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第29話 外伝 アイ・ヘイト・ユー
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~ある奴隷の物語~
町で命令された買い物の帰りに絡まれた。
僕はアドニス。認めたくはないけど奴隷だ。奴隷ってだけで自分より弱いと分かると難癖つけてくる輩はいる。ウェアタイガーの血の入った虎縞の耳と尻尾以外は人間の容姿が気に食わないのかな?
不細工な見た目が不快なおじさん達が臭い息を吐きかけながらなんかがなってる。さてと、今回はどう処理しようか。
「すみません。すみません」
まぁ、無駄だろうけど、身体に染み付いたお馴染みの謝罪モードが勝手に動いてる。と、同時に聞こえてくる脳内の何か。
『状況を記録します』
二日ほど前から、“これから、凄く嫌なことが始まる”と感じたら、この声とも文言ともつかない何かが発せられ、“状況”が終了すれば、開始時と同じ様に終了が告げられる。それに何故か治るのが早くなってる……気がする。一体何が起こっているのだろうか。まるで見えない神か妖精か、“何か”に取り憑かれたみたいだ。
そんなことを考えてたら、頭の上にある丸味のある小さな三角耳を掴まれ、膝蹴りを入れられた。左頬に走る痛みと視界がブレる衝撃。一瞬目の奥に小さな白い光が見えた。口の中に広がる鉄の少し苦味のあるしょっぱい味。いつまでこんな日が続くのだろう?
いい大人が何か喚いて僕の襟首を掴んで立たせる。上から重力任せに振り下ろされた、粗暴極まりない拳が右眼球上辺りを穿つ。
「やめて、やめて!」
これまた身体に染み付いた動きや台詞が勝手に動いてる。無駄だと分かっていても何度も振り下ろされる拳。力無く抵抗する僕の手諸共衝撃が襲った。
「奴隷風情が! もっと端を歩け! カスっ!」
連れ立って歩いていた別の大人が僕の左膝に蹴りを繰り出す。堪らず、膝が崩折れ頭を抱えながら地面に横になった。更にもう一人加わってきて、僕は意識を失っても蹴り続けられた。
◆
『状況終了を確認』
『生命維持より、治癒促進へ……』
『レコード0012の再生準備完了。結果をお楽しみに』
再生? 何を? ……身体中が痛い……でも生きてるのか? こんな地獄からいつになったら解放されるんだ……。あの謎の声は、聞こえるだけ何もしてくれない。悪魔か天使か精神体が僕に宿ったかと期待したが何も起こらない。特別な力に目覚める予兆とか、“魔法を封じられる首輪さえつけられなかった”この身が魔法に目覚めた訳でもない。
全く、神がいるなら何故、奴隷罪なんか作るのを見過ごした。アイツらこそ悪魔だ。心の中で毒付く。こんな人生なら早く狂って死ねば良い。なのに悲しくも狂う事なく、意外に頑健な体は僕を生かし続けた。
ビチャッ
雨も降っていないのに濡れた地面に右手をついてから、ゆっくりと立ち上がる。
汚物までかけられたらしい。今更、この程度。
同じヒトと思えない奴等がする仕打ち。いや。知的生命体の皮を被ったケダモノ共に『お前よりも、俺の方が偉いんだから、これが当たり前だ』と押し付けられた境遇。
父も母も顔を知らない。ウェアタイガーの血の入った僕は、忌子と捨てられ、物心ついた時に同じ境遇の者が集う集落にいた。ある日突然、大勢の大人達がやってきて、『ヒカリノタミニ、アダナスチヲヒクモノドモメ! 奴隷罪ニショス!』とだけ言うと平和な居場所は理不尽に奪われた。
それから皆散り散りに売り飛ばされ、僕は“物”としてこの町に居るご主人様に労働力として買われた。帰りたくもないけど、ここで一番安全なご主人様の元へ帰る。買い出しの物資も汚れていた。でも仕方ない。
その夜、荷物を汚したせいで、僕の食事は出されなかった。アイツらの食事が僕の元へ来れば良いのに。どうしようもない事を思い、繰り返す。早くこんな世の中滅べば良い。そんな呪詛を小さく口にした。
◆
