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第47話 VSウザ勇と母の許可と星の中心で周り続けるダガー

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『まるで三下の如き捨て台詞。僕はオリジナルの様に優しくはありませんよ』
「お口だけは達者だな? さっさとこいよ。泣き虫のぉぉおコぉぉおおおピぃぃいいいいーぃぃいいいい」

 ラドは、思考加速をドル師匠にも同時にかけ、オープンリンクのまま伝える。
 
『ちょっと、この分からず屋をスコォーし痛めつけてから、直接データ送って再教育します。手出し無用です』
『やれやれぢゃ。兄弟喧嘩も程々にの』
『正確には兄弟ではありません』

 超高速でやり取りされるテレパスの内容を理解する前に、遅れて、この場の全員の思考速度が引き上げられて行く。

『む? なんだ?』
「むううう? なあぁぁぁんんんんだぁぁああ?」

 思った事に口がついてゆかない現象に戸惑うジルドレッド。咄嗟にとった脊髄反射さえ鈍く身体のレスポンスも悪くなって行く。

『ようこそ、僕の世界の入り口へ。では、暴力で解決したい兄様にはちょっと学んでいただきますね。兄様は言う通りに回避すれば無傷でいられます。左足を引いて右半身、首を更に右へ倒した後、手を使わず、右足を強く蹴って横転、しゃがんでから前転を二回。やってみてください。』
『なに?』
『"マジック・ミサイル・オクテット"』

 小石が浮遊して、ジルドレッドが放ったダガーの様にあらぬ八方向へ飛んで行くと幾何学模様の奇跡を残してジルドレッドに襲い掛かった。しかも小石の速度はの速度に見えるが、身体の反応は悪くて遅い。複雑な動きの指定など、とてもじゃ無いが出来るわけがなかった。

 ビシ! ビシ! ビシシシシシシ!

『あだ! あだだだだ!』

 ジルドレッドに着弾と共に小石のダメージがラドの本体とコルベルトのヴェアヴォルフの表面を撫でた。しかし、それだけだった。鉱石で出来た体にはダメージにもならない。

『戦場なら死んでますよ。兄様。勇者なんでしょう?』
『こんな束縛スネア系か鈍重スロウ系か知らんが卑怯だぞ!』
『では、兄様に掛けた思考加速の下駄抜きで、もう一度どうぞ』
『は? ゲタ?』

 同じ呪文が詠唱抜きで同じ軌道で小石が飛んで来る。さっきよりも凄まじい速度だった。速度の割にダメージが少ない。当たる瞬間に空気が弾けてクッションになっているのだ。でなければ、音速をちょっと超えた小石がダメージ無しの筈はない。怪我をさせない配慮位はする。

 そして、痛み程度は感じるダメージが先程と同じ様に魔力と違う何かがラドとヴェアヴォルフの身体の表面、ジルドレッドの着弾位置と寸分違わぬ四ヶ所ずつ、ダメージを弾けさせるが外傷など出来ない。

「早っ! あだだだ! くそっ!」

 投擲ダガーを六本全て投げ放った。明後日の方向から方向転換して全てコボルドにダガーが殺到した。

「フンッ!」

 そのダガー全てを両碗に装備したひと回り小さいラウンドシールドでコルベルト。コリーの様な愛らしさは形を潜め、狼の如き双眸で残心し、受け止めたダガーは音も無くシールドに飲み込まれる様に消えた。

「どう言う事だ!? それに、何故こんなに早くマジック・ミサイルを打ち出せるんだ!?」
『兄様、先程の言葉をそのままお返ししますね。お口だけは達者ですね』

 満面の笑みをたたえたアイルスの幻像がジルドレッドの前に映し出される。チラッとクリスティを見てからジルドレッドは呻いた。

「くっ、ぐぬぬ」

 そんな仕草を知ってか知らぬか、ラド・アイルスは続けて言う。

『ジルドレッド兄様。仮にも勇者を自称する者がこの程度の実力でガッカリです。魔道具の魔法を模倣したに過ぎない魔法もオリジナルにも関わらず威力、速度共にエネルギー損耗率が高過ぎます。投擲ダガーから戦力を削ぐ戦略は一見理に適っていますが、コボルド程度を剣では一撃で屠れない腕なのではないですか? 最も我が眷族は近付かせるほど甘くもないですが。それで良く滅するなど言えたものですね? 貴方が泣き虫と嘯く弟のコピーからの言いたい事でした。 反論あるならどうぞ』

 容赦など一切、感じられない言葉の刃がジルドレッドを精神的に微塵切りにしようと襲い掛かる。実はラド達は知る術もないが、このおかげで勇者候補のユニークスキルが機能を停止していた。

