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1巻
1-2
しおりを挟む「それとスマンが、スキルは一度おぬしに与えてしまったので、もう与えることはできぬ。あれほど貴重なスキルを使わせてしまっておいて、本当に申し訳ないが……」
あれ、神様って『生命譲渡』のことを本当に素晴らしい能力だと思って僕にくれたんだな。
あんなスキル、嫌がらせ以外の何物でもないと思っていたのに、神様のお心に気付かず申し訳ない……
でも、あのスキルをもう一度もらわずに済んで良かった。
「お詫びと言ってはなんじゃが、おぬしに特別な加護を与えよう。毎月経験値を100万ずつ与えるというのはどうじゃ? まあこれでも『生命譲渡』とは釣り合わぬのじゃがな」
ええ~っ! 毎月100万の経験値? 凄いっ、それならあっという間にレベルが上がっていく。
自身のレベル、つまりベースレベルを100にするのに約2000万の経験値が必要って言われているから、二年でレベル100になれるぞ! もちろんそれ以上のレベルにだって上げられる!
まあ経験値は、『剣術』とか『腕力』などのスキルをゲットするときに使ったり、取得したスキルのレベル上げにも割り振ったりしていくから、全体的な能力を底上げしつつベースレベルを100にしようと思ったら、大体5000万くらいの経験値が必要になるけどね。もちろん、育てるスキルにもよるだろうけど。
最強クラスの人は、多種多様なスキルを習得して、それらを高レベルにまで育てている。
そこまで強くなるには、経験値1億じゃ足らないかもしれない。
それでも毎月100万経験値がもらえるなら、十年もすれば世界最強クラスになれちゃうな。
それにしても、神様は毎月100万の経験値でも『生命譲渡』とは釣り合わないって言っていたよね。アレってそんなに凄いスキルだったの?
まあとにかく、女神様を助けて本当に良かった。
……待てよ。
せっかくだから、もうちょっと欲張ってみようかな……
元々拾った命みたいなものだし、あの絶望感を思い出すと、神様に少しわがままを言ってみたくもある。
よし……いちかばちか試してみちゃおう。
「神様、僕のような人間に毎月100万の経験値は贅沢すぎます。もらうのは1だけでいいです」
「なんと! 経験値1などもらっても仕方ないじゃろ?」
驚く神様。さて、ここからが僕の狙いだ。
「ただしその代わり、次の月は経験値2、その次の月は経験値4と、毎月もらえる経験値を倍々に増やしていってほしいのです」
「倍々に増やすじゃと? ふむ、それでも一年合計でえーと……今計算しておるからちょっと待て、1たす2たす4たす……ボケとるわけではないぞ、普段足し算などする機会がないから、少し忘れとるだけじゃ! 8たす16たす……むむう、異世界にある『電卓』というアイテムが欲しいところじゃのう」
「神様、1+2+4+8+……+2048で、計4095です」
このままじゃ話が進まないので、僕が計算してあげる。
「おおう、やはり若い者は数字に強いのう。しかし、おぬしの願いでは一年合計で4000程度の経験値にしかならぬが、それでいいのか?」
「はい。あとでやっぱりダメなんて言わないでくださいね」
「言うわけなかろう。しかし、なんとも欲のない願いじゃのう」
ぷぷっ、神様って計算に弱い!
この倍々方式で経験値をもらっていけば……時間が経てば経つほど凄いことになる。
二年も経過すれば、トータルで3000万を超える量をもらうことができるので、その時点で毎月100万経験値をもらうよりも得をする。さらにその後も倍々となっていくから、これはとんでもないことに……!
ちゃんと約束もしたし、あとで怒られるなんてことないよな?
まあ拾った命だ、でっかく構えよう!
「おぬしの願い、しかと聞き届けた。では下界へ戻してやろう」
「待ってください、お父さま!」
声と同時にスーッと現れたのは、山で倒れていた女神様だ。
あのときは分からなかったけど、さすが女神様、気が遠くなるほど美しい~。
「勇気ある少年よ、わたくしを助けてくれてありがとうございました。わたくしは慈愛の女神フォルティーナです。わたくしからも、あなたに一つ贈り物を……」
そう言うと、女神フォルティーナ様は僕のほっぺにキスをしてくれた。
「女神の口づけには幸運が宿るとされます。あなたの人生に祝福を」
これ以上ないお礼をもらってしまった。
今さらながら、神様を騙しちゃって、めっちゃ心苦しくなってきたぞ。
我ながら調子に乗りすぎたかも……ええい、もうどうにでもなれ!
