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第54話 魔大陸侵犯

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 ドラゴン型のサーヴァントが悪魔族の支配する大地の大空に訪れた。とは言え、サイズが10cm程度で高度10kmともなれば肉眼での視認も難しいので隠密と何ら変わらない。

『悪魔族の支配領空に入りました。サンド・グレイン級散布開始』

 ドラゴン型のサーヴァントの背中とお腹に位置するコンテナの天井、左右の板が三方ずつに展開し、合計60体のサンド・グレインが順次切り離されて行く。音速飛行中の為そのペースはあっという間だった。

 こうして広範囲に悪魔族の大陸にサーヴァントは大陸入りを果たした。本体でない以上、捕らえられて奴隷にされる事はない。法の整備などもされていないので不法入国で取り締まることすらないだろうが……。

 最も1cm足らずの石人形が隠密しながら街や村に侵入してアイルスを探しているだけなのだからトラブルを起こす確率は低い。

 ドル師匠達はアイルスを捜索する事で頭が埋め尽くされていたので、ラドは外部から並列思考でそれとなく支援していた。最初の内はドラゴンフライトを楽しむ余裕のあった四人だが、命綱なしのバンジーを強制体験させられる様な散布作業だった為に、その場は阿鼻叫喚となり、気を失う前にラドが情報遮断した。

 そんな一幕があったが、数体が街に効果する。用意していた鉱石製のグライダーユニットを展開、申し訳程度の落下速度を緩めつつ位相空間へ移行、四角い建物の屋根を素通りして、建物もそのままスルー、地下30m地点で重力魔法を展開、その座標に一時固定し、ソード・アームズの生産に着手した。

 ◆

「死ぬかと思った」
「この身に危害がないと分かっていてもあれは、ショックで死にかねん」
「本当、心臓が止まるかと思いましたわ」
「え? 楽しかったよ?」

 三人はその台詞を言ったマルシェラに振り向き、唖然とした。

『先行してソード・アームズを放ちますよ。先の重力制御辺りで気付いてる者がいるかも知れません。警戒してください』

 ラドの空気の流れをぶった切る物言いに一同は我にかえった。アイルスにそれぞれは思いを馳せて、気を引き締める。

 街並みは光の民と比べて平屋が多く、屋上の利用が多い。貴族と思しき地域でも、傾斜をつけた屋根は少なく四角い三階建の建物街並んでいた。大通りには敷物を敷いての出店が多かった。

「結構、人の奴隷が居ますね……」
「アイルスを見つけることだけに集中なさい。全てを助けることは不可能なのだから」
「そうぢゃ。それに教会の守護のこの領域では逆に悪魔族に連なる者が奴隷として扱われておる。お互い様なんぢゃよ」
「悪魔族は、優れた種族である光の民が嫉ましく、それ故に神に見放されたにも関わらず、今尚光の民に仇なそうとする卑しい生命で怪物だと教えられて来ました。ですが、あの使い魔や悪魔族の街を見る限り、全部の悪魔族が恐ろしい怪物なわけではないのですね……」

 クリスティが呟いた。

『あら、クリスティ様はお気付きになられたのですね。お母様はまだ軋轢や概念が認識を阻害していらっしゃる様ですけれど』
「悪魔族とは戦闘に次ぐ戦闘だったのですから彼等の性格も何もあったものではなかったのですよ。それに女性が戦場で負けると言うことは人生の終わりを意味しますから」

『あらあら、お母様は常勝でいらしたのですね。素晴らしいですわ』
「ゴブリンが服を着て普通に歩いてる!?」
「暮らしぶりは肌の色やツノが生えてたりするだけでほぼ、こちらの街と変わらんのぢゃな……」
『? どの様な国を想像してらしたのですか?』

「それは、地獄の様な……」
『彼等も腹が空けば普通に肉だろうと野菜だろうと摂取します。身体を構成している物質は光の民と変わりません。生殖器も大差はないです。恋愛感情等はゴブリン達の観察だけでは不十分なのですが』
『そりゃ、遺伝子操作で作られたから同じに決まってるじゃないですか』

