上 下
58 / 77

第58話 勇者、覚醒認定

しおりを挟む



 エーゼルバニア・フォレスト←→ガレラッチア テレパス

『ところで、クリスティとマルシェラは母さんに許しを得て来たんだよね? 他に誰か来てる? 父さんだけでちび共見てるの?』
『ジルドレ兄がマルシェラの護衛って言って来てたよ』
『ジルド兄さんが!?』
『彼は現在、教会から呼び出され、別行動に入りました』
『ん? じゃぁ、ジルド兄さんとも話せるのかな? 教会に行くなら注告した方がいいかも……』
『オリジナル、今し方、彼に着けたサーヴァントからのリンクが途絶えました』
『え?』
『ジルド兄さんは、今の話を聞いてたの?』
『繋がる前に教会に入られたので、後で記録を見せて合流の予定でした。なのでまだ知らないはずです』
『教会入り……』
『そうです。勇者候補の認定も教会が発行したものですから』
『嫌な予感しかしない……』
『もはや、教会は鬼門以外の何者でも無いですからね』

 ◆

 くだんのジルドレッドは聖王都に着くと真っ先に教会本部へ足を運んだ。大きな門を潜ると司祭が気付き、近寄って来た。

「よくぞ参られた。ジルドレッド様。勇者候補、勇者、英雄候補の中で一番のご到着ですぞ。さぁ、先ずは女神様へ祈りをどうぞ」
「何があったのです?」
「魔王の覚醒因子が発生しました」
「魔王の? 魔王ではなく? 魔物の類ですか?」
「そこまでは分かりません」

『魔王の覚醒因子? 魔王に繋がる何かでしょうか?』
『あ、そうか。ここからは教会での儀式に集中したいから一度テレパス切るよ。ただでさえ魔法を悪魔族の技術って目くじら立てる教徒が多いから』
『テレパスリンクのみにして、接触念話にしておきますね。これならほぼ気付かれることはありませんから』
『了解』

 テレパスリンクから押さえられていた会話のボリュームが完全に消えた。しかし、5分に一回ラドに信号を送り続けるジルドレッド専用のサーヴァント。そんな会話の間も司祭に連れられて祈りの間へと通される。

「では、神官長をお呼びして参ります」
「分かりました。その間祈りを捧げております」

 司祭が退室すると五神像が眩く輝く。その光に思わず目を閉じ、次にジルドレッドが目を開くと、何もかもが白い空間に居た。


--久方振りですね。異界の者、ジルドレッドよ--

 強烈な存在感を放つ光の人の像がいきなり目の前に現れた。その瞬間ジルドレッドは白い空間にいる事も認識する。

--しばらく会わぬ間に、弛まぬ努力をした様ですね。これまでの勇者候補の中で群を抜く能力の上昇です--
「!?」

 ジルドレッドは、ラドによる能力引き上げやヘルスサポートの自覚が無かった。『多少体が軽くて早く走れるなー』と思っていた程度だったのでここに至って、ラドの再教育のせいだと気付いた。

--この小さな人形はなんでしょう? ……はて? 魔法か?--
「あ、それはぁ~……」

 弟の分身が作ってジルドレッドにつけたアーティファクトと主にプライドが先に立って言えなかったのが功を奏した。後にジルドレッドは知る事になる。

--この様な技術を造れる者がおるとは、面白い物を見つけたものじゃのぉ--
「え、えぇ、とある遺跡みたいな洞窟からの戦利品で」
--ふむ? このアーティファクトは従来の思想からも逸脱しておる。まるで見つかることを恐れているのかと疑う程の器量、それでいて高い技術水準とは。どれ、勇者らしく魔法などでは無い我等の技術で運用できるものとしてやろう。それと今回からは、勇者候補ではなく勇者と名乗って良いぞ。ジルドレッドよ--
「ゆ、勇者……!!」

 ラドのサーヴァントスレイブ・ユニットが光り輝き、信力により作り替えられていった。その事に重大な問題が生じているが、ジルドレッドはそれに疑問を持たないのだった。

 ◆

 奴隷キャラバンより、少し離れた森の中でこれから夜だと言うのに伝書鳩を飛ばす不審な人物を監視するサーヴァント。その視界をテレパス回線内に設けた会議場に大映しして口々に疑問を出すアイルスの人格コピー達G.I.A