昨日は酷い目に遭った。いや、この町に来てから毎日か……買い物を早く済ませ、邸の敷地へなるべく早く帰ろうと急いでた所為で、通りの角で人にぶつかった。
「「スミマセン! スミマセン!」」
「え?」
運が悪い事にこの町に来て最初に難癖つけてきた奴だった。しかし、向こうもまるで僕みたいに謝っていた。意外過ぎて驚いていると奴は勝手に喋り出した。
「き、君は! ほ、ほら、林檎が落ちてるじゃないか、ふ、拭いてあげよう……き、綺麗になったぞ! じゃじゃじゃぁ、気をつけろよ!」
奴は足早に去っていった。気味が悪い。そんなことがあってから、それを始まりに僕に絡んでくる奴は居なくなっていった。若干絡んで来た奴も次から態度を豹変させた。
もしかしてあの声は守護霊とかだったのかも……ないかな? 僕には分からなかった。
◆
俺はバリトワイ。この町一番の力持ちだ。この前生意気な奴隷を懲らしめてやったんだ。そしたら、その夜からあの生意気な奴隷になる夢を何度も繰り返し見るようになった。それも、日を追うごとにいろんな奴に殴られる夢だ。
夢の中で絶望と恐怖と痛みを感じ、何度もやめてくれと勝手に口走る口と攻撃を防ぐことの出来ないひ弱な腕を必死に動かそうとした。が、決められた動きの様に自由に動かせない。拷問の如き悪夢だ。それが毎夜何度も繰り返された。おかげで寝た気がしない。
朝起きれば、いつもの俺で何も変わってはいないのに、夢では決まってあの奴隷になっていた。然も、町の奴らに虐め抜かれて行く。流石に死ぬだろって位にやられる場面もあった。俺はどうかしちまったのだろうか?
もう気が狂いそうだ。誰でもいいから助けてくれ!
◆
そして、教会へ助けを求めに行った。あの奴隷を捕まえて何の奇術を使ったのか吐かせようという話になった。
『やった! これで助かる!』
と思ったのも束の間。今度は捕まえて調べようとした教会の司祭達が二日目から、口々に『ごめんなさい』『やめてください』だのをちょっとした事で言うようになった。そうこうするうちに、あの夢はこの街に居ると思われる奴隷達になってその仕打ちを味わう事になった。
当然、原因と思われる奴隷を殺そうとする者も居た。魔法封じの首輪があるにもかかわらず、奴隷は傷を受ければ回復し、窒息させようとしても何らかの力が働いて死ななかった。
その仕打ちはその夜から夢になって虐めてた奴や、拷問した者や奴隷に人権はないと信じてる司祭達に夢シェアされた。本気で夢の中で何度か死んだ経験をさせられた。
そんな悪夢が続けば気味が悪くもなる。それからしばらく夢は続き、気が狂いそうな八日目に奴隷に触れてはならない暗黙の了解が成り立った。
悪夢はそれから見なくなった。そう言った経緯からこの町では、誰も奴隷だからと殴りつける奴は居なくなった。
◆
アドニス
種族:ウェアタイガーハーフ(12♂)
本編主人公のアイルスが乗った奴隷馬車に乗り合わ
せていた。性格は、健やかに育っていれば『みんなは
俺が守る!』を地にし、且つ向こう見ずな屈強な戦士
に育っていたはずだ。環境とは時に人の性格を捻じ曲
げる。絶望から自暴自棄気味になり、一人で居る時は
この世界が滅ぶ呪詛を吐き続けている。このトラウマ
が取り除かれるにはまだ時間が必要だろう。
バリトワイ(15♂)
種族:人間の下級貴族の嫡男
商人とデコグリフ教会と繋がりはあるがそれほど力
を持つには至らなかった為に辺境に収まった貴族の家
に生まれ、ワガママに育った。人当たりは実はそれ程
悪くはない。アドニスを最初にいびった。意外にも、
悪夢に耐え抜いた精神の強靭さを持っている。
_____
お読みいただき、ありがとうございました。
気に入られましたら、お気に入り登録よろしくお願いします。また感想を頂けましたら、とても頑張れます。
町で命令された買い物の帰りに絡まれた。
僕はアドニス。認めたくはないけど奴隷だ。奴隷ってだけで自分より弱いと分かると難癖つけてくる輩はいる。ウェアタイガーの血の入った虎縞の耳と尻尾以外は人間の容姿が気に食わないのかな?