「はっ?」
「え?」
「いでん?」

『"神の作りし肉"とも言われる身体を構成する設計図が納められているのが、この遺伝子です』

 デオキシリボ核酸のイメージを見せてそれが三度捻り糸を形成し、YとXの形を成すと一つの細胞に収まった。更にその細胞が連なり一体のヒトガタを形成する。

「なに? ……これ?」
「まさか、生きとし生けるものが今の構造ぢゃと言うのか?」
『数の合計こそ違ったり、そもそもの配列が違ったりしますが、だいたいは……』
『僕もこれを見せられた時は驚きましたが、ヴィッセンシャフトにも遺伝子の説明はありました。なのでそれを神でなくとも編集出来る事に驚きましたね』

「待て、それでは光の民も悪魔族も元は一緒の種族であった可能性が出てくるではないか」
『では、こちらをご覧ください。フォールーンがゴブリンと接触した時のゴブリン側の記憶です』

 その時行使された悪魔族の魔法の情報と動画イメージが一瞬で転送、理解まで処理される。

「馬鹿な……性別と外見が……この様なモノがゴブリンぢゃと……」

 その美しく様変わりした性転換メスゴブリンに一同は驚愕し、口を開けたまま、暫く呆けた表情でいた。

『因みに式と遺伝子を解析したところ、遺伝子のここが性別を司る部分で、魔術式のここがそれを操作する様です。機会があればゴブリンや他の種でやってみたいところですが、まぁ対して重要ではないので優先順位は低いですね。こっちが外見に関わる骨格、肉の造形と見ていますがこちらはなんとも解析が難しいので棚上げです、こちらも然程さほど重要ではないですね』
「ちょっと! 美醜については重要でしょ!」
『あぁ、貴女方には生存戦略として大事でしたね。遺伝情報が正しく受け継がれているかの指標として』
「また、訳わかんない言い方しないで」

「まず生物は群れる動物に限らず、怪我、病気による五体満足か否かは子孫を残す基準から外し易いのぢゃ。それが生まれつきか後からの不幸か関係なく。次に肉体美は筋肉が正しく機能しているかの基準になる。そして最後に群の中で雌が強い雄に選ばれ易い基準として顔の美醜と言ったところかの。最も、顔の良し悪しで選ばれやすくなるのは、雄も同様ぢゃ。繁殖能力を持たぬラド達には重要性が低くなるのは致し方のない事ぢゃ」

『説明ありがとうございます。師匠。……美醜自体、僕らには不要で装甲以上の効果もない。加えて言うなら戦闘しない個体なら剥き出しのフレームで構わないのです。ですから上っ面の美醜競争は生存戦略の特権とも言えるでしょう』

 二の句が告げなくなったクリスティがなんとも苦い顔をする。

『捜索作業中、スマねぇんだけど、教会からお呼びが掛かったからちょっくら行ってくる。ついでに教会の知り合いに聞き込みしてくるよ』

 家路に居たジルドレッドからテレパスで連絡が入る。

「む? そうか、仕方あるまい。分かっておると思うがアイルスの事は他言無用にするのだぞ。でなければ両親を悲しませる事になるやも知れん」
『こんだけのやらかしだもんなぁ』

 ジルドレッドは、テレパスであるのも構わず、肩をすくめて独言た。

 ◆

 もう直ぐ樹海を抜け、へ差し掛かる。かなり急いだとは言え、既に日は沈み不気味な森の中の一人強行軍。気をつけるに越したことはない。殺気立って進んでいる為ちょっとした魔物は近づいてくる気配はない。

 順調だが妙な胸騒ぎを覚える。とにかく教会へ急げと勘が囁く。アイルスを捜すことを優先したいのに緊急連絡魔道具ロザリオンまで使った召集とは、順当に考えれば魔王の復活、又は魔王因子の覚醒となるが、明滅する光を発するだけの魔道具は詳細情報を送れない。

 前世の噂には聞いたポケベル以下の通信手段にジルドレッドは愚痴りそうになる。

「ったく、なーにが教皇様万歳宗教だよ。俺の弟なんか離れたところからハンズフリーで会話が出来て動画も送れる便利なもん作ってんぞ」

 言ってから気付く。もしコレがバレれば軍事利用しない手はないとこの世界の連中考えるだろう。そうなったら弱いトコから攻めに来るのが敵対するもののセオリーだ。ジルドレッドは家に帰るべきか教会へ行くか迷ったが直ぐに襲われるわけではないことに気付き、結局何も考えず教会へ足を伸ばした。


____
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