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第74話 ビリから始める真っ当冒険者への㊙︎特訓術③

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読みに来てくださりありがとうございます。この物語は完結させたいので応援のほど、よろしくお願いします。
それでは、お楽しみください。


 ◆

デコグリフ教国 クランデリア自治領
 市街地の公衆トイレ前

「では、それぞれ頼んだぞ。詳しい説明は道中にする。他言無用で頼むぞ。我々は準備を整えて来る」

ジェシーは、キャシーと共にその場を去った。

「お、おい!」
『静かに、ここからは、私が案内をします、先ずは肌着を残して、鎧やローブを脱いで足元にある鞄の中の服に着替えて下さい。トレーニングに適した汚れても良い服です』

「う?」「む!」「いつの間に!」

 それは、法被に似た明るいグレーの着物の様な布の服だった。

『着替えながらで良いので、そのまま耳を傾けて下さい。今から、三人の経験を私達パーティーに共有します。通常なら脳にかなりの負荷が掛かりますが、レーティングを落として共有しますので多分耐えられます。コレは単に自分以外の経験が四人分手に入ると考えていただいて構いません』

『はっ?』『え?』『でもよ、クソ運ぶ経験なんて役に立つのかよ』

『立ちます。あ、着替え終わったら各々鞄に装備を入れて、ポーチに鞄を押し込んでください。重さも軽減する様になっています。この世界の不可思議なシステムは、経験を細分化したスキル経験として蓄積して行き、スキル可視化がされるようです。新しいスキルを手に入れるには地道に体験する必要があり、実体験に基づく各能力の状態を数値化して理解しやすくしているだけなのです。楽にレベルを上げてスキルが成長する事はありませんが、私の能力を使えば経験値引き上げが可能です』

『なんだと!』『あー、やはり簡単には成長出来ないわけでしたか』『……』

『キャシーの能力で少しだけスキル習得にブーストをかける事ができる。が、物理的な肉体干渉の能力はないので記憶の範囲だ。先ずは冒険者に必要な時短トレーニング系スキルを集中して習得する。ポーターなんかに持たせるなんてトレーニングの機会損失だぞ、重心移動を中心に心肺機能系筋力トレーニング、インナーマッスルトレーニング、骨格負荷軽減動作等のスキルを先に習得する。まぁ、要するに長時間のクエストに耐えられるウツワをお前達自身の身体に作る為のスキルだと思えばいい。何、腐ってもシルバーの実力があるなら、上手くすれば今日中に一人でゴブリンニ十人捌きができる様になるだろう。先ずは肥桶を担ぎ棒に結べ、結び方はこうだ、器用さの訓練にもなるぞ』

 重心がなんなのか、その移動をどうすれば効率良く体捌きができる様になるのか、心肺機能とは何か、その為の筋肉がどこに付随するのか、インナーマッスルとは、骨格とは、負荷軽減とは、長時間の活動に耐え得る肉体作りが図柄付きで次々と共有され、具体的にゴブリンを一動作一撃で五体ほど屠る動きまでイメージが勝手に流され、否が応にも納得させられた。ジェシーの恵まれた能力は地道な努力の上に成り立っていた事を三人はここで思い知った。そして、【スキル:ロープワーク】を測らずも三人は簡単に手に入れ、決意を新たに奴隷仕事である筈のこのクエストをトレーニングと捉え走り出した。

『重量物の持ち上げ方は荷物の重心の下へ身体の重心を入れて背骨を伸ばして膝で持ち上げろ。この時骨に頼らず、筋肉で持ち上げるイメージでやらないと骨に頼ることになるので、骨と骨の間の軟骨を擦り減らす可能性が高くなる。背筋と腿の筋肉に意識しろ、関節は伸ばし切らず少しだけ曲げろ。ダメージを逃しやすくなる。移動は基本走れ。ペースを上げて30秒アンディの全力に合わせて走れ。その後ペースを下げてニ分間走れ、3~4回ほど繰り返せば郊外の発酵層につけるだろう。ゆっくり走ってる最中は重心移動のため腕を広げて担ぎ棒を持ち、前側、後ろ側と交互に寄せながら走れ。3箇所分周ったらクエストは達成する。こちらの経験も送るぞ、間もなく私は買い物だ、何にお金を使うか参考にしろ』
『肥桶から臭いがし始めたら炭を変えてください。ほら、サボってるのも分かりますよサボれば全員の経験値に響きます。ゆっくり走ってください。後40秒程で全力疾走です。担ぎ棒を前後に3歩で切り替えて持ってください。コレをする事でゴブリンの不意打ち攻撃に耐えられる様になります。私も一月近く、そのクエストを受けました。お陰で【統合スキル:基礎トレーニングLv1】を習得出来ました。このスキルは基礎筋力、体力を効率良く伸ばせるのでレベルアップ時の強さ、素早さ、頑健さの向上率が普通より1.5倍になります。そろそろ、私の方は、毒草の群生域に入りました。此方の経験も共有します』