「ではさらばだ、ユーリ・ヒロナダ」
神様の言葉とともに、僕は下界へと戻された。
2.最強世代
あれから一ヶ月が経った。明日から僕は高等学校に通う。
神様と約束したことにより、このまま適当に日々暮らしていても時期が来れば毎月大量の経験値が入る僕ではあるが、色々あって進学することにした。
その理由の一つは、両親が僕を無職のまま家でダラダラさせてくれるわけがないから。無理矢理変な職業に就かされるよりは、学校に通ったほうがマシだろうと思ったのだ。
もう一つは、同世代の生徒同様に、勉学に励みながら経験値を稼ごうと思ったから。なるべく安全な状況で経験値が欲しかったら、学校は最適だ。
下界に帰ってきた次の日、早速神様からの贈り物として経験値が入ってきた。
約束通り1しか入ってなかったけど、問題は別のところ。
それはステータス画面を開いて分かったことだった。
なんと、スキルを選んで取得できるようになっていたのだ。それも、『神授の儀』でしか授かれないような超レアクラスのスキルだ。
そのとき出てきたのは『スキル支配』というもので、これはSSランクの凄いやつだ。使用すれば、相手のスキルを封じることができるらしい。
このスキルを成長させれば、相手のスキルを強奪することすら可能になるらしいけど、実際のところは不明だ。何せレアすぎて持っている人を見たことも聞いたこともない。
こんな超レアスキル、本当にもらっちゃっていいんですかーっ! ……と思ったら、そんなに甘くはなかった。
スキルの取得には、経験値が必要だったのである。
『神授の儀』で授かるスキルは神様から無償でもらえるけど、スキルは通常、経験値を消費して獲得しなくちゃいけない。
たとえば、剣で戦い続けて練度が上がると、ふとあるとき『剣術』というスキルがステータス画面のスキルボードに現れることがある。
それを得るのに、経験値を使わなくちゃいけないんだ。
『剣術』を取得したあとも、スキルレベルを上げるのには経験値が必要となる。
仮に経験値のストックが5万あるとすると、自身のベースレベルアップに2万、取得済みのスキルのレベルアップに2万、新しいスキルを取得するのに1万を使う、といったように分配して消費するのが一般的だ。
自身のベースレベルは全体のステータスアップに繋がるので非常に重要だけど、ベースレベルだけ上げても剣術はいつまで経っても未熟なままで、単なる力押しの攻撃になってしまう。
そのため、ベースレベルアップで基礎ステータスを上げつつ、必要なスキルも鍛えていくのが上手な成長の仕方だ。
スキルはとにかくたくさんあるので、自分に合ったものを選んでレベルを上げる。
腕力重視の人もいれば、敏捷や器用さ重視、または回避や耐久を重視する人もいる。変わったところだと、暗視や隠密系のスキルを上げて諜報員を目指す人もいる。
今回選択に出てきた『スキル支配』は、経験値1000万使わないと取得できない超レアもので、覚えるのは到底無理だった。
そもそも1000万なんて経験値、よほどのことがない限り溜めるのは不可能だ。
それくらい取得するのが困難なスキル。普通は『神授の儀』で授かる以外の獲得方法なんてないだろう。
いきなりなんでこんなスキルが出てきたのか不思議だったけど、あのときの女神様のキスが原因なのではないかと思っている。
というのも下界に戻ってきたあと、自分のステータスを確認してみたら、『女神の福音』という謎のスキルを持っていた。
説明が書かれていなかったからいったいなんだろうと思ったんだけど、そのときは女神様のキスによって何かの力を授かったのだと納得した。
きっと、女神フォルティーナ様が言っていた幸運とは、これのことなんだろう。口ぶりからして、自身も知らなかったようだけど。
さて、せっかくレアスキルが選択に出ても、現状では経験値がないのでゲットすることができない。
しかも、普通のスキルは一度スキルボードで選択に出れば消えることはないので、経験値を溜めてからいつでも取れるのだけれど、女神様からのスキルはたった一日で消えてしまった。
つまり、表示されたらすぐに取らないとダメってことだ。
