた。

「彼は有名な豪商でして、オークションなどではオーナーから代行落札を請け負ったりもしてます。今回は値が上がりすぎて、彼しか落とせなかったようですな」

 確かに想定より高値が付いたけど、それにしてもヘドロノスって人はスゴイお金持ってるね。
 ああ、代理人として落札してるかもしれないから、全部が彼の出費というわけじゃないのか。


 とりあえず、入札は凄い盛り上がったし、オークションは大成功と言えるだろう。
 ドマ・ギンガイムさんは、ひょっとしてこのテンプルムに来てるのかな?
 もし来てるなら、会ってみたいなあ……。

 ***********************************

『無限のスキルゲッター』の予約販売が、各webサイト様にて始まりました。
 書籍版では4万字ほど書き下ろしがあります。

・勇者チームとの共同作戦
・宿敵ゴーグとの対決

 web版の内容に加えてこの2本が収録されており、ほかにも大幅に改稿・加筆してあります。
 各書店様の店頭にも11/19頃には並ぶと思いますので、どうか是非是非よろしくお願いいたしますm(_ _)m
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