47 / 77
第47話 VSウザ勇と母の許可と星の中心で周り続けるダガー
しおりを挟む『まるで三下の如き捨て台詞。僕はオリジナルの様に優しくはありませんよ』
「お口だけは達者だな? さっさとこいよ。泣き虫のぉぉおコぉぉおおおピぃぃいいいいーぃぃいいいい」
ラドは、思考加速をドル師匠にも同時にかけ、オープンリンクのまま伝える。
『ちょっと、この分からず屋をスコォーし痛めつけてから、直接データ送って再教育します。手出し無用です』
『やれやれぢゃ。兄弟喧嘩も程々にの』
『正確には兄弟ではありません』
超高速でやり取りされるテレパスの内容を理解する前に、遅れて、この場の全員の思考速度が引き上げられて行く。
『む? なんだ?』
「むううう? なあぁぁぁんんんんだぁぁああ?」
思った事に口がついてゆかない現象に戸惑うジルドレッド。咄嗟にとった脊髄反射さえ鈍く身体のレスポンスも悪くなって行く。
『ようこそ、僕の世界の入り口へ。では、暴力で解決したい兄様にはちょっと学んでいただきますね。兄様は言う通りに回避すれば無傷でいられます。左足を引いて右半身、首を更に右へ倒した後、手を使わず、右足を強く蹴って横転、しゃがんでから前転を二回。やってみてください。』
『なに?』
『"マジック・ミサイル・オクテット"』
小石が浮遊して、ジルドレッドが放ったダガーの様にあらぬ八方向へ飛んで行くと幾何学模様の奇跡を残してジルドレッドに襲い掛かった。しかも小石の速度はロングボウ程度の速度に見えるが、身体の反応は悪くて遅い。複雑な動きの指定など、とてもじゃ無いが出来るわけがなかった。
ビシ! ビシ! ビシシシシシシ!
『あだ! あだだだだ!』
ジルドレッドに着弾と共に寸前で威力を弱めた小石のダメージがラドの本体とコルベルトのヴェアヴォルフの表面を撫でた。しかし、それだけだった。鉱石で出来た体にはダメージにもならない。
『戦場なら死んでますよ。兄様。勇者なんでしょう?』
『こんな束縛系か鈍重系か知らんが卑怯だぞ!』
『では、兄様に掛けた思考加速の下駄抜きで、もう一度どうぞ』
『は? ゲタ?』
同じ呪文が詠唱抜きで同じ軌道で小石が飛んで来る。さっきよりも凄まじい速度だった。速度の割にダメージが少ない。当たる瞬間に空気が弾けてクッションになっているのだ。でなければ、音速をちょっと超えた小石がダメージ無しの筈はない。怪我をさせない配慮位はする。
そして、痛み程度は感じるダメージが先程と同じ様に魔力と違う何かがラドとヴェアヴォルフの身体の表面、ジルドレッドの着弾位置と寸分違わぬ四ヶ所ずつ、ダメージを弾けさせるが外傷など出来ない。
「早っ! あだだだ! くそっ!」
投擲ダガーを六本全て投げ放った。明後日の方向から方向転換して全てコボルドにダガーが殺到した。
「フンッ!」
そのダガー全てを両碗に装備したひと回り小さいラウンドシールドで受け止めるコルベルト。コリーの様な愛らしさは形を潜め、狼の如き双眸で残心し、受け止めたダガーは音も無くシールドに飲み込まれる様に消えた。
「どう言う事だ!? それに、何故こんなに早くマジック・ミサイルを打ち出せるんだ!?」
『兄様、先程の言葉をそのままお返ししますね。お口だけは達者ですね』
満面の笑みをたたえたアイルスの幻像がジルドレッドの前に映し出される。チラッとクリスティを見てからジルドレッドは呻いた。
「くっ、ぐぬぬ」
そんな仕草を知ってか知らぬか、ラド・アイルスは続けて言う。
『ジルドレッド兄様。仮にも勇者を自称する者がこの程度の実力でガッカリです。魔道具の魔法を模倣したに過ぎない魔法もオリジナルにも関わらず威力、速度共にエネルギー損耗率が高過ぎます。投擲ダガーから戦力を削ぐ戦略は一見理に適っていますが、コボルド程度を剣では一撃で屠れない腕なのではないですか? 最も我が眷族は近付かせるほど甘くもないですが。それで良く滅するなど言えたものですね? 貴方が泣き虫と嘯く弟のコピーからの言いたい事でした。 反論あるならどうぞ』
容赦など一切、感じられない言葉の刃がジルドレッドを精神的に微塵切りにしようと襲い掛かる。実はラド達は知る術もないが、このおかげで勇者候補のユニークスキルが機能を停止していた。
「うっぐっ……俺は勇者候補なんだ……」
正論だった為、勇者候補としか言い返せないジルドレッド。
『生体脳を持っていると大変ですね。行き過ぎた感情が冷静さを失わせています。思考加速の下駄を束縛系魔法と考えたり、意思疎通できてない事は自覚していましたが、ここまで精神的に頽れるとは、少し予想外です。母様、ドル師匠、問います。ジルドレッド兄様を私が教育しても良いでしょうか?』
「む? コボルド達も制御出来ておるし可能とお前は考えておるのか?」
「私は複雑ですが時間をかけてあげたいです」
『ドル師匠、さっきは勢いで再教育と言いましたが、基本的にはそれほど時間がかからず、教育の結果、兄様は勇者に相応しい実力とそれなりの品位を持つと思います。母様、もう一度問います。アイルスのコピーである僕がジルドレッド兄様を再教育を施す事、許可していただけますか?』
「ほ、本人の意向も聞いた方が良いのじゃないかしら」
『母様、大事な事を見落としてます。オリジナル・アイルスを捜す為に、現時点での最大の障害はジルドレッド兄様です』
「な!?」
『だって、ジルドレッド兄様は、僕の半身でもあるコボルド達を亡きものにしないと気が済まないのでしょう? 僕は彼等が居ないと十全に力を発揮出来ません。勇者候補なんかより物理的にも魔力的にも実力が上である事は既に証明しました。後、僕が今オリジナル・アイルスを捜索するために欲するものは、ジルドレッド兄様の覚悟と母様の許可だけです』
「やって頂戴」
「ちょ!?」
『承りました』
____
■登場キャラクター紹介■
・マルシェラ 種族:ラビットマン・ハーフ(4歳)
物心がついたばかりの半獣人っ娘。耳と尻尾以外は人間そのもの。意図的に教会から隠されている。
ユニークアビリティ:ハイパー・ピッキング・アップ
五感覚を取捨選択、増幅し鋭敏に捉えられる。
・ジルドレッド
種族:人間(16歳)
自称転生勇者でアイルス達の兄。実は魔道具頼りと言え、ソロで冒険者が出来る実力者。ユニークスキルに目覚め、その前提条件にペナルティを背負わされている。実は、クリスティの顔が好み。歳が離れすぎてて本人は諦めている。前世の記憶からくる、常識からそのように諦めているらしい。
ユニークアビリティ:呼吸見切り
攻撃タイミングが自動で判る。但し、呼吸器官を持つ相手にだけ有効。
ユニークスキル:リフレクティブ・アーマー