不細工な見た目が不快なおじさん達が臭い息を吐きかけながらなんかがなってる。さてと、今回はどう処理しようか。
「すみません。すみません」
まぁ、無駄だろうけど、身体に染み付いたお馴染みの謝罪モードが勝手に動いてる。と、同時に聞こえてくる脳内の何か。
『状況を記録します』
二日ほど前から、“これから、凄く嫌なことが始まる”と感じたら、この声とも文言ともつかない何かが発せられ、“状況”が終了すれば、開始時と同じ様に終了が告げられる。それに何故か治るのが早くなってる……気がする。一体何が起こっているのだろうか。まるで見えない神か妖精か、“何か”に取り憑かれたみたいだ。
そんなことを考えてたら、頭の上にある丸味のある小さな三角耳を掴まれ、膝蹴りを入れられた。左頬に走る痛みと視界がブレる衝撃。一瞬目の奥に小さな白い光が見えた。口の中に広がる鉄の少し苦味のあるしょっぱい味。いつまでこんな日が続くのだろう?
いい大人が何か喚いて僕の襟首を掴んで立たせる。上から重力任せに振り下ろされた、粗暴極まりない拳が右眼球上辺りを穿つ。
「やめて、やめて!」
これまた身体に染み付いた動きや台詞が勝手に動いてる。無駄だと分かっていても何度も振り下ろされる拳。力無く抵抗する僕の手諸共衝撃が襲った。
「奴隷風情が! もっと端を歩け! カスっ!」
連れ立って歩いていた別の大人が僕の左膝に蹴りを繰り出す。堪らず、膝が崩折れ頭を抱えながら地面に横になった。更にもう一人加わってきて、僕は意識を失っても蹴り続けられた。
◆
『状況終了を確認』
『生命維持より、治癒促進へ……』
『レコード0012の再生準備完了。結果をお楽しみに』
再生? 何を? ……身体中が痛い……でも生きてるのか? こんな地獄からいつになったら解放されるんだ……。あの謎の声は、聞こえるだけ何もしてくれない。悪魔か天使か精神体が僕に宿ったかと期待したが何も起こらない。特別な力に目覚める予兆とか、“魔法を封じられる首輪さえつけられなかった”この身が魔法に目覚めた訳でもない。
全く、神がいるなら何故、奴隷罪なんか作るのを見過ごした。アイツらこそ悪魔だ。心の中で毒付く。こんな人生なら早く狂って死ねば良い。なのに悲しくも狂う事なく、意外に頑健な体は僕を生かし続けた。
ビチャッ
雨も降っていないのに濡れた地面に右手をついてから、ゆっくりと立ち上がる。
汚物までかけられたらしい。今更、この程度。
同じヒトと思えない奴等がする仕打ち。いや。知的生命体の皮を被ったケダモノ共に『お前よりも、俺の方が偉いんだから、これが当たり前だ』と押し付けられた境遇。
父も母も顔を知らない。ウェアタイガーの血の入った僕は、忌子と捨てられ、物心ついた時に同じ境遇の者が集う集落にいた。ある日突然、大勢の大人達がやってきて、『ヒカリノタミニ、アダナスチヲヒクモノドモメ! 奴隷罪ニショス!』とだけ言うと平和な居場所は理不尽に奪われた。
それから皆散り散りに売り飛ばされ、僕は“物”としてこの町に居るご主人様に労働力として買われた。帰りたくもないけど、ここで一番安全なご主人様の元へ帰る。買い出しの物資も汚れていた。でも仕方ない。
その夜、荷物を汚したせいで、僕の食事は出されなかった。アイツらの食事が僕の元へ来れば良いのに。どうしようもない事を思い、繰り返す。早くこんな世の中滅べば良い。そんな呪詛を小さく口にした。
◆
昨日は酷い目に遭った。いや、この町に来てから毎日か……買い物を早く済ませ、邸の敷地へなるべく早く帰ろうと急いでた所為で、通りの角で人にぶつかった。