これは僕の勘だが、女神様からの贈り物は、今後も毎月ランダムで出てくるのではないかと推測している。
一度取り損なったスキルが再び出てくるのかどうかは微妙だが。
今回取り逃した『スキル支配』は、このあともう出てこないのかもしれない。しかし、またいいスキルが現れたときのために、少しでも経験値を溜めておきたい。
そのために、比較的安全に経験値を稼げる進学を決意したのだ。
モンスターが徘徊するこの世界では、高等学校でもモンスター対策に割く時間は多い。
儀式で『料理』スキルをもらった人だって、とりあえず高等学校には進む。この世界ではいつモンスターに襲われるかも分からないので、戦闘は生活と切り離せないのだ。
学校で一通りモンスター対策を学んだあとに料理人や大工などの道に進んでも、あるいは冒険者や衛兵などを選んでも全然遅くはない。
そういうわけで、学校ではいろんな戦闘方法を教えてもらえるし、学校生活の中で経験値を稼ぐこともできる。
それを一切使わずに溜めて、しばらくは女神様からのスキルゲットに全振りしたい。
ちなみに経験値は『神授の儀』を受けてから獲得できるようになるので、同世代はみんなベースレベル1だ。同じスタートラインに立って、高等学校入学から卒業までの二年間、これから一緒に成長していくことになる。
毎月倍々で経験値をもらい続けたら、数年後には僕の人生超絶バラ色なんて甘く考えていたけど、それまで順調に過ごしていけるかが結構重要だ。
つまらないことで大怪我とかしたくないし、変なトラブルなどに遭うことなく、なんとか無事に生活していきたいと思う。
……しかし高等学校に入学後、僕はとんでもない事実を知るのであった。
◇◇◇
この世界イストリアには、様々な人種、動物、そして魔物――モンスターがいて、人類は日々モンスターによる脅威にさらされている。
それに対抗するのが『冒険者』と呼ばれる人たちだ。剣や弓、魔法などを駆使して、あらゆる魔物を退治していく。
ちなみに、ただの動物とモンスターとの違いは、体内に魔石があるかないかだ。魔石によって、モンスターは動物とは比較にならないほどの力を持ち、そして凶暴化している。
これは余談だが、動物と違って、魔物の肉は基本的に美味しくないという特性もある。
魔物は死ぬと体表に魔石が浮かんでくるので、冒険者は依頼の報酬と回収した魔石を売ることで収入を得ている。
僕が入学した高等学校では冒険者の育成に力を入れていて、魔物への対抗手段の基礎を教えるのだ。
今日からその学校生活が始まり、そして二年間で終わる。
卒業する頃には、神様からの経験値も毎月かなり入るようになるので、僕も充分強くなっているはずだ。
そこまで順調に行けば、あとはだいぶ楽になるだろう。二年間の辛抱だな。
ちなみに、朝起きてみると、神様から今月分の経験値2が入っていた。それと同時に、やはり女神様からのレアスキルも選択に出ていた。
先月は『スキル支配』だったけど、今月は『時間魔法』というスキルだった。ランダムなのも推測通りだ。
『時間魔法』は、これまたレア中の超レアスキルで、SSSランクである。
取得時点でどんな効果があるのか分からないけど、確か成長させると時間を止めることも可能になるのだとか。
大昔、一人だけそのレベルまで到達できた人がいたらしいけど、何せ公的な記録も残っていないような超レアスキルだ。ゲットするのにも経験値が1億必要だったし、コレを成長させようと思ったら、いったいどれほどの経験値が必要となるのか目眩がする。
めっちゃ欲しかったが、当然今の僕には取ることができない。
いずれまた出てきてほしいけど、どうなのかなあ。
毎月一回のチャンスだから、たとえ次にまたこのスキルが出たとしても、数十年後という可能性もあるしね。まあ取れないものは仕方ない。
今は我慢して、大量の経験値がもらえるようになってから考えよう。
もちろん、日常生活でもコツコツ経験値を溜め、いざというときに取り逃さないよう、きっちり備えておきたいと思う。
さて、僕は朝食を済ませると、学校へと向かった。
入学式に出てみると、大変な事実を知ることとなった。
実は今年入学する生徒たちは神様に選ばれた人間ばかりで、多くの人がとんでもないスキルを授かっていたのだ。