『第一回、[コイツどこの所属か?]クイーズ!』
『いやー、わかんないなー(棒読)、奴隷盗賊?』
『いやいや、奴隷の欲しい、どこぞのお貴族様かもよ?』
『でもさー、王国の密偵とかー、帝国のスパイとかー、諜報員なのは明らかだよねー?』
『まぁー、人間にしては頑張ってるよねー』
『意見は出そろいましたか?』
『意見も何も、オリジナルの奴隷からの殺害事件に始まって、ミュトス撃退にジルドレッド兄さんの教会呼び出し音信不通とか一連の状況証拠からも、最早考えるまでもなくない?』
『それを言っちゃぁ、楽しめなくなるじゃないか』
『随分、僕ら加速時間内に居たせいで人間らしい感情を模倣できる様になったよねぇ』
『んじゃま! お待ちかねの答え合わせ行ってみようー!』

 やんや、やんやとはしゃぎ立てるG.I.Aのコピー人格達。新型ソード・アームズ改め、シザー・アームズ(10μm)を文書に忍ばせて置いたので直で読む事ができるのだった。手紙をエーテル・スキャンする。3Dデータが出来上がりそれを伸ばすとインクの位置もそのままで読めた。

『へぇー、教皇直属なんだー』
『なんとなく読めるけど、こりゃ暗号と言うより別言語だねぇ』
『教会は神聖語とか使うんだっけ? ラキムゲルの頭ん中に言語体系あるっしょ、持ってきてみぃ』
『どれどれ? あ、コレだ。じゃ、配布ー』
『んー。まずは、欲しいとこだけピックアップしてからにしてよって、なんだこれ三千程の単語しか組めないの? お粗末な体系だなぁ』
『日常で使わないからこれで事足りるんじゃないの』
『ラキムゲルが勉強不足なのもあるかも知れないよ』
『兎も角、翻訳したよ』

 --ラキムゲルに不審な動きなし、されどオークションには若い男五人のみしかせず、ガレラッチアを離れるのか荷造りをしている。カンテラは今のところ見あたらず、次の報告を待たれたし ホーリー教皇直属部隊 デカルソン--

『なんだ、何にもわかってないし、得られる情報も大した物じゃないねー』
『じゃぁ、手紙に忍んだシザー・アームズ君を人格引き上げ推薦出してしまおう』
『あ、それ、ナイスだねー。僕ら自由意志押さえつけられてるしねー』
『それ、サボりたいを正当化してるだけだろー』
『うん、わかるわー』
『そーそ、怠惰を貪っていたいよねー』

 アイルスの人格コピーは興味のあることならトコトン追求出来るがその分他が疎かになる処もしっかりとコピーされていた為、"怠惰"を覚えてしまっていた。

『それじゃ、報告と承認回しまーす』
『サンセーイ』
『賛成多数~』
『反対ゼロ~』

 G.I.Aではオリジナル抜きで度々、多数の会議が行われているのだが、大体がこんなノリであったのだ。

 ◆

 オークションは、女性を出していない事が不評を買ったが適当に頭を下げ"お布施"と言う名の奴隷代金を貰って、オークションステージを片付けさせた。その最中にG.I.Aから報告があがって来た。

『なんだ? 監視者? あのカンテラがなんらかの対魔の能力があったから壊してしまったが完全に破壊したのはミスだったか。馬車の床も塞がなきゃいけなかったし。予測よりも早く動いてるな。ラキムゲルを隠蓑にするのは限界があるか……』
『教会の奴等なんか皆殺しでいいじゃん』
『いや、戦争意識に流され過ぎだろ。殺した事への禍根云々はヘルが言ったんだぞ』
「それは、そうだけどね』
『教会の動きについては、後の後で対処だな。知らない技術を持ってたら欲しいし……ん? 承認? あー、潜入調査ね。じゃぁ、次は……ギューフとウィンは使われたのか。G.I.Aのせいで影が薄くて忘れそうだな。じゃぁ、ハガルで承認っと』

 教会への潜入は魔王も果たし得ない所業である事だが、アイルスは自覚なく実行したのだった。


____
いつもお読みいただきありがとうございます。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

ひきこもりのゴーレムマスター

ゴロヒロ
ファンタジー
世界各地に突如出現した謎の黒い光の柱 そんな光の柱から魔物が現れる!? そんな中、世界中の人々に聞こえた謎の声 謎の声は言う 世界はレベルアップしたと レベルアップした世界に順応する為、謎の声から人々は力を与えられ、これからの世界を生き残れ!! だが、そんな世界に変わっても俺はひきこもる? カクヨムでも投稿してます

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

フリーター、ゴーレムになり異世界を闊歩する

てぃー☆ちゃー
ファンタジー
旧タイトル)オレはゴーレム、異世界人だ。あ、今は人では無いです 3/20 タイトル変更しました 仕事を辞めて、さあ就職活動だ! そんな矢先に別世界へ強制移動とゴーレムへの強制変化! こんな再就職なんて望んでません! 新たな体を得た主人公が異世界を動き回る作品です

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...