「うっぐっ……俺は勇者候補なんだ……」

 正論だった為、勇者候補としか言い返せないジルドレッド。

『生体脳を持っていると大変ですね。行き過ぎた感情が冷静さを失わせています。思考加速の下駄を束縛系魔法と考えたり、意思疎通できてない事は自覚していましたが、ここまで精神的に頽れるとは、少し予想外です。母様、ドル師匠、問います。ジルドレッド兄様を私が教育しても良いでしょうか?』
「む? コボルド達も制御出来ておるし可能とお前は考えておるのか?」
「私は複雑ですが時間をかけてあげたいです」

『ドル師匠、さっきは勢いで再教育と言いましたが、基本的にはそれほど時間がかからず、教育の結果、兄様は勇者に相応しい実力とそれなりの品位を持つと思います。母様、もう一度問います。がジルドレッド兄様を再教育を施す事、許可していただけますか?』
「ほ、本人の意向も聞いた方が良いのじゃないかしら」
『母様、大事な事を見落としてます。オリジナル・アイルスを捜す為に、現時点での最大の障害はジルドレッド兄様です』
「な!?」

『だって、ジルドレッド兄様は、僕の半身でもあるコボルド達を亡きものにしないと気が済まないのでしょう? 僕は彼等が居ないと十全に力を発揮出来ません。勇者候補なんかより物理的にも魔力的にも実力が上である事は既に証明しました。後、僕が今オリジナル・アイルスを捜索するために欲するものは、ジルドレッド兄様の覚悟と母様の許可だけです』

「やって頂戴」
「ちょ!?」
『承りました』



____
 ■登場キャラクター紹介■
・マルシェラ 種族:ラビットマン・ハーフ(4歳)
 物心がついたばかりの半獣人っ娘。耳と尻尾以外は人間そのもの。意図的に教会から隠されている。
 ユニークアビリティ:ハイパー・ピッキング・アップ
 五感覚を取捨選択、増幅し鋭敏に捉えられる。

・ジルドレッド
 種族:人間(16歳)
  自称転生勇者でアイルス達の兄。実は魔道具頼りと言え、ソロで冒険者が出来る実力者。ユニークスキルに目覚め、その前提条件にペナルティを背負わされている。実は、クリスティの顔が好み。歳が離れすぎてて本人は諦めている。前世の記憶からくる、常識からそのように諦めているらしい。
 ユニークアビリティ:呼吸見切り
 攻撃タイミングが自動で判る。但し、呼吸器官を持つ相手にだけ有効。
 ユニークスキル:リフレクティブ・アーマー
 前提条件にペナルティあり。レベルがあるらしく、それに応じた何%かのダメージが攻撃者にはね返える。魔力が強ければその分もボーナスされる。この世界においな冒険者はギルドへ申告しなければレベルやスキルの判定を定められた方法で査定を受けてはじめて判るが、教会で認められ、覚醒したスキルは極めて優遇され、ゲーム的なシステム要素が強い。

・マリアンナ
 元英雄候補パーティーのハーフエルフの精霊使い。パーティー所属前は里で差別迫害にあっていた。使い魔はクフィーリアと他にもいる。

・クリスティ
 マリアンナが拾ってきたハーフエルフの孤児。マリアンナから精霊魔法を教わっている。

・ドル師匠
 主人公に魔法を教え魔導の道と科学知識の本を与え、とんでもない才能を開いてしまった魔導師。

・ラド・アイルス
  正しくはアイルスとクフィーリアの魂のスキャン融合の産物に自己判断の承認を施した人格。現時点ではアイルスから離れている為にアイルスの脳が持つユニークスキルの数々にアクセス出来ない。遺跡の書ルインズ・ブックにアクセス出来るのとドル師匠がポンポン目の前で魔法を使う為、密かに解析、習得中である。

・コボルド達
 現在、全員にヴェア・ヴォルフが配備。身体が弱い子供や老人には鎧型サーヴァントで動作のサポートを行なっている。

・ゴブリン達
 フォールーンをスキャン・スピリットして得られた魔法を使用し増員抑制されている。現在はコバルト鉱石製の鎧型サーヴァントを全員が装備している。

・鎧型サーヴァント
 動作こそ本家サーヴァントに至らぬものの、防御、魔法行使、肉体管理保全能力が遺憾無く発揮される為、これを着込んだ個体は化物と言って差し支えない。

・コルベルトのラウンド・シールド
 ラド・アイルスの作った魔道具。発動すると位相空間へ当たった物を送り込む。位相空間は重力の影響は受けるので投擲物は慣性の法則を徐々にねじ曲げられ、星の中心へ落下し続ける事になる。
____
いつもお読みいただきありがとうございます。
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