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第49話 魔法発動と達人所作とプライベート侵犯
しおりを挟むクリスティ視点
アイルスが居なくなってからもう数時間で一日が過ぎようとしている。あのバカ兄貴はマルシェラの保護者として来たけどアイルスの捜索の邪魔をしたのでラドってアイルスと母様の精霊クフィーリアの融合コピー人格に"再教育"されてる。
ちょっとだけ興味があったので聞いてみたら、
『アーティファクト・デバイスは一度記録すればほぼ忘れない記録媒体です。これにテレパスで"直結して外部脳として使用する事により生体脳ではなかなか出来ない"一度で記憶すること"が見た目では可能になります。更にその記録を反芻する事で生体脳への記憶も自然と出来ますがこれにはムラが出来ます。そこは脳みそ仕様なので諦めるしかありません。ジルドレッド兄様への再教育とは即ち、ラド・アイルスの持つ能力の一部提供に他なりません。この能力は、コボルド、ゴブリン達の元悪魔族の生命体含めてのものとなります』
「能力の提供? ズルいわ。私達にも提供してくれないの?」
『能力の提供は可能ですが、その前に能力の内容とメリット、デメリットを説明します』
「デメリット?」
『先も話した通り、一度で覚えられる外部記憶装置がテレパスでリンクされます。その結果、簡単に言うとオリジナルのドル師匠から学んだ記憶と書庫から得られた知識が自分で学習したかの様に使えます。最終的にはオリジナル・アイルスや私が習得した魔法が使えます』
「「「え!?」」」
今、このアイルスの面影を色濃く残すコピーはとんでも無い事を言ったように聞こえたわ。能力提供を受けた者は魔法を行使出来るようになる?
誰でもなのかしら?
『オリジナルは、ドル師匠の書庫を読み終える前に連れ去られました。その引き継ぎは行っていますが……』
「待て、ラドよ。コボルドもゴブリンも魔法が使えるのか?」
何やら思考に沈んでぶつぶつ言っていたドル先生が復活して聞きたい事を聞いてくれた。
『今はサーヴァントが代行していますが何れ単体でも使えることになると思います』
「素質があるなしに関わらずか?」
『個体差はあると思いますが素質がなければ作れば良い事ですし。なりたい意志があれば眷族の成長を手助けする責任は果たします』
「いや、ダメぢゃ……それは世界を壊してしまう事に繋がりかねんのぢゃ……」
『差別意識で成り立ち、罪のない弱者に能力を伸ばす機会も与えず無能な搾取者が統治する世界の方が私には歪です。むしろそんな世界は即刻変えるべきと愚考致します』
「むむむむ。急激に変えるのでは武力での争いとなろう、ゆっくりとぢゃ、ゆっくりと変えなければ人々は受け容れぬ。特にお前の言う無能な搾取者に気付かれてはならん」
『なるほど、流石は師匠です』
「ねぇ、それリンクしたデメリットってなんなの?」
話が変な方向に向き始めたのでバッサリと切って聞きたい事へ戻した。ドル先生もラドも話したい事が出たらそちらへ向かって突き進んでしまうらしい。アイルスもこうなってしまったのだろうか?
『あぁ、脱線でしたね。デメリットはプライベートが一切ないことです。コボルドやゴブリン、それとジルドレッド兄さんと同様の能力を欲する場合はそれを覚悟してください』
「ぷらいべ?」
マルシェラが呟いた。ギクリとした。
「ラドお兄ちゃん! マルシェラは強くなりたいでし!」
その言葉を聞いて、ラドが杖型の何かを映し出す。
「待って、マルシェラ。大事なことが先よ。」
「ママの言う通りよ。マルシェラ」
『これが僕等の開発した新しい提供出来る能力の源です。これに対して全員が動作制御をフィードバックし、効率の良い動作へ昇華します。つまり何年も修行した達人と同じ動作ができる様になります』
「「「え? 魔法だけじゃないの!?」」」
ラドの言う事に私達は、唯々、驚愕するばかりでアイルスの予想斜め上を行く企画外振りに舌を巻いた。
◆
『デメリットはプライベートと申し上げましたが、提供出来るサービスは魔法だけではございません』
「どう言うことなの?」
「ジルド兄が達人の動作を身に付ける?」
「ラドよ、まさかとは思うが交渉ごとも閲覧したのかの?」
『流石は師匠ですね。でも狙いは多分分かっていただいてると思います』
「たたみかけ、思考させない様にし要求を聞かせる。初歩的な手段ぢゃが、そうまでしてワシらにアイルスを捜索する協力を迫っておるのか?」
『悪魔族の高い地位の者に拐われたとして、師匠と母様はどうお考えでしょうか?』
「む、そうぢゃな……確かに正確な説明を出来るのはお主だけぢゃろうて……」
「あ、あの、悪魔族の高い地位のと言う話は聞いてませんけれど……」
「説明する前でこうなってしまったからのぅ」
それを聞いたクリスティは、ジルドレッドを睨みつけた。
『なりふり構ってる場合ではないと理解していただけますか? 一部プロテクトした状態でアイルスの記憶を見せますがその際、個人の境界を見失う可能性があります。一応、夢として見せるので自我を保てるとは思いますが、親和性の高い魂程境界が甘くなる可能性があるかもしれないので』
「エーテルの性質を理解したのか……なるほどの。それがプライベートがなくなると言わせる起因か」
『更に交渉として強行した訳は、記憶共有後、捜索に協力していただくと思いますが、話した通り私は全能力の底上げと最適化が可能です。しかしそれには前提条件として、このケーリュケイオンにいつでも接続可能で居ないとなりません。つまり、個人的な時間が物理的になくなります』
「アイルスを救う代わりに対価として個人の秘密の全てを曝け出すしかないとお前は言うのぢゃな?」
「ラドさん、アイルスは早く探し出したいけれど、その提案には私たち女性陣は乗れないの。分かって頂戴」
「ママ!」
「マルシェラ、ママはやめなさい。貴女はもう直ぐ"淑女"になるのよ」
『勿論、強制はいたしません。将来の伴侶を重きに置いて決断するのも自由ですから』
「分かっていて、それを言うの? 母様、アレはアイルスじゃないわ」
『えぇ。半分はオリジナル以外で構成された擬似の魂です』
敢えて、クリスティが口にした物言いを肯定し、事実をそのまま機械的に述べるラドに一同は押し黙る。
「ワシも繋ぐのはやめておこう」
『……承知しました。ところで、私の記憶にリンク出来ないので、このまま思考加速の状態でここに映像映します』
アイルスのコボルドと出会った場面から記憶が再生されて行った。それを見た一同はまた唖然とするのだ。一度で記憶出来る外部脳を持った魔法使いはとんでもない独自進化とも言うべき成長を遂げていた。
コボルドに相対していた時はまだ大人を真似たあどけない口調が、分身を作り、速読方を導入し、記憶の並列化を行う頃には七歳にして既に成人(十五歳)手前の様な所作を振る舞っていた。あどけなさが霞んで行くのをマリアンナは逞しくなったと涙を流しながら見届ける。
クリスティとマルシェラは驚きの連続を隠さず、その記憶を目にする。先程は反対意見に加担していたが、次第に同じ魔法が使えて体術も達人級までこなせる文武両道を提供してもらえる事と乙女の秘事諸々を天秤にかけ始めていた。と言うのもクリスティはアイルスと生涯居るつもりでマルシェラは何も考えてない事が原因だ。
しかも暴れているのはサーヴァントで本人はほぼ無傷と来ればその魅力は計り知れない。
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