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第63話 カヲス④ 踊り、踊らされる現場
しおりを挟む「で? なんで勇者なの?」
「え? だって教会で女神様から天啓受けて勇者として認められたから」
「は! その教会が私の住んでた村焼き払って、挙句に今、私、ド、レ、イ、なんですけど!?」
「あ、えと」
「同じ転生者でなんでこうも扱い違うんですかね!? ほら、なんか言ってみて?」
「その、御免なさい」
「タカシ、あの日いきなり居なくなって、私寂しかったんだよ」
「でも、アレは」
「ちょっと、今、私が喋ってる」
「ハイ」
「どーして、自殺したと思われる貴方がココで勇者やってるんですかねー? しかも、図らずとも後追いした私を教会は奴隷にしてるにも関わらず、その教会に勇者認定されたから勇者?」
「あの、女神様が……」
ギロリ
「すみません、すみません、黙ります」
◆
あれ、いつまで続くんだろ。と言うか羊娘姉さん豹変ぶりがヤバい。羊なのに豹変とは是れ如何に。
「み、見なさい! やはり、悪魔族は光の民に仇なす運命なのです!」
「いや、アレは単なる痴話喧嘩だべ」
すっごいどうでもいい方向から、すっごい的確なツッコミ飛んで来た。今の誰の発言だろ。解放軍の人っぽいけど。
「おい、コイツを縛り上げろ。どこまでも話が平行線で交わらん。交渉不可能だ」
ラキムゲルが喚くが、数人に取り囲まれ拘束され、猿轡をかまされた。まぁ、あれで奴隷とこちらの安全は確保できただろう。直後、G.I.Aが比較的緩やかな加速をかけてきて発言した。
『あっちの奴隷x勇者カップル、これまでの発言から推測すると、なんと同じ世界からの転生で前の世界で幼馴染。んで、教会が原因で敵同士!』
『これは、まるで書庫にあった"ロミオとジュリエット"の様な御膳立てだね』
『原因が敵対する貴族の家じゃなくて教会だけど、コレ関わりたくないなぁ』
『ラキムゲルと奴隷が片付く目処が立ったのにトラブル去って又トラブルとは』
『極力関わらない方向で』
『『『さんせーい』』』
テンションは下がり気味だが、自分のコピー人格をベースにしたとは言え、G.I.Aとの会議には助けられる。彼等はポーズだが、こちらは生体脳がある為、承認欲求も三代欲求も本物だ。一部生態を書き換えられてしまっているが。愚痴や貶める言い回しはオリジナル・アイルスの方が圧倒的に多い。
「教会に認められし勇者と教会に奴隷にされた娘よ。我々は奴隷を解放し、この司祭の罪を裁く。しかし現在、法的に教会の息のかかった地域ではこの行為は私刑とされる。故に教会から隠れて活動が基本になる。解放奴隷達と共に。君達はどうする?」
「ぐ、う、お、俺は」
「私はどう転んでも着いていくか、タカシと行くしかないわ」
「アヤカ……うぐっ……ア、アイ……る……ス……!」
「なに? ジルド兄様」
「貴方タカシの弟だったの!?」
「血は繋がってないと思いますけどね」
「ヤハリ、キサ、マカ。カン、テラ……ハ、ドウ、シタ?」
『勇者の脳へ、催眠魔法と乗取りを検知』
『む? ジルド兄様、精神に何か揺さぶりかけられたか? エマージェンシー・センド・テレパスを兄様へ、メッセージは家族の声で負けないで"ジルドレッド兄さん"を繰り返しで……ったく、結界内でよくもやってくれるもんだ。全部データ取ってから解体か、今すぐ解体、どっちにする?』
『全部データ取ってからかなぁ』
『あいよ』
「カンテラ? ラキムゲルの魔封じのアイテムかな? 諸事情により、邪魔だったから壊したよ」
「貴様! 女神様ヨリ賜リシ聖偉物ヲ!」
「兄さん!?」
いきなりの激昂に驚くフリをしつつ、G.I.Aとの議題に挙げる。
『あれ、女神様とやらの賜り物だって言ってるけど、誰が作ったんだと思う?』