「「スミマセン! スミマセン!」」
「え?」
運が悪い事にこの町に来て最初に難癖つけてきた奴だった。しかし、向こうもまるで僕みたいに謝っていた。意外過ぎて驚いていると奴は勝手に喋り出した。
「き、君は! ほ、ほら、林檎が落ちてるじゃないか、ふ、拭いてあげよう……き、綺麗になったぞ! じゃじゃじゃぁ、気をつけろよ!」
奴は足早に去っていった。気味が悪い。そんなことがあってから、それを始まりに僕に絡んでくる奴は居なくなっていった。若干絡んで来た奴も次から態度を豹変させた。
もしかしてあの声は守護霊とかだったのかも……ないかな? 僕には分からなかった。
◆
俺はバリトワイ。この町一番の力持ちだ。この前生意気な奴隷を懲らしめてやったんだ。そしたら、その夜からあの生意気な奴隷になる夢を何度も繰り返し見るようになった。それも、日を追うごとにいろんな奴に殴られる夢だ。
夢の中で絶望と恐怖と痛みを感じ、何度もやめてくれと勝手に口走る口と攻撃を防ぐことの出来ないひ弱な腕を必死に動かそうとした。が、決められた動きの様に自由に動かせない。拷問の如き悪夢だ。それが毎夜何度も繰り返された。おかげで寝た気がしない。
朝起きれば、いつもの俺で何も変わってはいないのに、夢では決まってあの奴隷になっていた。然も、町の奴らに虐め抜かれて行く。流石に死ぬだろって位にやられる場面もあった。俺はどうかしちまったのだろうか?
もう気が狂いそうだ。誰でもいいから助けてくれ!
◆
そして、教会へ助けを求めに行った。あの奴隷を捕まえて何の奇術を使ったのか吐かせようという話になった。
『やった! これで助かる!』
と思ったのも束の間。今度は捕まえて調べようとした教会の司祭達が二日目から、口々に『ごめんなさい』『やめてください』だのをちょっとした事で言うようになった。そうこうするうちに、あの夢はこの街に居ると思われる奴隷達になってその仕打ちを味わう事になった。
当然、原因と思われる奴隷を殺そうとする者も居た。魔法封じの首輪があるにもかかわらず、奴隷は傷を受ければ回復し、窒息させようとしても何らかの力が働いて死ななかった。
その仕打ちはその夜から夢になって虐めてた奴や、拷問した者や奴隷に人権はないと信じてる司祭達に夢シェアされた。本気で夢の中で何度か死んだ経験をさせられた。
そんな悪夢が続けば気味が悪くもなる。それからしばらく夢は続き、気が狂いそうな八日目に奴隷に触れてはならない暗黙の了解が成り立った。
悪夢はそれから見なくなった。そう言った経緯からこの町では、誰も奴隷だからと殴りつける奴は居なくなった。
◆
アドニス
種族:ウェアタイガーハーフ(12♂)
本編主人公のアイルスが乗った奴隷馬車に乗り合わ
せていた。性格は、健やかに育っていれば『みんなは
俺が守る!』を地にし、且つ向こう見ずな屈強な戦士
に育っていたはずだ。環境とは時に人の性格を捻じ曲
げる。絶望から自暴自棄気味になり、一人で居る時は
この世界が滅ぶ呪詛を吐き続けている。このトラウマ
が取り除かれるにはまだ時間が必要だろう。
バリトワイ(15♂)
種族:人間の下級貴族の嫡男
商人とデコグリフ教会と繋がりはあるがそれほど力
を持つには至らなかった為に辺境に収まった貴族の家
に生まれ、ワガママに育った。人当たりは実はそれ程
悪くはない。アドニスを最初にいびった。意外にも、
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