前提条件にペナルティあり。レベルがあるらしく、それに応じた何%かのダメージが攻撃者にはね返える。魔力が強ければその分もボーナスされる。この世界においな冒険者はギルドへ申告しなければレベルやスキルの判定を定められた方法で査定を受けてはじめて判るが、教会で認められ、覚醒したスキルは極めて優遇され、ゲーム的なシステム要素が強い。
・マリアンナ
元英雄候補パーティーのハーフエルフの精霊使い。パーティー所属前は里で差別迫害にあっていた。使い魔はクフィーリアと他にもいる。
・クリスティ
マリアンナが拾ってきたハーフエルフの孤児。マリアンナから精霊魔法を教わっている。
・ドル師匠
主人公に魔法を教え魔導の道と科学知識の本を与え、とんでもない才能を開いてしまった魔導師。
・ラド・アイルス
正しくはアイルスとクフィーリアの魂のスキャン融合の産物に自己判断の承認を施した人格。現時点ではアイルスから離れている為にアイルスの脳が持つユニークスキルの数々にアクセス出来ない。遺跡の書にアクセス出来るのとドル師匠がポンポン目の前で魔法を使う為、密かに解析、習得中である。
・コボルド達
現在、全員にヴェア・ヴォルフが配備。身体が弱い子供や老人には鎧型サーヴァントで動作のサポートを行なっている。
・ゴブリン達
フォールーンをスキャン・スピリットして得られた魔法を使用し増員抑制されている。現在はコバルト鉱石製の鎧型サーヴァントを全員が装備している。
・鎧型サーヴァント
動作こそ本家サーヴァントに至らぬものの、防御、魔法行使、肉体管理保全能力が遺憾無く発揮される為、これを着込んだ個体は化物と言って差し支えない。
・コルベルトのラウンド・シールド
ラド・アイルスの作った魔道具。発動すると位相空間へ当たった物を送り込む。位相空間は重力の影響は受けるので投擲物は慣性の法則を徐々にねじ曲げられ、星の中心へ落下し続ける事になる。
____
いつもお読みいただきありがとうございます。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~
ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。
対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。
これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。
防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。
損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。
派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。
其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。
海上自衛隊版、出しました
→https://ncode.syosetu.com/n3744fn/
※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。
「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。
→https://ncode.syosetu.com/n3570fj/
「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。
→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが
米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。
その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。
更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。
果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!?
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー
紫電のチュウニー
ファンタジー
第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)
転生前も、転生後も 俺は不幸だった。
生まれる前は弱視。
生まれ変わり後は盲目。
そんな人生をメルザは救ってくれた。
あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。
あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。
苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。
オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。
辺境の農村から始まる俺流魔工革命~錬金チートで荒れ地を理想郷に変えてみた~
昼から山猫
ファンタジー
ブラック企業に勤め過労死した俺、篠原タクミは異世界で農夫の息子として転生していた。そこは魔力至上主義の帝国。魔力が弱い者は下層民扱いされ、俺の暮らす辺境の農村は痩せた土地で飢えに苦しむ日々。
だがある日、前世の化学知識と異世界の錬金術を組み合わせたら、ありふれた鉱石から土壌改良剤を作れることに気づく。さらに試行錯誤で魔力ゼロでも動く「魔工器具」を独自開発。荒地は次第に緑豊かな農地へ姿を変え、俺の評判は少しずつ村中に広まっていく。
そんな折、国境付近で魔物の群れが出現し、貴族達が非情な命令を下す。弱者を切り捨てる帝国のやり方に疑問を抱いた俺は、村人達と共に、錬金術で生み出した魔工兵器を手に立ち上がることを決意する。
これは、弱き者が新たな価値を創り出し、世界に挑む物語。
ひきこもりのゴーレムマスター
ゴロヒロ
ファンタジー
世界各地に突如出現した謎の黒い光の柱
そんな光の柱から魔物が現れる!?
そんな中、世界中の人々に聞こえた謎の声
謎の声は言う
世界はレベルアップしたと
レベルアップした世界に順応する為、謎の声から人々は力を与えられ、これからの世界を生き残れ!!
だが、そんな世界に変わっても俺はひきこもる?
カクヨムでも投稿してます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる