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第57話 リモート里帰りから始まる叡智統合
しおりを挟むエーゼルバニア・フォレスト上空
50mを超す巨樹が乱立する深き森の中。一際、細く高い結界に隠された師匠の隠れ家に対し、旋回しながら範囲指定でテレパスリンクを仕掛ける。
『師匠、聞こえますか? アイルスです。師匠、聞こえますか?』
何度か呼びかけようとしているとテレパスリンクを受信した手応えと共に返答が返ってきた。
『オリジナル! ラドです! 良かった! 無事だったんですね!』
『あぁ、まぁまぁ、無事だ』
『アイルスぢゃと!?』
『アイルス、何処にいるの!? 本当に無事なの!?』
『うわ、なんで母さん達までテレパスリンクに居るの?』
『『アイルス(お兄ちゃん)』』
にわかにテレパスリンクに賑やかな返答が次々に返ってくる。
『行方不明になったのぢゃから、速やかに親に連絡するのは当然ぢゃろう、それより何処から話しかけておる?』
『今、師匠の隠れ家の周りを旋回させてるサーヴァントから広域テレパスリンクで話しかけてる。本体は、……えと、なんて街だっけ……あぁ、チッペタ領のガレラッチアか。さすが領主だなぁ。名前が町の名前か』
『ガレラッチア? なんでまた、そんな所におるんぢゃ?』
『そんな事よりそっちの状況と師匠の書庫の知識のマージンをラドに直ぐに頼みたいんだ。どうせ並行作業になるけど』
『書庫の知識のマージン承ります。ケーブの皆にもこの会話を聞かせます"#下位接続__アンダー・リンク"』
『こっちは、ジルドレ兄がマルシェラ連れて来て私と母様が師匠と一緒にアイルスの事探しに来たけどあんたの分身とか言うのがなんか凄い事してて、今、魔大陸に捜索かけてたところ』
『クリスティ? ごめんよく分からなかった……あぁ、そう言うことか』
分からなかった事を、ラドがすかさず記録映像でフォローしてくる。今までの経緯が超高速で届けられたられのだ。そのテレパスリンクの通信方法が改善されていた事もありタイムラグ無しで。時が経てば経つほどにラド組の書庫の技術がマージされて行く。
同時にアイルス側の"実験"で得られた魔法をマージして行く。"照光の魔法の中身を書き換えた"電磁投射"、これは電磁波の周波数帯を1pmから1mmまで調整出来る代物だ。自信作である。他にも圧縮加熱の熱量をマナに変換したり、エーテルから擬似電子、擬似陽子を構築したり色々無茶なコードをマージ。
『で、アイルスよ。何故ガレラッチアにおるのか教えてくれぬのか?』
『まぁ、ちょっとした商隊に拾われてですね』
『ふうむ。領主が代頭してからは、教会奴隷商隊とやらがよく寄ると聞く。気をつけるのぢゃ』
『あ、はぁ』
『なんぢゃ、歯切れ悪いのぉ。よもやその教会奴隷商隊のキャラバンではないぢゃろうな?』
『そのまさかです』
『なんぢゃと!?』
『オリジナル。現状を目視させていただいても?』
『いや、それは母様達に刺激が強過ぎる。要点を掻い摘んで説明するよ』
『『『刺激?』』』
『うーんと、すでに報復中なんだけど』
『うん』
『先ず奴隷にされた』
『はっ? はぁっ!?』
母上とクリスティの感情が天元突破しかけてる。うん。光の民の領域で奴隷にされたもんな。しかも英雄候補直径の血筋が教会の司祭に行き倒れてるところ無断で。って言ったら教会に殴り込みに行きかねないなぁ。まぁ、説明するけど。
『奴隷の首輪かけた奴はコイツ』
ラキムゲルの顔イメージを提示しながら説明を続けた。首輪に始まり、躾と称して磔刑投石の果て殺された事、監視者の眷属化によって甦って悪魔族化した事、ラキムゲルの延髄の神経カットして彼自身の身体に幽閉し今も磔刑投石した"アイルスの時間"を延々と追体験させている事を出来るだけ細かく、且つ出来るだけグロ表現は避けて。
師匠は呆れ果て、母様とクリスティははじめは荒れ狂う嵐の如く憤り、甦って悪魔族化した事に驚愕し、ラキムゲルへの所業にはもう牙を抜かれた虎の如く表情をし、言葉を失っていた。
『あぁ、アイルス。なんだか遠くへ行っちゃったみたいよ。とにかく無事なら、早く帰ってお顔を見せて頂戴』
『私も早く会いたいわ』
『うん、そうだね。今抱えてる問題が終わったら直ぐに帰るよ』
『まだ何かあるのぢゃな?』
『えと、師匠、昨夜、教会の半獣人奴隷狩が来ました』
『……おぅ……盛り沢山ぢゃのぉ』
『『……』』
もはや、母様とクリスティは思考放棄状態らしい。忘れているわけではないのだが、マルシェラは難しい話に口を挟めないのか何も言わず、存在だけアピールしている。
『白と黒の半猫獣人を従者にした、ミュトスとか言う奴でした』
『え? ミュトス?』
『やはり親戚なんですか?』
『お父さんの姉の子に確かそんな名前の子が居たわね』
『服従を言い渡された。それを拒んだら武力で制圧しようとしてきたので、足元の地面を溶かして脅して黙らせました』
『『『なっ……』』』
『さらに身元を明かし、正論で教会のやり方はそれで良いのかと問い正したところ、自分には答える責任はないと言ってきたので、監視をつけて賠償金の請求を言い渡しました。多分メンツが云々言って、今度は大勢で仕返しに来ると思います』
師匠が顔に手をやり天を仰ぎ見、母様とクリスティはまたも固まる。師匠の深々とした溜息が響く。
『はぁぁぁあ、既にやらかしておったか』
『大丈夫ですよ。師匠。書庫の技術はたった今マージされましたから。時間旅行までは出来ないでしょうけれど、今ならどんな攻撃も初手で止められますから』
『そう言えば、首輪をつけられたと申しておったか? そんな状態で魔法が使えるのか?』
『使えませんよ? 全部、代行させてるだけです。まぁそのうち首輪もマーカーも解析して戻りますから』
『お主ならやってのけてしまいそうぢゃのぉ』
もう、愛弟子に驚く事に慣れてしまった師匠が言う。
『あぁ、それと師匠、僕はあの監視者に監視されてますので、このテレパスも全部筒抜けと思った方がいいです』
『監視者とな? あのゲートを使わずに人を連れ出した悪魔族か?』
『えぇ。それであってます。その上で改めて会話します。暗号とか別に使いませんけれど』
『フォッフォ、コボルドにゴブリンは既に陥落済みで、教会に悪魔族の強者に狙われてると。……目を話した隙に随分とモテるようになったのぉ』
軽口まで叩き出した。これから教会と喧嘩する7歳には手厳しくないだろうか?
『おい、爺い、アイルスがどんだけ苦労したと思ってんだ! 愛弟子なら軽口叩かねーで教会との喧嘩に手を貸すくらい言え!』
『やれやれ、使い魔まで取られたか、まったく敵わぬのぉ。次は何を見せてくれるのか、楽しみぢゃわい』
黙って話を聞いていたヘルが我慢出来なくなったのか口を出した。それにも肩をすくめて師匠は弟子の急成長に喜び、笑うのだった。
『教会は全部がダメってわけではないかも知れない。でも、ヘルやコルベルト達と過ごして、奴隷達も見て分かったことがある。今の教会のやり方はダメだ。マルシェラがどうして匿われてたのか、よく思い知ったよ。もう直ぐオークションが終わる』
『オークション?』
『奴隷オークション』
『なんぢゃと!?』
『安心して。元ラキムゲルが仕切る以上、監視しないわけにはいかなくてさ。まぁ想定し得る最悪のご主人様対応もしたから、このキャラバンの子達も、多分……大丈夫だよ』
多くは語らず、アイルスの小さな手駒達が奴隷達についている場面や街の至る所で監視している場面を見せた。
『これを全て制御出来ておるのか?』
『してないですよ。彼等は僕と同じ思考かそれ以上に冷静に判断するだけです』
それは、この無数の小さな私兵が制御を離れているにも関わらず、連携が取れていると言う常識では考えられない情報統制力を備えた集団である事を言外に語っているが、その脅威に一同は気付かなかった。
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