リノが授かった『魔力上昇』でも充分凄いんだけど、そんなレベルではなかった。
なんと、伝説のスキルが続出したのだ。
そもそも『覇王闘者』という超レア称号を、ゴーグみたいなヤツが約百年ぶりに授かったのも不思議だったけど、やはりそれには理由があったようだ。
『剣聖』、『大賢者』、『聖女』なんていう、どれも超ド級のSSSランク称号が出たのだ。
さらに、数百年ぶりに『勇者』の称号も出た。これはSSSランクを超えた存在で、頂点という意味のVランク称号と呼ばれている。
『神授の儀』の当日は、あまりのことにさすがにみんな秘密にしていたらしいんだけど、徐々に明らかになって、この事実が発覚したというわけだ。
『勇者』の称号はとても大きな意味を持つ。
そう、実は『勇者』の出現によって、表裏一体となる存在――魔王が現れると言われているんだ。
つまり、今回これほどの逸材が揃ったのは、近々魔王が復活する可能性が高いということを意味する。
我が国エーアストばかりに出現した理由は、選ばれし者――『勇者』と、その従者たちがお互い出会いやすいようにするため。
実際、数百年前も同じような状況だったらしい。
事の重大さに気付いた生徒たちが、自分が授かった能力を打ち明けたということだ。そういう事情を、今入学式の中で校長先生が詳細に話してくれた。
学校生活はのんびり適当に過ごして、のちに大量に経験値を獲得してウハウハ人生と思っていたのに、とんでもないことになってしまった……
そして一つ、僕は気付いたことがある。
僕の授かったスキル『生命譲渡』は、『勇者』の命の予備だったんだ!
あのとき神様は言っていた。
「おぬしの『生命譲渡』は、今後の大いなる使命のために授けた」
『勇者』のために犠牲になるのが、元々の僕の運命だった。
毎月100万の経験値でも『生命譲渡』には釣り合わないというのは、『勇者』の命の価値がそれほどのものということ。
当然だ、『勇者』の命を経験値に換えられるわけがない。
しかし、その『生命譲渡』はもうなくなってしまった。
『勇者』が倒れたとき、この世界は終わりを迎えるのだろうか?
最初から『生命譲渡』の存在意義が分かっていれば、僕も自暴自棄にならず、誇り高く生きられたかもしれないのに……
ひょっとして、僕が『勇者』以上に成長すれば、魔王を倒せるなんてこともあるのか……?
『勇者』は特別な力を持っている。まさに魔王を倒すためだけに生まれるような存在だ。
万が一のことがあったとき、果たして僕が代わりになれるだろうか?
そういえば、女神様を助けに山道を急いだとき、まるで自分の身体じゃないみたいに、体内から強い力を感じた。
きっと『生命譲渡』を授かったとき、僕のステータスも大幅に上がっていたんだ。
今さらながら思い返してみると、『神授の儀』のあと、全身の細胞が劇的に変化していくような錯覚と、力が漲ったのを感じた。
あれはSSSランクスキルに相応しい体質へと変化した証だったに違いない。
そもそも『勇者』を助けるスキルを持つ僕が、なんの変哲もないただの弱者だったら、『勇者』のそばで一緒に戦えるわけがない。
あのとき周りの人とステータスを比較していれば、自分の能力に気付けたかもしれないが……
まあ考えても仕方ない。
一度死んだことにより、すでに僕のステータスは平凡に戻っているし、それにもうあのスキルはないのだから。
さて、入学式が終わった僕たちはそれぞれの教室へ向かう。
高等学校に今年入学した生徒は約二百人。計五クラスに配属された。
クラスでの自己紹介で、レア称号を持つ生徒が判明する。
『覇王闘者』――経験値十倍スキルを持つのは、もちろんゴーグ。巨漢でどうしようもないならず者だ。
『聖女』――圧倒的な聖なる力を行使できるのはスミリス。青い髪をした小柄な少女で、正直あまり目立つような子ではない。聖女は悪魔に対する力、退魔術というものが非常に得意で、強力な結界なども張ることができるらしい。
『大賢者』――大魔力でほとんどの魔法を使いこなすのは、赤い髪をしたテツルギ。特に攻撃魔法に関しては、他の追随を許さないほどの威力を持つ。ちなみに、彼は魔法職なのに戦士顔負けの大柄だ。中等部は別の学校だったので性格はあまりよく知らないが、結構ひょうきんな感じに見える。