『天使属とか、教会側勢力の技術者だよね』
『下手するとアレの弁償にG.I.Aの接収、封印、破壊を迫られかね無いかな?』
『ますます、教会と関わったらいけない案件だね……』
「な~~れ~~ば~~! こ~~の~~…」
『あ、思考加速は、向こうに技術渡ってないのか。緊急判断でデータの削除機構はちゃんと働いたんだな。グッジョブ兄さんについた個体』
『彼を復活させられるかな?』
『無理かな……』
『一応スピリット・スキャンかけてみようか?』
「け~~っか~~い~~を~~、ま~~ず~~は~~……」
『かけてみよう。スピリット・スキャン』
『記憶だけ移して、人格はコピーだから、元には戻んないけど行けそう。フラッシュ・コピー・データ取れたし』
「は~~ら~~い~~、の~~け~~て~~や~~る~~……」
『……なんか仕掛けてくるけど、ちょっとだけ、なにやるか観察してみる? 敵を知り己を知れば百戦危うからずとかあったし』
『あぁ、情報戦に長けて他国の国民のデータまで抜き取った国の大昔の将軍だったかの言葉だっけ?』
『そうそう、それ、折角だからさ』
「行~く~ぞ~! ガ~~イ~~ガ~~・キャ~~ン~~セ~~ル~~!」
スロー再生を見ているかの如く、ゆっくりとサーヴァント擬きから何かが放たれ、それを逐一観察して解析して行く。
『なんか、カンテラの効能を術式にしたみたいだね』
『期待して損した気分だねぇ』
『既に対策済みだしね。まぁ、見守ろう』
結界に綻びが起き、解呪されて行く。すると、サーヴァント擬きに特殊な形に組まれたエーテルが注がれて行く。
『あのエーテル何処から来てるのかな?』
『敵の本拠地じゃない?』
『教会の総本山とか重要拠点だろうねぇ』
『その大元のエネルギーがエーテルを加工したものじゃ、魔力と対して大差ないよねぇ……でも魔封じとして機能するのかぁ』
『真逆の性質が出来るか実験してみようか』
『実行解析班を申請』
『はいはい、承認するよ。なるはやでよろしく』
サーヴァント擬きのエネルギー量が高まって行く。次にジルドレッド兄さんの身体が強化された。丸腰の奴隷に倒して大袈裟だなぁと思いつつ、G.I.Aへ進言。
『加速解除、外交でどうにかする。ケン、代行よろしく』
『大丈夫なの?』『任せて』『もう、いっそバーンてしちゃえば?』
一斉に返答が出る。
『心配ないよ。ジルドレッド兄さんの手の内は予想ついてるし、擬きの神聖魔法も所詮は付け焼き刃だし、何より理論的に話すのは苦手なようだ。話してくるよ』
『であれば、私の方が慣れた分適任かと』
『サブ治、ストレージは共有していたのではないのか?』
『実行した臨場感を味わったデータは劣化し易いのでコピーで補えない部分も私なら問題ないかと』
『説得理由にしては臨床試験もままならない事で弱いけど良いんじゃない?』
『……よし、表情筋や口を貸すからやってみて良いよ』
『ありがとうございます』
元の時間に僕とケン、サブ治が戻る。その途端、ジルドレッド兄さんが抜剣した。
「魔法ハ、封ジタ! 大人シク黄泉ヘト帰ルガ良イ!」
鋭く兄さんの身体が動き、斬りかかってくる。思わず両手で兄さんの懐へ進んで腕を止めようとして、止まる。
ガキッ
「無手の弟に斬りかかって恥ずかしくないのか? 勇者さんよ」
奴隷解放軍のリーダーがその剣を大剣で受け止めた。しかも片手で。めちゃくちゃなパワーとスピードだった。思わず、それに見惚れてしまう。パワーには、やはり本能が憧れてしまうのだ。仕方がない。
「貴様、女神様ノ神託二背キ、魔王覚醒因子ヲ庇イダテスルカ!?」
「お前こそ、その行いが格好良いと思ってんのか?」
あ、ダメだ。この人の行動基準が格好良いかどうかだ。全面的に肯定出来ない……。
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