『待ってくれ! 待ってくれ! 頭が割れそうだ!』

『あら、処理落ちし始めてますね。スタック入れざるを得ませんね。ジェシー、魚を食料に入れておいて下さい』

『ちょっと待ってくれ、なんで魚なんですか?』

『人が焼けた時の匂いを嗅いだ事ありますか?』
『俺はあるぜ。生魚が焼ける匂いに似てた』

『脳を構成する物質は、厳密には違うと思うのですが、魚の身体を守る物質と同じもので出来ているからです。上手く取り込めれば記憶容量の拡張に繋がります。詳しくは、シナプスを通す神経を太くし、つまり記憶を通す通路の強化に使われるかも知れない程度なのですが、因果関係は分かってないのでおまじない位に覚えておいてください』

『そうか』『へぇ』『ふむ。それほどの知識をお二人は何処で知り得たのですか?』

『残念だが教えられないし、半分は私が思考の末辿り着いたものだ』
『私も似た様な物です』

『残念です。しかし、その一端でも恩恵を得られるのであれば知識元などどうでも良いですね』

 訳知り顔でアンディが呟いた。果たして何処まで看破出来ているのか怪しい物だが、敢えて二人は放置した。二人は医療技術由来の筋トレイメージが既に知識チートである事自覚してやっている。

 回復や浄化が魔法で実現可能なこの世界の医療技術は、西洋医学の学問以前の文化レベル。医者の立場は貧民に寄り添うボランティア同然で祈祷師よりだった。
 衛生面に対する意識は無頓着そのもので、神官の回復魔法は高いお布施が必要になる。平民は仕方なく町医者にかかるのが常であった。
なまじ、魔法が横行する所為でまじないじみた間違った術式と間違った理屈で筋肉のつき方や骨の位置、内臓の配置も出鱈目だった。

 従って高負荷トレーニング、腰や軟骨を傷めない動作の理屈、炭が脱臭能力を持っていることも現代知識チートなのだ。

『……スマナかった』

 思い詰めた声音のイメージでテンドールが伝えてくる。

『ん?』
『なんですか? いきなり』

『俺達は、アンタら英雄になれる素質ある勇者候補に対して何も持たない選ばれなかった哀れな貧乏くじを引いた側だと思っていた』

『仕方ないさ、私もキャシーもちょっとズルをしてる様な物だからな』
『スキル習得に経験の蓄積が必要なのはこの能力のお陰で、解明出来たものですしね』

『はは、確かにな、だが、あんたらのパーティーに入って実情をみればどうだ、その恩恵に驕らず研鑽に研鑽を重ねてた。そんなお前たちを、"舐められたら終わる"と必死になってギルドでの小さな立場とか居場所とかを守ってだな……要するに、お前達の様な努力を俺たちはする意識すらなく、喧嘩をふっかけてたんだなって、認めざるを得ないだろ。男で歳上でみっともない先輩冒険者だってよ』

『嫌だ、いきなり気持ち悪い』

『テンドール、その手口はオレたちに効いても格上の姐御達には効かねえ』
『モンシア、この人は天然で言ってるんですよ、まぁだから嫌いになれないのですがね』

『ほらほら、手が止まってますよ。炭をさっさと入れ替えたら、全力疾走してください』

『お嬢は容赦ねぇな』

 ◆

郊外

 三人は、発酵層へ着くと運んだ肥を桶から流し入れ、空にする。

『臭え』『はねた』『汚ねぇ』
『お疲れ様。浄化を強制でかけさせていただきます。抵抗せずにこれから共有する感覚と魔術式の構築を実行してください。なので魔力マナの感覚も覚えて、術式を自力で構築出来るようにしてくださいね……浄化』

 三人の排泄物で汚れた部分が分解されて行くと同時に三人の魔力が少量減る。

『うぉ!?』『コレが魔法!』『バカな!こんなに離れていてしかもリソースは各々のものを!』

『マナの流れる感覚を経験蓄積すれば、いずれマナコントロールを手に入れられる。つまり、テンドールとモンシアも魔法が使える可能性が出て来る。魔力も鍛えて増やせるスキルを手に入れて自分達でトレーニングできる様になれば、お前達は、はれて一人前だ』

 あまりの事に三人は呆然とする。


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いつもお読みいただきありがとうございます。
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