『剣聖』――様々な剣技を習得し、剣においては右に出る者はいない存在はイザヤ。薄茶色の髪をした凄いイケメンで、背も高いし運動神経もいいし学力も優秀という、まさに欠点なしの男だ。ずっとモテっぱなしの人生だったようで、色々となんかずるい。
『勇者』――剣も魔法も使いこなす最強の力を授かったのはメジェール。身長は百六十センチくらいか? 金髪セミロングの少女で、髪型をワンサイドアップにしている。この子も他校だったのでよく知らないが、凄いじゃじゃ馬だという噂は聞いた。
成長力では『覇王闘者』には劣るが、『勇者』には専用の強力なスキルがたくさんあるのだとか。それも、経験値を使わずとも勝手に覚えていくらしいので、獲得した経験値を全部自身のレベルアップに使えるそう。
ちなみに、称号にはスキルと違ってレベルはない。称号自体が大きく成長する才能の証だからだ。基礎ステータスも、通常と比べて非常に高くなるという。
ほかにもレア能力を持った生徒はいるけど、クラスメイトに対して能力を秘密にしている人も多いので、全貌は未だ分からない。
将来的にはみんな仲間となって魔王軍と戦うだろうから、いずれ能力を打ち明けることになるとは思うけどね。まあとりあえず、この五人が最上位となるのは間違いない。
クラス分けでは、五人をあえて同じクラスにしたらしい。将来、パーティーを組む可能性が高いからだ。
一応ほかのクラスにも、この五人に負けず劣らずの凄い称号持ちがいるという話ではあるけれど。
僕はたまたま彼ら五人と同じクラスになってしまったが、なんとか平穏に学校生活を送りたいものだ。
あと『魔力上昇』スキルを持つリノも、僕と同クラスになったのは少し心強いかな。
「ユーリ、同じクラスになれたね! 二年間一緒に頑張ろうね」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよリノ」
「うん!」
挨拶してきたリノにそう返したら、嬉しそうに頷いていた。
さっき先生が説明してくれたが、卒業するまでクラス替えはしないらしい。
僕たちのクラスは特に優秀な者が集まっているという話なので、将来活動するパーティー作りのためにも、ここで結束を固めてお互い切磋琢磨してほしいとのことだ。
ちなみに、優秀な人ばかりではバランスが悪いと思ったのか、平凡な能力の人もチラホラ組み入れられている。
僕もその枠の一人だ。
今の僕はホントに無能力者なので、学校には『神授の儀』で授かったスキルを、まるで役に立たないFランクスキルと申告した。
恥ずかしいからみんなにもスキルを知られたくない、と言ってあるので、まあ嘘がバレることはないだろう。
教室で僕とリノが適当に雑談していると、たまたま彼女の後ろをゴーグが通った。
「どけっ!」
「キャッ」
特に邪魔になるような位置ではなかったはずだが、ゴーグはリノを押しのけるように突き飛ばす。
「ゴーグ、そんな無理に押さなくてもいいじゃないか!」
しまった! 痛がるリノを見て、つい反射的に言葉が出てしまった。
「なんだお前? このオレに逆らうってのか?」
「別に逆らっているわけじゃ……」
「ああん? テメー、口答えするんじゃ……ん? お前……」
なんだ?
何故か分からないが、ゴーグが僕の顔をじっと見ている。
「お前……名前はなんつーんだ?」
「僕はユーリだけど……」
「ユーリ? ……ふん、気のせいか」
僕の何が気にかかったのか知らないけど、少し考え込んだあと、ゴーグは何もせず去っていった。
ゴーグと僕は中等部は同じ学校に通っていたけど、同じクラスになったことはない。生徒に興味のないヤツだったし、僕のことなんか知らないはずだ。
いったい今のはなんだったんだ?
「ユーリ、大丈夫? 怖かったね」
「ああ、これから二年間、アイツには気を付けないとな」
トラブルになりかけたけど、とりあえず無事に僕たちの学校生活が始まった。
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